Godly shop's cheat fragrance
Episode 102: The Wilderness's First Outdoor Store
露店を始めるとポツポツと人が来た。カウンターに並べた大きい芋が珍しいらしい。本当は七輪で試食を作りたかったのだが、飲食ギルドと揉める可能性があるからやめておいた方が良いと忠告された。
広場を歩く人たちの表情は皆明るい。ぜひこのまま何とかうまくやっていって欲しいものだ。
開店すると、初めは比較的服装がまともな人たちがのぞきに来た。そういう人たちは食料を求めて歩き回っているそうなのだが、ここ数日の混乱でなかなか食べ物が手に入らずに困っているらしい。
普段だったら買わない値段だが、今ならこの量でこの値段なら安いと思う。問題は食べたことがないのが怖いと口々にしていた。
そこで最初は1つとか、場合によっては主婦二人が話し合い半額づつ出し合って1つを買うなどと言った行動が目立った。俺は知っている限りの料理法を伝えて行く。一度粉に加工する方法なども教えた。
買ってくれた人全員にシンボルを渡していく。
「これはなんだい?」
「おまけですよ、えーと、私の生まれ故郷のお守りみたいなもんです」
まあ遠からずって所だな。うん。
そんなこんなで夕方までには40人弱に販売できた。
ちなみに客に見知った人間が一人来た。2つもお買い上げいただいたのでこっそり1本おまけしておいた。あめ玉を口の中に放り込んでやったら小躍りしていた。目立つからやめて。
途中芋を買い足したりなどしたが、その辺の計算は後でまとめて。
「今夜は交代で露店の見張りかな」
ヤラライと話し合っていると、今日もヴェリエーロ商会から人が来てくれた。最初は断ったのだが、チェリナとフリエナからきつく言われてるので困ると逆に懇願されてしまった。
僅かな小銭をチップとして渡し、さらに。
「良かったら箱の中の芋を食べてください。まだ一袋ほど残っていますので。交代要員に来た方へもお伝えください」
そこで七輪も炭も持っていないことに気がつく。
「一度商会に寄って火をもらってきますね」
商会の小僧は初め遠慮していたが俺が「挨拶もしたいから」と押し切った。
商会に向かう途中、急いで革製の鞄を買いに行った。
【中型の革袋=4920円】(6300円)
【大型の革袋=1万8270円】(2万1000円)
【革バッグ=3万0830円】(3万円)
芋関係の金額を別にして以下の金額に変わる。【】で囲まれたのがリストに追加された金額で()で囲まれたのが店で買ったときの値段だ。
残金428万0771円。
露店ではなく革製品の店舗にいったのだが、なぜかいきなり「ヴェリエーロ商会の若旦那?!」とか言われた。しっかりと否定しておいたがいったいどういう噂が流れてんだか……。
誤解はあったが彼の勘違いのおかげで値引き交渉はかなり楽だった。
こっちがたいしたことを言わずとも、どんどん値引きしていくのだ。相変わらずSHOPの価格が原価なのか販売価格なのか不明なのだがサンダルの件を考えるとかなり頑張ってくれたのでは無いだろうか?
さて購入したのは3点。中型の革袋はヤラライが持っていたアイテムバッグに近い形を選んだ。大型の革袋は念のためと言ったところか。子供ならすっぽり入りそうなアイテムバッグは一応存在するらしいと言うことで購入しておいた。
だが一番目を引いたのは革製のバッグであった。ショルダータイプでボストンバッグか一回りほど大きい作りだ。
鋲打ちで作りもしっかりしていて日本に持って行ってもシンプルで受けそうなデザインである。これなら背広と一緒に持っててもバランスが取れそうだ。
ヤラライにこういうアイテムバッグが存在するか聞いてみると、たまに出回っているらしい。そこで一も二も無く即座に購入した。
もっとも普段これをアイテムバッグとして見せるのでは無く、このなかに中型の革袋を入れておき、そこから出し入れすれば良いという判断だ。ちと面倒だがそれなら目を付けられることも無いだろう。ヤラライもその使い方なら問題無いと太鼓判をくれたので、今後そうすることにした。
そして商会に向かっていたのだが、ずっと試そうと思っていた事を一つ思い出した。重要度が低いので完全にすっぽ抜けていたとも言う。
「そうだ、ちょっとこれを見てくれないか?」
俺は路地裏に入るとコンテナから新しい商品を取り出す。
【紀州備長炭(1kg)=2150円】
残金427万8621円。
小さめの段ボールに入った最高級炭だ。……紀州産なのか? ほんとか? あと紀州って備長炭で有名なのだろうか……疑問は尽きないが、取り出してみると断面の綺麗なやや細めの炭だった。
「ほう、これはなかなか良い炭だな」
ヤラライがエルフ語で答える。だんだんどの言語で喋ってるのか区別がつくようになってきた。
「そうか。エルフも作ってるんだよな?」
「ああ、我らの炭には少々品質で劣るがヒューマンが作れるものとしては最高の物だろうな」
なるほど。エルフはもっと凄い炭を作れるのか……ちょっと想像がつかんが。
「それがわかれば十分だ」
「意味があるのか?」
「すぐわかる」
ヴェリエーロ商会に行くと空はもう暗くなり始めたというのに従業員たちは忙しく動き回っていた。悪いと思いつつ、ちょうど顔を覚えていた小僧が横切ったので呼び止めた。
「ああ! これはアキラ様! 今日はどのようなご用で!」
あれ? 随分態度が違うな……。前はもっとこう「チェリナ様に近づくな!」オーラ満載だったと思うんだが……。今は一緒にいないから……か?
「すまないんだけど、メルヴィンさんかフリエナ……様に会いたいと伝えてくれないかな」
「はい! わかりました!」
小僧は元気よく答えると商会の建物にすっ飛んでいった。
俺はヤラライに向けて肩を持ち上げると、彼も無言で肩をすくめた。
「こちらにどうぞ! アキラ様!」
すぐに小僧が戻ってきて商談室に案内してくれた。出されたお茶を一口啜る間もなくフリエナが入ってきた。この人は本当に仕事をしてるんだろうか?
「遅い時間にすみません。ちょっとお話がありまして」
俺が切り出すと彼女は眠そうな笑みで答えた。
「問題ありませんよ。チェリナでももらいに来ましたか?」
なんでそうなる。
「いえいえ、ちょっとこちらの七輪とできれば試作の炭をいただきたく思いまして」
続けて露店での事を説明をする。
「なるほど。差し入れですね。炭は近いうちに販売ルートに乗せる予定ですので問題無いでしょう。用意させて持って行かせます」
俺が持って行くと言ったが、それは固辞された。
「それとは別件でお話があるのですが」
フリエナは目をすっと細めた。
「なんでしょう?」
俺は鞄から革袋を取り出す。そこで彼女はヌルリとした笑みを見せたが、無視して用意しておいた備長炭を一束取り出す。段ボールは外してある。
「炭ですね。……しかし」
どうやら彼女は一目で商会が作っている物と違うことを悟ったらしい。
「はい。これはエルフも認める(・・・・・・・)最高品質の炭です」
彼女は一度ヤラライに視線を移した後、備長炭に視線を戻した。
「最高品質ですか」
俺は頷いた。
「はい。色々お世話になっていますので、サンプルとして提供いたします。よければご活用ください」
俺は2本手に取ると炭同士を軽く打ち合わせる。キーンという金属質な音が響いた。
「目的にもよりますが、料理に使うのであればこの様なタイプの物が最高です。和紙の湿気取りに使うのであれば、これは向いていませんので、色々研究してみてください」
彼女は一度扇子を広げると、パチンと閉じて見せた。
「ありがたく頂戴いたしますわ」
「はい。お納めください」
話は終わりだと立ち上がろうとしたら、呼び止められた。
「アキラさんは炭と和紙、売れるとお思いですか?」
難しい質問が来たな……。
「正直に言うとわかりません。実際に制作するとなると人件費などの制作費もあるでしょうし、どこまで受け入れてくれるかわかりませんから……ですが和紙に関してはそれなりに売れると思いますよ?」
炭に関しては全く不明だ。薪は普及しているわけだしな。
「貴方は和紙をそれなりに成功すると思っているのに、当商会に対価を求めないのですね」
うーん。最初に飛び入りの商談をしてもらっただけでも十分恩義に感じてるから、お返しの意味合いの方が強い。
さらに言うと相談役として雇われているのだから、この手の意見は給料内だろう。もらってないが。
まあチェリナの事だ、しっかりと適正価格を渡してくれるだろう。
「それではいずれ大きな取引でもさせていただきましょう。今はその約束だけで十分ですよ」
俺が商談用の笑顔でそう言うと、彼女は扇子を手の中でくるりと回した。器用だな。
「そうですか……わかりました」
今度こそ立ち去ろうと、扉の前に立ったとき。
「アキラさんの露店の商品は数は揃っているのですか?」
俺は少し考えて振り向いた。
「ええ。数は十分に揃えています」
下手に少ないとか答えて、露店が見張られていたら変に思われるからな。念のため。
「そうですか。わかりました。それでは良い夜を」
フリエナが妖艶に微笑んで話は終わった。
その笑みの意味を知るのは後日の事だった。
宿に戻るとまたもハッグは帰っていなかった。
随分忙しいらしい。
昼食と夕飯合わせて二人で2766円掛かった。
残金427万5855円。
この日はナルニアをちょっとからかって就寝。
メルヘス神さんよ、俺はこのくらい普通の日々を望んでいるんだぜ?