Goblin Kingdom

Recommended surrender

【種族】ゴブリン

【レベル】10

【階級】ロード・群れの主

【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼《ガストラ》(Lv20)灰色狼《シンシア》(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv40)

パラドゥアゴブリン達の動きを封じた俺は、後顧の憂いをなくしてほぼ全軍でパラドゥアゴブリンの集落に向かう。案内を買って出たのは、若き族長に指名されたハールーである。

その胸の内にある葛藤を奥にしまうと、先頭となって群れの先頭に立った。

最短ルートで、という俺の要求にハールーはよく応えたと言っていい。徒歩であるこちらの歩きやすい道を先導していくその様子は、案内役として申し分のないものであった。

パラドゥア・ゴブリンを下して二日──うち一日は休養のために与えたものだが──を経過するだけで俺たちはパラドゥアゴブリンの住居に到着していた。

遠目に見える集落には、ガイドガゴブリン達が集まっておりその中で巨躯異彩を放つゴブリンが、恐らく族長であるラーシュカであろう。

本拠地の陥落等もあって、その数をだいぶ減らしているガイドガゴブリン達だったが、その数はまだ侮ることが出来そうもない。

それに俺の内心としてこれ以上の犠牲を減らしたいという、迷いもあった。

「降伏勧告ですか?」

今さら何を、と疑問を挟むギルミらガンラの集落の者達。当然だ。彼らにしてみれば集落を襲った張本人が目の前にいる。それを前にしてわざわざ許してやるほど、知恵あるガンラといえどもゴブリンの性は優しくも鈍くもない。

普段冷静なギルミまでもが、俺の判断に疑問をさしはさむその様子から、他のガンラの者たちの反応は推して知るべしだろう。

「そうだ。できればこれ以上の犠牲は減らしたいところだしな」

ありのまま俺の言葉で語りかける。普段のように、即座に了承の返事を返すことはせず、しばらく懊悩したすえに、頷いた。

「王のご意志なら、しかたありません」

不承不承ということなのだろう。

「ですが、もし決裂の暁にはっ!」

いつになく食い下がるギルミの反応に、激情の強さが知れる。

「その時は俺自ら、ラーシュカを倒すことになろう」

「分かりました」

俺の前から下がって、ガンラの氏族たちに説明をしに行くギルミの背中を俺は黙って見送った。

◇◆◇

使者の選定には頭を悩ませたが、結局パラドゥア氏族のアルハリハが引き受けることで話がついた。奴にしてみれば、新参者という立場を早めに脱却したいと考えているのだろう。なんらかの功績を挙げることによって自分と氏族の地位を確かなものにしたい、と願うのは至極当然だと思う。

そしてアルハリハの主張する話にも一定の信ぴょう性があった。

4氏族はその誇りの高さにおいて、他のゴブリンを軽視している。だから、俺の配下が行くよりは、自身が赴いた方がいい、というのだ。確かにガンラのナーサ姫にもそのような態度が見られた。氏族に犠牲を強いたことの責任を取りたいという本人の希望もある。

「よかろう。アルハリハ、貴様に任せる」

それに4氏族で長年族長を務めたアルハリハが自ら行くことによる心理的効果をも俺は狙っていた。長年自身の上位に君臨していたものが、使者として訪れれば激発するか敵の巨大さに慄くか……。むろん俺としては後者を期待するが、前者であっても決して悪くはない。

機動力(パラドゥア)と遠距離攻撃(ガンラ)を手に入れた俺は、自身の手ごまと合わせて激発するガイドガゴブリンに対処するに充分な戦力を持っている。

真っ直ぐに向かってくるイノシシほど、罠に嵌めるに適した物はないだろう。

「喜んで」

その白髪の頭を下げるとアルハリハは、自身の愛騎であるジロウオウに乗り颯爽と駆け去る。もし、最悪の事態としてラーシュカがアルハリハを人質に、あるいは殺害するのなら、それを餌にして群れの団結を図ることができる。

分かりやすすぎる敵というのは、集団を団結させる。今僅かにあるパラドゥア、ガンラ、そして俺の配下達との溝をアルハリハの犠牲で埋めることが出来るのだ。

アルハリハ自身もそのことは重々承知しているだろう。

逆に俺は、この元族長から自身を犠牲に、団結を図れと迫られた形になったといってもいい。

失敗しても成功しても、俺には損失が少ない。

分かっていながら割り切れない、俺の未熟さだった。

「唾棄すべき考えだ」

溜息と共に、沈みそうになる思考を切りかえる。

アルハリハが望み、俺が許容する。アルハリハから言い出してくれたことに、僅かなりとも安堵していた俺の弱い心につばを吐きかけたい気分だった。

「ギ・グー、ハールー、ギルミ、ギ・ザー、ギ・ゴーいつでも戦の支度をしておけ」

副将格であるギ・グー・ベルべナ、パラドゥアをまとめるハールー、ガンラをまとめるギルミ、更にはドルイドをまとめるギ・ザー。最後にノーブル級であるギ・ゴー・アマツキに命じて俺は事態の成り行きを見守ることにした。

◆◇◆

「アルハリハ様がお帰りに」

集落の外でガイドガ・ゴブリン達を統率していたラーシュカに一匹のガイドガゴブリンが伝える。

「出迎えよう」

集まっていたガイドガゴブリンの若者達を引き連れて、ラーシュカは立ちあがる。集落の際まで出て一騎でこちらに向かってくるアルハリハの姿を確認すると、眉をひそめた。

「……一騎だけとは」

「敗れだの゛か? パラドゥアが、まざか」

動揺を口にするガイドガゴブリンの若者達。だがそれも、ラーシュカの鋭い一瞥を受けて黙りこむ。

「ガイドガのラーシュカに申し渡す」

集落に至る道半ばで立ち止まると、アルハリハはその老いた体のどこから出るのかと思えるほどの声量を持って、ガイドガ全員に聞こえるように声を張り上げた。

「ただちに武器を捨て王の前に跪け! さもなくばガイドガゴブリンは全滅の憂き目をみるだろう」

「なんだァ、パラドゥアは敵に、ぐだっだのか……」

「ラージュカざま、あいつを」

殺してしまいましょうと、声をかけようとした若者の一匹は、またもラーシュカの視線にその口をつぐまざるを得なかった。激発する者のもいる中、同時に呆然と戦意を喪失される者たちもいた。ラーシュカの周りでも例外ではなく、それらのものは、ただ茫然とアルハリハの姿を見守っていた。

「全滅……」

顔色の悪くなっている何匹かの表情を確かめると、ラーシュカの中にも忽然と怒りがわいてきた。

そもそもアルハリハとて、手を組んだときに分かっていたはずなのだ。4氏族の力を一つにまとめ、深淵の砦を攻略する。

でなくば、4氏族に未来はない。少なくとも、祖先の誇りと共に生きていくことは出来ない。

分かっていながら、なぜ。と考えラーシュカが思い当たったのは何気ないアルハリハの言葉。

──東から来たというガンラの援軍。灰色の三本角に、尻尾付き。

誇り高いアルハリハが、このようなことを引き受けるなどよほどのことなのだ。

「東から来た、ゴブリン」

まさかと思う。自身が待ち望み、そしてそんな者はいないのだと絶望した存在。ゴブリンを救済してくれる王という存在。

「……今さら」

王に絶望したからこそ、パラドゥアと手を組みガンラを強引に手に入れようとしたのだ。

「返答は如何に!?」

槍を手に呼ばわるアルハリハの前に、ラーシュカが一匹だけで歩を進める。

「恥知らずなアルハリハ! 我らは誇りを忘れた貴様などと生きる大地を持たん! 消え失せて、犬よろしく主に伝えろ」

怒りのままに手にした槍を投げつける。放物線を描いて飛んだ槍は、アルハリハの前に突き刺さった。

「後悔はしないのだな!?」

「貴様ら恥知らずと手を組んだことが、我らが後悔だ!」

剛腕を振るって、相手の妄言を払いのけるラーシュカの言葉に、アルハリハはゆっくりと頷いて背を向けた。

背を向けたまま、アルハリハが槍を掲げる。

その時周囲の森から一斉に喚声が響き渡った。地を揺らし、森を震動させるゴブリン達の喚声にガイドガゴブリンは慌てふためき、右往左往するばかりだ。

内心してやられたと思いながら、ラーシュカは自身の氏族をしかりつけ、鎮めて回るしかなかった。

「おのれ、アルハリハ!」

憎々しげに背を向けるアルハリハに視線を向けた時、その姿を見た。

「ガイドガの族長よ!」

アルハリハなどに構ってはいられないと、一瞬だけ視線をそらした隙に恐らく森から出てきたのだろう。灰色の三本角に、揺れる尾、黒々とした鬣が風になびき、さらに肩に大剣を担ぐ。全身からにじみ出るその威圧感が、強者の存在を語っていた。

「……」

ここに至って、ラーシュカは先ほどの激情から立ち直っていた。4氏族で最強と目されるゴブリンはただ腕力だけでそう呼ばれるのではない。冷静な判断力と果敢な意志とを併せ持つ戦場の勇者である。

あれが、東の集落ギの王を名乗るゴブリンなのだろう。にじみ出る威厳と、他を圧する存在感。幾多の戦いをくぐりぬけてきた歴戦のラーシュカをして、瞠目させるに値するその姿。

その姿を目にして、沈黙以外の答えがラーシュカに残されてはいなかった。

先ほどアルハリハの裏切りに激怒したが、今はそれも納得できる。まるで引力のように、視線をひきつけてやまないあの迫力。

「ガイドガの族長よ!」

地を震わせ呼びかける声のなんと雄大なことか。

「応っ!」

応えねばならない、自身の胸の内からわき出す感情に任せてラーシュカは牙をむき出しにして威嚇した。

「我が剣に応える気概はあるか!?」

遥か天空を指して高々と掲げられる漆黒の炎を纏った大剣が、ゆっくりと自身を指す。その剣先を向けられているだけで、氏族のことも深淵の砦の危機のことも、頭から抜けて落ちていく。

勝ちたいと、ただ目の前のゴブリンより高みに登りたいと、思わせてくれるその威風。

「ミーシュカが子ラーシュカが、受けて立つ!」

牙をむき出しにして、吠える。

目の前に居る強者に己の力を認めさせるのだ。