Dungeon Master Makeup Money (formerly known as Dungeon Master Funding)
Lesson 16: The Village of Madness - Before
村では凄惨な事件が起きていた。
帝国軍と王国軍が斬り合っている。それぞれが自分の武器を手に相手へ攻撃をしている。
帝国軍は先遣隊として派遣されただけの50人。
それに雇われた傭兵が100人。
対して王国軍は1万に届く兵力がいた。
そこで、帝国軍は柵に囲われた村の中に布陣し、王国軍を迎え撃っていた。
「これは……」
村まで辿り着いた帝国軍は言葉を失った。
次々と村へ押し寄せる王国軍。
それを帝国軍が迎え撃っていた。
「うおぉぉりゃあぁぁぁ!」
「食らいやがれ!」
帝国軍の騎士が攻撃を防いでいる間に傭兵が王国軍を薙ぎ倒している。
「へへ、どんなもんだ!」
斬り落とした王国軍の首を掲げる傭兵。
その側頭部に矢が突き刺さる。
満面の笑みを浮かべたまま傭兵が倒れていく。
さらに他の兵士が傭兵へと斬り掛かる。鍛えられた肉体を持つ傭兵は体の至る所を斬られても耐え、逆に接近した兵士の体を掴むと体を上下に切り離す。
大声で笑う傭兵。そこに槍を持った兵士が10人も殺到し、胸を串刺しにされる。斬られていても耐えていた傭兵だったが、さすがに槍で串刺しにされては耐えることができなかった。
他の場所でも帝国軍と王国軍による攻防が繰り広げられている。
「これは、異常だ」
戦争なのだから斬り合いが行われるのは普通。
しかし、目の前で行われているのはただの殺戮。帝国軍の騎士が村の中で防衛の為に布陣しているが、それも効率よく敵を倒せるからに過ぎない。
「村人の生き残りは……?」
慌ててウルカエル将軍が村を見渡す。
このような乱戦状態では生き残りを見つけるのは至難。そもそも、当初の予定では派遣した騎士の半数が防衛にあたり、残りが生き残りを探すことになっていた。傭兵の協力も得られたため問題ないと思われていた。
けれども、全員が防衛にあたっている。誰も村人を気にしていなかった。
「事情は全く分からない。しかし、生き残りを探さない訳にもいかない。卑劣な王国軍を押し返して村を守るぞ」
『おうっ!』
一気呵成。
声を張り上げると大盾を持った部隊を先頭に村へと突入していく。
が、突如として先頭にいた兵士が駆け出す。
「あ、おい……止まれ!」
ウルカエル将軍の制止も空しく大盾部隊が突っ込んでいく。
「くっ、彼らだけを突入させる訳にはいかない。救援に向かえ」
「はっ……っ!」
後続の部隊を大盾部隊の支援に向かわせる。
しかし、村へと近付いたところで大盾部隊と同じように彼らまで村の中へと駆けていった。
ウルカエル将軍が止まるよう言うものの足を止める気配はない。
「……効果範囲はここからか」
駆け出していく様子を俺は冷静に見させてもらった。
村で起きている異常の効果範囲をまずは見極める必要があった。
剣を振るって斬撃で殺戮が起きている村を中心に円形の線を地面に描く。
「あいつらのように狂いたくなかったら、その線より内側へは入らないことをおススメする」
「なに……?」
「村へ入ろうとした連中は、その線より内側へ入った瞬間、狂ったように敵へ襲い掛かるようになった」
注意深く見ていれば分かることだ。
そして、王国軍の方も分かっているらしく、村を挟んだ向こう側で効果範囲ギリギリの場所に立って警戒している。
「まさか、村へ入った瞬間に狂うのか?」
「そのようだ」
将軍の問いかけに答える。
村を離れながらも到着した帝国軍の様子を見ていたイリス。これで村の中にまだ生き残りがいたとしても安心だと思っていたところ、村へ近付いた瞬間に狂ったように敵へ襲い掛かるようになった。
イリスの視界を借りた状態でも村へ近付いた瞬間に狂うことは分かった。
ただ、遠くてどこまで近付けば狂うのかが分からなかった。
到着した騎士や兵士が村へ近付いてくれたおかげで接近できる限界も知れた。
「お前は村へ近付くことが危険だと分かっていたのか?」
「だとしたら?」
「なぜ報告しない!?」
「近付くと狂う、と分かっている場所へ自分から率先して近付いて行くような奴がいるか? 誰かが犠牲になる必要があった」
おかげで範囲は分かった。
「ここから弓でも射っていればいいだろ」
狂ったように目の前の敵に攻撃しているだけの相手は狙い放題も同然だ。
村で起こっている異常の原因を突き止めるにしても、まずは王国軍をどうにかする必要がある。
「分かっている。用意……」
将軍の声に合わせて弓兵部隊が弓を構える。
『あははっ、もっとたくさん来てくれた』
子供の様に無邪気な声が響き渡る。
狂っていない者には全員に聞こえていたようで声の主を探そうとキョロキョロしている。
そんな方法では声の主は見つからない。
今の声は魔力を介して聞こえている。声のした方を見ようとしたところで意味はない。
『ねぇねぇ、もっとたくさんあそぼうよ』
子供の声による誘いと共に村の地面に魔法陣が描かれる。
端は、俺が地面に傷をつけた場所だ。
「どうやら、この魔法陣が内側へ入った人間を狂わせているみたいだな」
魔法陣の光が強くなる。
『さあ、あそぼうよ』
地面に描かれた魔法陣が大きくなる。
その大きさは、魔法陣の外で待機していた軍勢全てを飲み込むほどだ。
「「「「「うおおおぉぉぉぉぉ」」」」」
帝国軍と王国軍が同時に村に向かって駆け出す。
数千と数千の軍勢。とても村には入り切らず、押し寄せる軍勢によって村を囲っていた柵が壊され、村を中心に殺し合いが始まった。
戦術など何もない戦争。
「何が、起こっている……?」
ただし、全員が敵に向かって駆けて行った訳ではない。
帝国軍側では、一部の将校。それに団長クラスの傭兵が残っている。
王国軍も似たような状況だ。
ただし、将だけが残っていたところで意味はない。指揮を受ける者がいなければならない。
「失礼」
「何をする!?」
「失礼、といった」
断りを入れてからウルカエル将軍の服の内側を探す。
あった。
「これが助かった原因です」
首から下げられていた赤い宝石のついたペンダントを見せる。
「状態異常を無効化する為の魔法道具か」
主に毒から身を守る為の魔法道具。
将軍のような地位になると暗殺されることにも警戒をしなければならない。毒にも注意を払っておく必要があるのだが、将軍でありながら食材にまで警戒するのは難しい。
だから毒を受けても問題がないようにしておく。
その為に必要なのが『状態異常無効』の魔法道具。
ペンダント型の場合、体内へ侵入した毒をペンダントの中にある魔石が自動で作動して毒を中和するようになっている。さすがに毒を受けた状態で魔法道具に魔力を注いでいるような余裕はない。
「これが守ってくれたのか」
気休め程度の気持ちで手に入れた魔法道具。
これまでに毒殺の経験など実際にはなかったため効果を信じていなかった。
「他の奴らも同じだろうな」
状態異常――狂化から身を守ってくれる魔法道具を身に付けていた。
俺やシルビア、アイラが無事なのも【迷宮適応】によって状態異常が無効化されているためだ。
「とにかく、それを身に付けていれば無事でいられるぞ」
「よし! なら、無事な者たちで狂った奴らをどうにかしよう」
「……この人数で?」
無事だったのは三十数名。王国軍と合わせても七十人もいない。
対して狂っている人間の数は一万人以上。
数に差があり過ぎる。
全員を殺していいのなら俺たち3人だけでも可能だが、自国の兵士や協力関係にある国の兵士を傷付ける訳にはいかない。
「だが、一体どうすれば……」
「原因を知っていそうな奴に心当たりがある」
「こいつだ」
マスクをつけたイリスが現れる。
彼女の肩には男性が担がれており、両手と両足を縄で拘束されていた。
「お前は?」
「正義の味方の冒険者。今回は、あなたたちに協力してあげる」
担いでいた男性を乱暴に落とす。
「ほら、正直に白状しなさい」
「私は王国軍の将軍にして伯爵だ。もっと丁重に扱え」