領内に魔物が増えてきた。
領民からの報告で判明したのだが、森に魔物が集まりだしているらしい。
以前は外部に依頼して討伐をしてもらっていたのだが、今は折角最高の二人がいるので働いてもうことにしよう。
アイリスは結構心も落ち着いてきている。
魔物討伐に連れ出しても問題ないだろう。
というよりも、今は体を動かしておいたほうが彼女のためになると思う。
ヴァインの方は間違いないなく来てくれるだろう。
戦いが大好きな彼だ。
ノリノリで来てくれるに違いない。
早速二人を連れ出して、森へ行った。
二人ともやはり乗り気でついて来てくれた。
「じゃあ3人パーティーなので前衛後衛を決めようか」
「俺は前衛がいい」
ヴァインはノリノリだ。
やる気満々で剣を素振りしている。
まぁ彼が前衛なのは問題ない。
攻撃防御ともにもんだいないだろう。
「アイリスは前衛と後衛どちらがいい?」
「私も前衛がいいな」
「わかった、じゃあ俺が後衛で援護ってことで」
アイリスは可愛らしい見た目とは裏腹に作品中でもかなり能力値の高いキャラなのだ。
ソロでも、前衛でも、後衛でも、なんでもこなしてしまう完璧美少女。
そんな彼女が前衛を希望しているのなら、やらせるのが一番いい。
「じゃあ行こうか」
森に入ると、早速嫌な雰囲気がじわじわとしてくる。
「森が静まり返っているな。こういう雰囲気のときは大抵魔物が多く集まっている」
魔物討伐が大好きなヴァイン先輩が言うのだ、間違いないはずだ。
よし、気を引き締めなくては。
3人でゆっくりと進み、それぞれが周りの警戒を怠らないように注意した。
「いるぞ」
先頭を行くヴァインからの言葉通り目の前にゴブリンが3匹ほどいた。
「俺が先頭を行く。アイリスは抜け出したのを頼む。クルリはもしもの為に備えて魔法を用意しておいてほしい」
もしもの時とは、誰かがやられそうになったときだろうか。
そんなことにならないといいのだが。
ゴブリンはこちらに気がつくと3匹同時に突っ込んできた。
先頭のヴァインがその豪腕で大剣を振り、ゴブリンを早速1匹を葬った。
残りの2匹のうち1匹は逆上しヴァインに突っ込んでいく。
もう1匹は側を抜けて、アイリスの方へ駆け寄る。
俺も魔法の準備をした。
ヴァインの方は問題ない。
俺が備えるべきはアイリスの方だ。
一応両者に目を配っていたが、やはりヴァインの方は2匹目も瞬殺で葬った。
さすがというしかない。
これで俺は100%アイリスのサポートができる。
アイリスの方に向かったゴブリンは棍棒を大きく振りかぶり、それをふりおろした。
アイリスは見事な体さばきでそれをかわし、ガラ空きの首元に剣を払った。
「結婚してるなんて知らないわよ!!」
ゴブリンの首が綺麗に飛んだ。
いや、それよりもやっぱりまだ引きずってたんだ。
しかもダイレクトな感想だな。
それにしたってゴブリンさんに当たらなくてもいいじゃないですか!
「その、アイリス、大丈夫か?」
「うん、すっきりした。さぁ次いこ次!!」
ああ、あれですね。
失恋帰りにバッティングセンターに行くOL。わかります。
幸先よく行ったので、そのまま森の奥へと進んだ。
けが人なしで、ゴブリン3匹か。
外部委託だと金貨1枚の支払いってとこか。
節税節税。領主としては嬉しい限りだ。
「グールだ」
ヴァインの一早い気づきで、すぐに戦闘準備に入れた。
「どうする?やるか?」
ヴァインの質問は正しい。
グールは実に危険な魔物だ。
あまり殺りあうべき相手ではない。
「解毒薬は持っている。無理に避ける必要はないが、無理に戦う必要もない」
俺は現状を伝え、パーティメンバーの意見を待つことにした。
「やろう!」
勢いよく言ったのは、アイリスだ。
早くやりたくてしょうがないといった雰囲気だ。
「解毒薬はあるが、最大限気をつけてくれよ」
「うん」
「じゃあ今回は俺が相手の攻撃を受け止める。アイリスは隙を窺って攻撃を。クルリはアクシデントに備えてくれ」
ヴァインの指示通り、3人で合理的な動きをした。
グールの突進をヴァインが大剣で受け止める。
動きが止まったのを確認して、アイリスがすぐさま後ろに回った。
俺は魔法をいつでも放てる体制にある。
アイリスの剣がグールの首元に飛んだ。
カウンターはきそうにもない。
完璧に決まった一撃だ。
「奥さんがいるなら優しくしないで!!」
剣が振りはらわれると、グールの頭が飛んだ。
いや…、アイリスさんそんなに気にしてたんですね。
優しくされたんだね、でもロツォンさんみんなに優しいからね!
「アイリス!グールはまだ生きている!」
俺の忠告を聞いてアイリスはすぐさま剣を構え直し、グールの動きが悪いことを確認すると、その胴体に真っ直ぐ剣をふりおろした。。
「あのときの笑顔はなんだったのよ!!」
アイリスの愚痴とともにグールの体は、真っ二つに分かれその場に倒れた。
思い出してるんですね?楽しかった記憶を。
だからってグールさんに当たらなくてもいいじゃないですか!
これはあれですね。
居酒屋帰りですね。酔って幸せ記憶を思い出しちゃったんですね。わかります。
「よし、このまま進もうか」
「うん、早く行こう」
気がつけばいつしかアイリスが先導して、ヴァインが真ん中、俺が最後尾につける形になっていた。
結構たまってるんですね。
失恋のストレス。
「おいおい、これはまずいかもしれない」
しばらく森を進むと、ヴァインからまたも忠告があった。
「ちょっと身を隠そう」
指示に従い、3人で木陰に身を潜めた。
「どうした?」
「豚の魔物、オークがいる」
「オークが!?」
豚の魔物オークは確かにまずい。
その力は人間をはるかに凌駕しており、防御面も非常に優れている。
しかも賢く、見かけによらず足も速い。
勝てないとなると、最悪逃げ切ることもできないかもしれない相手なのだ。
人間の武器を使いこなすことでも知られており、ヴァイン曰くさっきの個体は斧を持っていたらしい。
ここで相手にするには確かに危険な相手である。
「非常に危険な相手だ。無理に戦うこともないと思うが」
「となると、外部委託か」
俺の頭の中でチャリチャリとお金の計算が自動的に行われる。
うん、自分たちで狩りたいぞ!
「どうする?やるか?」
「やろう!」
またも勢いよく、アイリスの返事が飛んだ。
待ってました!流石です、アイリスさん!
「決まりだな。作戦はグール戦同様に、俺が奴の動きを止める。止まり次第、アイリスは攻撃を開始してくれ。クルリも隙があれば魔法で攻撃してほしい」
「うん」
「わかった」
3人でオークが去った道を辿り、その後ろに回った。
ちかくで見ると、その体長は3メートルはあった。
オークの平均値からすると小さい方だが、この際そんなことはどうでもよかった。
一撃を食らえば死ぬことに違いはない。
オークはまだこちらに気がついていない。
ヴァインが動きを止める算段だが、わざわざ先制させてやる必要もない。
まずは俺が魔法を飛ばした。
小さな魔力の塊はオークにあたり次第、体を覆う大火と化した。
業火がその身を焼くが、命を絶つには至らず、燃える体でオークはこちらに突っ込んできた。
逆上しており、勢いは凄まじいものだ。
それをヴァインが大剣で受け止めるも、あまりの衝撃に堪えることができず、その巨体を空に飛ばした。
我がパーティの盾が開戦直後に崩壊してしまった。
ヴァインが後方に5メートルくらい飛ばされただろうか。
呆気に取られると命を失う状況なので、俺もアイリスも先頭態勢は崩さない。
横目で確認したが、ヴァインも立ち上がれてはいる。
今度はアイリスとオークが交戦した。
アイリスが、オークの斧をかわし続けながら反撃の機会をうかがう。
しかし、オークの方が力も技量も勝っており、反撃どころか次第に追いつめられていた。
やはりソロではきつい相手だ。
でも、それで十分に時間は稼ぐことができた。
俺の魔法はすでに発動されており、オークの足元からその変化は起きた。
足元から魔力が氷へと変わり、徐々にその身の中心部へと向かって侵食していく。
氷魔法を足元に放ち、オークが気づいた時には既に腰あたりまで氷が来ていた。
オークの動きが違和感から、次第に動けない状態に変わりつつある。
ここまでくるとあとは魔力を注いで氷の量を増やすだけである。
氷が腕まで達したとき、アイリスの渾身の一撃がその心臓に突き刺さった。
正確な一撃はオークの命を絶った。
絶命したが、念には念を入れ、アイリスは首元めがけて剣を振るう。
「さようなら!私の恋!!」
アイリスの剣がオークの首を飛ばし、戦いは終わった。
結局最後まで、アイリスの頭は失恋でいっぱいだったみたいだ。
だからってオークさんにダメ押ししなくたっていいじゃないですか!
汗をぬぐい、二人でヴァインの元へいった。
どうやら軽い打撲で済んだらしい。
「不覚」
とか言ってたけど、しょうがない。
相手が強かった。
アイリスも相当汗をかいたみたいで、袖で汗をぬぐっていた。
「ふーすっきりした。あのオーク顔が嫌だったのよね。たおせてよかった」
ああ、あれですね。
女子会で失恋話で盛り上がったあと、禿げた課長の悪口を言いまくってすっきりするOL。わかります。
それから3人であと何匹か魔物を討伐し、屋敷へと戻った。