Godly shop's cheat fragrance
Episode 3: Stir-fried Three and Vegetables
「ククク。違う違う。この身を自由にして良いと言っておるのじゃ。もちろん夜にの」
黒銀のポニーテールを揺らしながら可愛い美人にそんな事を言われたら、普通の男であれば悪い気はしないだろう。角が生えているが、気にする人間は少なそうだ。
だが俺はため息しか出なかった。
どうやらこの娘は年上をからかうのが好きらしい。
このまま問答を続けても建設的な結論に行き着くとは思えなかったので、俺は彼女の要求する昼飯を作ることに決めた。
もちろん代償を求めるつもりは一切無い。
「まあいいか」
俺はキャンピングカーのサイドに取り付けられているタープを伸ばして日陰を作った。
「おお! 便利じゃの!」
戦士にして発明家のハッグが早速食いついてきた。
ドワーフのおっさんがはしゃぐな。暑苦しい!
さすがにかなり大型のキャンピングカーだけあって、タープのかなり大きく長い。十分な日差しが出来ると暑さがだいぶ和らいだ。
料理を始めようとして問題が2つあることに気がついた。
一つは少女がいるのでSHOPを使えないこと。
もう一つは、せっかくチェリナからもらった服を汚したくなかったこと。
少し悩んでから解決方法を思いついた。
「ちょっと着替えてくるから待っててくれ……そうだ、ハッグなら小型の竈とかすぐ作れるか?」
「そんなものは昼飯前じゃわい」
「じゃあ頼む」
「うむ」
ハッグの快い返事を受けて、俺はキャンピングカーのキャビンへ身を移した。
俺はチェリナからプレゼントされた滅紫(けしむらさき)がベースの民族衣装をゆっくりと脱いで、清掃の空理具(くうりぐ)で汚れを落とした。
空理具とは俺たちの常識的には魔法の道具である。一つの道具につき、一つの能力が封じ込められている。今使ったのは清掃の空理具で、指定した物の汚れを落とす効果がある。
なおこの世界では魔法とは呼ばずに理術と呼ぶようだ。正直どっちでも良いじゃ無いかと突っ込みたいが、魔法と呼ぶと宿屋の少女にすら馬鹿にされるので素直に理術と呼ぶようにしている。
清掃の空理具で理術を掛けると、うっすらと服に砂が浮き出る。これが汚れの塊らしい。車のバックドアを開けてその砂を手で払うと簡単に落ちる。この砂は再び付着しないらしい。
丁寧に畳んでから、服をコンテナにしまった。
コンテナと言っても船着き場に山積みになっている鉄の箱では無い。この世界に飛ばされてきたときに、自称神さまからもらった能力の一つである。
その神の事に関しては余り語りたく無いので今は割愛する。
コンテナとは俺の身体の中か、異空間かわからんが、どこかわからない場所に物を収容する能力だ。現在55個の品物を出し入れできるスペースがある。
サイズは関係無く、荷物1つにつき1つのスペースを消費する。このキャンピングカーすら1つのコンテナに収まるし、逆にペットボトル1本でもコンテナ1つを消費する。この辺やたらゲームっぽいシステムだ。
目をつぶって念じると、妙にゲームっぽい画面が出てくる。いやどちらかというと表計算ソフトっぽいか。
コンテナやSHOPといったリストが表示されている。
俺は念のためコンテナのリストを確認すると……。
「あれ?」
どういうわけかリストには
【テッサ民族衣装(オリジナル)】
と表示されていた。
この(オリジナル)表示には覚えがある。神さまの印であるシンボルの時に見た。
そこで今度はSHOPのリストを確認してみた。
【テッサ民族衣装=13万2900円】
オリジナル表記の無い商品が追加されていた。デフォルメされたアイコンも表示されているのだが、オリジナルの方は紫っぽい色調で、SHOPに表示されている方は茶色っぽい色調だった。どやら似て非なる物らしい。
さて神さまからもらった能力がもう一つある。それがSHOPだ。
これはコンテナと連動していて、どこからともなく商品を購入出来るという謎能力だ。コンテナに関しては、この世界にはアイテムバッグという異空間に物をしまえる理術を使った品が存在するのでまだ説明はつきそうだが、このSHOPに関しては完全に意味不明な能力である。
まずもって円でのやり取りというのが意味不明すぎる。
こっちの世界で円なんてどうしようもないと思っていたら、どういうわけか全て円として変換されているので問題は無かった。
そしてこのSHOP、神格というレベルが存在して、その高さに応じた商品を買い求めることが出来るのだ。残念ながらレベルが上がると勝手に商品が増える訳では無く、こちらが要請しないと品物は増えないのだが。
また、どうやら、元の世界、つまり日本や海外を含む地球の商品を要請することは出来るが、この世界の品物は要請しても受け付けてもらえないらしい。
代わりにこちらの世界の商品は、一度コンテナにしまうと、SHOPのリストに載り購入でいるようになるというシステムになっていた。
実にふざけたシステムである。
そんなわけでこちらの世界製の服をコンテナにしまったのだが、本来であれば普通に民族衣装が登録されるだけなのだろうが、今回はちょっと特殊だったらしく、元の服はオリジナルとして増やせないらしい。代わりにコピー品は購入出来るようだが。
金に余裕があったら、そちらのコピー品を購入したいところだったが、登録価格を見て諦めた。この自動で登録される価格も謎だぜ。
買えない物はしかたない。
何と言っても現在の残金は29万0859円しかないのだ。節約しないとガソリンがヤバイのです。
ならば今まで通りスーツのズボンとYシャツでいいかと、コンテナから取り出した。
「ククク……なるほどのぅ」
俺は女性の声にギョッとして振り向いた。一体いつからそこにいたのか、ソファーに深く腰をかけて、腕を組み、足をテーブルに投げ出している、角少女がそこにいた。
「えっ?!」
俺は思わず固まってしまった。パンツ一丁で。
「アキラ?!」
ばんっと音を立てて扉を開き、入ってきたのはヤラライだった。
「っ!」
ヤラライはソファーでくつろぐ少女を見て、苦虫を噛みつぶしたような表情をした。
「……すまない、見失った」
「ククク、すぐに反応出来ただけでも大したものよ」
俺は少女の楽しそうな、意地の悪そうな顔を見て聞いた。
「見た?」
「ククク……ばっちりと」
「OH! NO!」
俺は思わず天を仰いだ。
「ククク。安心せい。誰にも言わんよ。秘密は大好物じゃからな」
「……さいですか」
信用して良いのかどうかわからない、頼りの無い約束をいただいた。ヤラライですら見失う奴相手に秘密を守り通せるものでもないが。
「あー。是非秘密にしてください」
「ククク……そうじゃな。条件がある。ワレを毎晩可愛がってくれれば……」
「それ以外でお願いします」
「ククク……童貞でもあるまいに初心じゃな。まあよい。ならば飯を所望するぞ。美味い奴じゃ」
「初めっからそれが目当てだったんだろ?」
もう敬語や〜めた。
「ククク。どうかな?」
「はぁ。もうどうでもいいや……」
俺は手早く着替えると外に出た。
すると竈を作り終えたハッグが顔を上げる。
「……」
無言ではあったがどこか申し訳なさそうな表情だった。ハッグとヤラライ二人がかりで遊ばれる相手にどうしようもないだろ。
しかしなんでまたあの娘さんはうちらの所に来たんですかね?
「ハッグ。米を頼む」
俺は米と水と圧力鍋を取り出してハッグに一式を渡す。いつの間にか炊き方を覚えているあたりこいつも結構な食いしん坊だ。
「うむ。任せておけい。この鍋も近々作りたいのう」
ハッグは陶器の水入れを岩の上に置いた。
「ちょい待ち」
俺は清掃の空理具を取り出してハッグの両手に発動する。
「一応水でも手を洗ってくれ」
「お主は細かすぎんか?」
「お前は鉄の事以外大ざっぱすぎるんだよ」
「ふん。まあ了解じゃわい」
「おっと、炭も出さないとな」
「火は熾しておくから渡すんじゃ」
「助かる」
ハッグは見せびらかすようにお手製金属カード製「火」の空理具を見せつけてきた。今度俺の奴も金属型に作り直してもらおう。格好いいしな。
そんなこんなで、適当に鮭とキャベツと白菜の野菜炒めもどきとご飯の昼食が出来ると、欠食児童たちが集まってきた。
「ククク……これは美味そうな香りじゃな。先ほどから腹の虫が治まらなくて困ったぞ」
「食べるのは良いんだけどよ、そろそろあんたの目的を教えちゃくれないか?」
「ククク。ファフと呼ぶが良い」
「……わかった。ファフ。あんたの目的は?」
「クククっ! そんな物は秘密が沢山ありそうだったからの! 思わず飛び乗ってしまっただけじゃ!」
「秘密って……」
「ククク。言ったであろ。ワレは秘密が大好物だとな」
「まぁな……はぁ。まぁそれでいいや。とりあえず食おうぜ」
「うむ! 待っておったわい!」
ドワーフさん空気を読んでください。
なし崩し的に昼食が始まった。
ちなみに味は大変に好評だった。
残金28万9465円。