Godly shop's cheat fragrance

Episode 1: Traveling with the Three

 俺たちが経済自由都市国家テッサを出立して半日ほどが経とうとしていた。

 太陽が真上に立ち、影がほとんど見えない。

 なお出立してからずっと横に座る筋肉ドワーフがうるさかった。

 彼は通称「<放浪鉄槌>ハッグ」

 二つ名持ちのドワーフである。普段背中に背負う巨大な鉄槌でマンモスもかくやという巨大バッファローをいともあっさりと撃退する戦士である。

 だが自称発明家である。その辺は胡散臭いと思っていたら、どうやら結構凄い腕を持っているらしい。びっくりである。

 さて、そのハッグの何がうるさいかと言えば……。

「ええい! いい加減ワシにも運転させんか! さっきから後で後でを繰り返すだけでは無いか!」

 ……と、これである。

 正直たまらん。

 元の地球ですら、地域によっては家が土地付きで買える金額を払ったこのキャンピングカー(・・・・・・・・)を無闇に運転させる気にはなかなかなれない。

「だから、そのうちな。しばらくはどんなもんかだけ覚えてくれ」

「ふんっ! 馬鹿にするでないわ! そのわっかは船の舵と同じじゃろ。そして足で踏んでおる板の強弱で進む強さを決めて折るんじゃろ? すぐに理解したわい!」

 どや顔である。

「まぁ間違っちゃい無いが……足の板(・・・)は後2つあるわけだが、これがなにかわかってるのか?」

「ぬ……」

 そう。足の板は合計3枚。

 つまりこのキャンピングカーはマニュアル車なのである。しかも左ハンドルの。

 上司のアメ車を運転した経験が無ければきっとあの旅立ちの時、エンスト繰り返して恥をかいていたところだ。あの別れ方でエンストしてチェリナに追いつかれていたら目も当てられない。きっともの凄く気まずかったに違いないな。

 まあそんな事はさておき、せめてオートマだったらハッグにも少しくらい運転させても良かったんだが……。

「こっちの棒の意味もよくわかってないだろ?」

 そう言ってシフトレバーを指で突く。するとハッグは口をつぐんで「ぐむむ」と唸った。

 ドワーフの足の短さをどう処理するかは問題だが、その辺が解決するようだったらハッグにも運転してもらおう。

「運転は一人だけじゃ疲れるから、ちゃんと覚えてもらうから安心してくれ。しばらくは俺も慣れないとだしな」

「ふむ……男の約束じゃぞ」

「了解」

 実際ずっと運転は勘弁である。途中1時間でも交代してもらえるとかなり楽である。この辺は運転する人間にはわかってもらえるだろう。

 高速道路であればPAかSAがあるのだが、残念ながら異世界にはそんな便利な物は無い。幸いトイレも水道も揃っているので、掃除さえ小まめにやれば困ることは無いだろう。

「さて、そろそろ休憩するか。腹減ったろ?」

「おお! 物珍しさにすっかり忘れておったわい! 言われたら急に減ってきたわ! ぐわはははは!」

 聞いた途端に腹の虫が盛大になるのだから現金な物だ。

 だが好きな物に夢中になっている間は、寝食も忘れるというのはわかる話だったりする。

 俺は轍が続く道とも言えない道を少々外れ、大岩と少々背丈のある木の間に車を滑らせた。荒野と言っても3m程度の木々がところどころには生えているのだ。

 俺はキャビンと運転席を結ぶ小さなドアについた窓を開けて、後ろに乗っているエルフのヤラライに声を掛けた。

「飯にするぞ。降りようぜ」

「うむ」

 答えたのは金髪ドレッドでネイティブ・アメリカン装束のエルフという、格好だけで言ったらファンタジーをぶち壊す出で立ちをした長身のエルフだった。だがイケメンである。

 彼の名はヤラライ。

 <黒針>ヤラライである。

 こいつも二つ名持ちである。厨二である。他人事なのに赤面しそうだ。

 彼は普段その名前の由来である黒針……つまり超極太のエストックを背中に担いだ細マッチョ戦士だったりする。エルフってそういう生き物だっけ?

 そのヤラライはキャビンのソファーにちょこんと座って大人しくしていた。ハッグと違って細かいことは気にならないらしい。

 もしかしたらエアコンに驚いているのかもしれない。

 俺とハッグが車から降りると、ヤラライもドアを開けて降りてきた。

 せっかくだからキャビンのシンクを使っても良かったのだが、それはまた今度にしようと思っている。そもそもまだキャビンの機能を良く調べていないのだ。

 そうだ。色々充電しておけば良かったな。まぁ後でいいか。

 プライオリティーの低い問題は全部後回しである。

 とりあえずまだシンクを汚したくなかったので、外で良いだろう。

「それじゃ、昼飯にしますか」

「うむ」

「手伝う」

「ククク……ようやく昼飯かの」

 ……あれ? なんか今返事が一つ多くなかったか?

 俺が疑問符を頭に浮かべるより早く、ハッグとヤラライが武器を構えてキャンピングカーに向けていた。

 おい! 何やってんの! 車壊したら飯抜きじゃすまねーぞ?!

「何やつじゃ?!」

「誰だ?!」

 ハッグとヤラライが同時に鋭く誰何した。声に恐ろしいほどの緊張感を纏って。

 そこでようやく尋常で無い事態が起きていることをおぼろげながら理解して、慌てて「光剣」の空理具(くうりぐ)を取り出した。

「ククク。なかなかええ反応じゃな。悪くない」

 ハッグとヤラライの視線の先、つまりキャンピングカーの上に視線を移すと、妙なシルエットが浮かんでいた。

 それは人型をしていた。

 二人が恐れる割に小柄に見える。ただ腕だけはやたらと太い。いや違う、どうやら妙にでかいガントレットをしているらしい。

「……あ」

 そこで俺はその人物の事を思い出した。

「ククク……思い出したか」

 言いながら彼女(・・)は俺たちの前にひょいと飛び降りてきた。

「ククク、久しぶりじゃの。商人」

 それはキャッサバを売っていた時の客の一人だった。