Gear Drive

Chan Gorilla

「おいおい、聞いたかよ、"郵送配達職(レター・ライダー)"だってよ……」

「なんていうか、世間知らずなのねぇ〜」

 な、何なの……この不穏な空気は。

「ていうかクルルカンが配達職(ライダース)って、逆じゃね?」「ははは! 確かに! "盗む"んじゃなくて、"届ける"だもんな!」「あんなの雑用だろぅ……」「稼ぎになんねぇよな……」「この前、知り合いが商人に荷物を頼んだら、無くなったってよ……」「マジかよ……配達職(ライダース)の真似事っていうか、ホントに盗賊じゃねえか……」「だから無くなったんだよな、このクラス……」

 呆れ声から、哀れみの声まで聞こえてきやがる。

 な、何なのよ……人がせっかく気持ちを固めたのに!

 は、は、腹立つわぁ〜〜!!

「おい、お前……」

「何よ!」

 身長3メルの、スーツのギルマスが、問いかける。

「"郵送配達職(レター・ライダー)"が、どういうものか、わかって言っているのか……?」

「え? いやだから、届けるんでしょ?」

「…………」

 え、何よ。なんなのよ。

 その目をやめなさい!

 え、ちょ、ほんとなんなんですか……

 私、そんなイカれた事を、言っちょるのですか……。

「────おいおいヒゲイド! そんな娘っ子に、何言ったって無駄だぜ!!」

「────!」

 だ、誰よ!? 失礼な物言いね!!

 ギラリと、声が聞こえた方に、振り向く。

 冒険者ギルドの壁際。

 何故か、大量の剣や槍をたてかけている場所がある。

 な……あれってもしかして……

 ギルド内で(・・・・・)、商売しているのか(・・・・・・・・)……?

「……ゴリル、か」

 ゴリル、と呼ばれた男は、大量の武器の、真ん中に座っていた。

 もう、シンプルに言おう。

 ────すごい、ゴリラ顔だった。

「ゴ……ゴリラ」

「ぁあん?」

 ゴリラが、立った……。

 ドスドスドス……

 おお、こっちきたで……。

 目の前に立たれる。

 使い込まれた、革鎧を着ている。

 ちょっと怖い。

 私は背がとても低いと思う。

 男性に見下ろされると、萎縮してしまう。

「……なんだよ、ハデなカッコの割には、ビビりだな!」

「──っなッ! ビビってなんかない!!」

 つい、言い返してしまった。

「──ハッ。こんなチンチクリンが、冒険者志願とは、世も末だぜ! しかも、"郵送配達職(レター・ライダー)"ときたもんだ!」

「な、何よ! 偉そうに!」

「お前みたいなのが、立派に冒険者やれるほど、俺たちの世界はあまくないぜ!」

「ぐぅ!」

 な、な、な、何なのよこのゴリラ〜〜!!

 そっちだって、こんな所で武器売りさばいてるじゃないの〜〜!!

「あ、あんたこそ、こんな所で、武器売ってるじゃない! そんなのが"立派な冒険者"って言えるの!?」

「ふん、余計なお世話だ! ……俺の事は、どうでもいいだろ!」

「何よ! 自分が言われたら、はぐらかして! 私だってやればできるんだから!」

 おまえ、バーグベア、ソロで狩れんのかよ、バーカ!!

「……そこまで言うなら、試してやるぜ」

「おい……ゴリル」

「まぁ、待てよ、ヒゲイド。いい薬になるだろ? ……ほら、これだ」

「! ……何よ、コレ」

 ……手紙?

「ここから2日くらいの距離の所に、"バヌヌエル"って小さな村がある。俺の生まれた村だ! そこの"サルサ"って女に、この手紙を届けてみろ!」

「!」

 ……いいわ、のってやろうじゃない。

「──やる。見てなさい……私の事、認めさせてあげるわ!!」

「ふん……無理だと思うがな」

 むっきぃ──────!!!!

 何で私がバールモンキーみたいに怒らなきゃいけないのよ────!!!!

 ゴリラはこいつなのに────!!!!!!

「受付嬢ぉ!!」

「は、はぁい!!」

「地図!!」

「あ、100イェルです」

「金とんの!?」

「そりゃ当然」

「くっ……はい!」

 手の歯車から、お金を出して、受付嬢から地図をふんだくる。

「片道2日って言ったわね」

「ああ……なんだ、泣き言か?」

「2日で戻ってきてやる(・・・・・・・・・・)わ(・)」

「……なんだと?」

 くっくっく。

 このゴリラは知らない。

 私が、森の中を滑る、達人であることを!

 くっくっく、

 かっ───っかっかっかっか!!!!

 首を洗って待ってなさい、ゴリラ顔。

 バタン!!

 私は、勢いよく、冒険者ギルドのドアを叩き開けた。

 黄金色の道化師が去った後、2人の古株が、話しだす。

「──────どう思う、ゴリル」

「────無理に決まってんだろ。"バヌヌエル"は、森の奥に隠れるようにある。素人が整備された道でいけば、片道だけでも4日はかかるぜ」

「やはりか。貴様で往復3日、といった所か」

「ああ。俺は地元だかんな。森の安全な場所を突っ切っていける。だが、あいつはそうはいかねぇ……ましてや、2日(・・)なんざ……」

「やれやれ、妙な娘がきたもんだ」

「ははっ、確かにな! ……まぁ、途中で泣き言を言って、引き返してくるだろ。……ヒゲイド、見張りはつけたんだよな?」

「ああ、職員で護衛をつけた」

「ふん、クルルカンの泣き顔が、楽しみだぜ!」

 ────バタン!

「た、たいへんです!!」

「な! お前は! あの黄金娘の護衛はどうした!!」

「なんだ!? どういう事だよ!?」

 慌てた様子の若い冒険者が、驚きの言葉を紡ぐ。

「さっきの、クルルカンの格好をした女の子が……なんの準備もせずに(・・・・・・・・・)、森に突っ込んで(・・・・・・・)いきました(・・・・・)!!」

「な、ば、ばかやろうが!!!」

「キッティ!! 捜索する! 人を集めろ!! ここにいる奴らも、手が空いていたら手伝ってくれ!!」

「か、かしこまりました!」

「あそこは、ランクが低いが、ウルフの群れくらいはいる! ヘタしたら死ぬぜ!」

 ────そんな大騒ぎになっているとは露知らず。

 道化師は、ひたすら森をぴょんぴょんしていた。