Ex Strongest Swordsman Longs For Magic In Different World
Former strongest, heading to rescue
「また謀ったかのように厄介な場所に飛ばされたものじゃなぁ……」
――シルヴィアがテレポーターと思われるものによって、どこかへと強制転移させられた。
その話をソーマ達が聞いたのは、地下迷宮から戻ってきてすぐのことであった。
幸いにも、と言うべきか、ソーマ達が戻ってきたのはクルト達が引き返してきてすぐのことだ。
色々と言いたいことはあったが、とりあえずまずは講師達と共に話を聞き、それがテレポーターであったのかはともかくとして、状況からどこかに空間転移させられたのはほぼ間違いないと判断。
問題はシルヴィアが何処に跳ばされたのか、ということだが、それもヒルデガルドによって解決した。
ヒルデガルドは現場を視ることで、何処に跳ばされたのかを識ることが出来たからである。
とはいえじゃあそこにすぐに救出に向かおう、というわけにはいかなかった。
その理由こそが、ヒルデガルドが呆れたように呟いた言葉の所以だ。
――第四十階層。
この地下迷宮は、十層刻みに出現する、エリアボスと呼ばれるものが存在している。
文字通りその階層を守り、次の階層へと進むのを阻止する強大な魔物だ。
その強さは十層下に出てくる魔物と比べてすら上であることも珍しくはなく、まさに十層ごとに現れる地下迷宮の壁そのものである。
で、問題なのは主に二つ。
現時点での学院側の公的な記録では、最高到達記録が第三十階層であること。
つまり、第三十階層のエリアボスすらも倒せてはいないのだ。
そしてもう一つは、どうやらその階層は、誰かの到達と同時に空間が閉じられてしまい、脱出することも出来なければ救援することも出来ない、ということである。
そこに到達するための戦力が足らず、到達できたところでどうしようもない。
講師達がヒルデガルドからそれらの情報を聞き、諦めの表情を浮かべてしまったのも無理ないことだろう。
まあ、ソーマには関係のない話ではあったが。
「さて、あらかた情報は出揃ったみたいであるし、そろそろ行くであるか」
「え……い、行くって……ど、何処に?」
「うん? だからその第四十階層とやらにであるが?」
『――!?』
瞬間、複数の驚愕の顔が、一斉にソーマへと向けられた。
理由は何となく分かるが、付き合っても手間なだけなので、無視してヒルデガルドへと視線を向ける。
「引率というか、案内頼んでもいいであるか? どうせ貴様のことだから、そこまで最短距離で向かえるのであろう?」
「まあ断る理由がないというか、本来であれば我から貴様に頼むことじゃからな。請け負ったのじゃ」
「で、あとは……」
呟きながら、周囲を見渡す。
講師達と同じように驚愕の表情を浮かべているヘレンにラルス、真意を見定めようとでもしているのか、こちらをジッと見つめているクルト。
講師に混ざりながらも呆れたような顔をしているカミラと、当たり前とでも言いたげに頷き笑みを浮かべているリナ。
あとはこの場に居るわけではないが、状況のまずさは理解しているのか、少し離れた場所に迷宮から戻ってきた生徒達が待機しており、こちらの成り行きを見守っている。
その中に紛れるように佇むアイナと目が合うと、分かってるとでも言いたげに溜息を吐き出され、肩をすくめられた。
「アイナとリナ、同行頼むのである」
「望むところなのです!」
「それはいいんだけど……むしろあたし達って必要なの?」
「必要にはならないかもしれんであるが、居てくれると助かるであるな」
「…………そ。分かったわ」
出来ればあとシーラも居て欲しかったのだが、おそらくまだ戻ってきてはいないのだろう。
この場には姿が見えず……まあ、居ないのであれば、仕方がない。
「私には何か出来るようなことはあるか? どうせ私じゃ同行したとこで足手まといになるだけだろうからな」
「んー、そうであるな……」
カミラに何かして欲しいこと、と考え、一つだけ思い当たることがあった。
それは万が一の可能性ではあるが、可能性がある以上はやっておいてもらった方がいいだろう。
「カミラというか、先生の皆にやっておいて欲しいのであるが、今実習中の人達を全員退き返させて欲しいのである。大丈夫だとは思うであるが、何が起こるか分からんであるしな」
「何が起こるか分からないって、あんた何するつもりなのよ……」
「ふむ……まあ、存在しないはずの罠にかかったらしい生徒が出た以上、どっちにしろ一度全員戻す必要はあるか。分かった、請け負ってやるよ」
「よろしく頼むのである」
とりあえずは、こんなところだろうか。
今回は時間勝負だ。
動き出すのが早ければ早いほど、シルヴィアが生還できる可能性は増す。
そういったわけで、早速動き出すかと、そう思い――その声をかけられたのは、その時であった。
「おい、第四十階層に向かうとか、テメエ正気か……!?」
「そ、そうよ、それはさすがにちょっと無謀すぎると思うわよー?」
こういう面倒なことになるのは目に見えていたから、さっさと向かってしまいたかったのだが、驚愕から立ち直ってしまったのであれば仕方がない。
無視するわけにもいかないだろうし、溜息を一つ吐き出した。
「つまり、シルヴィアは見捨てろ、と、そういうことであるか?」
「っ……それ、は……」
「……そうねー、個人として思うところはあるし、シルヴィアさんは確かに色々な意味で大切よー? でも、一講師として見た場合、あなた達の間に差はないわー。だからあなた達の命も失われてしまう可能性がある以上、あなた達が行くことには反対するしかないわねー」
「ふむ……正直押し問答をしている暇すら惜しいのであるが……ヒルデガルド?」
「んー、そうじゃなぁ……とりあえずカリーネに限らず、ソーマ達が行こうとしていることに賛成しようとしている者は、事情を理解している者を除き一人もいなそうじゃな」
その場をグルリと見渡せば、大半の講師達は言葉にこそ出してはいないものの、確かにその瞳には否定の意思を宿していた。
その態度は、講師としてみれば正しいのだろう。
だが――
「そのこと自体は、学院長として嬉しく思う。まあ普通に考えれば絶望的じゃからな。王家との関係とか、色々なしがらみの一切を気にすることなく、講師として判断している貴様らには感謝すらしたいぐらいじゃ。だがはっきりと言ってしまうのじゃが、それは無用な心配であり、余計なことなのじゃ。ぶっちゃけ邪魔じゃな。断言するのじゃが、こやつらならばまず間違いなくシルヴィアを無事連れ帰る事が出来るじゃろう。学院長としてではなく、ヒルデガルド・リントヴルムの全てで以って、それを保証するのじゃ」
そう断言し、告げられた言葉に、周囲の者ばかりか、ソーマまでもが驚いた。
「……いやまあ、それなりに自信はあるのであるが、まさか全てで以って、とか言い出すとは思わなかったのである」
「貴様なら、この身の全てを以って償わなければならんようなことには、ならんじゃろう?」
不敵に言われたその言葉に、肩をすくめて返す。
元からそのつもりではあったが、何としてでもシルヴィアを無事に連れ帰らなければならなくなってしまったようだ。
「で、そっちも今ので納得してくれるであるか?」
視線を向けた先に居るのは、ソーマのパーティーメンバーでもあるラルス達三人だ。
講師達は今ので引き下がったのだが、三人だけは未だに何処か不満気にこちらを見ているのである。
まあおそらくそれは、責任感とか、そういったものなのだろうが――
「……まあ、確かにテメエなら、とは思いもする。だがそういうことなら……俺も連れてけ……! あいつがあんな罠にかかっちまったのは、俺が――」
「却下なのである」
「っ、テメェ……!?」
「はっきりと言ってしまうのであるが、足手まといなのである。何処かの誰かのせいで負わなくていい責任まで負わされてしまったであるからな、今回足手まといを連れていけるような余裕は余計にないのである」
ジッと目を見つめて言えば、ラルスは言葉に詰まり、一歩後ろに下がった。
それでも何かを言おうと口を開閉していたが、やがて諦めたように視線を逸らした。
「ちっ……分かったよ。すまねえが、俺の分まで頼む」
「うむ、任せるのである」
「わ、わたしも、多分、足手まといにしか、ならないから……わたしの分も、お願い、ね……。……わたしが、あの時、もっとしっかり、足元を、確認して、れば……」
「だから、それは俺の……!」
「別に誰の責任でもないと思うであるがな……いや、敢えて言うならば全員の責任であるかな。第三階層は勿論のこと、第二階層に下りたことすら無謀なのである。そんなことをしてしまった時点で、いつ何が起こっても不思議ではなかったであろうよ」
「ぐうの音も出ない正論だね。……でも、言い訳をさせてもらえれば、実は今回は彼女に自信をつけて欲しくてやったことだったんだ。それに、思った以上に上手くいったこともあって……」
「言い訳とかは後で聞くのである。今はひたすらに時間がないのであるからな」
「……そうだね。ところで、僕の同行に関しては?」
「さっきラルスに言った通りである。足手まといを連れて行く余裕はない」
「だよね。……うん、すまないけど、僕の分も頼んだ」
クルトの言葉に頷き、もう一度周囲を見渡せば、さすがにもう誰からの文句も出ないようであった。
溜息を吐き出し、アイナ達へと視線を向けた後で、今度こそと頷く。
頷き返されたのを確認した後で、ソーマ達は改めて地下迷宮へと向かうため、その場所へと足を向けるのであった。
まさかここまで迅速に行き先が発見され、向かわれることになるとは思ってもみなかった。
学院長の能力は予想外だったし、第四十階層だということが分かっても向かうのも予想外だ。
折角二重で罠をかけたというのに、これでは下手をすれば無意味と化してしまうかもしれない。
まあだがその時はその時だ。
同行を断られてしまったのは痛いが、どうとでもなる。
問題は、本当に助けて連れて帰って来られてしまった場合だろう。
いや、その時はもう彼女のことはどうでもいい。
元よりついでだったのだ。
チャンスがあったから実行したわけではあるが、失敗したというのならば別にそれで問題はない。
そもそも、事は既に起こったのである。
あとはそこからどうとでも切り込めるだろうし、それをするのは自分の役目ではない。
精々アイツに頑張ってもらうとしよう。
だから問題となるのは、別のこと……その時は彼らに彼女を連れ帰ることが出来るほどの実力があるということだ。
この国で現在そんなことが可能な者は限られている。
七天の二人を除けば、あとは居ても一人か二人ぐらいだろう。
そう、例えば――邪龍と呼ばれた存在を殺す事が出来るような、そんな者だ。
もしかしたら、彼がそうなのだろうか?
ならばそれは、とても楽しみである。
「……ま、それはそれとして、そろそろオレも本格的に動き出すとすっかね」
そうしてその後姿を見送りながら、誰にも聞こえない程度に呟きつつ、それは口の端をひっそりと吊り上げるのであった。