Godly shop's cheat fragrance

Episode 19: Freeman and Totally Life

「アキラ、今後の予定はどうなっておる?」

「んあー」

 干し草のベッドが気持ち良すぎて、珍しく遅い時間に起きてしまった。

 これ、元の世界に持ってったら爆売れしそうだな。

 もっとも管理が大変か。

 アクビ混じりに外へ出ると、すっかり太陽が顔を出していた。

 夜明け前に起きることが多かったんだがな。

「特に決めてないが、しばらくはのんびりさせてもらうと思ってる。ラライラの母親もその方が喜ぶだろ」

「うむ。急ぐ旅では無いからな。それにここならお主の奇行も受け入れられるじゃろ」

「奇行言うなし」

 久々にたっぷり寝たせいで、逆に目が覚めない。

 困ったもんだ。

「んで、ヤラライとラライラは?」

「自宅におるよ」

「なるほど。邪魔しちゃ悪いな。うーん。ハッグ、手が空いてるなら訓練するか?」

「ほう、お主から言い出すのは珍しいの。もちろんと言いたいのじゃが、噂を聞いた近隣のエルフまでも、鍋やら武器やら持ち込んできてのう」

「てっきりエルフとドワーフは仲が悪いんかと思ってたぜ」

「ふん。認めるべきところを認めているだけよ。それができんのはヒューマンくらいのもんじゃ」

「耳が痛いね。それじゃあ適当に村を回って……」

「なら、その訓練。俺としてみないか? 行商人アキラよ」

「グーグロウ?」

 エルフの森らしく、木漏れ日溢れる庭で、用意された遅い朝食を食べていたのだが、いつの間にやらグーグロウが近寄ってきていた。

 こいつ、ヤラライ並みに気配が読めねぇんだよ。間違い無く手練れだ。

「うむ。悔しいがそこのドワーフ殿には完敗だったからな、アキラで憂さを晴らさせてもらおうと思ったのだ」

「そういうの本人に言うかね?」

「冗談さ」

 エルフは冗談も言うのか。いや、ヤラライを基準にしたらあかん。

「いいぜ。俺もちょっと思うところがあってな」

「決まりだ。ルールはどうする?」

「ならば、開始点はザザーザンと同じで、アキラは杖(じょう)を使えばええじゃろ」

「それは精霊理術を使って良いと?」

「うむ」

 勝手に話を進めるなハッグ。

「ほう。確かに剣の腕ではヤラライに抜かれたが、精霊理術込みなら、奴とも互角に戦える自信があるぞ?」

「ふーむ。まあやってみい」

 そんなわけで始まった模擬戦だったのだが……。

「こ! こいつ本当に人間か!?」

「いやいやいや! 精霊理術凶悪すぎんだろ!」

 結果は俺の辛勝。

 最初は様子見していた、グーグロウだったが、俺の猛攻を見て、ガチの精霊理術を使い始めたのだ。

 エルフが持つには重量級の大剣を、まるで紙のように軽々と振り回し、極悪強力な精霊理術を挟んでくるのだ。

 攻撃理術に関しては明らかにラライラより上だ。

 脳筋のくせしやがって!

 草原を焼き尽くすつもりかという、鬼火力の炎で攪乱して、足下に氷を張ってこちらの機動力を封じてくる。

 厄介すぎるわ!

 俺も借りていた杖が、エルフの森産じゃ無かったら、とっくに叩き折られていただろう。

 螺旋の波動全開で、どうにかこうにか猛攻をかいくぐり、肩に一撃をいれたのだ。

 ちなみにこっちもかなり喰らって、ワイシャツにもスラックスにもダメージが入っていた。

 しまった。米軍服にしとけば良かった。

「も! もう一回! もう一回だ!」

「ぜえぜえ……ぐ、グーグロウ元気すぎんだろ!」

「ふーむ。よしアキラ今度はグングニールを使って見ろ」

「あれをか?」

「アキラの獲物か? 良いぞ。今度は最初から全力で行くからな」

「うーん」

「かまわん、アキラ。思いっきりやってやれい。いい訓練じゃ。お互いにの」

「ほう、ドワーフ。もしかして貴殿が鍛えた武器か?」

「うむ。ワシが鍛えし武器……いや、神器じゃよ」

 ニヤリと笑うハッグ。

 こいつもエルフ相手だと容赦ねぇよな。

 そんなわけで二回戦終了。

 予想通り5分も保たなかった。

「な! なんなんだぁ! その武器は!?」

「グーグロウの精霊理術を真っ二つ? あたしゃ夢でも見てるんかい?」

「あんた! 今夜は飯抜きだよ!」

「分厚い炎の壁を、突き一つで巻き上げちまったよ……ドリル……すげぇ」

「巨大化したドリルが高速回転しながらグーグロウを横薙ぎ……何もできずに天高く吹っ飛んだ……あの団長が?」

 ギャラリーの感想はこんな感じだ。

 途中の人、奥さん?

 武器が強すぎるだけなので、なんか恥ずかしさの方が強いな。

「アキラ、それ、使いこなしてる。それ、自分の力」

「ヤラライ来てたのか」

「はい! タオル!」

「ありがとう」

「アキラ様、柑橘類と蜂蜜の冷たい飲み物をどうぞ。先ほどいただいて美味しかったんですよ」

「おう……甘すっぱくて美味いな。運動後にちょうど良い」

「それは良かったです。ラライラのお母様お手製ですよ」

「エルフは料理上手が多いな」

「ボクたちは食べ物に感謝して、無駄なく美味しく食べるように育てられてるからね」

「なるほど。俺の生まれた国に似てるな」

「へぇ。ニッポンってところの」

「そうだ」

「今度ニッポンの事聞きたいなあ」

「旅の途中結構話したろ?」

「いくら聞いても不思議なんだもん!」

 まるで見えない尻尾をぶんぶんと振り回す勢いでラライラが興奮している。

 ふと、真横から冷気が……。

「へえ。アキラ様は、自動車で、ずっとそんな話を、してらっしゃるんですね」

 紅い人が。ニッコリと。冷たい笑顔で。腕を組んでいた。

 なぜか俺とラライラが同時に背筋を伸ばした。

「い! いや! 運転中は話くらいしか出来ないしよ!」

「え! えっと! ボクも眠くならないようにって……!」

 なぜか始まる言い訳大会。

 やましい事なんてねぇよ!

「……ぷっ。くすくす」

「へ?」

「え?」

 それまで冷たい視線を向けていたチェリナが、堪えきれなくなったのか、突然吹き出した。

「ふふふ。冗談ですわ。アキラ様はそんなに器用じゃありませんからね」

「誤解が解けたのは嬉しいが、素直に喜べないのは何故だ?」

「それは日頃の行いというものでしょう」

「そいつは悪うござんした」

「ふふふ」

「……ううう……ふぐー、ふぐー!」

 チェリナと軽いやり取りのあと、今度はラライラの機嫌が悪くなった。

「ぐぐぐ……アキラ……いずれこの手で……」

 今!

 群衆の中で呟いたザザーザン! 今はまだ波動の余韻が残ってるから、聞こえてんよ!?

 全く、みんな少しは落ち着け。

 それにしても、ワイシャツは寿命だな。スラックスは縫えばまだ大丈夫か?

「随分ひどくやられちまったねぇ」

「ええ。予備はあるので……」

 やって来たのは、昨夜に俺の服装をやたら気に入って、背広一式購入した、おっかさんエルフだった。

 スレンダー体質がほとんどをしめるこの村で、唯一恰幅がいいので目立つ。

「服は用意しとくからさ! ひとっ風呂浴びて来なよ!」

「風呂? 風呂があるのか? 川で水浴びとかじゃなくて?」

「近くに温泉が湧いてるんだよ。世界樹があるのに不思議だよね」

「そんな話はどうでもいい! お湯の……お湯の湯船で足が伸ばせるのか!?」

「もちろんさ! 景色も良いよ!」

「露天風呂! おお……おお! とうとう! 風呂に入れるのか!!!」

「アキラ様?」

 キョトンとこちらを見つめるチェリナとは裏腹に、興奮を押さえられない俺。

 いや! わかるだろ!?

「ぜひ! ぜひ入らせてくれ!」

「もちろんさ! ザザーザン! グーグロウ! 二人も行っておいで! 全員のタオルと着替えは用意しておくよ!」

「ありがたい。汗だくで土まみれだ」

「まったく。エルフ一の戦士がみっともない……」

「今回の騒動が収まったら、修行のやり直しだな」

「私も付き合いますよ。団長」

「そうだな。その時は頼む」

 途中、スポーンのおっさんやハッグも誘って、温泉に向かった。

 もちろん後ろからはラライラ、母親のルルイル、ユーティスにファフ。チェリナもついてきていた。

「次回! 温泉回である! がはははははははは!!」

「クククククク!!!」

「誰に向かって叫んでるんだおっさん……」

 絶妙に脱力しつつ、エルフ自慢の露天風呂に足を運ぶことになった。

 ファフは無視することにした。