Godly shop's cheat fragrance

Episode 13: The Three and the Traveler

「じゃあこれを朝と晩、食後に2錠ずつ7日間休まずに飲むこと」

「これは……薬か? 高いものなんだろう?」

「まあ、払えるだけは払ってくれ」

「わ……わかった」

 髭男は顔を真っ青にしながら男に薬のシートを渡した。30錠入っている。震える手でそれを受け取ると大事そうに腰の袋に仕舞った。

「薬は2錠余るが予備だ。残ったら次の朝に飲みきってくれ。絶対に別の人間に飲ませないこと」

「え? どうしてだ? 治ったらそこで飲むのを止めて……」

「ダメだ。この薬は途中で止めるとかえって害が出るんだ。必ず飲みきること。約束が出来ないなら返してもらう」

「わ……わかった。そういう秘薬なんだな?」

「そうだ」

 本当はただの抗生物質だが、中途半端に飲むと生き残った病原菌やらウィルスやらが突然変異を起こすかもしれないからな。一度死滅させるためにも飲みきってもらわないと困る。

 もっとも耐性菌が出来たところでこのおっさんが再び抗生物質を飲む可能性は無いだろうが。

 髭男がチラリとヤラライを見やったので、きっとエルフの秘薬とでも思っているのだろう。プラスチックに似た樹液もエルフが使うらしいしな。

 痛み止めは渡さなかった。野郎ならそのぐらいは我慢出来るだろう。それにずいぶんタフな男性らしいしな。

「それじゃあ出発したいんだが……全員乗れるか?」

「ワシとファフが天井に乗れば大丈夫じゃろ。エルフは走れ」

「ほう……その喧嘩、買った」

「ええじゃろ、そろそろ決着をつけんと——」

「けが人もいるんだからな。喧嘩するなら二人とも置いていくぞ」

「それでも良いが……はぐれたらまぬけじゃからのう……」

「正直なところ言っても良いか?」

「なんじゃ?」

「歩くならハッグに歩いて欲しいんだが」

「なんでじゃ?!」

 そりゃあ怒るよなぁ……。

 俺は無言でハッグの身体と、鉄槌を指差した。

「正直に言うと、これだけ乗せたらタイヤが保つかかなり怪しいんで、金属の塊は下ろしたいというか……」

「ぬ……」

 ハッグは眉を顰めると30人近い人数を見やった。

「ククク。元気な者は全員徒歩で良かろ。水を飲ませたら若い奴らは落ち着いたのじゃ」

「俺も、歩く」

 ファフとヤラライのセリフを聞いていた村人たちが、口々に「歩きます」「大丈夫です」と言ってきた。どうやら村まではゆっくり歩いても数時間らしいので、彼らには歩いてもらう事にした。

「途中までは馬車もあったのですが……シマウマが潰れてしまって……」

「ああ……シマウマ馬車ね」

 あの違和感には未だに慣れない。だが、この地域の人間はたまにシマウマを使っている。馬よりは手に入りやすそうではある。

 そう言えばチェリナと街歩きしたときに聞いたら、普通は売っていないらしい。馬やロバは繁殖方法や育成方法が確立されているが、シマウマは手間ばかりかかってかえって高くなるのであまり市場に出回らないらしい。

 だが、田舎の村などではたまに独自の育成方法を持っていて、そういうシマウマが稀に市場に出回るらしい。

 気になって彼らに聞いてみたら、まさに村で育てたシマウマだったようだ。

 とりあえず馬車も村も街道沿いと言うことなので進むことにした。

 結局じいさんばあさんと髭のおっさん。それと何人かの主婦が車に乗ることになった。初めおっさんは歩くと言ったが、ヤラライに頼んで肉体言語で言うことを聞かせた。大けがの後に歩くとか熱で死ぬフラグだわな。

 エアコン全開の車内で、じじばばが祈り始めた。やめて。

 徒歩に合わせてめっちゃスローで車を進める。ファフは隣である。それと最初に俺たちに逃げろと言ってくれたお嬢さんだった。

 彼女は村の人間ではなく旅人なのだそうだが、運悪くこの騒ぎに巻き込まれてしまったらしい。だが村人よりは街道の知識がある彼女が村の若者たちを先導して逃げていたらしいのだ。かなり無理をしたらしく、いつの間にか足を挫いて腫れていた。

 ファフ曰く骨に異常はなさそうだから冷やしておけば良いだろうと言うことで、今はバケツに水をいれて、そこに足を突っ込んでいる状況だった。

 さすがに氷を出すのはやりすぎなので、自重している。

「あの……遅くなりましたが、本当にありがとうございました。私はユーティスと申します」

「ん? ああ、成り行きだから気にすんな。それよりそっちこそ災難だったな。どこに行く予定だったんだ?」

 特に意味の無い雑談である。

「ピラタスという西の果てにあるという国なのですが、ご存じですか?」

「ああ……俺はそこから来たんだよ」

「まあ……」

 彼女、ユーティスは見た目は細いが、所々では結構筋肉がついている。中距離マラソン選手的と言えば通じるだろうか。フルマラソンランナーほど細くも無く、短距離ランナーほどマッシブでもない。胸も大きすぎず小さすぎないあたり、女性から見たら理想的な体型なのでは無いだろうか?

 髪色は緑色である。どうやらこの世界の髪色は千差万別のようだ。やはり似て違う種なのだろう。

 そんなスポーティーなユーティスは車の中をまじまじと見回した。

「あの、ピラタス国にはこのような物が沢山あるんですか?」

「まさか。このアーティファクト(・・・・・・・・)は俺が独自のルートで手に入れたんだ。もちろんその辺は極秘事項だから喋らねぇぜ?」

「あ、そうですよね。失礼しました」

 彼女がペコリと頭を下げる。

「いやいや、謝るこたぁーねぇぜ」

「それにしても馬もいないで走る馬車とは……」

「ああ。すげぇよな」

 俺はそらっとぼけて賛同しておいた。

 細かいことは俺にもわからんと言外に伝えたつもりだ。

「ちなみにピラタスな、無くたったぜ?」

「は?」

「ククク……」

 俺の悪戯な発言に間抜け面になるユーティス。

「冗談じゃねーぜ。実は革命が起きてな。あっと言う間にピラタスは消滅した」

「それは……」

「ああ、安心して良いぜ。何しにいくかわらねーけど、前よりは良くなってるはずだ」

「そう、なんですか?」

「おう、騒乱自体1日か2日で収束したからな。随分手際が良かったぜ」

「……」

 ユーティスはそこで無言になってしまった。そりゃあこれから向かう先が大きく変わっていると聞かされたら考えることも増えるだろう。

「ま、危ないことはねーよ。今は漁業ギルドの連中が中心になって自警団なんかをやってるしな。前よりも犯罪は減ったらしいぜ?」

 もっとも出る数日前に商人から雑談で聞いた話ではあるが。俺の目から見ても、暗い雰囲気というのはほとんど無かったように思う。

「黙ってても良かったんだが、一応な」

「いえ、助かります。ただそんな話ならもっと噂になっていてもおかしくないかと思いまして」

「ああ……この馬車が本気で走ると、馬の全力疾走くらい出るからな」

「え……?」

「それに俺がテッサ……ああ、新しい国の名前な。そこを出たのは革命が成功してあまり日が経っていない頃だ。大抵の商人はごぼう抜きしてる。もっとも旅立つまでしばらくは滞在したから、おっつけ情報は出回るだろうよ」

「そうなんですか」

 再び無言。

「どうした?」

「……いえ、これからどうしようか少し考えてしまいまして」

「そりゃそうだよな。とりあえず俺から言えるのは、新しいテッサは良い国……になるって事だな」

「随分と確信を持っていますね?」

「ああ、偶然だが、新しい国を作っていく連中と顔見知りになってな。あいつらなら悪いようにはならねーよ」

 紅いのや、キモいのや、色黒や、目つきの鋭いのや、おっぱいなどを思い出す。いや最後のはいらんな。

「ありがとうございます。せっかくですから一度村でゆっくり考えてみますね、アキラさん」

「おう……」

 しばらくセカンドギアで超低速を、足が攣りそうになりながら慎重に運転した。この速度を維持するのは難しい。

「……あれ? 俺って自己紹介してたっけ?」

「皆さんに呼ばれてましたから、違いましたか?」

「いや、合ってる。俺はアキラ。よろしくな」

「はい。よろしくお願いします」

「ククク」

 時々挟まるくぐもった笑いは無視することにした。