仕事を放棄して一生懸命わたしをあげつらおうとする侍女さんたちの顔を見ていたら、だんだん腹が立ってきました。こんな風なお仕事の仕方でお給金をもらっちゃダメですよ! きちんとお仕事をしている方に失礼です!

「さしでまがしい口をきかせていただきますが」

 わたしの地味さについて具体的な例を見つけることに必死になっている侍女さんたちに口を挟むと、ギッと鋭い視線が飛んできました。うーん、なんていうか、格下なわたしに話しかけられることが我慢ならないといった様子ですね。

「こんなことをして王女様の評判に傷がつくとか、思わなかったですか?」

「は!?」

 反応したのは例のリーダーさんでした。キッカさんと同じくらいの年齢のように見えますが、キツイ表情を浮かべるその姿は、ピリピリした雰囲気も相俟って真逆な印象を受けます。リーダーさんの下で働いているらしい他の四人の侍女さんたちは、わたしの質問を鼻で笑い飛ばしましたが……笑えるでしょうか、王女様を大事に思っての行動だとしたら、これ、結構重要なことだと思うんですが。

「皆さん、王女様のお付きの侍女さんなんですよね? その人たちが他国のお客さんに嫌がらせしたってわかったら、王女様の名前に泥を塗りませんか?」

 身分は低いですけど、一応“聖女様”の同行者ですしね、わたし。ちゃんと支度ができない状況でパーティに出たとしたら、もちろんおかしな格好のわたしも恥をかきますが、その準備をしたこの国の侍女さんたちも責任を問われそうです。そうなると、「チェチーリア姫の侍女」という肩書が逆に問題になるんじゃないでしょうか。

 騎士団付きの洗濯部で働き始めた際、リーダーであるキッカさんに「騎士団の名のもとに恥じる働き方はしないように」と教えてもらったことを思い出しつつ尋ねると、図星だったのでしょうか、リーダーさんの顔が少し曇りました。

 けれど、他の侍女さんたちは歯牙にもかけず、「それがどうしたの?」といった様子で笑います。

「なに言ってるのかしら、この子」

「わたしたち、嫌がらせなんてしてません。姫様のためを思って義憤に駆られてますのよ」

「お可哀想な姫! 絶対あなたよりチェチーリア姫の方が似合いますわ!」

「潔く身を引いて、チェチーリア姫にお渡ししなさいな!」

 渡すのが当然だというような口調に腹が立ちました。そこまで言われると、さすがにカチンときます。似合うとか渡せとか、セレスさんはアクセサリーじゃないですよ!?

「嫌です。わたしはたしかに不釣り合いかもしれませんが、セレスさんを顔でしか見てない方や、ものとして考える人たちに渡せません!」

「はぁ!?」

 わたしが口答えするのが腹立たしかったのでしょう。侍女さんたちはガッとわたしに詰め寄ってきました。

 ですが、引けません。自分のことならいいですが、セレスさんに関しては譲れません。隣に立っていいのか、たしかに迷いはあります。わたしじゃ不釣り合いじゃないかって、今でも少し思ってます。でも、セレスさんが「わたしがいい」って言ってくれる限り、セレスさんをあきらめたくなんてないです。

「ちょっと……!」

「おやめなさい」

 肩に手をかけられたところで制止の声が上がりました。驚いたことにとめてくれたのはリーダーさんです。

「手を出してはいけません。そこまでしては、姫様にご迷惑がかかります」

「アナリタ副女官長」

 リーダーさんはアナリタさんというようでした。アナリタさんは悔しそうに軽く唇を噛むと、床に落ちたドレスを拾い上げました。

「──たしかに、貴女の言うように浅慮でした。姫様にご迷惑がかかるかもしれないことを失念していたなんて、わたくしも随分頭に血が上っていたのですね」

 ドレスを丁寧にたたみながら、アナリタさんは呟きました。その瞳にはすでにわたしは映っていません。

「準備をしましょう。もう、時間がありませんわ」

「副女官長!」

「姫様に迷惑なんてかかりませんよ! 全部はったりじゃないですか!」

「はったりであろうがなんであろうが、バンフィールドの王太子殿下から正式に抗議が来た後では遅いのです」

「姫様のお願いを叶えてあげないつもりですか!」

「そうですよ、姫様、泣いて頼んできたじゃないですか!」

「黙りなさい!」

 わたしを囲んでいた侍女さんたちは、一転してアナリタさんに詰め寄りました。姫様のお願いって……チェチーリア姫?

「姫様は関係ありません。あの方はなにもおっしゃっていません。そうですね? わたくしたちが勝手に行動したのです。姫様は泣いていらしただけ」

 静かに、けれども断固に言い募るアナリタさんは、チェチーリア姫を本当に大事に思っているようでした。

 アナリタさんはわたしにむかって深々と頭を下げると、再び背筋を伸ばしました。

「すべてはわたくしの責任です。姫様は関係ありません。わたくしが企みました」

 潔いとも思える口調でアナリタさんはチェチーリア姫をかばいますが、かばってばかりじゃ王女様のためにならないのでは……。

 少しそこが気にかかりましたが、それこそわたしが口を挟めることではないので黙ります。

「さあ、早く準備を!」

 アナリタさんの再度の号令に、不服そうだった侍女さんたちもしぶしぶ動き始めました。準備を助けていただけるのはありがたいのですが、先ほどの騒動の後に当事者に準備をされるというのは……ちょっと怖いです。