ベイルリパースでアレクと別れた私は自宅へと帰った。昨夜は料理を用意してくれたマーリンに悪いことをしてしまったな。どうせカムイが全部食べたんだろうけど。

「おかえりなさいませ。」

「ただいま。昨夜は悪かったな。色々あって帰れなかったわ。後で話すがリゼットやダミアンはもういないよな?」

「スティード様とリゼット様は朝方帰られました。ダミアン様は昼前にお出かけになられ先ほどラグナさんとお帰りになりました。」

リリスめ。ダミアンをここに帰ると表現するのかよ。こいつも変な奴だよな。とっくに奴隷なんかやらなくていいだけの金は持ってるくせに。

そしてスティード君のことをすっかり忘れてた。わざわざうちに来てくれていたのに。後でバラデュール君のことを知らせに行かねばなるまいな……もう知った頃だろうが……

「分かった。アレクが帰って来たら夕食を頼む。」

「かしこまりました。」

「ガウガウ」

おおカムイただいま。リゼットの洗い方はどうだった?

「ガウガウ」

洗い方はギリギリ合格だがブラッシングが下手? ブラッシングに上手い下手ってあるのか?

「ガウガウ」

分かってるって後でやってやるよ。カムイは私のブラッシングが好きらしい。生意気なやつめ。

「ギャハハハ! だからカースってよぉー!」

「アハハハ! だからボスってさぁー!」

「オホホホ! ですから旦那様はー!」

これはもはやお約束。ダミアンとラグナ、そしてマーリンによる酒盛りだ。

「おうカース! やっと帰ってきやがったんかよ!」

「ボスも飲もうよぉ!」

「おかえりなさいませ旦那様。」

「ただいま。飲むのは後だ。ちょっと報告しとくぜ。まあ聞いてくれや。」

昨夜から今朝にかけての出来事を話した。

「ふーん、盗賊かいぃ。そういやどっかで蓑火(みのび)のガストンって盗賊がいたって話を聞いたことがあるねぇ。もう何年も前だけどさぁ。」

そんな奴がいたのか。さすがラグナ。蛇の道は蛇だな。

「今回の盗賊はアレクとアイリーンちゃんを売り飛ばそうとしていた。どこに売ろうとしてたか分かるか?」

「いやぁ無理だねぇ。もうどこの闇ギルドも潰れちまってるからねぇ。それでも売れるってことは直接買いそうな奴を知ってるってことじゃないかぃ? 例えば青髪変態貴族みたいなさぁ。」

青髪変態貴族? なんだそれ?

「ダミアンはそいつを知ってんのか?」

「そりゃ知ってるさ。いつだったか、アレックスちゃんのミスリル像を落札したのもそいつだぜ?」

「あーあの時の。じゃあもしかして今回の黒幕もそいつっぽいのか?」

黒幕と言うべきかはともかく。

「たぶん違うだろうな。あいつぁ紛れもなく最低の変態野郎だ。だが決して違法行為はしねぇんだよ。屋敷にゃあ奴隷がたくさんいるが奴隷法に違反するような真似すらしちゃあいねぇぜ。」

そんな奴がいるのか。ダミアンが最低の変態野郎って言うぐらいだからな。なるべく会いたくないもんだ。

「ダミアンほどじゃないにしても惚れ惚れするようないい男なのにねぇ。趣味が悪いったらありゃしない。人は見かけによらないねぇ。」

ラグナから見たらダミアンはイケメンなのか。お前も十分趣味が悪いよ。

「お嬢様がお帰りになられました。」

そんな時、リリスが知らせてくれた。変態の話よりアレクの帰宅の方が百倍重要だ。

「ただいま帰ったわ。」

「おかえり。アイリーンちゃんはどうだった?」

「ゴモリエールさんのことを伝えたから、きっと会いに行くと思うわ。それからどうなるかは分からないけど。」

「そうだね。後はアイリーンちゃんが考えることだもんね。さあ、夕食にしようよ。」

結局今日という休日が潰れてしまったんだよな。でもアレクが無傷だったのが一番嬉しい。頭の傷は高級ポーションでバッチリ治ってるし。これ以上ないことだよな。確かに母上なら、生き残ったら勝ちとか言いそうだ。

夕食はうまい。しかしどこか雰囲気が暗い。私もだが、何よりアレクが落ち込んでいるからだな。話題を変えるか……

「そういやダミアン、魔力庫から抜き取った犯人って分からずじまいか? 襲った四人は死んだんだったか。」

「ああ、あれか……犯人の目星はついてる。だが手が出せねぇ相手でよぉ……」

「ダミアンでも手が出せない!? そんな奴がいるのか!?」

「モーガン爺だ……」

なん……だと……

「マジかよ……コーちゃんはあの時モーガン様を見たの?」

「ピュイピュイ」

見てないと。そりゃそうだ。コーちゃんが目の前の敵を見逃すはずがない。

「当然証拠なんかありゃしねぇさ。コーちゃんにすら気付かれずに魔力庫の中身を抜き取るなんざあのジジイの仕業以外考えられねぇんだからよ。おっと魔女は別だろうがよ。」

「なるほど……そうなるのか……」

一体どんな方法で? コーちゃんには霞の外套すら通用しないってのに……

「ピュイピュイ」

え?

「コーちゃんがな。あの時はダミアンが自分で魔力庫から取り出してどこかに投げたって言ってる。倒れたままの状態でな。それにコーちゃんにだって余裕がなかったそうだぜ。二人とも瀕死だったからって。」

「そうだったんか……多分そりゃあれだ。宮廷魔導士お得意の禁術だな……あのジジイ若い頃は宮廷魔導士長候補とか先代ゼマティス卿のライバルとか言われていたらしいからよぉ……」

「そんなに凄いのか……」

確かに楽園に排水の魔法を施してくれた時はすごい集中だったよな。今思えばあれって一人でやるもんじゃないよな。

「それがなぜお前を狙ったんだ?」

「モーガン爺は昔からドストエフ兄貴派だからな。お家は長男が継ぐべきって信念があるみてぇでよぉ……ただ、俺を自分の手で殺すまでは考えてねぇんだろうぜ……俺ら兄弟は孫みてぇなもんだからよぉ……」

「なるほど……手強い相手だな……リゼットはそれを知ってるのか?」

「犯人とは知らねぇだろうが兄貴派にモーガン爺がいるのは当然知ってるさ。それでもあいつぁ……」

なるほど……リゼットは私がいればモーガン様を敵に回しても勝てると踏んでる。いや、誰を敵に回したとしても勝てると考えてるよな。まったく……どいつもこいつも……