Even I Have Become a Beautiful Girl, but I Was Just Playing as a Net-game Addiction
265 Stories The Alchemists in the Leap
傭兵(プレイヤー)最強と言われた『危険地帯(レッド・ゾーン)』が、無惨にもキルエフェクトをまき散らし虚空へと消えていく。
誰もが予想できなかったその結末に、有象無象たちは傍観する他なく、それは私も例外ではない。
巷で『白銀の天使』と騒がれている傭兵(プレイヤー)タロ。名前ぐらいは錬金術スキル(・・・・・・)に没頭してきた私でも耳にはしている。
その彼女が今、最強をいとも容易く屠(ほふ)ったのだ。
「君は……いったい、何者……?」
レッドは消え入る寸前に、彼女へ問うた。
「ただの錬金術士だ」
凄惨な笑みを張り付け、ぞっとするような美しさを放ちながら彼女はそう答えた。
あれほどの幼さでありながら、万人を魅了するほどの異彩を纏う美少女を私はこれまで目にしたことはない。彼女が月の女神だと言われれば、はいそうですかとみなが納得するだろうに。
そう、心を奪われるとはまさにこの事なのだろう。
そして同時に沸き立つこの感情は――――
憎悪(ぞうお)以外の何者でもない。
あれが錬金術?
馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!
我らがやってきた『錬金術』とは全くの別次元だろうが!
「キルされた『狩人の神(シン)』を蘇らしただけじゃなく……」
「……レッドさんまで倒しちまった」
「人狼(ライカン)たちもあの娘に従ってるっぽいぞ……」
「聖女だ……」
「『白銀の天使』って呼ばれてるらしいぞ」
「いやいや、俺らにとっちゃ悪魔だろ……?」
ほら、見ろ。
彼女がいくら『錬金術士』と名乗ろうが、それは子供の戯言。
何かのアニメや漫画の影響で口に出しているとしか思えないのだろうな。
愚者共が彼女の規格外すぎる戦功を前にして『錬金術』なんて単語すら拾えずにいる。大方、『彼女が強い』とか『彼女がすごい』、『彼女は特別な称号を持っているに違いない』、『彼女は最強のスキルを行使した』などに着眼点が集中していて、『錬金術』という弱小スキルを意識する余地すら残さない。
私も自分の目を疑ったものだ。
偶然にも【暴食者(グリストーカー)】から彼女に助けられ、一度【食人魔(グール)】となったNPCを治した時は目から鱗、しかもどうやったかと尋ねれば『錬金術です!』と答えたのだ。
最初は信じられなかったものの、細菌感染が(・・・・・)できる(・・・)のであればワクチンを作れる者が出てくるのは不自然ではない。
……馬鹿な。
同じ錬金術スキルをやってて、どうしてあそこまで差が出る?
あの規模の戦果をどうして1人で可能とする?
現実(リアル)が不平等なら、ゲーム内でも不平等らしいな。
働いても働いても負け組!
馬車馬の如く働こうが、自分の時間(いのち)をいくら削ろうが、覆せない現実がある。
効率良くスマホなんかをちょろっといじって、大金を稼いでる投資家なんかに、私達は一生あがいてもその生涯年収を超える事なんてない。生まれから、スタートから違うのだから!
持ってる金の多さが人生の優劣を決める、資本主義万歳だ!
あー、こんな腐った暗い世の中は滅んでしまえ。
いっそのこと、腐らし(・・・)、壊す手助けをしてやろうか。
この国も、世界も狂い始めてるのなら、今更私たちがそれに手を加えても微々たるものだろう!
妖精の出現とか歴史がめちゃくちゃになったとか、宗教も人間の身体能力すらおかしくなってきている。
ならばこれを機に、私を見下した全ての者に復讐してやろう。
見返してやるのだ。
我らが【秘密結社(セクレト)・化学式(リーベ)遺産帝国(レガリア)】の長、ヒラガの命令で【中層】への探索に紛れこんだのは僥倖だった。我らの実験推移(フェーズ)を観察するためだけじゃなく、思わぬ拾い物をしたのだから。
化け物じみた、あの錬金術師を発見できたのだから。
どうにか彼女を上手く利用できないものか、後ほどヒラガに報告すべきだな。
「おい、ゴッホ。おまえもブツクサ言ってないで、天使ちゃん達の援護にいくぞ!」
「放っておけよ。ゴッホはろくなスキルつかえねーから、大人しくしてた方がマシだろ」
「キルされんなよ~!」
私の事を常に下に見るパーティーメンバーに怒りはわかない。
当たり前だ。
レベルアップ時のスキルポイントはほぼ錬金術へ振っている。戦闘スキルになどわずかにしか振っていない。
彼らより戦闘力に劣る私にはふさわしいポジションだ。
せいぜい脳筋どもは身体を酷使し、我らが頭脳派の手の中で踊っているがいいさ。
私はアイテムストレージから自らの錬金術で創り出した『ケムリ玉+1』を取り出し、いつでも離脱できる準備を整えた。