「それでアレク、クワナのことを何か知ってるの?」

私とアレクは宴会場を離れて二人で露天風呂に入っている。静かにそよぐ薫風が心地よい。

「ええ。フルカワって言ったわよね。ヒイズルの王家、正確には天王(てんおう)家だけど確かフルカワ家だったはずよ。それに私の記憶が確かならアスカ・フルカワは先代天王妃よ。」

「へぇ。じゃあクワナは天王家ゆかりの人間かも知れないんだね。そんな奴がなぜ国を逃げ出したんだろうね。」

「現天王家が関係してるかも知れないわ。」

「現天王家? フルカワ家じゃあないの?」

「一応フルカワ家だけど少し違うのよ。確か今の天王は先代天王アラシ・フルカワとアスカ妃の娘であるテンリ・フルカワの夫になったジュダ・フルカワだったかしら。もっとも、今と言ってもヒイズルの情報なんだから十年単位で遅れててもおかしくないわ。」

それにしてもアレクはすごいな。国外のこともこんなに詳しいだなんて。私なんて初等学校で習ってないことは全然知らないんだから。

「あらー、それってヤバそうだね。王家の血筋はどうなっちゃうんだろうね。」

「私も分からないわ。その辺りにクワナが逃げてきた理由があるのかも知れないわね。」

ローランド王国への侵略と、案外関係あったりするのかもな。先代王の娘と結婚して王配ではなく、自分が王になるとは。普通に野心家ってとこだろうか。少しヒイズル行きが楽しみになってきた。どのルートで行こうか、迷うな……

風呂で少々イチャイチャしてから戻ると、宴はまだ続いていた。むしろ酔いは加速しているようだ。

「おお、カースにアレックス。どこに行っておった。待っておったぞ! さあアレックス! 一緒に弾くぞ!」

先王が何やら張り切っている。あれは……アレクがプレゼントしたバイオリンか。

「おおせのままに。何にいたしましょう?」

「もちろん国歌だ! 勇者が勝利するのだー!」

うーん、ハイになってるね。いい歳なんだから飲み過ぎるなよ?

バイオリン二重奏による国歌『勇者が勝利する』の演奏。音に深みがあるね。遠くに城壁があるだけの平原だから音が響かないけど、それはそれでいい趣だよな。

二コーラス目からは歌が入る。王妃、じゃなかった王太后が歌いだしたのだ。それに釣られるようにしておばあちゃんも歌い始め、いつしか大合唱となっていた。なんかいいなー。逆四面楚歌? 違うか。とにかくいい感じだ。私も歌おう。

『幾千の軍勢 幾万の魔物

いかな敵に 襲われようと

敗走するは 勇者にあらぬ

いと高き道 あな低き水

進めよ進め 撃ち砕けき

我ら勇者が 勝利する

幾千の味方 幾万の敵

いかな劣勢 陥りても

逃走するは 英雄にあらぬ

士気高き民 意気低き敵

進めよ進め 薙ぎ払えり

我ら勇者が 勝利する』

それからも先王とアレクはデュオで弾き続けた。私が知ってる曲から知らない曲まで。いいなー。私も交ざりたいな。マジで今度王都に行ったらピアノかリュートを買おう。もしくはどうにかギターを作ってもらおう。魔道具としてどうにかならないだろうか。エフェクターやアンプ内蔵の魔道具ギター。きっと楽しいことになりそうだ。

日はすっかり沈み辺りは真っ暗。『光源』の魔法を使わなければほぼ何も見えない暗闇。宴はお開きとなっていた。みんなは明日も仕事だもんな。開拓って大変だよな。城壁だけでなく田畑、溜池だって必要だよな。この辺りは雨が少ないから普通は水の確保が大変だよな。飲み水ぐらいならみんな『水滴』の魔法で解決だろうけどさ。

溜池を作るなら用水路だって必要だ。必要なものだらけだよな。私の楽園がいかに適当に作ってあるか露見してしまうな。あそこは防衛のことしか考えてないもんな。堀をどこかの川と繋げたりしてみようかな。水って循環しないと淀むもんなー。

ちなみにおじいちゃん達の住処は小屋だった。とても上級貴族が、いや下級貴族ですら住まないような。ただおじいちゃんは「陛下も同じ小屋にお住まいなのじゃ。何の不満があろうか。」と満足そうに言っていた。うーん、すごいな。あの歳であの暮らしができるとは……

私は旅から帰ってきたらもう働かないぞ。一生気ままに暮らすんだ。適当に金貸したり、時々魔物を狩ったり、楽園に住んだり領都に住んだり。はたまたどこかの湖畔に別荘建てたり。みんなと一緒に。

さあ、おじいちゃん達に私の簡易ハウスも見せたことだし、もう寝よう。今日はたくさん働いたしな。祖父母の元気な姿ってのは嬉しいもんだ。ふぁーあ、眠い……