デメテの日、パイロの日。二日ともアレクと退廃的に過ごした。
「じゃあカース。今週末待ってるわね。」
「うん。冬休みが楽しみだね。」
「ピュイピュイ」
ヴァルの日の朝、アレクはそう言って帰っていった。
私はと言うと、今から王都に行くことにした。そして今週末までに用事を済ませて帰ってくるのだ。そうすれば冬休みは丸々アレクと過ごすことができる。ついさっき思い付いたグッドアイデアだ。
さて、久々に王都にやってきた。今の私はそこらの冒険者と似たような服装をしている。そこそこの革鎧、そこそこの肘当て、膝当て。わざわざ中古を買ってから来たんだからな。
そして今は第一城壁の城門で入場の順番待ちだ。わたしはもう貴族ではないし、目立たないように国王直属の身分証を使う気もない。
「次!」
一時間ちょい待ってようやく私の番が来た。平民は辛いぜ。
「お勤めご苦労様です。」
ギルドカードと銀貨一枚を渡す。思うに銀貨一枚というのは袖の下としては多すぎず少なすぎず最適な金額ではないだろうか。
ちなみにコーちゃんは鞄の中だ。今日はずっと大人しくしておいてもらうことになってる。
「ふむ、よい心がけだ。通れ。」
いつもの服装でなければ私が魔王本人だと誰も気づかない。カースという名前は確認しただろうに。銀貨に目が眩んだってわけでもあるまい。
さて、こんな調子で第一城壁、第二城壁は簡単に通過した。問題は第三城壁なんだよな。どうやって中に入ろうか……
とりあえず昼も過ぎてしまったことだし、どこかでランチだな。ついでに情報収集しないと。地元民が多くいそうな店、酒場は……
『エクストリームヘブン』路地裏に似合わぬハイカラな名前だな。酒場、だよな……?
やはり酒場だった。別に女の子がいるってこともない、よくある場末の酒場だった。
「らっしゃい」
「オークのジンジャー焼き定食と……ミルクセーキをください。」
「ぎゃーっはっはっはぁー!」
「ミルクセーキだってよぉー!」
「お子ちゃまかよぉー! げははぁー!」
いた! 定番の奴ら! 何て分かりやすいんだ!
「ねぇねぇ先輩。先輩達ってもしかして王都の顔役っすか? 貫禄が違いますもんね。」
「おおっ? おめー分かってんじゃねーか!」
「見る目ぇあんぜぇ! おめー長生きするぜぇ!」
「ばれちゃあしゃあねぇなぁ!」
な、なんて単純な奴らなんだ……
「やはりそうっすか! マスター! こちらの先輩方に一杯ずつお願いします!」
「おお、分かってんじゃねぇか!」
「やっぱ長生きすんぜぇ!」
「おら! 乾杯だあ! ミルクセーキとなぁ、ぷぷぷっ」
オークのジンジャー焼き定食は普通の味だが、ミルクセーキはまずかった。牛乳の品質の問題だろうか。
こいつらからあれこれ話を聞いてみたところ、現在王都の貴族で勢いがあるのはやはりアジャーニ家。しかし国王の退位に伴い宰相も引退を表明しているため次の宰相の座を巡って数家が争っているらしい。
最有力候補はもちろんアジャーニ家。現宰相の長男らしい。
もう一つはアレクサンドル家。これまた現当主の長男だとか。
最後に出てきた名前がなんとディオン侯爵家。二つの公爵家に対して唯一の侯爵家。賭けに出てるのか。フランツウッド王子の婚約者の座を狙う理由と関係してそうだ。
なお、こいつらの情報ではディオン侯爵家の家の場所は分からなかった。貴族なら誰でも知ってそうだが、平民ではほぼ知らないんだろうな。ゼマティス家に寄って聞けば済む話だが今から皆殺しにするものだから聞きにくい。あからさまに私の仕業だとバレてしまうからな。まあ、バレても困りはしないが何となく気恥ずかしいもんな。
「おめー王都のこと何も知らねぇんだな!」
「俺らがきっちり教育してやんからよぉ! 分かってんだろぉ?」
「さっさと出すもん出せやぁ? そうすりゃ舎弟にしてやっからよ!」
「勘弁してくださいよぉ。ここの払いでもう空っけつですよぉ。先輩達たくさん飲むからぁー。」
「あぁ? 金がねぇんならその革鎧と背中の剣を置いてけやぁ!」
「さっさとしろや! 俺らが優しく言ってんうちによぉ!」
「どうせ安モンの剣だろぉが! 生意気に背負ってんじゃねぇぞ!」
『微毒』
「オボホロラロロォォー」
「アガァバがぁぁアォアーー」
「おごぉ……は、腹が……だめ、だ、で、出る……」
こいつら……フェルナンド先生から貰った剣を安物だと? そりゃ先生も安物って言ってたけど。せっかく気持ちよく奢ってやるつもりだったのに。
「マスター。先輩方は体調が悪くなったみたいです。多目に置いときますから介抱してやってください。」
こんな臭い奴らの相手なんて私なら嫌だけどね。さーて、ディオン侯爵家の場所はどうやって探そうかな。後腐れなく、気持ちよく教えてくれそうな相手と言えば……