王城に着いた。門番さんにも話が通っていたらしくスムーズに案内された。

されたのはいいのだが、相変わらず広い。門からこの部屋まで二十分はかかってるぞ……

この部屋は……応接室ではない。まさかフランツウッドの自室か? 絨毯がえらくふんわりしている。かなり高そうなんだよな。他の家具はシンプルで飾り気がない。安物には見えないが……

そして、発見してしまった……壁に飾られた絵を……

フランツウッドの野郎とキアラが仲良く座ってやがる……二人とも笑顔ではないか……

悔しい気もするが暖かさを感じるいい絵だ。いつか私とアレクも描いてもらおう。いつもダミアンに頼むのもつまらんな。誰か他に絵の上手い画家でも……

不意にドアが開く。来たか。

「待たせたなカース、そしてコーネリアス。よく来てくれた。」

「こんにちは。お召しと聞きまして参上しました。何かご用があるとか?」

「ピュイピュイ」

「用と言うほどでもないのだがな。そなたに話しておきたいことがあってな。まあ座ってくれ。昼はまだだろう?」

「ええ。まだですよ。」

「ピュイピュイ」

「うむ、ちょうどよかった。用意させている。食べながら話そうではないか。」

そして並べられる料理。ここの料理ってかなり旨いんだよな。おっ、コーちゃんには酒まで付いてるじゃないか。やってくれるぜ。

「さあ、食べようではないか。」

「いただきます。」

「ピュピュイピュイ」

食前の祈りはスルーか。あれは長いからな。ありがたい。

「本日そなたが来ると分かっていればペイチの実でも用意していたのだが、私が普段食べているものですまんな。」

「いえ、美味しいですよ。」

「ピュイピュイ」

当たり障りのない話をしながら和やかに食事は進む。

「さて、話というのはな。カースの進路についてだ。そなたはこの春から旅に出るそうではないか。それもローランド王国内に限らずと。」

「その通りです。あちこち行く予定です。」

「これはただの提案なのだが、魔法学院に進学するつもりはないか? もちろんアレクサンドリーネも一緒にだ。」

なんと、そう来たか。うーむ、悪い話ではないんだよな。魔法学校や中等学校は五年だが、魔法学院や近衛学院は三年だ。三年勉強してから旅に出ても全然遅くはない。でもなぁ……

「正直に言いますと悪く思ってはいません。むしろ今後の人生を考えたら魔法学院で勉強するのは有益なことと思います。アレクにとっても。」

「そう思うか。今すぐ決める必要はないが、早いとこちらも助かるのは事実だ。気に留めておいて欲しい。」

魔法学院のような高等学校はアレクのようなタイプにこそ有益なんだろうな。私にとって有益かどうかは分からない。授業バックれて図書室で本を読んだり校庭で稽古ばかりしているのもアリだな。

「お誘いありがとうございます。ほんの数日前でしたらそんな気はなかったんですが、今は少し考えてもいいと思ってます。ところで、王子はなぜ私に学院行きを勧めるのですか?」

「うむ、表向きの理由はそなたの魔力だ。魔王とまで呼ばれるそなたを国外に出すのが惜しい。有事に備えて国内に留め置きたいというのが一つ。」

「なるほど。」

「その有事なのだが、国王陛下の退位と父上の即位。おまけに宰相まで引退というような時期だ。何も起こらぬはずがない。現にディオン侯爵家はこの世から消えた。あそこの親戚がどう動くか分からぬし、アレクサンドル公爵家も焦りを覚えていることだろう。」

「そんなもんですか。」

貴族達の動きなんぞ私には分からんぞ。ディオン侯爵家の親戚か……母上はそこまで皆殺しにしろとは言わなかったな。

「そんな時期だからカースには王都に居て欲しいと思っている。建前半分、王族としての責務が半分だ。そして本当の理由だが……」

ん? どうした? 言い淀んでいるぞ。動きに焦りを感じる。顔色も赤い。

「カースよ。私はな……キアラのことを抜きにしても、そなたと……その……」

「何でしょう?」

アレクだけでなくキアラまで呼び捨てだもんなー。王族なんだから当然だけど。

「私はそなたと、友になりたいのだ!」

「あー、なるほど。オッケーですよ。」

意外なこともあるものだ。でもこいつのように王族は学校に行かないから友達なんてあんまりいないんだろうな。アジャーニ家のマルセルとは付き合いがあるようだったが。

「おっけーとは良いということだな? 感謝するぞ。ならば、私のことはフランツと呼んでくれ。キアラはフランツ君と呼んでくれるしな。」

「では遠慮なくフランツと。だからと言って魔法学院に行くかはまだ分かりませんからね?」

「もちろんだ。そなたの判断を尊重するとも。おっと、ついでに敬語もやめるといい。キアラは対等に話しかけてくれるぞ。」

キアラも自由なやつだなぁ。私も人のことは言えないけど。まあ本人がタメ口を希望するならタメ口でいいだろう。側近とか教育係とかがうるさそうだが知ったことではない。どうもうまく籠絡されてる気がしないでもないが、関係ないな。

「じゃあタメ口で。クタナツの同級生と話すつもりで話すよ。」

ダミアンに話す口調とは違うけどね。さすがにあそこまで砕けるつもりはない。あっ、食後のお茶を飲んでたら思い出したぞ。

「そうそう、これなんだけど。国王陛下に渡しておいてくれない? バンダルゴウの騎士長から。」

「バンダルゴウだと? カースはそんな所にまで付き合いがあるのか?」

「ないない。実はさ……」

せっかくだから話しておいた。港湾都市バンダルゴウ。腐りきった街のあれこれを。酷い街だったよなあ。

ついでに城塞歳上ラフォートのドナハマナ伯爵のことも。あの伯爵はまともな人物だったもんな。

「ほう? さすがはカース。有益な情報だ。あの辺り一帯の腐敗の噂は聞いている。何と言っても元はヤコビニ派のお膝元だからな。そうだ、これは内密の話なのだが、私はあの辺りを王族直轄にするつもりなのだ。何せ兄上は王太子になるが私は何者にもなれないからな。大公家を興すのもそう簡単ではない。ならば現在の貴族領を奪うしかない。ちなみにこの目論見を話したのは家族以外ではカースだけだ。」

「分かったよ。誰にも言わないさ。キアラにもね。信頼の証として受け取るとするよ。」

「うむ。私も嬉しいぞ。もし魔法学院への進学を決めたら教えてくれ。その時は私も入学するつもりだからな。」

「分かった。正直それもちょっと面白いかと思ってるとこだよ。ついさっき魔法学院の試験を見てきたもんでさ。」

「期待しているぞ。さて、昼休みも終わりだ。名残惜しいがここまでとしよう。王都にはいつまで居る?」

「明日の昼ぐらいかな。冬休みはヘルデザ砂漠方面に行くもんでね。」

「ほう? 例のエデンとやらか。いつか行ってみたいものだ。ではカース、またの会う日を楽しみにしているぞ。」

「ああ。またなフランツ。」

フランツの部屋を出るとメイドさんが立っていた。玄関まで案内してくれるのかな?

「カース・マーティン様。国王陛下がお呼びでございます」

あ、そうなのね。国王がね。