Endo and Kobayashi’s Live Commentary on the Villainess

Episode 34: What shall we do with the dress?

 

「ジークヴァルト殿下とリーゼロッテお姉様は、つい先日、気持ちが通じ合った、……んですよね?」

 逃げ去っていったリーゼロッテの乱暴に閉めていった扉を眺めながら私にそう確認をしてきたのは、フィーネだった。

「そのはず、なんだけどねぇ」

 私は恥ずかしがり屋の私の婚約者(リーゼロッテ)の妹に、そう言いながら苦笑を返す。

「まあ、2人きりのときは、多少甘えてくれるようになったよ。

 ただ、他に人のいるところではまだどうにも……。というか、若干悪化している気もする……?

 まあ、恥ずかしがることなんてやめようと思ってやめられるものじゃないだろうし……、なにより、あれはあれでかわいいから、いいんじゃない?」

 私がそう続けると、フィーネは納得したようにうなずき、笑みを浮かべた。

「まあ、余裕綽々のお姉様なんて、お姉様じゃありませんもんね。

 ……しかし、結局ドレスはどうしましょうか?」

 今日は感謝祭でリーゼロッテが着るドレスの打ち合わせに、リーフェンシュタール侯爵家を訪問している。

 さきほどまでこのサロンにはリーゼロッテもいたのだが、私とフィーネがそろってド(・)レ(・)ス(・)を(・)着(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)懇願したところ、リーゼロッテが逃げ出してしまった。

「うーん、用意したところで着てくれないんじゃ、悲しい、よね……」

 リーゼロッテは、感謝祭最終日は神々の予言により古の魔女が復活することがわかっている以上、ドレスなんて着ている場合ではない、なんなら運動着でいたいと主張した。

 そこを私が学園の感謝祭に私が参加できるのは今年が最後なのだから、かわいい婚約者のドレス姿をみさせてほしいと懇願し、フィーネも同意したところ、リーゼロッテが恥ずかしさのあまり逃げ出したというわけだ。

「ドレスでも動きやすいデザインならいいんじゃないですか?

 トレーンとペチコートは諦めて、エンパイアラインで丈はくるぶしまで……いや、前側をもう少し短めにしてもいいかもです」

「ふむ……。

 試しに最大限しめつけが少なくて足さばきも邪魔をされないものという要望で1着つくらせてみようか……?」

『えーでも足元がヒールってだけで戦うにはきびしいものがあるんじゃないでしょうか?』

『最終的に屋外行くんだし丈がそこまで長いと裾が汚れるだろうなーとか考えるのは、庶民だけか?』

 フィーネと私が話し合っているところに、そんなコバヤシ様とエンドー様の声が割り込んできた。

 ということは、リーゼロッテが戻ってきたのだろうか。

 コンコンコン……

「失礼」

 ノックとほぼ同時に扉をあけ、部屋に姿をあらわしたのは、バルドゥールだった。神々を連れてきたのは彼の方だったようだ。

「あれ、バル先輩どうし……、ああ、そっか。私たちを2人きりにしたくないお姉様が呼びつけたんですね?」

 フィーネがそう尋ねると、バルドゥールは軽く頷いて返した。

 侯爵家と子爵家、本家と分家にあたる2つのリーフェンシュタールの王都にある別邸は、隣同士、というより同じ敷地内に隣接している。

 リーゼの連絡を受けた彼が即座に駆けつけたということだろう。

「えーと、リーゼロッテは、“私(わたくし)には女性近衛兵の制服を貸してもらえないでしょうか?”と殿下に伝えるように言っていました」

 最近になってリーゼロッテに彼女を愛称で呼ぶことを禁じられたバルドゥールは、私のそばまでやってきてそう言った。

『近衛兵……?ってどんな服だ?』

 エンドー様が困惑したようににそうおっしゃると、コバヤシ様がやや興奮したような声音でこたえた。

『軍服だよ!白地に金糸の軍服!それも近衛兵は王族の側に付き従って人前に出ることが多いから、刺繍とかボタンとかが割とこったデザインだった記憶!』

「パンツスタイルで、女性は男性よりも丈の長めの上着でスリットいり……、でしたっけ?」

 フィーネがそう尋ねてきたので軽くうなずくと、バルドゥールもほぼ同時に同じ動きをしていた。すこし気まずい。

 そんな彼にフィーネの隣に座るように仕草で促していると、コバヤシ様のお声が大きく響く。

『私は、軍服リゼたんがみたいです!!

 男装……ってほどじゃないけどバージョンのリゼたんとかレアだし絶対みたいですっ!!』

 それは解説ではなくただの要望では……。まあ私もリーゼの制服姿に興味がないといえば嘘になる。女神のご指示に従おう。

「まあ、そうだね。あれなら戦いやすいし公式の場に出ても問題はないし、……貸す、というかリーゼのサイズでひとつつくらせるよ」

 私がそういうと、フィーネはうんうんとうなずき、バルドゥールはほっとしたようなため息をもらした。彼はわが婚約者にどれほど言い含められてきたのだろう。

「……フィーネも同じか?」

 ふと、バルドゥールが自身の恋人であるフィーネにそう尋ねた。そういえば、リーゼロッテのドレスの話ばかりでフィーネ自身がどうするつもりなのかは一切聞いていなかった。

「や、私はお姉様と違ってちびっちょいのでパンツスタイルは似合わない……、というか、スタイル悪すぎてお姉様と同じ服を着てお姉様の隣に立ちたくないですし……。

 なにより白に金といったら殿下の色ですから、私は遠慮しておきます!」

 フィーネはしどろもどろになりながらもそういった。

『おっとリーゼロッテのデレがそんなところにひそんでいたー!』

『リゼパパやバルとおそろいの騎士団員服でもいいところをあえての近衛兵ですからね。

 それは当然、ジークを意識してのことと思われます』

 フィーネの言葉に静かに私のリーゼロッテのかわいさに感激を覚えていた私の耳に、そんな神々の声が聞こえてきた。

 やっぱりそう思いますか。ですよね。

「あー、ではフィーネ嬢は、先ほど話していたようなドレスにするかい?」

 私がにやつきそうになる顔面をごまかすために軽く微笑んでそう尋ねると、フィーネは首をひねった。そのままなにか考えこむような表情のまま、口を開く。

「んー……、や、私こそ戦闘スタイル的により動きやすい格好が必要かと思うんですが……、どうしましょ。

 パンツスタイルでもゆったりめの、あんまり足の長さがわからないやつならいい、かなぁ……?」

『育ちのいいショタ風味……?アラビアン……?海賊風……?あるいは魔法少女みたいなのでも……?』

 フィーネのひとりごとのような言葉をひろったコバヤシ様は、えらく真剣な声音でぶつぶつとそうおっしゃった。

 今のは、ただ思いついたことを口にしているだけなのだろうか。それともそういった格好のフィーネをみたいというご要望なのだろうか。

『でも、ゲームだと膝下丈のドレスにブーツだったろ?普通にそれでもいいんじゃね?』

『ああ、あれもかわいかったよね』

 特にそこまでこだわりがあったわけではないらしいコバヤシ様は、あっさりとエンドー様のお言葉を肯定した。

「それでいきましょう。庶民風味魔改造ドレス格闘対応……って感じで!」

 フィーネはうんうんとうなずきながらそういった。庶民風味魔改造ドレス格闘対応とは、どんなものだろうか。

 まあ、ドレスのデザインなど私が考えるものではない。フィーネのリクエストを受けて考えるのはリーフェンシュタールおかかえのデザイナーだ。がんばってもらおう。

「みんな正装とはいえ、後夜祭には学生教職員しか出られないからね。多少はカジュアルにしてもかまわないと思うよ」

 私がそういうと、フィーネはほっとしたような仕草を見せた。

 しかしフィーネの陰口を言うような者は、現在の学園にはいない。

 春のはじめごろは庶民がどうのなどという低俗な悪口を言うものもいたが、私が友人だと宣言したことと、そういった人物をひとりひとりリーゼロッテがしめあげたことで収束した。リーゼロッテのがんばりが判明したのは夏休み明け、2人が姉妹となったことが公表された場でのことだったが。

 くわえてフィーネは彼女自身のその実力と人懐っこい性格で学年を問わずに友人を多く獲得している上に、今の彼女は侯爵令嬢。なんなら流行を作り出す側の人間だ。庶民風味魔改造ドレス格闘対応、流行るかもしれない。どんなものなのかはさっぱりわからないけれども。

「じゃあ、方向性が決まったところで、バルドゥールとフィーネは、どういう色味でそろえるかの相談でもしたらどうかな?

 私はそろそろ、リーゼロッテのところに行こうと思う」

 私が立ち上がりながらそういうと、2人は目と目を合わせたのち、照れくさそうに笑った。

『リーゼロッテは……、ああ、自室でわかりやすく落ち込んでいるな』

 彼女の様子を見てくれたらしいエンドー様のお言葉に苦笑する。はやく駆けつけよう。

『バルとフィーネのいちゃつきを邪魔するよりも、へこむリゼたんを慰める方が重要で有意義です。

 はやくしてください』

「い、いちゃつきませんよ!」

 コバヤシ様のお言葉に、フィーネは顔を赤くしながらそう叫んだが、女神のお言葉がきこえていないバルドゥールは訝しげな表情をしている。

「どうした突然……?

 ……リーゼロッテの真似か?」

 バルドゥールがゆっくりとそう尋ねると、フィーネはますます赤面し、言葉を失った。

 たしかに、私はなにも言っていないのに突然にいちゃつかないなどと言い出したら、それは逆に私がいなくなったらいちゃつきたいとツンデレ風に宣言したようなものだろう。

 邪魔者は、さっさと退散するとしよう。

 私は早足にサロンをあとにした。