「今の3人でさえ大変なのに子供が8人にもなると大変だぞ」

「それでも跡取りが産まれないよりはいいだろ」

実際、皇帝として皇太子は必要になる。

「……ん、8人?」

「ああ、そうだ。数カ月もすれば8人の父親だ」

「全員孕ませたのか」

リオの眷属は8人。

予想以上の行動力に呆れるしかない。

「違う違う。カトレアとリーシアが二人目の子供を妊娠したんだ。それで、ピナとソニア以外の奴らが妊娠しているだけだ」

正妃であるカトレアさんがリオの長男を産まなくてはならない。

仮にカトレアさんの産んだ子供が女の子で、リーシアさんやマリーさんの産んだ子供が男の子だった場合には継承権で確実に揉めることになる。

そのためガーディルが男の子であると分かるまでは自粛していた。

それに万が一の場合を考えると子作りは自粛しなくてはならない。

結局は、二人が我慢できずに暴走して枷が外れてしまったことにより残りの眷属も妊娠することになった。

結果的に問題なかったが二人目と三人目が女の子で本当によかった。

「お前も一度に二人増えると大変だぞ」

「生まれた後もそうだけど、出産の時の方が大変なんだよな」

アイラが出産した時は人生で最もダメージを負った。

その苦労をもう一度味わう事になるのかと思うと今から怖くなって来た。

「ステータスを下げればいいだろ」

「それが『制約の指輪』も効果を発揮してくれないんだ」

正しくは効力を発揮している。

しかし、出産時の苦しみから力を込めているせいで『制約の指輪』を用いても抑え切れないステータスを発揮してしまっている。

さらに抑える事ができればいいのだが、『制約の指輪』では今の減少が限界だ。

「もっといい物があるだろ」

「いい物?」

リオが道具箱から取り出したのは4本の蝋燭。

白、赤、青、黄と様々な色がある。

「この蝋燭は『牢燭』という名前の魔法道具で4本の蝋燭を四方に配置することによって中心にいる人のステータスを落とす効果がある」

「ステータスを落とす?」

どこまで可能なのかは分からない。

それでもカトレアさんたちの出産時に役立ってくれたのは間違いない。

なら、シルビアにも十分役立ってくれるはずだ。

「必ず返すから貸してくれ」

恥を気にせず頭を下げる。

「こっちとしては返って来るなら問題ない」

4本の蝋燭が前に出される。

「助かる」

すぐさま蝋燭を【魔力変換】する。

これにより今後は【宝箱(トレジャーボックス)】によって魔力を消費させすれば手に入れることができるようになる。

「それにしても持っていなかったんだな」

「少なくとも財宝のリストにはなかったな」

リストに新規で追加されていた。

これまでの迷宮は『牢燭』を【魔力変換】した事がないらしい。

「そもそも今では製法の失われた魔法道具だからな」

「それなら入手は難しいな」

「それもあるけど、外から人間を連れて来て捕らえるっていうことをしてこなかったんだろうな」

永久に捕縛しておく為にも『牢燭』は使える。

迷宮の最も効率的な魔力の稼ぎ方。人間を迷宮の中に閉じ込めて恒久的に魔力を得る。

ちょうどレンゲン一族を迷宮に閉じ込めたような方法だ。

たしかに効率的ではあるものの人攫いのような真似は嫌悪感があるし、人が何人も消えるような事があれば騒ぎになって穏やかに生活することができなくなる。

もう子供までいるような立場なので派手な事はしたくない。

「その点は俺も同意できるな」

「だろ」

「ただ、俺の場合は皇帝として子供だけじゃなくて国民も導かないといけない」

責任ある立場にいるというのは面倒な事でもある。

【宝箱(トレジャーボックス)】から『牢燭』を取り出してリオに返す。

「で、責任ある立場になったリオは謎の迷宮主についてどうするつもりだ?」

「そうだな……」

アイラの故郷であるパレントで敵対することになってしまったリュゼ。

迷宮眷属である彼女の背後には必ず迷宮主がいる。

「俺が迷宮主だと知られていた場合は厄介なんだよな」

「たぶん確実に知られているだろうな」

戦争時には迷宮の力を惜しみなく使っている。

おまけに皇帝に成り上がるという偉業。

普通なら迷宮主などという可能性は簡単に出て来ないが、相手が自分と同じ迷宮主なら思い当たったとしても不思議ではない。

そういう意味では俺も派手に動き過ぎた。

「それよりも最大の問題はこっちだ」

レンゲン一族から押収した資料を見せる。

そこには調べ上げた迷宮主に関する情報も書かれていた。幸い、最大限有効活用する為に売り飛ばすような真似はしていなかったみたいだが、彼らが本気になったことで迷宮主だと知られてしまったのは間違いない。

彼らほどの情報収集能力があれば迷宮主だと知るのは難しくない。

人智を越えた情報収集能力を持ったスキルを所有していれば知られていてもおかしくない。

「この資料には本当に助かった。帝国を運営していくうえで必要不可欠な物だ」

王国で国王がしたように裏切り者を簡単に処断できる。

「お前には迷惑を掛けるな」

「やっぱり協力はできそうにないか」

謎の迷宮主と敵対するうえで最も必要になるのは協力してくれる相手だ。

条件としては、やはり同じ迷宮主である必要がある。

残念ながら迷宮主になったばかりのランドルフ王子は弱すぎて使い物にならないので協力関係を結ぶ必要を感じない。

他の迷宮主については面識がない。

従って、協力するならリオしかいない。

「俺としても謎の迷宮主に脅威を感じているから個人的に協力はしたい。けど、今の俺がフラフラと行動する訳にはいかないんだ」

「いや、さすがに忙しい皇帝を付き合わせる訳にはいかないさ」

今日の会合だって色々と都合をつけて時間を確保してくれたから実現した。

本当に今のリオは休める時間がないくらい忙しい。

既に『迷宮主』というよりも『皇帝』という肩書が強くなっている。

「あの迷宮主とは俺が決着を付ける。お前は帝国を安定させて王国と戦争を起こすような真似をしてくれなければいい」

王国が戦争をする可能性があるのは帝国ぐらいだ。

逆に肥沃な大地を持つ王国を狙う国は多い。そういう敵を大国である帝国が睨みを利かせて守ってくれるのが俺にとって一番嬉しい。

「陛下」

一人の騎士が部屋に入って来た。

騎士は俺の事を睨んだ後でリオに耳打ちする。

「分かった。全員、捕縛する事ができたんだな」

「はっ、抜かりなく」

事前に帝国に潜入していたレンゲン一族を捕らえるよう指示を出していた。

「彼らは自分たちの正体が露見するなど全く予想していなかったらしく、全員が訳も分からないまま捕らえられました」

「そいつらは?」

「全員、謁見の間へ連れております」

「分かった。行こう」

これからリオの手によって間諜が処断される。

レンゲンとの取引によって帝国に潜入している連中も俺の所有物になっているのだが、リオのパフォーマンスに彼らの命も売り渡した。報酬としてもらった『神樹の実』には彼らの価値も含まれている。

「お前も来い」

「いや、いくら皇帝に招待された客とはいえ、他国の平民が謁見の間に出入りするのはマズいだろ」

「万が一を考えればお前の力が必要になるかもしれない」

「……分かった」

あまり気乗りはしないが謁見の間に同行することになった。

せめてもの抵抗として暴れるような事があったとしても『絶対命令権』を持つ俺は一言で止めることができる。

これ以上の戦力はないだろう。