Godly shop's cheat fragrance

Episode 1: The Festival of the Most Powerful Merchant and Pure White

 青空に、大量の花吹雪が舞う。

 日差しと、世界樹の葉が生み出す光だけで無く、踊るように可視化した光の精霊たちが飛び回り、楽しげな音楽が辺り一面を包み込んでいた。

 エルフの奏でる音楽を、セビテス騒動の時に購入したミニコンポで増幅して、流しているのだ。

 キャンピングカーのエンジンはいかれているが、まだ辛うじてバッテリーが生きていたので出来た荒技だ。

 何千人ものエルフが集まっていた。

 実は、緑園之庭に住む、ほぼ全てのエルフが集まっているのだ。

 エルフたちには、ようやく笑顔が戻っていた。

 仲間を失った傷が簡単に癒えるものではないが、彼らは顔を上げる選択をしたのだ。

 だからこそ、今日、この日、屈託の無い笑顔を俺たちに向けてくれる。

「ほう! なかなか似合うでは無いか!」

 控え室にやって来たのは、式の手伝いをしているはずの緑のおっさん、スポーンだった。

 冒険者稼業はいいのかとも思ったが、どうやら恐竜関係の報告をまとめているらしい。死体を見に行ったりしばらく忙しかったようだ。

「エルフの奥さんたちが、気合い入れて作ってくれたからな」

「まったく、エルフの服など羨ましい限りだな!」

「おっさんだって、もらってたろ」

「がははははは! 良い物はいくらあってもいいだろう!」

「否定はしないけどな」

「たしか、たきしーど、だったか。服は似合うが、アキラと白色は合わないのう」

「ほっとけ」

 スーツをベースに、タキシードに近づけたデザインにしてもらい、作ってもらった、白タキシード。

 もちろんネクタイまで全部白だ。

 汚すのが怖くて、飲み物すら口に出来ない。

 先ほどまで、エルフの奥様方によって、着せ替え人形にされていたが、今はいない。

 代わりに男性陣がとっかえひっかえやってきた。

 先ほどまで、エルフの戦士たちが大挙してやってきていた。

 ユーティスが神官であることを公表したのを機に、積極的に治療に参加してくれたおかげで、見ての通りこの村での死者はゼロだった。

 他の村からも、大量の怪我人が集められて、治療が施された。

 彼らは村を救った英雄として、俺たち全員をもてなしてくれた。

 こっちからすれば、助かったエルフが大勢いてくれた事実が嬉しかった。

 地方のエルフ村では、多くの人が亡くなった。村が丸々滅んだところもある。

 世界樹の近くには、大量のパルペレ樹木が植えられることになった。

「先ほど、エルフの奥方たちが、これからの結婚式はこの、たきしーどにするかと言っていたぞ」

「エルフの民族衣装も格好良かったけどな」

「我が輩らからすると、あの衣装も捨てがたかったのだがな」

「男はまだしも、女性はまさに妖精を思わせる衣装だったからなぁ」

「うむうむ。だが、その衣装なら、人間でも作れそうだからな、いっそ流行らせてはどうだ?」

「ミシンの製造が進んだら、そういうのも面白いかもしれないなぁ」

 取り留めなく、スポーンのおっさんと雑談で時間を潰す。

 男と違って、女性の準備には時間がかかるのだ。

「それにしても……」

 俺は立ち上がって、窓の外を眺める。

 それに気付いたエルフたちが、嬉しそうに手を振るので、こちらも手を振り返す。

 恥ずかしさから、苦笑しているに違いない。

「それにしても、これだけのエルフが集まっていると壮観だな! がははははははは!」

「たしかに」

 ただでさえ、今まで回っていた町でエルフを見る機会はほとんどなかったのだ。それが視界を覆い尽くすほど沢山のエルフが集まっているのだから凄い。

 どうして緑園之庭に住む、ほぼ全てのエルフが集まったかというと、当然理由がある。

 沢山のエルフが亡くなった弔いの儀式を行うこと。

 これからの為に、村の編制を再編すること。

 これらは、大量の引っ越しが伴うなど、エルフたちを国と見た場合、国家プロジェクトレベルの話になる。

 それもあり、一度全員を集めて、可能な限り意見を集めたのだ。

 人口が1万に満たないから出来る荒技とも言える。

 最終的に長老が意見をまとめ、世界樹の村を中心に、地方の村を捨てる決意を下した。

 最大の理由は、ファーダーンやレイドックが再度攻めてくる事を用心してだ。

 徹底的に罠を張り、警戒態勢を強化。

 生活圏を狭めることで、例えキンキラ野郎が再度攻めてきても撃退出来る環境を作り出したのだ。

 敵を知れたからこその対応だ。

 ファーダーンの襲撃から約一ヶ月、様々な事を並行で実施し、とうとう今日の日を迎えたのだ。

 今日の行事こそが、エルフが集まった最後の理由でもあり、彼らが心より楽しみにしてくれていた祭りでもある。

 エルフを上げての祭り。

 それは、俺とチェリナ、ラライラの結婚式だった。

 初めは三人の結婚式を大々的にやるのはどうなんだろうと思っていたが、エルフを救った英雄なのだから、嫁が二人なんて当たり前の事だろうと、全員が納得しているらしい。

 それどころか、ラライラの事を英雄本人で有り、さらに英雄を率いた英雄のリーダーと一緒になることを、羨ましいと騒ぎ立てていた。

 これほど大きな式典になったのには、長老からのお願いもあった。

 この一ヶ月、様々な提案をエルフにさせてもらったのだが、彼らはそれを全て受け入れてくれた。

 ただしその全ては、心の葛藤を乗り越える必要があり、大変な事だった。

 だから、楽しみが欲しい。

 先に控える結婚式という祭りを区切りにしたいと、頭を下げられれば断れる訳も無かった。

 エルフたちは、今日と言う日を待ち遠しく思いながら、日々を過ごしていたのだ。

 始めに予定した以上の成果を出し、万全を期して、今日を迎えたのだ。

 はしゃがないわけが無い。

 弔いはとっくに終わらせた。

 ならば今日から顔を上げて、笑顔で生きるのだ!

 全てのエルフからそんな声が聞こえてきそうな、表情が並んでいた。

 本音を言えば、恥ずかしくてしょうがないのだが、彼らが楽しみにしてくれるのであれば、俺もやろうと、こんなこっぱずかしい格好をしているわけだ。

 結婚式プロジェクトがエルフたちで立ち上げられ、時間を掛けて結婚式の内容を練り上げていったのだ。

 最初はエルフの結婚に使う民族衣装を使う予定だった。

 実際衣装は一度完成し、身内にお披露目したほどだ。

 俺の、男の衣装は泣きたくなるほど似合わなかったが、女性陣は妖精のような装いだった。

 その時、チェリナとラライラが雑談の中で、俺の国ではどんな衣装を着るのかという話になったのだ。

 そこで、無駄に上司に鍛えられたイラスト力を発揮して、ウエディングドレスの絵を何枚か見せてやると、エルフの衣装係に火が付いてしまったのだ。

 あっと言う間に大量の試作品が用意され、白タキシードもその場で試着させられた。

 ちなみに、女性陣のドレスはまだ見ていない。

 どちらの服にするかは、女性二人に任せたのだ。

 そしたら、圧倒的にウエディングドレスが選ばれたらしい。意外と新しい物好きのエルフたちに大絶賛だったらしい。

 折角なので、男性陣には内緒でいこうと、エルフの女性陣が悪のりし、お披露目は本番と言うことになった。

 俺のイメージするウエディングドレスとは別の物が仕上がっている可能性もあるが、エルフのセンスに任せておけば、素敵な物が仕上がっているだろう。その辺の心配は無い。

 そんなわけで、今は控え室で待機なのだ。

 エルフの伝統的な挙式方式での進行になるらしい。

 大まかな進行は聞いているが、エルフの悪戯心か、詳細は聞いていない。

 大丈夫なのか? これ……。