Gear Drive
Too much, too much, too much.
さあて、後は王都だけだわ……。
ドニオスから、右周りに進んでいる。
パートリッジ、
ホールエル、
ナトリ、の順だ。
王都をぐるっと回って来た中で、ウルフやら、ゴブリンやらが、ちょこちょこ出た。
ほぼ"チャクラム"一択で殲滅。
でかいゴブリンだけは"ゴールドライン"で、倒した。
歯車で出来た弾丸を打ち出すやつね。
で、今は、ナトリから王都に向かう所。
ナトリは、王都の南に位置する。
こちらは暖かいせいか、森が、街道に掛かってしまっている場所が多いみたいだ。
……魔物とかが大変そうな地域だ。
もう、周りはだいぶ、薄暗くなってきている。
はーい。
そーです。
やらかしました〜〜。
「やばい……野宿コースだわ……」
『────日没まで、あと25フヌと予測。』
バカか私は……。
3つの街と、王都。
その全てを、1日で廻るなんて。
そら……そら、むちゃやがな……。
いや……まさかね〜と思って、ベッドだけは、バッグ歯車に入れてきたのよね……。
でも、いざ暗くなってくると、こらあかんわ。
暗い森で、いつ魔物に襲われるともわからない中、ベッド出して寝るとか、命知らずすぎる……。
「うわああああ! 途中で一回、帰ったらよかったぁあああ!!」
『──────……。』
うわぁ怖ぁ!
だんだん暗くなるの怖ぁ!
ここ森よ!
うううううう。
流石に恐怖心がつのる。
こんな森の中で野宿とか、2人以上の冒険者が、かわりばんこに見張りをしながら朝まで過ごすのが普通じゃなかろうか……。
私は1人。
1人ぼっちのクルルカン……。
いや、そりゃ、クラウンと、仮面の亡霊? はいるかも知んないけどさ……うわっ、身近に幽霊いるじゃん……。
『────仮面から異議申し立てを感知。』
「いやいや、本人がおっちんでいるのはマジだから……」
私、お墓参りしたから……。
……うーん、もう、かなり暗い。
一応、足元に街道は捉えている。
でもな──……。
仮に王都に着いたとしても、街門は既に閉まっている時間だろう。
どの道、今夜、外で過ごす事には変わりない。
今まで廻ってきた街は、街門のすぐ側にギルドの出張所があった事で、かなり時間の短縮ができた。
わざわざ、街の中に入って届けなくてよかったからね。
……それが逆に、この油断を招いたんだと思う。
"行けるかも"と思ったけど、そんなに、この距離は甘くなかった。
ううう……今、小さな山火事歯車を何個か飛ばして、トボトボ歩いている……。
火がもし無かったら、とても心細かっただろうな……。
全ての街の出張所で、地図を買ってみた。
もちろんクラウンに分析してもらっている。
目の前のには、小さな透明の地図が浮いている。
うーん、今、ナトリの街と王都の、ちょうど真ん中くらいだ。
視界が悪いのはきつい。
見えるなら、ぴょんぴょん森ガール爆走コースだが、今ぴょんぴょんしたら、木々と顔面でこんにちは、この世にさようならコースになりかねない。
適当に歩いて、限度がきたら、木の上にでも登って寝ようかな……ううっ……まるでバールモンキーだわ……。
キン……キン、カン……
「?」
何の音?
『────剣戟(けんげき)です。』
「! 剣!? てことは……」
誰かが戦っているってこと!?
「盗賊、とかかな」
『────震音探知外。』
どうやらクラウンは、空気と、地面の揺れ(・・)を読むのが得意みたい。
今は、静かな森で、先に剣の金属音が響いてきている。
私でも聞こえるもの。
「先に進んで様子を見てみよう! ただ、こっちの姿は隠す。脇の森に入って進もう」
『────受理。アンティ、これを。』
「え? ……わっ!」
ブォン!
仮面のすぐ前に、アナライズカードがでてきた!
なんか、お皿みたいな形ね……。
なんだなんだ?
ススススス──……
カポッ。
「…………」
クラウンさん……。
仮面の上に、また仮面して、どないすんの……
しかも透明……。
「……何なの? 砂よけ?」
『────地形光学図、投影実験。』
「お、おお!」
きゅいいいい……!
すごい! 何これ!
アナライズカードの親戚よね、コレ!
ど、どう言ったらいいやら。
暗いのに(・・・・)、見える(・・・)!
アナライズカードの文字を書く光。
それで、立体の地図(・・・・・)を映してる感じだわ!
おおっ! 顔を左右に振ると、光の地図も動く!
ちょっと、慣れるのにかかりそうだけど……。
「クラウン! これもちろん、ホントの地形と同期してるんだよね!?」
『────肯。無論です、アンティ。』
「おっしゃ! ……じゃあ、いこっか」
真っ暗なのに、かなり遠くまで地形がわかる!
どういう仕組みなのやら。
──まぁいいや!
これで先の様子を見に行こう。
すぐ隣の木を足場に、自分の位置を、地面から離す。
『────昼間よりか視野が落ちます。慎重に。』
「わかった。でも、これくらいなら平気」
トン、トント───────ン!
キン、キィィィイン────!
ブギィ──────!!
『────魔物の声紋です。ハイオーク、数:3。』
「! 人が戦っているの!?」
それって、襲われてるって事だよね!
「! あれか……!」
トン!
木の上から、下の様子を窺う。
馬車だ!
随分華奢なつくりだな……。
全体を作る部位が細くない?
そっ、それはいいや。
ハイオーク……。
初めて見た……でかい。
4メルくらいあんのね。
夜見ると、中々怖い!
あっ、1体、死んでる!
焚き火、かな。
……踏みつけられた跡がある。
わずかに炎が燻っているだけだ。
私は光の地図を見ているけれど、
多分、実際は、かなり視界が悪いでしょうね……。
2人の、全身甲冑をきた人と、
……女の剣士?
女剣士の人は、ヘルムを付けていない!
背中に逃がした髪は、先でカールしていて、ふわふわしていそう……。
髪の色は、今の私の視覚じゃ、わからないな……。
ドレスと甲冑が合わさったような装備だ。
大きな直剣を振りかざしている。
なんで、あんな女の人が剣士なんか……。
どう見ても、馬車を3人で守っている。
「ぐっ!」
「ひぃ!」
「落ち着いて! ほぼ、腕でしか攻撃してきません! 脚と腹を狙いなさい!」
ハイオークと護衛さんの、3対3。
けっこう、勝負が拮抗してる。
ど、どうしよう……。
助けた方がいいかな。