Dungeon Master Makeup Money (formerly known as Dungeon Master Funding)
Lesson 10: The Future of the Village
「で、俺はどうします?」
「そうですね。同じAランク冒険者であるヒースさんは既に魔物討伐に出ているみたいですので……」
Aランク冒険者は長期の依頼を引き受けていて街にいないことがある。
どうやら幸いにしてヒースさんだけはすぐに捕まったらしい。他にも外にいる気配を感知すれば強そうな人物がいるので何人か集めることには成功したのだろう。
それでも会議室に訪れたのはBランク冒険者のガンザスさんだった。
単純な戦闘力で言えばAランク冒険者の方が上なのだけど、Aランクになれるほどとなれば一癖も二癖もある人物の方が多い。そういった人物は、基本的に他の冒険者を纏めるような行動には向かない。
対してガンザスさんなら後輩の面倒見もいい冒険者なので指揮能力は高い。もっとも、Aランク冒険者のことだから指示を聞かずに今頃は好き勝手に動き回っているはずだ。
俺も彼らのように好き勝手に動きつつ他の冒険者の稼ぎを邪魔しない程度に魔物を間引こうと考えていたところ……
「ちょっといいか?」
エリオットが声を掛けてきた。
「どうしましたか?」
「彼についてだ」
俺の扱いにおいてエリオットから注文があるらしい。
「魔物が氾濫するような状況だ。高ランクの冒険者は遊撃に当たらせた方がいいのは分かっている」
「ええ、そうですね」
「だが、この場の防衛にも冒険者の力がほしい」
「……ヒッポグリフですね」
空を自由に飛び回ることができるヒッポグリフ。
セージュ村とモルト村はヒッポグリフの襲撃があったために防備を固めていたにも関わらず滅びることになってしまった。
同じことはアリスターにも言える。
たくさんの人が住んでいるアリスター。万が一にもヒッポグリフに侵入されるような事態になれば混乱は免れられない。
そこでヒッポグリフにも対処できる戦力を必要としていた。
「よろしいでしょうか?」
「構いませんよ。俺は、アリスターが危険に晒されるまでは待機していればいいんですね」
「お願いします」
それならシエラとも一緒にいられる。
俺の腕の中で寝ているシエラだが、離れたくないのか眠ったまま俺の服をギュッと掴んでいる。子供の力なので剥がすのは簡単だが、そこまで一生懸命になっている子供から離れるのは躊躇われる。
「ところで、アイラさん以外の方たちはどうしました?」
魔物の襲撃を知らせる緊急事態の鐘は街全体に響き渡っている。冒険者は鐘の音が聞こえたならば特別な事情でもない限りは冒険者ギルドへ急行しなければならない決まりになっている。
シルビアたちもしっかりと鐘の音を聞いている。
「彼女たちですか――」
既に連絡はついている。
「シルビアは家で育児に追われています。それをイリスがサポートしていますね」
「メリッサさんとノエルさんはどうしました?」
「……やっぱり二人も参加しないといけないですか?」
「もしかして怪我でもしているのですか?」
躊躇いながら言ったことで特別な事情があるのだと判断したらしい。
まあ、特別な事情があることには変わりない。
「実は――妊娠中なんです」
「……」
……ひっ!
ルーティさんの顔から表情が消えた。
「……何カ月ですか?」
どうにか絞り出した質問がそれだった。
さすがに妊娠している女性を戦場に立たせるほど冒険者ギルドも鬼畜ではない。けれども、相手の体調ぐらいはギルドとして把握していなければならない。
しかし、微妙な質問だな。
「……1日目です」
「は?」
そうとしか答えられない。
まだ、半日ちょっとぐらいしか経っていない。タイミング次第だけど、もしかしたら半日経っていないかもしれない。
「馬鹿にしているのですか? いくら私に妊娠経験がないとはいえ、その日数が異常なことぐらいは知っています。即日で結果が分かるとか異常ですからね」
「ええ、まあ……」
自分でも異常な事を言っているのは分かっている。
それに初日なら多少体を動かしたところで問題なんてない。普通は、初日から気付ける人なんていないのだから。
それでも心配せずにはいられなかった。
「俺がAランク冒険者6人分の働きをするのでパーティメンバーの参加を見送ることはできませんか?」
「……いいでしょう。パーティリーダーであるマルス君がいるのなら認めます」
どうにかルーティさんから許可をもらうことができた。
「あ、あたしは近くにいるわよ」
「まあ、この娘がこんな状態じゃあな」
誰か――特に母親であるアイラは近くにいた方がいいだろう。
「ところで、エリオット様はどうしてこのような場所へ?」
今回は、冒険者と次期領主という立場なので言葉遣いなども改める。
エリオットの立場は次期領主だ。
態々このような場所へ来る必要はない。
「今回の一件は私にとって無視できない事態だからだ」
「そうなんですか?」
「私が生まれた頃からコツコツと進められた計画にデイトン村よりも先――今回、氾濫を起こした森を拓いて街道を作り、その先にある海に港町を作ろうという計画があった」
その為に去年はデイトン村で学校の生徒たちが開拓の真似事をしていた。
また、その後で海まで連れて行ってあげたことによって森の先がどのようになっているのか詳細に分かり、計画も具体的になっていたらしい。
「ところが、今回の一件で白紙に戻さなくてはならなくなってしまった」
港町の開拓に成功したとしてもアリスターまでどれだけ急いだところで2日以上の時間を要する。
そこで、デイトン村など途中にある村で宿泊できるようにする為に施設を調えるつもりだった。
だが、それも村があれば、の話だ。
今回の事件で村が滅んでしまった。
現在がどのような状況なのかは分からないが、以前の計画のままとはいかないだろう。
「調べますか?」
「分かるのか?」
「片手間でよろしければ」
宿舎の屋上に魔法陣を描き、【召喚(サモン)】でサファイアイーグルを喚び出す。
「村の現在の様子が分かるまで少し時間が掛かりますが、冒険者たちが戻って来るよりは早く知ることができます」
「助かる」
そうして、ある提案をする為に3人の村長たちの傍まで移動する。
「少し、いいか?」
「あ、はい。ええと、何でしょうか?」
緊張した様子でモルト村の村長が答える。
セージュ村の村長とのやり取りが頭に残っているらしい。
「普段ならば魔物に襲われた村に対して再建の為に必要な多少の援助はする。しかし、今回は全額をアリスターの方で負担するつもりでいる」
「な、なぜ……?」
村長にも、それが普通ではない事ぐらい分かっている。
しかし、住む場所を失った身としては藁にも縋りたい想いだった。
もちろん、美味しい話には理由がある。
「具体的な計画は、魔物を討伐し村の現状を把握してから立てることになるが、こちらの再建計画に従ってもらう。それが、今後の住む場所や仕事を提供する為の対価だ」
数年後の開拓事業がスムーズに進むよう再建する。
これまでとは全く違う生活になってしまうのかもしれないが、既に村が壊滅状態であることを考えると多少の援助程度では再建は不可能。なら、多少の我慢は承知で受け入れるしかなかった。
「それまでの生活は?」
「アリスターにも100人以上の人間を一度に受け入れる場所はない。だが、場所はここにある。辛い思いをさせてしまうが、宿舎の訓練場を解放させてもらう。そこでテントを張って生活してもらうことになる」
「そんな……!」
テント生活を余儀なくされてリューが立ち上がる。
だが、セージュ村とモルト村の村長は受け入れていた。
「まあ、それで村が再建できるなら……」
「仕方ない、か」
色々と苦労してきた二人だからこそ受け入れることができた。
「なっ……!」
「文句がありそうな顔だな」
「そのようなことは……」
「言わなくても分かる。これでも領主の子供だ。多くの人と付き合いがあるから、お前の気持ちくらい顔を見れば分かる。最近は、真面目に税も納めてくれていたから納得いかない部分もあるのだろう。だが、納められた税は、街道の整備や以前よりも行商の数を多くすることで村に貢献していた。このような事態はこちらにとっても予想外なものなので従ってもらうしかないんだ」
他に選択肢などないようなものだ。