村長に連れられて到着したのは、いかにも作業場といった雰囲気の建物。ここであれこれ作っているのか。
「クライフト、いるかい?」
「んあ? 村長(むらおさ)? どうした?」
「こちらの客人が望むものを作ってやっておくれ。対価は過分に貰ったからねぇ。」
「んあ? 人間か? まあいいや。話を聞こう。」
まずはアレク用の首飾りからだ。チェーンはオリハルコン、アレクサンドライトはオーバル・ブリリアントカットで。その上ドラゴンの魔石をも使った仕掛けも頼んだ。
「お前……無茶言うなよ……俺を殺す気か?」
村長も言ってたな。これはエルフジョークか?
「無理ですか?」
「ば、バカ野郎! 無理なわけないだろ! で、でもよ、ちっとばかしアレに魔力込めておいてくれや。」
何だ? 魔力が溜まる箱って感じか?
「いいですよ。」
とりあえず一割ほど込めてみよう。
「ぬあっ! バカ! やりすぎだ! 待て待て!」
職人さんは慌てて箱に手を当てて何かをしている。
「ふーぅ、危なかった。次からはもっとゆっくり頼むわ。人間てすげぇ魔力持ってんだな。」
「いやぁそれほどでも。」
そうやって正直に言われると照れるな。結構嬉しい。
「んじゃあやるだけやってみるからよ。夕方頃また来いよ。少しは出来てるだろうぜ?」
「分かりました。よろしくお願いします。」
「では客人。歓迎の宴を開くからの。こちらへ来てもらおうか。」
再び村長に案内されて移動する。歓迎の宴か。この村はいい村だ。アーさんは何やってんだ?
村の中央広場って感じの場所に案内されるとすでにご馳走が用意されていた。アーさんと黒ギャルもすでに来ていたようだ。
「アーさん何やってたんですか?」
「ちょっとな。お前も出番があるかも知れんぞ?」
「出番ですか? 余興か何か?」
「まあ似たようなものだ。ほら、始まるぞ。そこに立て。」
中央には村長が立っている。
「皆の者! 本日フェアウェル村から使者が参った! 若き長老衆アーダルプレヒトシリルールと! 遥か南よりやって来た人間カースじゃ! ではこれより歓迎の宴を始める! 全員構え!」
何だ? ダークエルフ達の魔力が高まっている。
「撃てぇ!」
全員が私とアーさんに向けて魔法を撃ってきた。みんな同じ風の魔法だ。村の中なのに……
アーさんは上手く逸らしているようだ。私は普通に自動防御で防ぐ。敵意は感じないが……
「やめい! ではこの二人を賓客と認め歓待することに異議はあるまいな?」
「異議なし!」
「ようこそ!」
「人間やるな!」
「アーダルプレヒトも防いでみろよ!」
はぁー。これも儀式の一つなのか。私の魔力が一割近く減ってしまったぞ。かなりの攻撃だったな……残り魔力が……
「ほれ、客人。これを持て。」
「はぁ。」
村長から鉄製のコップを渡された。そこに門番とはまた別の黒ギャルがやって来て酒らしき何かを注いでいる。ウインクのおまけ付きだ。
「我らダークエルフ族の繁栄を願って! 乾杯!」
あちこちでコップを鳴らす音がして、今度こそ本当に宴会が始まった。おっ、この酒美味しい。品のいいシャンパンみたいだ。やや甘口か。
「ねぇアンタ。誰からイクの?」
黒ギャルに声をかけられた。
「誰からとは?」
「何よ? アーダルプレヒトから聞いてないの? 何しに来たの?」
「首飾りなどの金属細工をお願いしに。そもそもアーさんが何しに来たかも聞いてないですよ。」
「まあいいわ。好みの女がいたら言いなさい。相手してあげるから。」
「はぁどうも。」
好みと言われても。私の好みはアレクに決まっている。しかもこの村の女性は全員が美形黒ギャルじゃないか。区別がつかないぞ。髪だってみんな金髪だし、髪型や長さぐらいしか違いがない。
「アーさん。ここへは何しに来たんですか?」
「言ってなかったか? 子孫繁栄の手助けに来たのだ。ダークエルフは繁殖力が弱いらしくてな。他の村の男が十年に一度訪れることになっている。一度の訪問で最低一人は妊娠させないと私は村へ帰れないってわけだ。」
「なるほど。初耳です。僕はやりませんからね。」
だからあれほどの攻撃にも耐えられるほど強い男が必要ってことか? 変わった風習もあるものだ。
「ほう? 人間はあのような黒い肌は好みではないのか?」
「嫌いじゃないですけどね。僕にはアレクがいますから。」
「お前は人間のくせに変わっているのだな。人間の勇者は色好みだと聞いたが。」
「僕は勇者じゃなくて魔王なんで。」
「はっはっは! 古の魔王は数多の美姫が躙り寄ろうとも決して魔王妃リリズゼズルから目移りすることはなかったと聞く。そうか、お前は魔王か。」
いきなり上機嫌になったな。もう酔ってんのか?
「えー? 何々ぃ? この子って魔王なのぉ? かーわいい!」
「ねぇねぇ、お姉さんとイイコトしようよぉ?」
「私が先よぉ? ずっと目を付けてたんだからぁ!」
これがモテ期……?
いや、相手が発情期なだけか。もし自分に契約魔法をかけてなかったら、確実に浮気してたな。これだけの数のセクシー黒ギャルに囲まれてるんだ。やり放題ではないか。あ、アーさんがもう居なくなってる。大変だなあ。それに引き換え私の心は今日も穏やかだ。秋の夕暮れのように、山奥の湖のように。明鏡止水だな。
「ねぇねぇ、ノリ悪くなーい?」
「イイコトしないのぉ?」
「サービスするからさぁ?」
すごくボッタクられそうな言葉だな。あー酒が旨い。料理も旨い。たぶん力が付く材料とか入ってるんだろうな。ダークエルフにとっては死活問題だもんな。そりゃ一生懸命になるわな。
「すいませんね。僕はダメなんですよ。だから放っておいてくれますか?」
「……マジ……?」
「……うそ……?」
「……可哀想……」
「いえ、自分に契約魔法をかけてるだけです。最愛の女(ひと)以外に反応しないんですよ。」
「……バカ……?」
「……ヘタレ……?」
「……純愛……」
黒ギャル達は可哀想な者を見る目で遠ざかっていった。ふふふ、私は誰よりも幸せだと言うのに。
お、今度は美形ガングロボーイ達が寄って来た。
「おい……聞こえたぜ……」
「まあ、その、なんだ……元気だせや……」
「ドラゴンの睾丸から作られる精力剤が効くかも知んねー。挑戦してみるか?」
「いえ、全然困ってないですよ。それよりこの辺にはドラゴンいるんですか?」
いるのなら素材を狙いたいが。
「かなり東の方だがな。運が良ければ、いや悪ければ会える。」
「狙うんならキッチリトドメを刺してくれよ?」
「そうそう。半端に傷付けてこの村まで襲われたらたまんねーからよ。」
アーさんの用事が終わるまで時間がかかりそうだし、狙ってみるのもいいかも。私の今の装備のメンテナンスに使う予定だったドラゴンの魔石をうっかり渡してしまったからな。あれはあれでアレクの力になるから構わないんだが。
「ちなみにどんなドラゴンですか? 色とか大きさとか。」
「俺が聞いたのは紫のヴェノムドラゴンって話だ。大きさは二十メイルぐらいだとよ。」
「おー、そいつな。禁術の毒に近いぐらいヤベェ毒を持ってるらしいな?」
「あー、あいつな。ベヒーモスを食ってたらしいぜ。ヤベェよな。」
たったそれしきのサイズでベヒーモスを食うドラゴン。やめた。行かない。安全第一だ。それにしてもこの村でも単位はメイルなんだな。度量衡が行き届いていて助かるな。
「それは危ないですね。行くのやめました。頼んだ物ができるまでのんびりさせてもらうとします。」
それに九日後には領都に戻らないといけないしね。それまでにアーさんの用事が終わらなければ、悪いが置き去りだな。自分で帰ってもらおう。
ちなみにこの村での私の宿は村長宅に決まった。村長からも可哀想な者を見る目で見られてしまった。もしかして束縛の激しい彼女に魔法をかけられたと思われたか? 確かに契約魔法を使えば誰でも浮気不可能だよな。嫉妬深い奴らにピッタリだ。