Godly shop's cheat fragrance
Episode 50: The Debris Family and the Light of Truth
セビテスの悪所、東スラムに暴風が吹き荒れていた。
一帯を占める巨大マフィア<新月を駈けるシマウマ>が壊滅し、それに寄り添う大小の下部組織や協力組織が、ここ数日で消え去っているのだ。
黒髪の人間、金髪ドレッドのエルフ、巨大な鉄槌を担いだドワーフの三人組が、昼夜を問わず、東スラムを回っているというのだ。
普通に考えたら、根も葉もない噂として流される類いの話だが、西スラムに少しでも関わりのある人間であれば、それが事実であることを直感的に理解した。
さらに、最近セビテスに入り込んできた新興のマフィアも根こそぎ憲兵に突き出しているという。
そしてそれは事実であった。
憲兵に突き出された犯罪者たちは、恐怖の表情で自らの悪行を語るのだ。
一体どれほど恐ろしい事があったのか。それだけは頑なに誰も語らなかったのだが。
そして、ある夜、ある場所にて。
「……これが資料だ」
バサリとテーブルの上に置かれた羊皮紙の数々。
そこに書かれているのはセビテスの裏の情報であった。
薄暗い部屋の中に三人の老人が眉間に皺を寄せていた。
「新参者がやってくれる」
「メッサーラ……あんたは散々だな」
「このアキラという男は何者なのだ?」
「わからん。だが、アイガス教会がやたら気にしているらしい」
「アイガス教会が……? なぜだ?」
「不明だ」
「ふん。弱小教会など放って置けば良い。それよりもこれからの話だ」
「憲兵隊の口封じはどうなっている?」
「……芳しく無い。隊長格であれば、ある程度抑えられるが、もう無理だ」
「それでは……」
「露見も時間の問題かもしれん」
「馬鹿な……」
「ふん。露見したところで我らはセビテスの未来を見据えて行動しただけなのだ。文句を言われる筋合いは無い」
「世論がどう動くか……」
「場合によっては解任動議もありうるのでは?」
「いや、市民議会はまだしも、都市議会はこちらが押さえているのだ。問題は無い」
「それなのだが……」
「どうした? サルタン」
「都市議会の元貴族派が不穏な動きをしていると噂がある」
「なんだと? 元貴族派の押さえはサルタン。貴様の管轄だろう?」
「まぁそうなのだが……」
「良いか? ハンション村の併合は、肥大化するセビテスを支えるための重要な政略だ。どうあっても成功させねばならない」
「しかし、やはりゴブリンハザードはやり過ぎだったのでは無いか?」
「今更だぞゴジル」
「わかってはいる。賛同もした。だが……」
「すでに賽は投げられたのだ。貴様たちがその体たらくでは困る」
「ではもう一度、ゴブリンハザードを起こすのか?」
「……いや、資料通り、組織と一切連絡が取れん。別の手を考える必要がある」
「だが……、そうなると、どうやってハンションに併合を認めさせる?」
「ふん。我が孫……ドドル・メッサーラが村長を解任され、現在新たな村長を選別中だ。サルタンかゴジルの身内を滑り込ませれば良い」
「流石に連続だと、強権に過ぎる」
「わかっている。だが、今は手段を選んでられん!」
メッサーラ、サルタン、ゴジルと呼び合っている三人が再び表情を険しくする。
「理想だけで国家が運営出来るものか!」
「手を汚すのは我らの仕事か……」
「しかたない……今回はサルタン、貴様に譲ろう」
「わかった。息子の誰かを送ろう」
「よし。その件はそれで落ち着くだろう。それよりもこのアキラという流れの商人だ」
「手は……一つしか無かろう」
「そうだな。ハデにやり過ぎだ」
「憲兵を動かすか?」
「いや……それは悪手だな。ことここに至っては、消えてもらうしか無かろう」
「それは良いのだが……」
「なにか問題でもあるのか?」
「その為のシマウマ(・・・・)が壊滅しているのだぞ」
「ああ……」
「別の組織は?」
「無理だ。実力のある組織は軒並み潰された」
「ええい! 腹立たしい! 仕方ない、また外から組織を呼ぶか!」
「危険だが……それしかないだろうな」
「前回のような脅してくる組織はいらぬぞ」
「なんとかしよう」
「わかった。手配は私がやる」
「任せよう」
「それでは手配でき次第、集まるとしよう」
「まったく……理想のみで国が動かせるものか……」
ブツブツと文句を言いながら部屋をでるメッサーラ。
それに合わせて残りの二人も部屋から出て行った。
◆
「おい……嘘だろ?」
「なんだこれは、理術か?」
「そんなのはどうでもいい! これは事実なのか!?」
「三老会が?」
「それよりも、恩人アキラさんを暗殺だと!?」
「シマウマの壊滅は本当だったのか!」
「知ってるか? メッサーラさんの孫が破産したって話」
「ちょっと待て。彼はハンションの村長じゃ無かったのか?」
「メッサーラ様の親族が経営している、グラハ商会も最近商売に大失敗したとか……」
「この話と何か関係があるのか?」
「三老会……俺は信じてたのに!」
「アキラさんを消すとか……許せねぇ!」
「やっぱり三老会は老害だったんだ!」
時間は日が落ちて少し経ったくらいだ。
セビテス名物の無限の水瓶がある、中央広場から少し外れた大通り。
それは三老会の建物である、三老院の壁にそれ(・・)は映し出されていた。
大量のセビテス国民が、それ(・・)を見上げて、憤っていた。
三老院前は、人で溢れかえり、大変な騒ぎになっていた。
ちょうどその、三老院の向かいにある飯屋、麗しき水瓶亭の最上階に、俺たち(・・・)はいた。
妙に胸のデカい店員に頼んで、建物の最上階を借りている。
木製の窓は全開。
そこに、この世界の人間からしたら見たことも無い物体が並んでいた。
「ククク……折角じゃから、ヌシの活躍も流したらどうじゃ? ゴブリンハザードの勇姿を流したら人気者になれるのじゃ」
「いらねーよ。それより、最初からもう一度だな」
俺はスマホの動画を、もう一度再生する。
ケーブルでつながれた先は、大型のプロジェクター(・・・・・・・・・・)とミニコンポ(・・・・・)だ。
プロジェクターの映像は、三老院の真っ白い壁に大きく映し出される。
三老会の会話がミニコンポから大音量で流された。
何度も繰り返し流されるその映像を、大量の市民が見上げているのだ。
噂はすぐに広まり、国中の人間が押し寄せている状況だ。
【大型レーザープロジェクター=180万円】
【ミニコンポ=3万6800円】
【ドラム型電源ケーブル(30m)=1万9600円】
残金169万4925円。
何てことは無い、珍しく協力してくれたファフが、三老会の密会風景を、スマホで撮影してきてくれたのだ。
それを先ほどから何度も何度も、繰り返し放映しているのだ。
電源は近くに止めたキャンピングカーから引っ張ってある。
どうやって見つからずに撮影したのか、アングルも凝りまくりだ。
最初はヤラライに頼むつもりだったのだが、スマホが気に入ったファフが手放さなかったのだ。
まぁこれに関しては結果オーライだな。
途中から警護隊なども出てきて、国民を解散させようとしていたが、時すでに遅し。
流入してくる大量の人間に対処出来るわけも無く、ただただ困惑し、映像を見上げるばかりだった。
「アキラさん。これでこの国は変わるのかな?」
「わからん。だが、俺たちに出来るのはこのくらいだろう。後のことを決めるのはこの国の住人だ」
「そうだね」
「……何を良い雰囲気を醸し出しているのですか」
「いや、そんなつもりじゃ……」
「このところ忙しくてろくに話が出来ませんでしたからね。そろそろ色々お聞きしたいですわ? アキラ様?」
「う……」
おかしい……、久々の再会ってのは、もうちょっと違う物なんじゃないのか?
俺はつい頭を抱えてしまった。