Gate of Amitilicia Online

Lesson 22: New

ログイン31回目。

シザーからのメールをもらって、俺はコスプレ屋に来た。注文していた物が完成したらしい。さて、どんな出来になっているのか。

「いらっしゃいませー!」

店に入るとスティッチが変わらぬ笑顔と元気な声で出迎えてくれた。

「あ、フィスト君、待ってましたよー」

「さっそく見せてくれるか」

これでも結構楽しみにしていたのだ。前置き抜きに頼むと、ニッコリと笑ってスティッチは店の奥へと消えた。

「お待たせしたな、フィスト氏」

奥からシザーがスティッチと一緒に出てくる。

2人で大きめな木の箱を運んできた。その中に入っているのが新しい装備だろう。2人はそれを俺の前に置いて蓋を開け、中身を取り出していく。

「それではお披露目といこう」

胴体、上腕、そして大腿。その防具全てにロックリザードの革が使われていた。

「基本はブラウンベアの革を下地に、君が持ち込んだロックリザードの革を張った二層構造にしている。胸と腹の一部はブラウンベアを2、ロックリザードを1の三層だ。着ける順番としては、腹、胸の順番だな」

まずは腹鎧を着けてみる。腹と言っても、前は胸辺り、背中も肩甲骨辺りまでカバーしてるな。肋骨辺りを境にして上部は少し柔らかめになっている。ソフトレザーとハードレザーを繋いだような感じか? それに柔らかい部分はロックリザードを使ってない。

そこから胸甲を着ける。腹鎧の上の方は胸甲の下に潜り込む形になった。あぁ、胸と腹に分けて、腹鎧の一部を柔らかめにしたりロックリザードを使わなかったのはこのためか。身体を前に曲げても胸甲から腹に掛かる圧迫感がかなり軽減されてる。身を捻っても突っ張る感じがほとんどしないのもいいな。

続けて上腕部と大腿部も装備する。ぐるりと全体を覆う造りで、あまり圧迫しないように多少の余裕を持たせてある。ベルトでの調節も可能みたいだな。ずり落ちないように留め具で肩や腰に連結するようにしてあった。腕を振ったり蹴りを放ってみたり、膝を曲げたりして感触を確かめる。ちょっと引っ掛かるような感じがする時もあるけど動きそのものに支障はないな。

「どうだね?」

「ああ、問題ない。ばっちりだ」

着ていた革鎧より少し重たくなったがかなり動きやすい。これがオーダーメイドのすごいところだな。

「で、色はどうするかね?」

「色?」

素材そのままの色なので、今の鎧は岩色というか砂色といった感じだ。というか、色って変更できるのか?

「鍛冶や革細工のスキルに色付与というアーツがあってな。その気になれば、金色の革製品や真っ赤な刀身の剣なども製作可能だったりするのだよ。触媒は必要になるのだがね」

色、か……鎧の下に着ている服は普通に白だ。それに合わせるようにした方がいいのか? いや、考えてみたら服だっていつまでも初心者の服である必要もないんだよな。さて、俺のやることを考えたら、服にしろ鎧にしろ明るい色は遠慮したいところだ。となると暗めの色がいいんだろうな。

「だったら黒で頼む」

「分かった。一通り終わったら染め直すとしよう。次はブーツだな」

シザーが一足のブーツを取り出した。見た目はコンバットブーツっぽい仕上がりだな。

「先芯と中底を鋼板で造り、踵にも鋼板を仕込んである。戦闘用安全靴、といったところだな。素材はブラウンベアだ」

受け取って履いてみる。サイズはピッタリだ。今までのものより重くなったが動くのに支障はない。【脚力強化】の影響かもしれない。これは蹴りの威力も期待できそうだ。

「はい、それじゃ最後にマントねー」

シザーに代わってスティッチがこちらにマントを手渡してくる。

「森とかに潜むことが多いって話だったから、フード付きの迷彩柄にしたよー」

おぉ、こっちの世界で迷彩柄なんて見るとは思わなかった……

「街だと目立つと思うから、リバーシブルにしてる。普段はそっちを使って、狩りの時は迷彩の方、でいいんじゃないかな」

裏地は薄茶色か。いかにも旅人、って感じの色がいいな。さっそく裏返して羽織ってみる。うん、サイズもちょうどいいし、そんなに動きを阻害する感じもないな。

「マントの色、変更はどうしますー?」

「いや、このままでいい。2人とも、いい物を作ってくれてありがとう」

礼を言うと2人は笑みを深くした。

「で、お代はいくらになる?」

「素材はほぼ持ち込み。しかもブラウンベアの皮をまるまる1頭分と、残ったロックリザードの皮ももらっているからな。工賃込みと言っても……うむ、今回は無料でよい」

意外な言葉がシザーの口から出た。素材を渡したと言っても、タダだと?

「いや、それは俺に有利すぎないか?」

「そうでもない。持ち込んでもらった素材の質と量を考えれば、釣りを出してもいいと思っているくらいだ。あの量の皮素材を手に入れようとしたら、普通のプレイヤーだと何匹の獲物を狩らねばならぬか……それに、大きな皮素材は、同じ面積分の小さな皮素材よりも高価なのだよ。使える部分の自由度が違うのでな」

そうなのか。大きいのは高く売れる程度の認識だったが……継ぎ接ぎよりも1枚物のほうが強度面で安定したりするのかね。

「そういうわけで遠慮はいらん。今後何か注文があれば、今回の借りの分を考慮させてもらおう。それから、もしよさげな素材が入手できれば持ち込んでくれ。狩猟ギルドよりは高く買い取らせてもらおう」

そういうことなら、今回は言葉に甘えるとしようか。

「あぁ、それなら欲しい素材があったら先に連絡くれ。金銭面で有利にはなるんだろうけど、狩猟ギルドとの関係を完全に断つ気はないんだ」

一応、俺達の稼ぎも流通に組み込まれてるだろうしな。供給過多だと値崩れを起こすのかもしれないが、いい素材を住人達が求めているのも事実だ。

「さて、フィスト君。もしよければ、なんだけど。SSをいくらか撮らせてもらえないかな?」

色変更作業のために装備を一旦外していると、そんな提案をスティッチがしてきた。

「SSって、何の?」

「当然、私達の作品を身につけた客の、だよ。他の客に商品を提案する時の資料として。そして私達の趣味として、ね」

趣味かよ……でも、仕事としての側面もあるのか。ん、待てよ、こいつらの仕事って……

「それは、GAOでの仕事、って意味だよな?」

「あはは、何を言っているの。GAOとリアル、両方に決まってるでしょー?」

あ、そうですか……結局趣味の割合の方が多いんじゃないか?

「拒否権はあるのか?」

「当然だよー。顔見せがまずいならちゃんと加工するから。問題ないならそのままにするけど。あ、そうそう、SS撮らせてくれたら私服も何着かサービスで付けるよ」

まぁ、いいか。写真の1枚や2枚。素顔といってもアバターのだし、ばれたからって問題ない。

決して私服に釣られたわけではない。

アインファストには一瞬で着いた。凄いな転移門。1万ペディアもかかるだけはある。

俺はその足でレイアスの工房へ向かった。ガントレットとその他注文品を受け取るためだ。下地用の革はそれが完成した時点でシザーの方からレイアスに渡してもらっている。

しかし、そう長く離れてなかったはずなのに、随分と懐かしい感じがするなアインファストも。街も人も変わっていない。強いて言えばプレイヤーの数が少し減ったかな。拠点をツヴァンド以降へ移したプレイヤーも多いだろうし。

「レイアス、来たぞ」

「ああ、待ってた」

店に入るとレイアスが出迎えてくれた。カウンターにはいくつかの品が置かれている。

「それではさっそく始めるか。まずはメインのこれからだな」

レイアスがその中の1つ、黒色のガントレットを指す。

以前のガントレットは革の表面に1枚の金属板を貼り付けたような造りだった。今回のも革と金属の組み合わせには違いないんだが、よりガントレットとしての存在感がある。

「下地はブラウンベアとロックリザードの革の二層で、金属部はこの間の鉄鉱石を使って作った鋼だ」

手の部分は以前とほぼ同じ。指先は保護しないタイプだ。今のと違って親指も鋼板で保護されているが、人差し指から小指までの鋼板には小さな鋲が突き出ていた。これは手の甲も同様だ。

「一応、武器としての側面もあるということで鋲を加えてみた。刺突ができる小さな爪を着けようかとも思ったんだが、皮素材を傷つけるのは不本意だろうと思って採用はしていない。指先も、諸々の作業の支障になるかもしれないので着けていないが、希望があれば追加するので言ってくれ」

格闘メインである俺の戦闘スタイルと、狩人としての活動を両方考慮してくれた上での造りに感謝する。指先の防御は不安が無いと言えば嘘になるが、やはり動きやすさというか繊細さが確保される方が個人的には嬉しい。

前腕部は以前の平面的な部分の上から丸みを帯びた鋼板が重ねられている。これは刃物を受け流しやすいようにしてくれたんだろうな。

手にしてみるとなかなかの重量感。金属部分が増えているので仕方ないことではあるが、防御力は今のものよりも上だ。

今のガントレットを外し、新作を着けてみる。うん、指や手首の動きは特に阻害してない。重量はやっぱり気になるが、そのうち慣れるだろう。

「問題ない。これで大丈夫だ」

「そうか。なら次だ」

手渡されたのは茶革製の鞘に入った刃物だ。抜くと分厚い刀身が現れる。刃渡りは30センチほど。森に入った時に使う刃物が欲しくて注文した剣鉈だ。

「まさか、武器ではなく道具の製作依頼を受けるとは思わなかったがな……いい経験にはなったが」

「同じ刃物だろ? まず戦闘じゃ使わないけど、対人戦でこれをメイン武器だと勘違いしてくれるなら都合はいい」

苦笑するレイアスにそう返す。依頼した時、勝手が分からないということで色々と調べたらしい。日常品を作る鍛冶屋に相談にも行ったそうだ。そこまでして作ってくれた物が悪い品なはずがない。

振ってみても違和感はない。出来に満足し、鞘に収めて左腰に提げた。ナイフはナイフで用途は別なのでそのまま提げておく。

「それから最後はこれだ」

残った物は全長20センチほどのダガーが20本。【投擲】を修得した時点で注文していたものだ。

4本ずつを腿鎧に備え付けてもらっていたポケットへと差し込んだ。ちなみにブーツの横にもダガー用のポケットが1つずつ付いていたりするのでそこにも1本ずつ。残りはポーチへ収納しておく。すぐに出せないと意味がないからな。

「さて、それじゃ精算を頼む」

「ガントレット代、剣鉈代、ダガー代。そこから素材代を差し引いて合計3万5千といったところか。シザーからの伝言で、素材代はブラウンベア込みで差し引かせてもらっている」

代金が発生したことにホッとする自分がいた。それでも安いんじゃないかと不安になったが、本人がそれでいいと言うならいいんだろう。

「ありがとなレイアス。シザーを紹介してくれたことといい、お陰でいい装備が手に入った」

代金を払って礼を言うとレイアスが笑った。

「いや、私も楽しませてもらった。またの利用を待っている。ああ、もし今後、いい素材が手に入ったら持ち込んでくれると嬉しい」

「でも俺、鉱石は探せないぞ?」

一緒に採掘に行ってはっきりしたが、俺にはどこに鉱石があるのかは分からない。偶然拾えるようなものでもないだろう。ドロップ品のゲットも不可になった今の俺じゃ、鉱石を入手する機会はほとんどないだろう。そう思って言うと、

「いや、鉱石じゃなく、魔獣素材の方だ。今後、森の奥に入ったりすることもあるだろう?」

レイアスが求めているのは魔獣素材だった。

「魔獣素材はそのまま武器に使える物もあれば、特殊効果を付与する触媒になるものもある。合金に使えるものや、金属のように溶かせる骨すらあると聞く。そういった物があるなら是非自分で色々と作ってみたいのだ」

うーむ、動物と魔獣の差はここか。

「まぁ、必ずしも魔獣から有益な素材を得られるとは限らないらしいがな。同じ魔獣の同じドロップ品でも、当たり外れがあるそうだ」

ドロップも100%じゃないしな。そういう意味じゃ【解体】持ちの俺には獲得の可能性が高いのか。夢が広がり――いや、それ以前に魔獣と呼ばれる存在にタイマンで勝てないと意味がないんだけどな。

「分かった。とりあえず片っ端から持ち込めばいいか?」

「ああ、私はまだ魔獣素材を扱ったことがなくてな。練習も兼ねてどんな物でもいいから扱ってみたい。場合によってはシザー達の領分なので、そっちへ渡すが」

「了解。こっちに支障がない限り、優先的に卸すとするよ」

そう約束し、俺はレイアス工房を後にした。

さて、それじゃあ久々にアインファスト大書庫へ行くとしますか。

……いや、その前に。ティオクリ鶏だ。ティオクリ鶏食いたい。