Ee, Teni Shippai? Seikou?
16 Stories Battle Begins
アラーナが危なげなく戦闘を開始したのを確認した陽一は、ホームポイント4に設定した、グラーフらのいる陣地の近くに転移した。
そこから駆け足で、陣地へと向かう。
「ヨーイチさん、来てくれましたか!」
ヨーイチの存在に気づいたグラーフが、安心した様子で声をかけてきた。
「どんな感じだ?」
「櫓(やぐら)からはもう見えているみたいです」
迎撃用に設営した陣地には、3つの防護柵を設置していた。
グラーフたちがいるのは最前線にある物で、500メートルうしろにふたつ目が、そこから200メートル後ろに3つ目の柵がある。
3つめの防護柵のうしろに、テントなどが建てられていた。
櫓は各所に設置されており、最前線のものは破壊されることを想定して簡易な作りになっていた。
「よし、じゃあこっちから仕掛けるか」
遠くに飛行系の魔物は小さく見え始めたが、陸上の魔物はまだ見えてこない。
そんななか、陽一は重機関銃を取り出した。
「ひぃっ……!」
仮想空間でミンチにされたトラウマが蘇ったのか、グラーフが短い悲鳴を上げる。
陽一は気にせず、柵の隙間から銃身を出し、ようやく見え始めた陸上の魔物めがけて銃弾を放った。
「おおお! きいてるっ! きいてるぞぉっ!!」
櫓のうえで偵察をしていた冒険者が、遠見(とおみ)の魔道具を覗きながら感嘆の声を上げる。
さらにロケット弾やグレネード弾をお見舞いし、千体以上いた魔物の群れのうち、2割ほどを戦闘不能にした。
先ほどと比べて戦果が少ないのは、群れまでの距離があったこと、魔物同士が散らばっていたこと、そして飛行系の魔物が多かったことが原因である。
「お、おい! なんかやべぇのがくる!!」
群れから突出し、猛スピードで飛行しながら迫る影が見えた。
「おいおい、まさかいきなり出てくるのかよ」
わずかな焦りを見せながらも、陽一は地対空ミサイルを構え、発射した。
【鑑定+】によって狙いを定め、光学式追尾によって補正されたミサイルは、猛スピードで迫る個体を捉えた。
――ドガァッ!
轟音とともに、その個体は爆煙に包まれる。
「やったか!?」
目視できる場所で爆発を目にしたグラーフが叫ぶ。
お手本のようなフラグだなと思いつつ、陽一は地対空ミサイルから、サマンサ謹製の対物ライフルに持ち替えた。
爆発で発生した煙の中から、先ほどの個体が飛び出し、少し速度を落として接近してきた。
それは背中に翼を持ち、人に似た身体をもっていたが、頭は鳥のようだった。
「あれが魔人ウィツィリだ」
魔人ラファエロは、肌の色や角以外は、ほとんど人と変わらない姿だった。
陽一らは見ていないが、アレクが倒した魔人も、その前に倒された4体も、ラファエロとそれほど変わらない外見だった。
しかしウィツィリはまるで、鳥と人とが混じったような姿をしている。
それが、ラファエロや先行していた魔人どもより、格段に強くなった理由であり、シュガル、テペヨも、半獣半人のような姿をしている。
「さがれぇっ!」
事前の打ち合わせ通り、陽一の号令を受けて、赤い閃光を除く冒険者たちは、後方に向かって一斉に駆け出した。
櫓にいた冒険者も飛び降りると、危なげなく着地して走り出す。
可能性としてはかなり低かったが、魔人が突出するというのも、想定されるパターンのひとつではあったのだ。
――ドシュッ! ドシュッ!
近づいてくるウィツィリを狙って対物ライフルの引き金を引いたが、前進の速度を抑えたぶん空中移動の自由度が増したのか、あっさりと銃弾をかわしてしまった。
そして……。
――キィィィィィィーッ!!
耳をつんざくよな、高い音があたりに響いた。
それは、ウィツィリが発した咆哮だった。
多くの冒険者は、その鳴き声に耳を押さえ、怯み、なかには身体を硬直させる者もあった。
だが、【健康体+】を持つ陽一と、勇者の称号を持つグラーフ、そしてそのすぐ近くにいた赤い閃光のメンバーには影響がなかった。
「隙だらけだぞっと!」
そして咆哮を放っているあいだは動きが止まるようなので、陽一は遠慮せず引き金を引いた。
「ギィッ! グッ……!」
頭を狙って撃った数発の弾は、直前で察知されたが完全にはかわされず、肩と翼に当たったものの、傷をつけることはできず、よろめかせるに留まった。
「ま、それでも上出来だ」
さらに引き金を引いて追撃したが、すんでの所でかわされ、ウィツィリはさらに接近してきた。
そして――。
「ふざけんじゃあねぇええぇぇっ!!」
怒りの雄叫びとともに、射貫くような視線を陽一に向ける。
――ドシュッ! ドシュッ!
突然の雄叫びに多少の驚きはあるものの、陽一は冷静に、淡々と引き金を引き続けた。
だが、この雄叫びはなんらかの状態異常を引き起こす先ほどの咆哮と異なり、隙ができることはなく、銃弾はすべてかわされてしまう。
目に見えないほど高速で翼を動かすウィツィリは、急加速と急停止を使いこなし、空中を自由自在に動き回った。
しかも厄介なことに、驚異的な動体視力で銃弾を目視したあと、脊髄反射でかわすので、【鑑定+】を使っても思考の先読みができないのだ。
「てめぇ! また俺たちの邪魔ぁすんのかぁっ!!」
陽一を睨みつけ、銃弾をかわしながらウィツィリが叫ぶ。
(ラファエロから俺の情報が回ったか? だとしたら……)
「むしろ好都合だよ!」
対物ライフルの銃弾をかわしながら接近してくる魔人を前に、陽一は武器を魔改造突撃銃に持ち替えた。
当初の予想だと、魔人は魔物の群れのあとにやってきて、先に群れと冒険者たちとの戦闘が始まるはずだったのだが、陽一の先制攻撃が予想以上の敵愾心(ヘイト)を稼いでしまったらしい。
だが自分に敵愾心(ヘイト)が集中するのであれば、そのぶん冒険者たちが後退する時間を稼げるというものだ。
――ドドドドドドド!
フルオートで連射し、弾幕を張る。
空中を高速で移動できるウィツィリだが、銃弾を反射でかわせるほどの急加速で移動できる範囲は、かなり狭い。
そこで【鑑定+】で確認した行動範囲に、魔力を纏った銃弾をまき散らしたのだ。
「チィッ!」
フッと消えたように移動し、最初の数発をかわしたウィツィリだったが、停止した場所で銃弾に襲われる。
ウィツィリは滞空したまま、腕を顔の前で交差して銃弾を防いだ。
それはかすり傷すらつけられない攻撃だが、それでも素肌にBB弾を受ける程度の痛みにはなったようで、わずかに動きを止めることには成功した。
「うぜぇ――グゥッ……!」
弾幕が途切れ、再び動き出そうとしたウィツィリの脇腹に、矢が刺さった。
「ぐぅ……くそ……アマァ……!」
ウィツィリはうめきながら、矢の飛んできたほうに顔を向けた。
視線の先には、弓を構えたグレタの姿があった。
「なめんじゃあね……なっ……!?」
魔人の身体がぐらりと揺れた。
ほどなく体勢を維持できなくなり、徐々に高度が下がっていく。
――ドシュッ! ドシュッ!
そこへ追い打ちをかけるように、対物ライフルの銃弾がたたき込まれた。
「ギャッ! ぐぅ……くそぉっ」
銃弾はウィツィリの全身を覆う羽毛に弾かれ、皮膚を貫くには至らなかったが、衝撃によるダメージはそれなりにあった。
立て続けに銃弾を受け、完全に体勢を崩した魔人めがけて、グレタが二本目の矢を放つ。
「ぎゃっ――ぐおおおお!?」
相変わらず翼は高速で動いているにもかかわらず、ウィツィリは滞空できなくなり、墜落し始めた。
「せぁあああああっ!」
その落下地点に、グラーフが駆け込む。
「くらええええっ!!」
そして魔人が地面に激突するのとほとんど同時に、若い勇者のロングソードがたたき込まれたのだった。