夕食などを済ませてログインです。

さっそくですが、『メール』が着ているようですね。

時間はすでに現実では20時を過ぎていますので、社会人組と連絡が取れたのでしょう。

予想通りに甘ロリさんと向田さんとるーるーさんからでした。

さっそくですが、返信しておきましょう。

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『今大丈夫か? バケツ殿』

『はい、大丈夫ですよー。こんばんはー』

『おう、こんばんは』

返信してすぐに連絡があったのは向田さんでした。

というかものすごい早さです。

返信して1分も経ってないと思うのですが。

『『メール』に書いた通り、直接NPC(ノンプレイヤーキャラ)のところまでオレが案内しようと思うのだが』

『構いませんよー。それでお願いしますー』

『わかった。ではあちらと調整もある。しばし待ってくれ』

『はい、お願いしますー』

向田さんが提示した報酬はなんとNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストの紹介でした。

私がケデリック商会でNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストを受けているように、向田さんも他のNPC(ノンプレイヤーキャラ)から色々クエストを受けているようです。

そしてその中のいくつかを私に紹介するのが報酬です。

向田さんはこれらのNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストを得るために、彼らの下へ何度も足を運び、何度も話をして漸く受ける事が出来たそうなんです。

私みたいにあっちからの指名依頼というわけではないんですね。

そんな苦労して得たNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストですので、当然報酬もなかなかいいものなのです。

ケデリックさんに聞こうと思っていた中級の道具レシピも中にはあったりするんです。

すでにこれらのNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストは向田さんが攻略済みであったりするのですが、ケデリック商会から何度も依頼が来るように複数から再度依頼があったそうです。

ですが今回は運悪く、複数の依頼が同時に重なってしまって向田さんの手にも余る量になっているんだそうです。

いくつかの依頼は断る事になるところだったのですが、私の図書館の話があり、報酬に何を提示するべきか迷った結果、以前私が中級の道具レシピを欲しがっている事を聞いたらしくちょうどいい、とこうなったわけです。

本来は私も足を運んで信頼を得なければ受けられないクエストです。

その時間を短縮できるわけですから、報酬としては十分でしょう。

しかも1つのNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストだけではなく、複数のNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストを紹介してくれるわけですからね。

向田さんは社会人ですので、私のような製作時間は取れません。

ですが私なら時間はたっぷりありますからね。

向田さんが飽和するような量でも大丈夫なはずです。

向田さんが調整し終わる前にケデリック商会への納品を済ませてしまいましょう。

もしかしたらすぐに紹介なんてことになるかもしれませんからね。

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『――では【開拓者組合(ギルド)】前でー』

『おう』

ケデリック商会への納品を済ませたところで向田さんから連絡がありました。

予想は的中といいますか、予想以上でした。

なんと紹介してもらう予定の5件のNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストをすぐに紹介してもらえることになったのです。

どうやらその5件のNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストの発行元であるNPC(ノンプレイヤーキャラ)達は、それぞれ繋がりがあるらしくどうせだから一緒に進めてしまおうということになったらしいです。

まぁ私的にも手間が省けてちょうどいいかもしれないですね。

あ、ちなみにケデリック商会の依頼を受けているのに他の依頼を受けてもいいのか一応は聞いてみました。

クエストの受注条件にそのような縛りはないですけど、一応ですね。

答えは大丈夫ということでした。

ただ依頼を受けすぎて納品が間に合わないという事態だけは避けるように、とのお達しです。

まぁ基本ですよね。

それと『紙』についても聞いてみましたが、ケデリック商会は重装系装備を取り扱う商会なわけです。

『紙』なんて市販のもので十分なんですよね。

というわけで『紙』については進展なしですね。残念です。

ケデリック商会から直接そのまま待ち合わせ場所の【開拓者組合(ギルド)】へと行くとすでに向田さんが待っていました。

「お待たせしましたー」

「おう、じゃあいくか」

向田さんはなんというか、ちょっとぶっきらぼうといいますか、それほど口数は多い方ではありません。

知り合ってまだ間もないというのもありますが、共通する話題は生産活動くらいでしょうか。

まぁ今はNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストの話題があるので問題ないですけどね。

それに気遣いも出来る人です。

私と彼では体格も身長も違います。

当然歩幅も違うので、普通に歩いていたら置いて行かれているでしょう。

でもそんなことはありませんし、馬車が通る大通りの中央側をさり気なく歩いてくれていたりと、なかなかの紳士っぷりです。

見た目はムキムキマッチョな職人肌です。

向田さんきっとモテるんでしょうね!

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「ここだ」

「私の工房と同じくらいの広さですねー」

「まぁ大店ではないからな」

案内された店舗は私の工房と同じ程度の広さを持つ、店舗兼工房といったタイプのお店です。

中に入るとそわそわしている複数人の大男達が待ち受けていました。

「きたか!」

「向田! その人か!?」

「ささ、こちらへ!」

「汚いところですがようこそ!」

「うちは汚くねぇよ!」

向田さんの紹介とはいえ、元は彼が時間をかけて信頼を得て受ける事ができたクエストなわけです。

それを例え紹介でも他人に譲るのですからもっと厳しく、面接みたいなものがあっても不思議ではないと思ってきたのですが……なんだかすごく歓迎されてます。

「面食らったみたいだな」

「あーえーはい」

「バケツ殿は自分がプレイヤー以外にも有名であるというのを自覚した方がいいかもしれんな」

「あー」

「まぁ今はいい。

せっかく歓迎されているわけだしな」

「そうですねー」

なるほど。

どうやらこの歓迎はそういう意味もあったようです。

確かに大店のケデリック商会から指名依頼が来る程度には私もNPC(ノンプレイヤーキャラ)に名が売れているわけです。

商売人なら伝手は大事です。

一方的に搾取される関係ならお断りですが、向田さんの紹介でもありますし、それはまずないでしょう。

ならそう身構えなくても大丈夫なはずです。

ここは歓迎される身として、リラックスして対応しましょうかね。

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「納品の際にまた伺いますー」

「おう、よろしく頼むわ!」

歓迎ムードで迎え入れられ、終始にこやかなままスムーズに依頼の話は進んでいきました。

向田さんのおかげで細かいところの調整はすでに済んでいたのもあって、依頼の話は10分もなかったくらいです。

大半は彼らの現状の話でした。

どうも彼らは各自に工房を持っている中堅どころの鍛冶師さんらしいです。

ですが最近お弟子さん達が急にやめてしまったらしいのです。

プレイヤー開拓者の爆発的増加で商品の補充が追いつかなくなり、にっちもさっちも行かなくなったところで向田さんと出会ったらしいです。

お弟子さんがやめてしまったのも修正の一環だったりするのでしょうかね。

まぁその辺は詳しく聞きませんでしたが、納品するものは基本的には日用雑貨や道具類が多いですね。

装備も少しあるようですが、ブロンズとカッパーが少々といったところでしょう。

日用雑貨もフライパンなどの金属加工品。

道具類は農具がほとんどを占めていますね。

これは『ミズーリの村』が開拓された影響でしょう。

ケデリック商会などの重装系装備の大店では鍬や鋤などの農具は置いていませんでした。

おそらくは何かしらの取り決めがあるのでしょう。

そうでなければ小さなお店などは生き残れませんし。

製作は初級のレシピにありますので、『道具製作』などで問題なく作れます。

でも規格があるのでその辺は気をつけないといけませんね。

量も5件合わせればそれなりの量となりますが、まぁ納期もそこそこありますので大丈夫でしょう。

それに試してみたいこともありますし。

「バケツ殿に限ってはないとは思うが、納期はしっかりな」

「もちろんですよー。さっそく戻ったら製作始めますよー」

「しかしまぁ……修正がこのような形でNPC(ノンプレイヤーキャラ)達に影響を与えているのは考えものだな」

「彼らも【ふろんてぃあーず】内で生きているわけですからねー。ちょっと切ないです」

「話して身近に接すればするほど、ゲームとはとても思えんようになるからな」

「わかりますー。とてもAIとは思えないですよねー」

「あぁ」

親方さんやお弟子さん達と触れ合い、工房主さん達の話を聞けば聞くほど彼らがAIとはとても思えなくなってきます。

とても感情豊かで生き生きとしているんですからね。

プレイヤー生産者には必要だったとはいえ、行われた修正がNPC(ノンプレイヤーキャラ)に与える影響というのはかなり大きく深刻なものであったようです。

まぁそのおかげでこうしてNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストが私達プレイヤー開拓者に回ってくるのですから、運営としてはうまく修正できたのかもしれませんね。

ただやはりAIとはとても思えない彼らが苦しんでいる姿を見るのは忍びないです。

でも私に出来ることは多くありません。

せいぜいが受けたNPC(ノンプレイヤーキャラ)クエストをしっかりとこなすことでしょう。

……報酬も魅力的ですしね!

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【開拓者組合(ギルド)】前で向田さんと別れるとさっそく私の工房へ向かいます。

私がやれることは結局は生産活動です。

でもそれで仲良くなったNPC(彼ら)を多少なりとも助ける事が出来るなら嬉しい限りです。

さぁ本日のログアウトまでもうひと踏ん張りしましょう!