Fukushuu Kansuisha no Jinsei Nishuume Isekaitan

47 ◇ New Seven Heroes, Consultations

会議自体はスムーズに進んだ。

「では纏めるぞ。

『霹靂の英雄』こと乃公(おれ)の担当問題は――ギボルネとの和平交渉。

『蒼の英雄』ルキウス及び『神癒の英雄』エルフィの担当問題は――超難度『暗黒迷宮』コキュークストスの攻略協力並びに攻略者の調律。

『斫断の英雄』パルフェの担当問題は――ロエルビナフ戦役。

『白の英雄』クウィンの担当問題は――先日構造変化が確認された超難度『獄炎迷宮』プレゲトスーラ、超難度『苦衷迷宮』アーケロン、超難度『峻別迷宮』エレガスニュクス攻略。

『黒の英雄』クロ及び『紅の英雄』トワの担当問題は――高難度『空間迷宮』ファイ攻略。  

以上だ。何か言いたいことのある者はおるか?」

誰も何も言わないので、幸助は挙手した。

「うむ。初々しくてよいなクロ。挙手は要らんぞ」

手を下げながら、幸助は誤魔化すように咳払いした。

それから口を開く。

「クウィンの担当問題だけ、多すぎないか?」

「なんだ、新人の分際で人の心配か。おんしはまっこと善良よな」

リガルはとても好ましそうに言うが、幸助はあまり良い気分にならなかった。

「……クロ。別にわたし、大丈夫。いつものこと」

クウィンはどうでもよさそうに自分の爪を見ている。

それは全てを諦めているような顔にも見えた。

「いつものことって、そりゃお前が最強とか言ってたのは前に聞いたけどな、攻略って魔法具持ちと守護者を倒すことだろ。それも超難度なら強さも桁違いな筈だ。それを一人でなんて……!」

「わたし、強い。ダルトラ、魔法具ほしい。強いわたし、迷宮に送る。合理的、ね?」

彼女はあくまで淡々と語る。

「まぁまぁおにいさま、おねえさまなら万一にも魔物程度に遅れをとることなんてありませんわ。ご安心くださいまし?」

「関係あるか。天才だろうが最強だろうが英雄だろうが、友人の心配して何が悪い」

幸助の言葉にパルフェは「ずきゅんっ」と妙な声を上げながら、左手を胸に当て右手の甲を額に当てつつ背もたれに力なく倒れた。

「…………まぎれもなく、これは愛――ですわ」

頼むから真面目に話を聞いてくれないだろうか、と幸助は若干苛々する。

どうにもならないのだろうが。

対するクウィンは、僅かにだが機嫌を良くするように微笑んだ。

「……心配、嬉しい。わたし、頑張る」

「違う……喜ばせる為に言ったんじゃないんだ」

幸助の続く言葉を遮ったのは、ルキウスだった。

「落ち着いてくださいクロ。きみの思いが間違っているとは、誰も言いませんよ。ですが現実問題として、超難度迷宮の攻略は急務なのです。――擬似英雄、という言葉をご存知で?」

彼は卓上に置いた両腕を組みながら、蒼い瞳を幸助に向けている。

「……お前やトワを指す、偽英雄ってのとは、違うものか?」

「えぇ、僕とトワは、あくまでステータス自体は英雄と遜色ありません。だからこそ『蒼』と『紅』を持っていない事実から偽英雄と呼ばれることもありますが、擬似英雄は最初から英雄で無い者を英雄規格に押し上げるという計画です」

聞いて、幸助は概要をざっと推測する。

「つまり、ある程度高レベルな貴族や来訪者にオリジナルの神創魔法具を装備させて、数値上のステータスを英雄のそれに近づけるってことか?」

幸助がプラスに提案したのと同じことだ。

国自体が取り組んでいても何らおかしくない。

「理解が早くて助かります。君が回収した『クレセンメメオスの指輪』や『ソグルス・ドゥエ・ヌメオラルートの腕輪』も構造情報を解析されたのち、擬似英雄に貸与される予定です。アークスバオナの脅威とは実のところ英雄の数よりもこの擬似英雄の方でして、彼の国は英雄の数こそ大差ありませんが近年の拡大政策に伴う迷宮・神殿の獲得によって多くの来訪者と魔法具を抱えるに至りました。結果擬似英雄の数も爆発的に増加し、それは戦場でも我が国の軍に甚大な被害を与えています。問題児であったライクに処罰らしい処罰が下されなかったのも、彼の過剰戦力が結果的に彼の国の擬似英雄による被害を抑えることになっていたからです」

確か二国間の主な戦場は、現在ロエルビナフ国領内であると言われていた筈だ。

ライクを殺したことでそこへ派遣する英雄が欠け、パルフェがその穴を埋めることになった。

「……間接的に、俺がパルフェを戦場に送り出したとも言えるわけか」

パルフェは安心しろとばかりに胸を張り、ドヤ顔を作る。

「おにいさま、お気になさらないでくださいまし! わたくし、無敵ですので!」

どこまでも真面目な空気の形成を阻害する女の子だな……と幸助はそろそろ微笑ましく思えてきた。

「……あのさ、トワさっきから気になってたんだけど、そのおにいさまってのなにかな。何故か無性に気に食わないんだけど」

トワが若干不機嫌そうに言う。可愛らしい顔が苦虫を噛み潰したように歪んていた。

「あらあら、わたくしとおにいさまの仲に嫉妬ですの? 醜くてよ?」

「……はい? トワは単純に、自分の歳を考えて欲しいだけなんだけどな? パルフェって確か、二十五歳だよね?」

幸助は驚いたが、顔には出さないように気をつけた。

「…………トワ、あまりレディの年齢に口を出さない方がよろしいのでなくて?」

パルフェの顔が痙攣している。

「ごめんなさい。トワが悪かったよ…………ロリババア」

「今なんと仰いまして!?」

「別に? 幻聴じゃない?」

「お、おほほ、わたくしより弱いのによく吠えますわね。偉そうなことを口にするのは、単身超難度迷宮を攻略出来るようになってからにしていただけますこと?」

「むっ……。トワだってそれくらい出来るんですけど? リガル、クウィンの迷宮一個トワに割り振ってよ」

学生同士の他愛ない口喧嘩めいたノリだが、話題は国家レベルだった。

「……ふむ。クロはクウィンが気がかりで、トワは超難度迷宮に挑戦したい、と。ではこうする。両名が協力し『空間迷宮』ファイの攻略を済ませたあとでなら、幾らでもクウィンに手を貸すといい。ただしトワ、単身での攻略は許さん」

「なんで」

拗ねたように言うトワを、リガルは炯々たるまなこで射抜く。

「おんしが未熟だからだ。言わねばわからぬか?」

それだけで、トワは黙ってしまった。

パルフェの挑発に乗せられた時点で、自分の至らなさを認めるようなものだったからだ。

リガルは改めて全員を見回し、これ以上の意見が出ないことを確認すると、微笑んだ。

「では、これにて閉会とする」