気がつけば朝だった。

「……あれ?」

いったい、いつ眠ったのか……いまいち、思いだせない。仕事が終わって、家のドアを開けて……うぅ……ここまでは思いだせるのだが、そこから先を考えようとすると、頭に鈍痛が走る。

一昨日も記憶が無かったな……若年性健忘症というやつだろうか。二十歳を越えたら体のあちこちにガタがくるって話は本当だったのか。……【リカバリー】で治せるかな。

まぁ、一人でぐだぐだ悩んでいてもしょうがない。さっさと起きてユミエルに何があったのか聞いてみよう。そう考えた俺は、ベッドから起き上がり、寝巻(いつもはシャツとトランクスだけなのに……いつ着替えたんだ?)から普段着に着替えて下に降りた。

「おはよ~……あれ? いないのか?」

居間に来てみたが、誰もいない。あれ? いつもと違ってユミエルに起こされなかったけど、もう起きる時間だよな?

そう思い、首を捻っていたら、居間に繋がるキッチンから足音が聞こえる。

「なんだ、朝飯作ってたの……か……」

あれ?

ユミエルさん?

「……おはようございます、ご主人さま。今日は一人で起きられたのですね」

「あ、ああ、うん、おはよう……」

「……今日のお仕事は、午前はモリー商会の運搬のお手伝い。午後は修道院での奉仕活動です。そう量は多くないので、頑張ってください」

「そう……そうか……」

「……もうすぐ朝ごはんができますので、少々お待ちください」

「あぁ、ありがとぅ…………なぁ、ちょっと聞いていいか?」

「……はい、なんでしょうか?」

「何でお前、裸エプロンなの……?」

起伏の少ない胸部から膝上までを覆う、シンプルで実用的なデザインの白エプロン。それのおかげで前は隠れてはいるが、普段は長袖ロングスカートで隠れている真っ白な肌が丸見えだ。キッチンに戻ろうとしたせいで中途半端に振り向きかけた体勢では、小ぶりなお尻がどうしても目に入ってしまう。

何だ、これは。俺はいつフラグを立てた。昨夜の消えた記憶が原因か。

しかし、どのような予測を立てても、ユミエルがこんなエロティカルな恰好をするまでの過程が思いつかない。

あれ? どういうこと?

俺、また異世界に来ちゃった?

………………

…………

……

少し時間は遡り、ここは昨夜の夢の中。フェアリーズ・ガーデンへと降り立ったユミエルを待っていたのは、ここに住まう妖精三姉妹の長女、フェアだった。

「よく来たわね。ふふっ、今日はわたしがイケないテクニックを教えてア・ゲ・ル☆」

「……よろしくお願いします、フェア先生」

ぺこりと頭を下げる少女に、フェアは得意げな顔をして語りかける。

「さて、早速わたしの授業だけど……ユミエル、あなた、オトコは何が一番大事か分かる?」

オトコの大事なもの。そう問われ、自身の最も身近な男性である貴大を基準に考える。そうして出た答えが、

「……睡眠、ですか?」

だった。

それを受けて、フェアは何だかお子様を見るような目をして、指をチチチ、と目の前で振った。

「ちがうちがう。そうじゃないわ。それは、オトコじゃなくて赤ちゃんに大事なものね」

そうかもしれないとユミエルは思う。睡眠と答えてみたものの、何が一番大事なのかは確証を持って答えることができなかったからだ。こういうところからも自身の無知が知れて、少し恥ずかしく思ってしまう。

気持ち縮こまるユミエルに、フェアは「やれやれ、しょうがないわね」と言いながら、正しい答えを教え始めた。

「いい? オトコはね、「えっちなこと」がとっても大好きなの」

「……「えっちなこと」?」

「そう、「えっちなこと」。それが、オトコにとって最も大事なことなの」

そう言いきった妖精は、したり顔で続きを語る。

「オトコはね、いっつも「えっちなこと」で頭がいっぱいなの☆ 「えっちなこと」がしたくてしたくてしょうがないイキモノなのよ♪」

「……なんと」

驚きに目を見開くユミエル。その顔を見て、更に得意げなフェア。ますます饒舌となって、「オトコ」は何たるかを語り続ける。

「どんなにマジメぶっている人でも、ホントは「えっちなこと」しか考えていないの☆ タカヒロだって、ここにいた時はわたしにメロメロだったんだから!」

「……ご主人さまがですか……!?」

「え、ええ! そうよ!」

本当は鼻で笑われて惨敗したのだが、調子に乗ったフェアは勢いに任せて嘘を吐いてしまった。持ち前のプライドから、もう真実は話せない。嘘で嘘を覆い隠すように、言葉を重ねていく。

「タカヒロもね、ユミエルの前ではマジメぶっちゃってるかもしれないけど、わたしの魅力にかかれば、もう、あれね、ほら……ケダモノ……そう、ケダモノになっちゃったんだから!」

「……ケダモノ、ですか」

ユミエルの脳裏に、奴隷館での苦い記憶が甦る。たびたび奴隷を買いに来る醜く肥え太った貴族を、他の奴隷が「ケダモノ」と呼んでいた。主人がああなるのはいただけない。わずかに顔をしかめる。

「……すみませんが、ご主人さまがケダモノになってしまうのは、私はイヤです。折角のご教授ですが、今回は無かったことに……」

深々と頭を下げるユミエル。これに慌てたのは、先生役の妖精だ。

「ちょ、ちょっと待って!? なんでケダモノがイケないの!!?」

必死になって引き留めるフェア。もしも今回の授業が中止となってしまえば、長女の面目丸つぶれだ。なまじ妹たちが成功(と思っている)した分、自分だけが失敗するわけにはいかない。せめて、訳を聞かせて欲しいとユミエルの周りを飛び回る。

「……しかし、ケダモノというと、■■■を×××して、●●●を▲▲▲してしまうのでしょう?」

「……▲▲▲って、なに?」

ここで、「妖精界一のモテ女(自称)」フェアの限界が露呈する。

フェアは、生まれついて【妖精の誘惑】という、生き物全てを魅了するスキルの持ち主ではあったが、同時に根はウブでもあった。

スキルのおかげで男たちは誰もがフェアの周りに集まるが、オトコという自分とは異なる性別の生き物に触れることがどうにも怖くて、精々、手を繋ぐ程度に収まっていた。

また、妖精界で仲が良かった女友達も、「キス」や「えっち」という行為そのものや、えっちなシュチュエーションを熱っぽく語るだけで、その内容についての深い言及はなかった。おかげで、立派な耳年増(純情派)に成長を遂げたが、男性経験は未だ皆無のフェアであった。

一方、ユミエルは奴隷館生まれの奴隷館育ちだ。「えっち」どころか、言葉では表せられないような卑猥な行為を散々見てきたし、知ってもいる。商品価値が下がるからといって手はつけられなかったが、知識としてはかなりディープなところまで熟知していた。

そのニ人では、「ケダモノ」といわれて浮かぶイメージに天と地ほどの差があるのは当然だった。

「……▲▲▲というのはですね、男性の●●●を女性の■■■にですね……」

「ふむふむ……ええっ……!? ひゃ、ひゃああ……!?」

ユミエルの解説に、瞬時に顔が真っ赤になるフェア。普段、「○○と××がちゅーをした」という話題でキャーキャー言っている彼女にとって、元奴隷のユミエルの話は強烈過ぎた。処理能力を超えたのか、頭から湯気すら出しながら首をぶんぶんと振ってストップをかける。

「ま、待って待って! もういい! もういいの!!」

「……分かりました」

淡々としたユミエルに対し、「いいオンナ」を自称する妖精は息も絶え絶えだ。真っ赤な顔のまま、地面に手をついて息を荒く吐き出していた。

やがて、落ち着いたのかふわりと舞いあがり、再びユミエルの顔の高さで停止した。

「いい? わたしが言ってる「ケダモノ」っていうのは、そこまで酷くないわ。女の子に夢中になってるオトコのことを言うの。女の子の言うことなら何でも聞いてくれるオトコのことを指しているのよ。決して、さっきあなたが言ってた……その……ゴニョゴニョ……こほん、酷いことを女の子にする人のことじゃあないの」

「……そうだったのですか。とんだ勘違いを……申し訳ありません」

素直に頭を下げるユミエルを見て、ほっとため息を吐く。

「あなただって、タカヒロが何でも言うことを聞いてくれたらうれしいでしょ? ぜひ、ケダモノにするべきよ」

「……確かに……では、その方法をご教授ください」

仕事を生き生きとこなし、自分を一人にはしない。自身の理想とする貴大となるのなら、是非ともその手段を教えてもらいたい。ユミエルは逸る気持ちのままにフェアに教えを請うた。

「いいわよ、じゃあ、耳を貸して」

「……はい」

ごにょごにょと、誰にも聞かれないように耳元で話すフェア。どのみち、ここには自分の姉妹しかいないのだが、こういったことは気分の問題である。「えっち」なトークは、たいていこっそりするものと相場は決まっているのだ。

やがて、全てを伝え終えたのか、ユミエルの耳元から離れていき、そこで腰の横側に手を当ててふんぞり返るフェア。

「さぁ、このシチュエーションでタカヒロを夢中にさせてやるのよ!」

「……はい、先生」

▲▲▲なんて知っていたユミエルを、果たしてこのまま行かせてしまっても良いのだろうか。そう不安に駆られるフェアであったが、ここまできたら止めるに止められないのも、また彼女の性分であった。

………………

…………

……

(朝の「裸エプロン」は、確かに効果があった)

素肌にエプロンのみを纏った姿に、ご主人さまは興味津々のようだった。しきりに、「なんでそんな姿をしているんだ」と聞いては、私の体の端々に視線をやっていた。

その後、仕事の時間となって「仕事に行ってください」とお願いしたら、今までにないほどの速さで出かけていった。なるほど、これがフェア先生の言う「女の子に夢中になったオトコ」というものか。確かに、何でも聞いてはくれそうだった。

だが、今夜はどうしようか。

伝授してもらった数々のシチュエーションの内、「裸エプロン」は手持ちのエプロンで行うことができたのだが、残りはどうしても衣装が無いので行えない。いっそ、購入するか……いや、特殊な衣装ばかりだ。新調するとなると高くつく。贅沢を日常的に行ってはいけない。

さて、どうしたものか……。

結局、私一人では良い答えが出ず、そのまま仕事を片付けている内に夕方となってしまった。

「……結局、何もできず仕舞いですか」

こうなれば、朝と同じ衣装で……流石に、連続で裸エプロンはご主人さまも飽きるのではなかろうか。フェア先生も「マンネリはダメよ」とおっしゃっていた。ここはまた後日に延ばすべき……いや、継続は力なりと人は言う。中途半端に空けてしまえば、効果は薄れてしまうだろう。

仕方ない……ここは、あの人に頼ろう。思い立ったら即行動。ご近所のある人を訪ねるために、私は家を後にした。

「……イヴェッタさん。いらっしゃいますか、イヴェッタさん」

家から歩いて三分ほど。簡素なアパルトメントの一室のドアノッカーを鳴らす。すると、しばらくの後にがちゃりと扉が開いた。途端に溢れだしてくる香水の匂い。

「はぁ~い、だぁれ~? ……あら、ユミィちゃんじゃないの! 貴女から訪ねてくるなんて、珍しいわね? どうしたの、一体?」

この部屋の主、中級区でお水系の商売を営んでおられるイヴェッタ・カルローニさんだ。豊満な体をゆったりとした部屋着に包んだ女性は、私を胸に抱き寄せて、耳をくすぐるような甘い声で問いかけてくる。

「……実は、お願いしたいことがありまして」

すると、喜色満面となった彼女が、感極まったかのような声を上げ、私を抱いた腕に更に力を込める。胸の谷間に埋まって息がつまりそうだ。サラサラとした黒髪が私の後頭部を覆い隠し、傍からだと「バンシー」の捕食風景にも見えないことはないだろう。

「まあ! まあまあまあ! やだ、嬉しいわ、どうしましょう! 遂に、ユミィちゃんが私に心を開いてくれたのね♪ いいわよ~、お姉さん、何でも聞いちゃう!」

常日頃から「いつでも頼ってきていいからね」とは言われていたが、実際に頼みごとをするのは初めてだ。この様子だと、あの言葉に偽りはなかったようだ。少し緊張が解れる。

「さあさあ、中に入って? 貰いものだけど、おいしいクッキーがあるの♪ それを食べながら、お話しましょ?」

返事しようにも、息をすることすら難しい。そのままイヴェッタさんは、私の返事を待たずに、私を胸に抱えたまま自宅へと引きずり込んだ。今度は水棲系モンスターの捕食風景のようだ……。

頼みごとをする身としては拒絶することもできず、私はそのままお人形のように彼女の部屋まで連れて行かれた。

「それで、お願いってなぁに?」

ここは、イヴェッタさんのアパルトメントの一室。二人掛けの小さなテーブルには微かに香る花が活けられており、それ以外には所狭しとお菓子が並べられている。彼女が、「これも食べて、あれも食べて」と次々と持ってきたのだ。

一応、礼儀として出されたものには手をつける主義だが、これは量が多過ぎる。それに夕飯前だ。彼女一押しのチョコチップクッキーを一つだけ齧って、後は見て見ぬふりをする。

「……はい、今回頼みたいのは、衣装の事です」

「衣装?」

くてっ、と首を横にかしげるイヴェッタさん。もう20代後半だというのに、少女のような所作だ。目元の泣き黒子と相まって、妖しげな魅力を放っている。なるほど、中級区の中年のアイドルというのも頷けるというものだ。

「……はい、衣装です。実は、ご主人さまを夢中にさせるためのシチュエーションをある人から教えてもらったのですが、実現するための衣装が足りなくて……裸エプロンはできたのですが」

「まあ!」

おや? 何だかイヴェッタさんが嬉しそうだ。顔が上気している。

「まあまあまあ♪ あの奥手なタカヒロちゃんを、遂に攻略しようというのね!? いいわね~、愛だわ~♪ ユミィちゃんが、自分からこんなことを言いだすなんて……!」

「……あの」

「そうね! そのためには「武器」が必要だものね! 待っててね、ユミィちゃん! お店のちっちゃい子の服、持ってくるから」

「……えと」

「武器」? 私が欲しいのは衣装だ。話は通じていたのだろうか……まぁ、服とも言っていたから大丈夫……だとは思いたい。何やら嫌な予感がするが、目的達成のためだ。あえて無視することにした。

結局、一時間も拘束されてしまった。私の服を着せては脱がし、着せては脱がしを繰り返し、「いいわ……これで堕ちない男はいないわ! 頑張るのよ、ユミィちゃん!」と、とても満足そうな顔をしていた。

まあ、なにはともあれ、衣装は揃った。

よし、これだけあれば……。

………………

…………

……

(最近、ユミエルの様子がおかしいな……)

俺が家出から帰ってきた時から、どうにも変だ。泣いたり、仕事を減らしたり、妙にやさしかったり、裸エプロンだったり……ストレスか? それとも……。

夕食の席ではいつものメイド服だったが、毎朝あれをやられたら堪らない。俺の内なる獣が暴走してしまいそうだ。

「ふ~、どうしたもんかね、こりゃ」

カオルにでも相談しようか。……いや、パンツが見えただけで俺をお盆で強打してくるような奴だ。「ユミィが裸エプロンでさ……」と話した瞬間、一方的に俺が悪者か変態扱いされるのがオチだ。

ままならんなぁ……。

ベッドに横になって、何度目かになるか分からないため息を吐いた。

すると、

ガチャ、ギィィ

と自室のドアが開く音がする。

……ユミィか? しかし、開いた扉の先には誰もいない。

「??? ……なんだぁ?」

立て付けが悪くなったのだろうか。そう思い、ドアを閉めるべく起き上ったのだが……。

そこで、ニュッと廊下から足だけが中空に突き出された。

「……はぁ?」

廊下の影に隠れて、ユミエルが足を伸ばしているのだろう。しかし、何のために?

俺が混乱している内に、ピンと伸ばされた足は引っ込んだ。次いで、這い這いで部屋へと入ってくるユミエルさん。

何故か、豹柄のピッタリとしたタイトミニスーツを身にまとい、同じ柄のハイソックスをガーターベルトで留めている。ご丁寧に豹の耳を模ったカチューシャまで付けている。

その珍獣が、俺の目の前で停止し、グンと背筋を反らせて見上げてくる。……女豹のポーズのつもりか?

「……いかがでしょうか?」

何がだ?

お前の頭の具合か?

答えるに答えられずにいると、「……お気に召しませんでしたか」と起き上り、退室していく。

去り際に、振り返って両拳を軽く握って猫の手のように曲げ、頭の隣に持ってくる。普通の女の子がやれば可愛いだろうが、アレな格好をした無表情なユミエルがやると、化け猫に威嚇されている気分になる。

「……これもお気に召しませんか」

とぼとぼと、今度こそ部屋から去っていくユミエル。

何だ? な、何が起きて……!?

俺の混乱に拍車をかけるかのように、更に追撃はかけられる。

今度は、ミルポワ学園幼稚園舎の園児服(にしてはデカイから模造品だろう)を着込んだユミィが、とことこと部屋に入ってきた。

通学カバンを肩から下げ、通学帽まで被っているのには、どこか狂気じみたこだわりを感じる。

「……いかがでしょうか?」

そう言って、親指を口に含んで俺を上目遣いで凝視するユミィ。なんだ? 上目遣いはデフォなのか?

「あっ、ああ、うぅ……」

驚愕で閉じることができない口から、意味を為さない言葉が漏れ出る。それを「Yes」と解釈したのか、今度は満足げな雰囲気で部屋を後にする幼稚園児(14歳)。

「あわわ、あわわわ……た、助けて……!」

この異常事態に対抗する術を俺は持っていない。嵐に巻き込まれた小船のように、ユミエルからの謎の働きかけに翻弄されるばかりだ。

その後も、お色気ファッションショーはしばらく続いた。朝の裸エプロンには興奮したが、こうも異様なシチュエーションの連続では、むしろ恐怖が勝る。

その日の夜、俺は無数の異なる衣装のユミエルに囲まれる夢を見て、寝汗びっしょりで飛び起きた。もう、家出したことは本当に反省しているので、そろそろ許してください……。

………………

…………

……

(どうやら、ご主人さまは私に夢中になったようだ)

そう考えると、何やらむず痒い気持ちになる。

今夜のアプローチは、大成功だった。ご主人さまは私を食い入るように見つめ、「あう……あわ……」と、感嘆の吐息を漏らすのみで夢心地のようだった。

初めにフェア先生から「オトコをケダモノにする」と言われた時は、奴隷館に居た頃に見た下卑た貴族や商人たちを連想して「嫌だな」と思ったが、これなら問題ない。むしろ、近所の小さな男の子たちが私と話す時のように慌てふためく姿には、愛おしさすら感じてしまう。

先生がたの教えは正しいことばかりだ。流石は妖精……私とは違い、世界を正しく知っている。これからも頼りにさせてもらおう。

近頃は、以前にも増してご主人さまと親密になれた気がする。もはや、「仲間」ではなく、クルミアさんのところのように「家族」といっても差支えないだろう。

ずっとこんな日が続くといいな……。

そう考えている内に、私はまどろみに落ちていった。

「な、なによあんたたち!? わたしのやり方に文句があるの!?」

「タカヒロさんの目を見ましたか? あれは欲情ではなく戸惑いや憐れみの目ですよ……」

「なによ! パックやシルキーにも聞いたことなんだから! 間違いないんだから!」

「フェア姉も、パックさんもシルキーさんも、全員男性経験など無いじゃないですか……」

「お姉ちゃんェ……」