『まず、現在の非力な戦力を増強する第一歩として、ダンジョンの拡張を行なう』

戦力の増強はダバルも考えていたようで、ドラゴンのリクルート活動もその一環だったらしい。あんな中二病の若造どもなぞ役に立つもんか。

『閣下(マイ・ロード)、今の私の魔力ではダンジョンの拡張は無理です』

『拡張自体は俺がやる。フェルは管理に専念しろ。拡張後のダンジョンを管理してもらうわけだから、当然お前の魔力も強化する』

そう言い置いて、俺は廃鉱の全範囲を掌握してダンジョン化した。うん? この廃鉱……。

瞬く間に自分の周囲の坑道がダンジョン化してゆくのを目の当たりにしたダンジョンコア――フェル――は、湧き上がる畏怖を抑える事ができなかった。廃鉱の全域、それに加えて地表の一部までもが新たにダンジョンとなり、その管理権が自分に委譲される。管掌する領域が一気に十倍以上――二十倍近い――に広がった事に眩暈(めまい)を感じていたが、今度は自分の中に少しずつ魔力が注ぎ込まれているのに気づく。フェルが内心で恐れていたように、膨大な魔力を一気に注入される事はなく、ある程度の魔力を注入し終えると、幾つかの魔石を渡された。その魔石も充分以上にとんでもない代物であったが。

『魔力については今後少しずつ供給するとして、他に魔石を幾つか渡しておく。とりあえずコアの近くに埋設しておくから、必要な場合はここから魔力を引き出すように』

フェルの感覚では「幾つか」という単語は普通は五個内外、多くても十個以内を指す筈で、クロウが渡したような二十個近い魔石に対して使う言葉ではない。一個だけでダンジョン一つが養えそうな魔石をしこたま貰って、フェルは目が眩(くら)みそうな思いであったが、それだけの魔石を必要とするような強化とはどんなものかを考えた途端、新たな寒気を覚えた。

『ざっと見たところ罠の類(たぐい)がほとんど無いが、攻撃はモンスター頼みか?』

『まず、ここはとっくに掘り尽くされた廃鉱なので、坑道に入ってこようとする者がいないんです。なので、坑道内に罠を仕掛けても意味がありません。必然的に、攻撃は坑道の外に討って出る形になりますので、モンスターが中心に』

『坑道の外にダンジョンの領域を広げなかったのは魔力不足が原因か?』

『遺憾ながら』

ダバルとフェルからピットの現状を聞いたクロウは、しばらく考えて決断する。

『なら、強化の方向は二つだな。第一に、お前達が考えていたように、坑道の外に討って出る戦力を強化する。これは坑外へのダンジョン領域の拡張および罠の設営を含む』

その考え自体は理解できるため、ダバルもフェルも異論は唱えない。クロウをして強化(・・)と言わしめる内容に若干の不安を覚えてはいたが。

『第二に、クズどもの坑道内への進入を誘致して、坑内で片付けるための罠を強化する。折角複雑な坑道があるのに、使わないのは勿体ないからな』

『しかし閣下(マイ・ロード)、彼らを坑道内に呼び込む餌がありませんが』

『あぁ、それは大丈夫だ。この「廃鉱」とやらの下には、金・銀・銅の大鉱床が眠っているから』

『「はい?』」

フェルの念話とダバルの肉声――ついうっかりと声が出たようだ――が綺麗に重なった。