俺達が護衛の依頼を受けてから、二日が経った。

「死ねええええ!」

 城の庭園でくつろいでいると、突如命を狙う刺客が現れてアルカに向かって襲い掛かってくる。 

「お前が死ね!」

「げぶふぅ⁉」

 しかし、横に控えていたジャスティナの手により、刺客はあっさりと撃沈される。

 エピタフ王から殺すなと厳命されているので、生きてはいるようだった。

「ふん、雑魚が」

 あっさり倒される刺客に向かって、ジャスティナは冷たく言い放つ。

 まあ、邪神の力で強くなってるジャスティナの前では、ほとんどの奴が雑魚だろうよ。

 

「それにしても……この二日で、結構な襲撃があったなぁ」

 ジャスティナに倒された刺客が、衛兵に連行されるのを見ながら俺は呟く。

 警備が厳重にもかかわらず、これだけ襲撃があるのを如何なものだろうか。

 まあ、この世界には魔法があるし仕方ない部分もあるかもしれないがな。

 それを考慮しても、簡単に侵入されすぎではある気がするが。

 まるで、警備の隙を突くように奴らはやってくる。

「今までのは、全て末端ですからね。黒幕を捕まえない限り、襲撃は続くと思います」

 俺の言葉に、アルカはそんな事を言う。

 ちなみに、今アルカの傍に居るのは俺とジャスティナだ。

 全員で一度に護衛すると、人数が多すぎて逆に守れなくなってしまう可能性もあるから交代制だ。

 

「黒幕か……心当たりはあるの?」

「いえ……それが分かっていれば、すぐにお父様が捕まえるんですけれど」

 アルカは、困ったような表情を浮かべてそう答える。

 まあ、今までの奴らも黒幕というか依頼人を吐こうとしなかったし、そう簡単に分かるはずもないか。

「だが、どうする? このまま成人の儀とやらが行われる一ヵ月までこの調子だと、私達の方が疲弊してしまうぞ?」

 ジャスティナの言う事ももっともだ。

 いくら交代制とはいえ、護衛の間はずっと気を張ってて一ヵ月……というのは、少し辛いかもしれない。

 何か対策を考えないとなぁ。

「すみません、少しよろしいでしょうか?」

「うわおぅ⁉」

 俺が今後の対策を考えていると、ぴっちりとした執事服に身を包んだロマンスグレーの男性が立っていた。

 確か、アルカと下の弟の執事であるセバスさんだ。

 この人、気配も音もなくいきなり現れるからビビるんだよな。

「アルバ様にお客様でございます。お仲間の皆さんもお集まりいただいてますので、謁見の間へお越しください」

「客……ですか? 分かりました。それじゃあ、アルカ様行きましょうか」

 流石にアルカを置いていく訳にはいかないので、彼女と一緒にセバスさんに連れられて謁見の間へ向かった。

「アルバ様達をお連れいたしました」

 セバスさんの言葉と共に、俺達が謁見の間へと入ると、そこには三人の見知った顔があった。

「フラム! それに、ヤツフサとタマ姉も!」

 そう、そこには俺の幼馴染であり恋人でもある金髪縦ロールが印象的なフラム。

 それに、黒狼姉弟のタマ姉とヤツフサが居た。

 タマ姉の方は、相変わらず巫女服を改造したような服装で、ヤツフサは二つ首の犬マークが入った軍服を着ていた。

「アルバ様! ようやくお会いできまし……た?」

 俺を見ると、フラムは嬉しそうな表情を浮かべて駆け寄って来ようとするが、その後に現れたアルカを見て固まってしまう。

 まあ、普通はそうなるよな。

「あ、ホントだ。凄いそっくり」

「でも、アルバきゅんはこっちだね」

「わぷっ」

 流石、狼というか何というか……あっさりと俺がアルバだと見破ると、タマ姉は俺を抱き寄せる。

 突然の事だったので身構えられず、無抵抗のままその豊満な胸へと顔をうずめる形になってしまう。

「なー! タマ姉様! ずるいですわよ! 私も抱きしめたいですわ!」

 タマ姉の行動を見て、何やらフラムが叫んでいた。

 ツッコむ所、おかしくないかと言いたかったが、現在俺は絶賛胸ダイブ中なので、ツッコめなかった。

「あはは、フラムのアルバ好きは相変わらずだね」

 ヤツフサは、他人事のように笑いながらそう言う。

 そんな事を言ってる暇があれば、助けて欲しかった。

「……と、いう訳ですわ。それで、私の為にヤツフサさんとタマ姉様がついてきてくださったんですの」

 ようやくタマ姉から解放され、ひと段落ついた俺達は、宛がわれた個室に集まってお互いの状況を説明し合っていた。

 俺達の方の状況も既に伝えており、フラムは最初こそ驚いたがすぐに納得したようだった。

「それにしても、相変わらず面白い状況になってるね、アルバ」

「ははははは」

 ヤツフサがジャスティナ達の方を見ながらそう言うので、俺は笑って誤魔化す。

 

「だからさー、ショタってのは良い物なんだよ。分かる?」

「よーく分かるとも! 特にアルバ君は、素晴らしいね。ショタとしてもロリとしての魅力も兼ね備えてるんだから」

 タマ姉とリーベが、何やら意気投合しているが無視を決め込む。

 関わったら、絶対にこちらが損をするからな。

「アルバ様ったら、私が許可したとはいえ、こんなにハーレムを増やしてしまわれて……」

「フラム?」

 何やらフラムが、親指を噛みながらブツブツと小声で喋っていたので尋ねる。

「ふぇあはい⁉ な、何でしょう?」

 俺に話しかけられると、フラムは体をビクンと跳ねあがらせ大袈裟に驚く。

 普通に声かけただけなんだけどなぁ。

「いや、だからさ。何とかして黒幕突き止められないかなぁって。参謀担当のフラムなら、何か思いつくかと思って」

 生憎、俺は頭を使うのは得意ではない。

 こういうのは、得意な人に任せるのが一番いいのだ。

「そうですわね……アルバ様達は、この二日間は刺客を撃退し続けたんですわよね?」

 フラムの問いに、俺は頷く。

「それだけの数を撃退したのなら、単純に此処で殺すのは難しいと悟ってる頃ですわね」

 ふむ、とフラムは腕組みをしながら考え込む。

「……上手く行く保証はありませんが、試す価値のある作戦がありますわ。ただ、これはアルバ様が危険に晒されてしまうので、あまりおススメは出来ません」

「やる価値があるなら、やった方が良いだろ。という事で、やれアルバ」

 ジャスティナは、俺の方をジロリと見ながらそう言い放つ。

「……貴女が決める事ではありませんわ」

「依頼を受けている以上、やるしかないだろう?」

 フラムとジャスティナは、お互いに火花を散らしながら睨みあう。

 ああもう! なんで、この二人はこんなに仲が悪いんだよ!

「おお、これが噂に聞く修羅場という奴か! 楽しそうじゃのう」

 フラムとジャスティナの睨み合いを見て、何故か楽しそうにするノブナガ。

「最初は、お互いによく思わなくて、何度も衝突する。だけど……苦難を一緒に乗り越え内にいつしか芽生える恋! 性別という垣根を越えて育まれる愛の素晴らしさ!」

「同性の愛は認めますが、女性同士は認めません! 男性同士の愛こそ、至高にして究極です!」

 そして、リーベとキリエのぶっ飛び発言。

 そこから色々飛び火してあちこちで言い合いが始まってしまう。

 ……なんだこのカオス。

「ああもう! やるよ! やるから、とりあえず皆落ち着け!」

 俺がそう叫ぶと、皆はシンと黙る。

 まったく! 今は、黒幕を釣る為の作戦を考えてんだから、余計な話題でも盛り上がるなよな。

「こほん……私としたことが、申し訳ありませんでしたわ。それで、作戦の事ですわよね? そにれは、アルカ様のご協力も必要ですわ」

「私ですか?」

 アルカの言葉にコクリと頷きながら、フラムは話を続ける。

「ええ。それと、これは一切他言無用でお願い致します」

「お父様やセバスにもですか?」

「はい。アルバ様のお話を聞いて気になる事がありますので……此処に居るメンバー以外には一切内緒です。よろしいですか?」

 作戦が何かは分からないが、フラムがそう言うなら従おうと思い俺は頷く。

「それで、作戦というのはですね……」

 俺達は、フラムの作戦をジッと聞くのだった。