さてと、騎士団詰所に行くかな。いや、その前にデルヌモンテ伯爵家にコーちゃん達を迎えに行こう。おばさんにも挨拶しておかないとな。

「ただいま戻りました。奥様はいらっしゃいますか?」

「お待ちください」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」

おっ、コーチャンにカムイ。いい子でお留守番してたかい? もう用事は終わったよ。何か食べて行こうか。

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」

ふふふ、食べたいのか。食いしん坊だなぁ。

「カース君お帰り。えらく早いではないか。どうしたことだ?」

「解決しました。エルネスト君達はこれから自分達で協力し合ってどんな困難にも立ち向かっていくそうです。」

「そうか……あいつはそんな夢みたいなことを……」

「では僕はこれで。あ、そうそう。このような紫の武器、防具に見覚えはありませんか?」

「いや、初めて見るな。それがどうかしたのか?」

「王都を騒がせた偽勇者の件はご存知ですよね? これはその偽勇者の装備です。古いタイプのようですが。」

「ほう? そのようなものがこのバンダルゴウにあったということか?」

「そうです。ローランド王国に存在しない製法で作られているそうです。そうなると東の国ヒイズルが怪しい。つまり、ヒイズルに最も近いこの港湾都市バンダルゴウが怪しいというわけです。何か知りませんか?」

「ふむ、知らんな。だがプローニュにも聞いておこう。王国を揺るがした一味に加担するとは、許せぬ輩もいたものよ。」

「そうですね。案外ヤコビニ派の生き残りとかいたりして。では僕はこれで。」

「待ってくれ。エルネストが世話になったのだ。お礼がしたい。せめて昼食ぐらいどうだ?」

ふうむ、食べ歩きをしたかったが、まあいいか。

「ではご馳走になります。」

それなりに美味しかったかな。昼から食べるにしてはどうも味付けが辛いんだよな。スパイシーというか。ビールが欲しくなるよな。

「さて、カース君。君はエルネストの行動をどう思っている? 忌憚のない意見が聞きたいのだが。」

おや、おばさんめ。引き止めたのはそれが理由か?

「それはもちろん底なしに甘いと思ってますよ。クタナツで育ってあの甘さ。信じられませんね。」

「カース君ならばどうする? あのような甘い身内の目を開かせるには。」

難しい質問だな。私の場合、身内で甘いのは……いるのか? 母上によると私と父上は甘いから心配らしいが……

「イメージは湧いてませんが、一度ドン底まで落ちたら分かるのかも知れませんね。自分の甘さがどんな事態を引き起こしたのかを。」

これは他人事ではない。ここ最近、母上の教えに逆らって何人もの命を奪わずに済ませてしまったからな。もしもそれがアレクに祟ったら私は一生後悔するだろう。どうしよう……

「私はエルネストがかわいい。我がデルヌモンテ家には男子がいないからな。そんなエルネストが無能な仲間に足を引っ張られているのは見ていられないし、毒婦に食い物にされているのも辛いものだ。」

へぇ、このおばさん。ちゃんと状況を把握してんのね。しかもイボンヌちゃんが悪女だってちゃんと分かってるし。そして今、理解した。冒険者をやっているエルネスト君なんかになぜイボンヌちゃんがくっ付いているか。それはエルネスト君がデルヌモンテ伯爵家を継ぐ可能性があるからだ。中々目端の利く女の子だよな。同時進行で何人の男に粉かけてるのかは知らないけどね。

あの子もブレない上級貴族大好きっ娘だよな。私が王族を紹介するって言ったら喜んで尻尾振りそう。

「上級貴族も大変ですね。僕はもうすぐ貴族ではなくなりますので。気楽な冒険者には分からない世界ですね。」

「ふっ、腕一本で生きているとは。羨ましいものだ。エルネストはそんな君に憧れて冒険者をやっているのかも知れんな。」

「はは、どうですかね。ではそろそろお暇いたします。ご馳走様でした。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」

「来てくれてありがとう。もし、またバンダルゴウに立ち寄る事があれば当家にも顔を出して欲しい。」

「ええ、そうします。」

さて、今度こそ騎士団詰所に寄ってバンダルゴウを出よう。