「ねー、金ちゃんさー。ニンちゃんっていつもこうなの?」
このダークエルフは馴れ馴れしい。エルフは人間を虫のように思ってると聞いたが、それよりはマシなのだろうか。上級貴族だからと気を使われることもないが、カースのことも私のことも変な呼び名で呼ぶし。
「どういうこと?」
「他人のために命がけで何かをできる男かーってこと。ニンちゃんと前村長の付き合いって最近よー? なのにさー、触れたら死んじゃう禁術の毒を相手にここまでやったんだよー? 普通じゃないよねー?」
そんなのカースにとってはいつもの事だ。でも……
「カースは他人のためには体を張らないわ。でも身内のためになら命も投げ出せる男よ。つまり、カースにとって村長は身内なのね。」
カースだもんね……本当……バカなんだから……ここは山岳地帯。私程度の実力じゃあ一日だって生き残れない。それなのに私達を信頼して意識を失うなんて……
毒沼があった時にはどんな魔物も寄ってこなかったけど、カースが毒を滅してからそろそろ三時間。いつ魔物が来てもおかしくない。
「ニンちゃんってバカなんだね……金ちゃんが羨ましいよ……」
まただ……またカースに惚れた女が増えた……
私にしてみればカースの側室が二人や三人増えるぐらいは構わない。でもカースは頑なにそれを拒む。それはそれで嬉しいことは間違いない。でも、その度に少し、ほんの少し罪悪感を感じてしまう。まるで宝物を独り占めする古の強欲な傾国女になってしまったかのように。
「ごめんね……クロミ……」
「なーに言ってんのよー? ニンちゃんってあんな顔して人間の中でもモテモテなんでしょー? なのに金ちゃんにしか興味がないって散々聞かされたわよー? あーあ羨ましー!」
「カースは凄いから……」
「はいはい、分かってるって。マウントイーターに勝つぐらいなんだから。人間にも凄い男がいるよねー。金ちゃんだってそこそこ魔力あるじゃん? 頑張ってんのねー。」
そこそこ。クロミの言い方は虫の中では比較的マシといったところだろうか。クロミはお義母さんやマリーさんに比べると大した魔力は感じない。でも、私とは比べ物にならない。私は……
「マウントイーターについて聞かせて。」
カースからは聞いたけど、クロミの口からも聞いてみたくなった。
「うーん、マウントイーターはねー……」
やはり、何度聞いても私達魔法使いにとっては最悪の相手だ。魔法が全く効かないヒュドラや魔法を吸収するスライムもいたけど、体に触れられたらもう終わりだなんて……よくカースはそんな相手に勝てたものだ。私ごときがカースの心配をするなんておこがましいけど、それでも心配なのは心配だ。いつもこうやって限界まで魔力を使うんだから……カースほど魔力があっても限界まで……どうしても村長さんを助けたかったのね……
「それよりさー、金ちゃんもニンちゃんと一緒にイグドラシルに登ったんだよねー? その話を聞かせてよー。ヨランダ村長はあんな頭のおかしい試練に挑戦する奴の気が知れないって言ってたけどさー。」
「ああ、確かに……登る以外何の試練もなかったわ。とにかく登るだけ。頭がおかしくなるわ。でも、カースと一緒だったから……」
「あれあれー? その顔、何か隠してるよねー? 正直に言ってみー? イグドラシルでニンちゃんと何してたのぉ?」
顔に出てしまったかな。最近カースがそれどころじゃなくて、ずっとお預けだったから。こんな状況じゃあ一人で慰めることもできない。カースのバカ……
「クロミの想像通りよ。カースが私を愛してくれたから、私は正気でイグドラシルを登ることができたの。」
「金ちゃんいいなー。ウチらダークエルフの男ってさ、どうもそっちが弱いんだよねー。だからヨランダ村長はいつもみんなの心配してたっけ。子供は村の宝ってさ。」
「クロミはカースの子供が欲しいの?」
でもカースは自分で自分に強力な契約魔法をかけている……私以外の女を抱くことはできない……
「そりゃあ欲しいけどさー。どうせニンちゃんじゃあウチを妊娠させることなんかできないもんねー。あーあ、ニンちゃんがエルフだったらいいのになー。」
「え? 人間とエルフの間では子供ができないの?」
「金ちゃん知らないのー? できないよー。エルフとダークエルフの間だったらできるけどねー。」
そうだったんだ。あっ、だからオディロンお義兄さんとマリーさんの間には子供がいないんだ……
むっ……そろそろ来たようね……
「カムイ、クロミ、魔物よ。」
「分かってるしー。とりあえずウチがやるから金ちゃんは見ててー。」
「ガウガウ」
カムイがいればきっと大丈夫。コーちゃんはカースのお腹の上でじっとしているし。
カースが起きるまで、ここは守り抜く。