それまで視界を覆っていた砂嵐は、始まった時と同じように唐突に終わった。全てを……二人の屍体を覆い隠した砂の上には、何一つ動くものは見当たらない……いや?

遠くに動く人影を見て、斥候役のジヴは思わず声を上げた。

「レリンか!?」

「ジヴ!?」

互いに声を掛け合って相手を確認すると、大急ぎで駆け寄ろうとする。

「他のみんなは?」

「判らん。お前以外の姿は……っ!?」

ジヴの方に向かって駆けていたレリンの姿が掻き消すように消えた。そしてそれを見た瞬間に、ジヴは何が起こったのかを悟った。

流砂だ。

壁役のオーキィを呑み込んだ流砂が、この辺りに口を開けているのだ。

感情は一刻も早くレリンを助けろと叫ぶが、理性は流砂に呑み込まれる危険を声高(こわだか)に指摘する。そして恐怖はジヴの脚を竦(すく)ませる。

用心しぃしぃジヴが問題の場所に辿(たど)り着いた時には、そこには何の痕跡も残っていなかった。その時になって初めて、ジヴは恐ろしい事実に気付く。

「魔術で脱出できなかったというのか……? あのレリンが……?」

繰り返すが、砂粒のように見えるものは歴(れっき)としたダンジョン壁である。魔術など幾ら使おうとしても、魔力を吸収されて不発不首尾に終わるだけだ。そう、ここの流砂は魔術師殺しの罠なのである。

『残るは一人』

・・・・・・・・

憔悴しきった様子のジヴの目に、何かの遺跡のようなものが映っていた。ここは「流砂の迷宮」の奥部、砂に埋もれた遺跡……をモチーフに創りあげた一画である。そして同時に、下の階層へと続く階段の入口でもある……その入口は、現在は砂に埋もれているピラミッドの中にあるが。

「……何だ……ここは?」

当惑しているジヴの表情を画面越しに見ているクロウたちは、微妙な表情を隠せなかった。

『……見事に階段のある場所に辿(たど)り着いたな……』

『入口を捜してた筈じゃ……?』

『真反対ですぅ』

『いや……斥候役がそれで良いのか?』

『どうもこのパーティは、何と言うか、能力的に微妙な者が多いな……』

『カルスのやつぁ、腕っ節だけですからね』

『カイトに言われると微妙よね……』

『何でだよ!?』

自分が残念な評価をされているなどとは夢にも思わず、ジヴはふらふらと遺跡の中に踏み込んで行く。

『斥候のくせに、少しは警戒しようとか、そんな気は起こさんのか、こいつは』

『気力が萎えているというか、捨て鉢というか……』

『クラゲが漂っているような感じですね、提督(アドミラル)』

『これまた言い得て妙だな……』

そのクラゲ男は何を考えているのか、遺跡内に地下へ下りる階段を見つけると、躊躇(ためら)う素振(そぶ)りも見せずに降りて行った。

『ご主人様……あの階段は……』

『あぁ、下の階層に通じるやつじゃない。というか、下の階層に通じる階段は、目下は砂の中だ』

『ダミーですか?』

『いえ、兄さん、トラップ(・・・・)ですよ』

ロムルスの質問にレムスが答えて間も無く、ズシンという音が響いた。地面を揺らす振動と共に。

身に覚えのあるバートが思わず首を竦(すく)めるのを見て、不思議そうな面(おも)持(も)ちでクロウが訊(たず)ねる。

『勇者パーティの斥候役は、釣り天井に引っ掛かり易い傾向でもあるのか?』

『いえ……そういう訳(わけ)じゃねぇと思いやすが……』

ともあれ、ここに新勇者の一行も全滅したのである。