Dungeon+Harem+Master
LV133 "Big Tits Elf Thanksgiving"
蔵人は奴隷牧場と呼ばれていた忌まわしい施設を即座に破却すると、捕らわれていた人々を残らず開放した。
コルネリウスが溜めこんでいた財は予想以上に膨大なものだった。倉庫に積まれた金穀や財宝は数多を超え、売却すればその価値は相当なものと思われた。
蔵人は目利きではないが、息を呑むドロテアの表情を見れば財宝の凄さは想像がついた。悪は滅び、人々は奴隷のくびきから解放された。
けれども、無理やりに連れてこられた人々の故郷は多岐に渡る。空手で返せば野垂れ死にすることは間違いない。それでは仏作って魂入れずなのである。
蔵人は賠償金として金目のモノを残らず彼らに分け与えた。動けない妊婦たちに対しては、建前上博愛を旨とする教会関係者に使いを出し、シルバーヴィラゴの施設に運ぶよう、近隣の村で手続きを取ったのだった。この時点で特筆すべきは彼の金穀に対する執着心のなさであった。蔵人は、商会から奪った財宝を残らず分け与えると、自分では金貨一枚懐にしなかったのだ。
ドロテアが半ば呆然としながらそのことを指摘すると、慌ててリネットを含むハーフエルフの孤児らの分をとりわけ出す始末であった。極めて現実的な思考を持つドロテアにとって、蔵人の行動は聖人の域に達しているかにみえた。実際、彼が欲深な男、もとい一般的な冒険者程度の常識を持ち合わせておれば、捕らわれの奴隷たちの所在を領主に通報するくらいはするだろうが、命をかけて手にしたおたからをそっくり分け与えるということは決してしないはずである。
そもそもが、クエストを受けた最初の理由も、逼迫する家計をわずかでも潤すためであったが、敵を打倒した時点で、彼の頭からそれらはすでに消えていた。なにしろたったひとつしかない命をかけて手に入れた戦利品だ。奴隷たちは金穀を総取りされても感謝こそすれ、不平を述べるはずもない。けれども、蔵人はそのすべてを惜しげもなく、人々に分け与えたのだ。名誉は賞賛が望みであるならば、得意顔のひとつもするはずであるが、むしろ感謝を述べる人々からは逃げ回って隠れてしまう始末であった。
(なんという無欲な男なのじゃ)
大欲は無欲に似たりというが、蔵人の気持ちを推し量ることは、常人の脳では不可能であった。彼は、日本ではただの学生であったが、異世界に召喚されるだけのことはある異端であった。褒められるのを本気で照れくさがって少年のように恥じ入る男を前に、ドロテアは胸に湧き上がる尊敬と思慕の念をこらえることができなかった。蔵人という男は絵物語に出てくるような美々しい騎士ではない。
それでも、ドロテアにとっては、伸ばしきった髪や無精ひげ、継ぎだらけの外套を引きずる目の前の男は誰よりも雄々しく、輝いて見えた。
そんなドロテアの胸中の思いなど知りもしない蔵人は、大きく伸びをして肩の関節を鳴らしながら、熱い風呂と酒を脳裏に浮かべて湧き出る唾を飲み干すだけであった。事実上のささやかな手続きは終了した。
「あー終わった終わった。さすがにちと、疲れたな」
ここまで行えば、あとはゆっくりと妻たちの待つタマラ村に帰還するだけである。
風の噂では、ガスパールが盤踞していた山寨が落とされたとの話だった。
大方、帰りを待てず痺れを切らした妻たちが、ヴィクトリアに泣きついて領兵を派遣してもらったのだろうと推察する。
「悪はこの世に栄えないってか。どっちにしろダニが一掃されんのは時間の問題だったな」
憔悴の激しいリネットをはじめとする子供たちは、手配した馬車で先に屋敷に戻るように命じてある。どちらにしろ、奴隷牧場から一番近い村では、三十人を超える彼女たちを収容できる施設は存在しない。ならば、多少は無理しても高速馬車を使ってシルバーヴィラゴに戻り、高価な医薬品や滋養のある食料が容易に求められる大都市でゆっくりしたほうが身体にはいいだろうと判断したのだ。子供たちは特に蔵人と別れて先行することを嘆き悲しんだのでいい聞かせるのは少しばかり骨だった。
そのうち、日もとっぷり暮れて、行動は不可能となったため、蔵人とドロテアは手近なグリンビルの村に一泊することとなった。
一夜のねぐらとして求めたのは、寒村の商人宿である。行商の時期を外していたのか、泊り客はわずかであったが、安価な値段の割には部屋のグレードは上々だった。粗末な食事でも、あたたかいものを腹に入れれば少しは気が紛れた。熱い湯で身体を洗い、香りは楽しめずともアルコールを喉から流し込めば、あとはベッドで横になるだけだった。激戦のあとである。身体中のキズや肉体の疲労は、行動を停止した時点で一気に襲ってくる。枕に頭を乗せたまま目をつぶっていると、そのままうつらうつらと夢の世界にすべり込んでいきそうななんともいえずいい気持ちであった。
「ふっ。アンニュイな夜だぜ」
蔵人は宿の寝台に腰かけながら手に持ったグラスを傾け、琥珀色の酒精を見つめた。
部屋に邪魔者はいない。ドロテアとふたりきりである。
散々グズったリザを馬車に乗せるのは往生したが、その甲斐あってロマンチックなシチュエーションを確保することに成功した。ドサクサに紛れて、リザを子供の群れに押しこめたのは、運がよかったのか、わるかったのか。
ドロテアはしきりにリザの存在を気にしていたが、ふたりきり宿泊できるとわかると、年頃の娘らしくうれしさに舞い上がり、ひとまず詰問は棚に置かれた格好となった。ほころびは目の前にあっても、わざわざ自分から糸を引かないのが人情というものだろう。
蔵人にとっては、踏み込んだ地雷の上で凍りついている状態と変わらないにしても。
「ともあれ、ドロテアちゃんは、俺と泊まることをオーケーした。つまり、和姦なのだ」
鼻息は自然と荒くなり、手のひらにじんわりと汗が滲んでくる。
窓ガラスの向こうに浮かぶ月にこっそり誓っていると、背後から人の気配を感じた。
先に湯浴みをしたいと席を外していたドロテアが部屋に戻ってきたのであった。
「待たせたの」
「お、おう」
蔵人は緊張のあまり目を見開くと、視線をそらすことなく彼女を真正面から見た。
湯上りで火照った肌を上気させた美貌のエルフがおずおずと隣に腰かける。
ローブから覗く、むっちりとした白い太ももが輝いて見えた。
そっと指を伸ばして、なでさする。
ドロテアは照れたようにはにかむと、しおらしい動きで指を重ねてきた。
嫌がっていない。
「うひょおおっ!」
「な、なんじゃ!?」
「す、スマン。つい、な」
「いや、突如として叫びだされたら気にもなろうぞ……」
「ドロテアちゃん」
「な、なんじゃ」
「せ、セクシーだぜ。今夜は一段と」
「う、うむ。ありがとう」
ドロテアはうつむくと、緊張からかプルプルと小刻みに震えだす。
同調したように、ありえない爆乳がぷるんぷるんと左右にゆれた。
ぷるぷるプリンだ。
蔵人は見ているだけで頭がどうにかなりそうになった。繋いだ指を、ぐにぐにと動かしてみる。剣を握るためか、やはり普通の女性よりかは幾分硬いが、蔵人からしてみれば可憐なほど小さくかわいらしい大きさだ。腕を伸ばして肩を抱くと、ふんわりとしたなんともいえない匂いが漂った。
(あの気が強いドロテアが、こんなにもしおらしくなっちゃってまあ……! デュフフ)
この事実だけで、軽くご飯三杯はいけそうである。炭水化物はとりすぎに注意。
「ドロテアちゃん、ドロテアちゃん、ドロテアちゃーん」
「な、なんじゃ、クランドよ」
「うふふ、呼んでみただけさ」
「アホか、おまえは真性アホか。もおっ」
「デュフフ。照れ怒るドロテアたんもかわゆいですぞ」
「……ばか」
ドロテアは甘い声でつぶやくと、そっと顔を胸の中に寄せてくる。理性が、ガンガン削られていく。これで反応しないやつは男ではないだろう。反論は許さない。 蔵人は、両足首をぱたぱた動かして床板を踏み鳴らした。発狂寸前である。
もちろん、この状態で拒否されたら普通の男は発狂するだろう。
そもそもが、同じ部屋に泊まることを了承している時点で合意は得られているのだ。
もはや我慢する意味も必要もなかった。
目を充血させた蔵人が一気に伸しかかろうとすると、目元を朱に染めたドロテアは恥じらいながら顔を横に向けた。体が素早くかわされる。
蔵人は前のめりになって宙を掻くと、唇を噛み締めて泣きそうな顔をした。
ここにきて、必殺の東郷ターン!
敵前大回頭ですか、ドロテアさん。
「なんですか、お預けですか? ここに来てお預けですか、ドロテアさんんっ!!」
「ちょ、待ちい。泣くでない。そうではない、そうではないのじゃ。ただのう。まだ、わらわ、聞いていない。わらわは、大切な言葉をクランドの口から聞いていないのじゃ」
聞いていない、だと。
蔵人は渋い顔をしたまま、流れるドロテアの髪に鼻先を埋める。
石鹸と甘い体臭が混じった不思議な香りが漂った。
ふがふがした。匂いを鼻腔いっぱいに吸い込んだ。
「ああんっ、だからまだダメじゃというに」
蔵人は知恵の輪を当てられた猿のような顔で一瞬混乱し、それから必死に言葉の意味を理解しようと脳細胞をフル回転させた。
「だ、だから、ダメじゃあ。いうまで、ダメなのにぃ」
「よいではないか、よいではないか」
「だから。クランドぉ。まだ、いってないのじゃ。そなたの口からぁ」
「ああ、そうか。愛しているぜ、ドロテア」
「クランドぉ」
蔵人はポーっとなったドロテアの唇にキスをすると、貪るようにして襲いかかった。
虎だ! 虎になるんだ、俺は!!
蔵人は、ドロテアを押し倒すと颶風のように荒れ狂った。
愛と呼ぶには、少々欲望がまさった、良識者が目を覆う光景ではあった。
もっとも、求められたドロテアはこの上もなく至福の表情をしていたのだが。
「ふはあっ、えがったぁー」
蔵人は満ちたり顔で身体を起こすとしあわせいっぱいな顔で小鼻を蠢かせた。
うつ伏せになってヒクヒク震えているドロテアの顔を覗き込む。
「げ。やば」
ドロテアは舌をべろんと伸ばしながら白目を剥いて気絶していた。
百年の恋も冷める表情である。
蔵人は慌ててドロテアをひっくり返すと、胸に耳を押しつけて心臓の鼓動を確認した。
たゆんたゆんな乳房から顔を上げ、今度は口元に手をかざした。
自発呼吸は行われている。特に問題ないと判断して後始末に取りかかった。
蔵人は水差しからコップについで一息にあおると、締まった自分の腹筋をパンと叩いた。
綺麗に割れたシックスパックがぴくぴくと震える。数ヶ月前まで、メタボ一歩手前だったものは思われない変わりようである。戦いに戦い抜いた結果であった。
「風邪引いちゃかわいそだからねー」
毛布を取り出してドロテアを収納すると、自分もその中へと潜りこんだ。
「しかし、まったくもって美人さんなことで」
寝息も立てずに目をつむる少女はまさしく芸術品のような整った顔立ちだった。
「ふにふに」
蔵人は手持ち無沙汰なままドロテアの頬をつつきまくった。
「ん、んう」
「びろーん」
「んんっ」
ドロテアの頬を左右に引っ張ってみる。白い歯がチラリと見えた。長耳が、ぴょこぴょこと上下にゆれた。
「おお、気づいたかな」
ドロテアは小さく呻くと眉根を寄せたまま小さく肩を動かした。
(そういえば、こいつの寝起きは超・絶悪かったような気がしたな)
捕らわれてからの数ヶ月間の疲れがドッと出たのだろう。そう考えると、欲望のままドロテアを抱いたこともなんとなく無理強いをした気がしてバツが悪くなった。蔵人が、どうしようかと思案していると、はみ出た毛布から胸の谷間がハッキリ見えた。
おっぱいは神秘だ。哲学的な思索に耽る。
そうこうしているうちに、ゆっくりと眠気が舞い降りてくる。
蔵人はうつらうつら船を漕いでいるうちに、知らず寝入っていた。
ハッと目を覚まして隣を見る。すでに覚醒していたのか、蔵人の顔をジッと見つめているふたつの青い瞳があった。
「なんだよ、起きてたんか。ビックリさせんな」
「クランド……」
ドロテアはポッと頬を赤らめると、もぞもぞと身体を動かして胸板に顔を埋めてきた。
単純に甘えているのだ。
蔵人は予想外の展開に呆気にとられると、そろそろと手を伸ばして彼女の背をしっかりと抱いた。日頃の態度からいって、アレのあとも、サバサバしているものかと勝手に想像していたのだが、思った以上に乙女な行動だった。
「わらわたち、結ばれたのじゃな」
「ああ。それはもう、断言できる。ごちそうさまでした、おしまい」
「ふふ」
「なんだよ、気味わりいな」
「よいではないか。わらわはのう、いつかお主とこうなりたいと、思っていた。思っていたのじゃ。絶対に無理だと思っていたのに。うれしい、うれしいよ」
「え、あ。えーと」
ドロテアは水晶のように曇のない瞳をうるませて感慨に耽っている。純粋な彼女の気持ちを思えばいつものようにからかうことはためらわれた。
それに、蔵人自身も間違いなくドロテアを愛しているのだ。なんとなく照れくさくなって鼻の頭をこすってみる。自分の顔が紅潮するのがわかった。
「クランド、顔が真っ赤じゃぞ」
「う、ううう。うるさいな。ドロテアが急におかしなこというからだろっ。ったく、調子狂うぜ」
「なんじゃ、照れておるのか。かわゆいのう」
「おおおっ、おまっ。ふざ、ふざけるなっ。男に向かってかわいいとかいうんじゃねえ」
「ふむ。わかった、以後気をつけよう」
「なんだい、やけに物分りがいいな。それはそれで、ちょっと不審だぞ」
「いやいや、わらわは夫に尽くす妻じゃぞ。エルフは夫に従って、口ごたえをしないのがよい妻だとされておる。昔、花嫁修業したときに、おばあさまがそうおっしゃっていた」
「え、妻?」
「……んんん? なにか、おかしなことがあったかの」
「い、いや。別になんでもない」
「それにしても、クランドと連れ添うような運命になるとは。人生とはわからぬものじゃ」
「そういえば、俺がブッ倒れているところを最初に見つけたのはおまえだったんだよな。いまさらながら聞くのはアレだが、なんで助けようと思ったんだ? あ、やっぱカッコイイからか? フッ、モテる男はつらいぜ」
「ん? あれか。そうじゃな、おまえがブ男だったからじゃ」
「……」
蔵人の顔が形容し難いものに変化した。彼の気持ちも察して欲しい。
「いや、もちろんいい意味でじゃぞ。その美形にはこりごりしていたしの。おまえのようなブおと……もとい、芋にいちゃん程度のルックスである人間族の男ならわらわも心を乱されないだろうと思ったしの。ってのわあっ!?」
蔵人はドロテアを寝台から蹴り落とすと、鋭く舌打ちをした。
「ちょっ、ひどっ。ひどすぎじゃぞ!? こんなロマンチックな夜に、かわいい恋女房を閨から蹴り落とすなど聞いたことないっ!」
「うるっせー。おまえは、俺の一番繊細な部分を傷つけたんだ。膜の一枚や二枚がなんだ。くすん」
「ああ、もお。悪かった。わらわが悪かったのじゃ。第一、本気でブ男と思っていれば、女は口を利くのも嫌がるもんじゃ。いまでは、わらわはクランドが天下一の男だと思っておるよ。嘘じゃない」
「本当かよ」
「本当じゃ。クランドはわらわにとって世界一の男前じゃよ!!」
ドロテアは蔵人の胸元に指先でのの字を書きながら、しなだれかかって甘ったれた声を出した。耳元で官能的な囁きを聞かされれば、怒りを持続させることは若い男には不可能である。
蔵人は、ほとんど衝動的にドロテアを引き寄せると、再び己の内なる野獣を召喚するのであった。