Ex Strongest Swordsman Longs For Magic In Different World

Former strongest, begging girl to teach magic

「さあ、というわけで我輩に魔法を教えるのである……!」

「全然どういうわけなのか分からないんだけど……?」

前日に閃いた通りの内容を口にすると、返ってきたのは困惑したような声であった。

まあ、日課へとやってきて、顔を合わせた途端での言葉だ。

困惑していなかったら、むしろ驚きだろう。

勿論ソーマも分かった上での発言なので、ひとしきりその反応に満足すると、簡単に事情を説明した。

「常識外れって……まあ、確かに特級の人達はそんな感じではあるけど、あたしはまだ魔法が使えるようになって一日よ? 自分でも分かっていないことの方が多いのに、教えろって言われても……」

「なに、剣で空間を斬り裂くのよりは多分簡単なのである」

「基準がおかしいでしょうが……!」

そう言って叫ぶアイナだが、ソーマの中では空間を剣で斬り裂く方が簡単なので、一応その理論は成り立っているのだ。

基準がおかしいというのは、その通りだが。

「ま、何事も試してみなければ分からんのである。やってみれば意外に簡単に出来るかもしれんであるしな」

「ねえ、意外ってことは、あんたも出来るとは思ってないってことなんじゃないの……?」

「……ふひゅー、ふひゅー」

「へったくそな口笛吹いて明後日の方向見てんじゃないわよ……! 全然誤魔化せてないじゃないの!」

まあ実際のところは、出来ると思っていないというわけではなく、出来ないよう望んでいる、というのが正確だ。

確かに魔法は使えるようになりたい。

だが思いついたのは自分とはいえ、こんな方法で覚えてしまえたら、何となく残念な気分になるような気がするのだ。

今までの頑張りは何だったんだと、そういうことである。

もっともそれはそれとして、使えるようになったら間違いなく、心の底から喜ぶことにはなるのだろうが。

「ま、それにあれである。これは一応昨日の分の借りを返してもらう、という名目で頼んでることでもあるのだ」

「昨日の借り……? ……まあ確かに、あれは間違いなく借りではあるけど……」

「うむ、一年前に我輩が借りたものと相殺しようとも思ったのではあるが、それではあまりに釣り合っていないであるしな」

「…………確かに、そうよね。あんたがあたしにしてくれたことに比べれば、一年前のことなんて――」

「命を助けられたのに比べれば、昨日の程度のこと、相殺するには軽すぎるのである」

「って、そっち……!?」

何やら驚いたような様子のアイナだが、ソーマとしては何に驚いたのかが分からずに首を傾げる。

だってそうだろう。

昨日ソーマが何をしたかといえば、いつもの日課に比べて、ただ一回だけ多く木の棒を振っただけだ。

それが命を救ってくれたことと同等とするには、あまりに図々しすぎる。

「だけ、って……あたしにとっては、それが何より……っていうか、それよりも命を救ったって何よ?」

「そのままの意味であるが? あのまま放っておかれていたら、さすがの我輩もちょっと危険だったであるしな」

まったく力が入らない状態であったし、何より状況が状況であった。

場所が場所でもあるし、下手をすれば誰にも見つけてもらえず、そのまま失踪扱いされていた可能性もある。

ソーマの扱いが今のように決まったのはあの少し後ではあるが、そうなっても何らおかしくはなかったのだ。

それを考えれば、命の恩人というのは、何ら大袈裟なものではないのである。

「どう考えても大袈裟だと思うんだけど……はぁ、まあいいわ。ここで言い合ったところで、あんたは引かないでしょうし」

「うむ、よく分かっているのであるな」

「一年もの間ほぼ毎日顔を突き合わせてたら、嫌でも分かるわよ」

「む……嫌だったのであるか? それなら別に無理にとは言わんのであるが……」

「こ、言葉のあやでしょ……!?」

そんな風にじゃれながら、とりあえずやってみることになった。

とはいえ分かっていないことの方が多い、というのは事実らしく、一先ずアイナと同じように試してみたのだが――

「ふむ、右手を突き出し、構え……次は?」

「ええ、その右手の掌の先に魔力を込めながら詠唱を――」

「待ったのである」

「え、なに?」

「どうやって魔力を込めるとか以前に、そもそも魔力って何である?」

「……え?」

どうにも色々と認識していることに違いがあるということに気付くのに、それほど時間は必要としなかった。

「魔力が何って言われても……正直、魔力は魔力以外に言いようはないんだけど?」

「ううむ、しかしそんなもの感じたことすらないであるからな……いや、ならいっそのこと、魔力のことは気にしないというのはどうであろう?」

「え、どういうこと? 魔力込めないと、魔法使えないわよ?」

「うむ、そこで、であるな。魔法を使うという一連の行動を剣術で例えてみるというのはどうであろうか? それならば多分我輩スムーズに理解出来ると思うのである」

「あんたが理解出来てもまずあたしがそんな説明できないわよ……!」

そもそもアイナは、理論よりも感覚派のようだった。

その後も何とか説明しようとするのだが、擬音交じりであったりするためまるで理解が出来ない。

というか、ソーマもまたどちらかと言えば感覚派なのが拍車をかけたと言える。

同じ感覚を共有しているのであれば、逆に簡単だったのだろうが、何せ色々と認識が違う。

これは無理だなと判断するのに、大した時間は必要としなかった。

だがそこで諦めてしまうほど、ソーマは諦めがよくはない。

他に方法はないかと、頭を悩ませ――

「そもそも感じる事が出来ないのは、理解出来ないから、という可能性があるであるな……ということは、必然的にそれを理解する事が出来れば、或いは……?」

「……ちょっと、何となく嫌な予感がするんだけど、何考えてるの?」

「いや、魔法をぶつけてもらえれば理解出来るのではないかと思ったのである」

「は……!?」

「いや、それは正確ではないであるな。現状我輩が最も得意とするのは剣術故、魔法を斬ってみれば何か分かるのではないかと思ったのである」

「は……!?」

正確な言葉に言い直したというのに、やはりアイナは驚いていた。

いや、というよりは、こいつ何言ってんだ、みたいな感じで、信じられないものを見るような目でソーマのことを見ている。

しかしソーマとしてはそんな目で見られる理由が分からず、首を傾げるだけだ。

「ふむ……そんな驚くようなことだったであるか?」

「驚く、というよりは、呆れてる、って言うべきだけど……本気なの?」

「勿論であるが?」

頷くと、アイナは溜息を吐き出した。

それから、こちらへとジト目を向けてくる。

「……どうせ何を言ったところでやめないんでしょ?」

「当然である」

「そう……ならこれ以上あたしからは何も言わないわ。少しぐらい痛い目をみればいいのよ」

その言葉の意味は分からなかったが、それを問う前にアイナは離れた場所へと歩いていってしまった。

そのまま構えるのを見て、ソーマもまた構える。

そして。

「――炎よ。我が意に従い、その力を示せ。我が前に立ち塞がる全て、その悉くを焼き払わん」

それが昨日見たものとは違うということは、一目で分かった。

詠唱を聞けば明らかだが、何よりアイナは片手ではなく両手を前に突き出している。

何故だかは分からないが、妙にやる気になっているらしい。

だがそれは、ソーマからすれば都合がよかった。

――剣の理・龍神の加護・見識の才・心眼・精神集中・虚空の瞳。

木の棒を構えながら、ジッと目を凝らし、その全体を眺める。

すると、突き出した両手の先へと、何かが集まっていくのが分かった。

おそらくはそれが魔力ということであり――

「むぅ……だがやはりよくは分からんであるな……」

これが気あたりであればもう少し詳細に分かるのだが、やはりそういったものとは違うということだろう。

ちなみにそんなものが分かる理由を、実はソーマは自分でよく理解してはいなかった。

ただ、色々なものを見ていたら、いつの間にか普通の目では見えないものが見えるようになっていたのであり、それが分かっていれば十分だと思っているのだ。

実際アイナの身体に変なものが見えたのもこのおかげであるので、何の問題もないだろう。

ともあれ、そうして見ても分かったのはよく分からないということだけであり、何よりも、それ以上暢気に眺めている余裕はなさそうであった。

「――フレイム・アロー!」

アイナの両手の先に炎が顕現した、と思った次の瞬間には、爆発したのかと思うような勢いでそれが飛んできた。

言葉の通り、矢のような形となった炎が、ソーマ目掛けて一直線に向かってきて――

――剣の理・神殺し・龍殺し・龍神の加護・絶対切断・万魔の剣・見識の才:我流・模倣・斬魔の太刀。

剣閃一閃。

胸先まで迫った直後、ただの一振りで斬り裂いた。

「……ふぅ」

大気へと拡散していく炎を眺め、張り詰めていた神経を解しながら息を吐き出す。

さすがに普通に木の棒を振っただけでは魔法を斬ることは出来なかっただろうから、少し集中し前世の剣技を再現してみたが、やはりかなりの疲労を感じる。

それでも今回は力を全て使い果たし倒れるようなことにはならなかったので、一年前と比べれば大分マシだろう。

「…………は?」

と、自分の成長を確認していると、どこか間抜けな声が聞こえた。

誰のものなのかは言うまでもないだろうが、そちらに視線を向けると、やはりアイナが間抜けな顔を晒していた。

「女の子がそんな顔をするものではないと思うのであるが、大丈夫であるか? というか、何でそんな顔をしているのであるか?」

「う、うるさいわねっ、顔のことは放っておきなさいよ! っていうか、あんた今自分が何をしたのか、理解してないの……?」

「うん? 勿論理解しているであるが?」

とはいえ正確に言えば、何も出来なかったということを理解しているのではあるが。

そう、剣術で魔法を斬ってみたところで、やはりと言うべきか何も分からなかったのだ。

「うむ……やはりただの思いつきは駄目であるな。もう少しちゃんと考えねば」

「そういうことじゃないわよ……!」

「うん?」

だがどうやら、アイナが言いたいことは違うらしい。

というか、どうにも妙に焦っているようにも見える。

はて、何か変なことでもあっただろうかと首を傾げ……そんなソーマを見て、アイナは大きな溜息を吐き出した。

「……はぁ。あんたといると、自分の常識が間違ってるんじゃないかって気分になるわ」

「だから、一体何の話である?」

「何の話もなにも、あんたさっき自分でも言ってたでしょう? 魔法は失敗することがない、って。あたしは今の、間違いなくあんたにぶつけるつもりだったのよ? 痛い思いをすれば、少しぐらいは自分のやってることがどれぐらい無謀なのか理解すると思って。なのに……何で本当に斬れてるのよ?」

「別に不思議でも何でもない気がするであるが……? 魔法といったところで、要はただの炎の矢だったであるし」

龍の放ったブレスとかに比べれば、可愛いものだ。

「あのねえ……あたしの魔導スキルは、特級なのよ? 特級の魔法を斬り裂けるわけないでしょう?」

「うん? そうなのであるか? 空間斬り裂くのと同じことではないかと思うであるが。それより遥かに簡単でもあるし」

「全然違うわよ。……いい? 空間転移は、上級相当の魔法なのよ。だからあんたが聞かされた話っていうのは、多分、魔導スキルの上級持ちと剣術スキルの特級持ちを想定としたもの。それなら、確かに空間を斬り裂いて斬撃を届かせることも出来るから」

「ふむ……魔導スキルを持っている方が特級の場合はそうではない、ということであるか?」

「そうね。もしそうならば、多分そもそも空間を斬り裂くこと自体が出来ないわ。そしてそれは別に空間に限らず、全ての魔法に対して言える」

「でも実際斬り裂けたわけであるが?」

「だからおかしいって言ってるんでしょうが……!」

とはいえそう言われたところで、ソーマにはよく分からない感覚だった。

だからこそ、カミラも詳細な説明をすることはなかったのだろう。

あとでそこら辺もちゃんと聞いておくべきかもしれない。

「ま、斬れたものは斬れたもので仕方ないであるし、それにだからどうしたってわけでもないのである。それで魔法や魔力のことが理解出来なければ、何の意味もないのであるからな」

「そんなこと言うのはあんただけよ……」

そう言いながらアイナは溜息を吐き出すが、気分としてはソーマも同じであった。

やはりそう簡単に魔法が使えるようにはならないらしい。

だがそれでこそとも思うし、まだ幾らでも試せることはある。

もっとも今日のところは、一先ずここまでだろうが。

未だ今日の日課をこなしていないし、それが終わればもういい時間だろう。

しかし幸いなことに、時間は幾らでもあるのだ。

ならば、焦る必要はない。

まあそれにはアイナの協力が必要不可欠ではあるのだが……ソーマはそれを欠片も疑ってはいなかった。

既にアイナがここに居るのは、当たり前のことなのだ。

その意味するところは、今更意識するまでもない。

だからそのことについては、それ以上考えることもなく。

ソーマはいつものように木の棒を構えると、今日もまた日課を始めるのであった。