Gun-ota ga Mahou Sekai ni Tensei Shitara, Gendai Heiki de Guntai Harem o Tsukucchaimashita!?
Episode 52: The New Lifeton Setback
「わたし達そろそろちゃんと自活しないと駄目だと思うの」
冒険者レベルをⅡにあげて3日目。
スノーが突然、朝食の席で言い出した。
曰く、衣食住をオレの弟子とはいえ、メイヤ1人に頼りっきりなのはおかしい。
自分達はもう14歳で、来年には15歳の成人。
しかも駆け出しではあるが冒険者という商売も始めた。
だから、そろそろメイヤに甘えるのではなく、ちゃんと自分達の収入内で衣食住を賄うべきだ――と。
スノーの提案に屋敷の主であるメイヤがストップをかける。
「ま、待ってください! 何を仰っているのですか! わたくしはリュート様の一番弟子! 弟子の物は師匠の物と相場は決まっているではありませんか! なので皆さんが遠慮などする必要などこれっぽっちもありませんわ」
「……いや、メイヤ。この場合スノーの方が正しい」
『私もそう思います』
「リュート様!? クリスさんまで!」
オレは興奮するメイヤに手で落ち着くように促す。
「魔術液体金属を分けて貰ってる上、研究できる施設まで提供して貰っている。さらに衣食住まで世話になったらさすがに甘え過ぎだ」
スノーに指摘され、ようやく気付いたがさすがに今の状況は不健全過ぎる。
確かに資産のあるメイヤからしてみれば、オレ達の生活費など雀の涙。むしろ興味のある分野の先駆者が1つ屋根の下に居て、何時でも質問を尋ねられる&毎日指導して貰える方が幸せだろう。
しかしそれではオレ達の方が駄目になる。
『親しき仲にも礼儀あり』だ。
最近は冒険者のクエストを受けレベルⅡになり、資金もそれなりに貯まっている。
孤児院にも寄付をしたい。
メイヤのお世話になりながら、エル先生の孤児院に寄付をする――それでは本末転倒だ。
「スノーの言う通り、メイヤの屋敷を出て自立しよう」
「いやぁあぁぁぁっぁッ!!!」
オレの決定にスノー&クリスは了承。
メイヤは1人悲鳴をあげ、床に転がり玩具売り場でだだをこねる子供のように暴れた。
「嫌ですわ! 嫌ですわ! どうしてみんなで楽しく暮らしてるのが駄目なのですか! わたくしはリュート様の一番弟子なのに! みんな一緒じゃなきゃ嫌ですわ!」
……いい大人の駄々っ子を見るのは結構辛いものがあるな。
オレはぐずるメイヤを優しく紳士的に説得する。
内容はこうだ。
メイヤに今まで世話になった恩は忘れないし、新規武器などの研究&開発のため毎日通う。そのためにもメイヤ邸の近くに家を借りるつもりだ。
だから何時でもメイヤの好きな時に遊びに来ればいい。もちろん歓迎するし、お泊まりも可。
メイヤも師匠の決定には逆らえず、いつでも遊びに来て良い&お泊まり可の辺りで陥落する。
ただ譲歩として自分も不動産屋に一緒に同行する許可を求めた。どうやら意地でも自分の屋敷近くの物件を探し出すつもりらしい。
「分かったよ。それじゃ今日は研究とクエストは休みにして皆で家を見て回ろう」
「了解だよ」
『いいのがあるといいですね』
「お任せくださいリュート様! わたくしなら顔が広いですから色々融通が利きますし、こう見えて値段交渉は得意なんですわ!」
「それじゃ値段交渉の時は頼むなメイヤ」
「はい! 是非お任せください! 不肖! リュート様の一番弟子であるメイヤ・ドラグーン! 命を賭して望む所存ですわ!」
『命を賭さなくていいから』と思わず突っ込みを入れてしまった。
こうして今日は不動産巡りの日になった。
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冒険者斡旋組合(ギルド)のクエストに出る訳ではないから、いつものラフな恰好ではない。
女性陣は竜人大陸の伝統衣装に袖を通した。
スノーはポニーテールにドラゴン・ドレス。『S&W M10 2インチ』は胸ホルスターでは恰好が悪いので、足に装着する。足から覗くリボルバーが妙に色っぽい。
クリスはドラゴン・ドレスを着て、チャイナお団子に髪をまとめている。体躯が小柄なため、本当にお人形さんみたいに似合っている。
メイヤもドラゴン・ドレスに袖を通して扇を手にオレ達を先導するため前を歩いた。
オレも彼女達にならって竜人大陸の男性伝統衣装であるドラゴン・カンフー姿だ。いちおう護身用にガンベルトを巻き、『S&W M10 4インチ』装備。だが、ドラゴン・カンフー姿にガンベルトは似合わない。
オレは右手にスノー、左手にクリスと手を繋ぎ、両手に花状態で屋敷を出る。
屋敷の門前にはメイヤが手配した馬車が止まっている。
オレ達は馬車に乗り込む。
行き先はすでに告げているらしく、全員が乗ると勝手に御者台の青年が角馬に鞭を入れた。
馬車で約30分ほど。
メイヤがオレ達を連れて来た場所は不動産屋――こちらの世界の名称では『建物斡旋所』だ。
大理石のような石を積み上げ作った2階建ての店構えで、カレンの誕生日プレゼントをクリスと一緒に買いに行った宝石店のような空気が漂っていた。
店内に入ると店長らしき中年男性が笑顔で駆け寄ってくる。
どうやら彼女は事前にここへ来ることを伝えさせていたようだ。
「いらっしゃいませメイヤ様。本日は当店をご利用頂きまして誠にありがとうございます」
男性は心底歓迎する笑みを浮かべて、メイヤを出迎える。
「メイヤ様のような竜人種族を代表する方に足を運んで頂き本当に感激です。のちほどで構わないので一筆頂いても宜しいでしょうか?」
「ええ、構いませんわよ」
「ありがとうございます!」
メイヤは有名な天才魔術開発者だとは聞いていたが、ここまで人気があるとは知らなかった。まるでスター女優が店に訪れた時のような態度だ。
店長らしき男性以外にも、社員達が目を輝かせてメイヤを見つめている。
彼女は慣れているらしくいつも通りの自然体を崩さない。
「今日はわたくしの先生であるこちらのリュート様の物件を見に来たのですわ。我が屋敷の近い物件を見せてもらるかしら」
「め、メイヤ様の先生ですか?」
メイヤの紹介に男性が声を上擦らせる。
あの天才に先生と呼ばれる人物が存在し、またその人物が明らかに彼女より年下だということに驚いているのだ。
しかし、彼もプロの店員。
すぐに表情を笑顔に戻し会釈する。
「それではメイヤ様のご自宅に近い物件と、他にもお薦めなのを幾つかご用意させて頂きますので、そちらのカウンターにお掛けになってお待ち下さい」
オレ達は進められるままバーのカウンターに似た席へと座る。メイヤ、オレ、クリス、スノーの席順だ。
ほどなくして男性が物件の詳細が書かれた紙束を運んでくる。
「こちらがメイヤ様のご自宅に近い物件になります。またこちらは当店お薦めの物件です」
紙束を受け取り早速目を通すが……高い! 滅茶苦茶高すぎる!
一番高いので月々金貨50枚、約500万円!
一番安いのでも月々金貨1枚+銀貨6枚、約16万円!
「あら、意外と安いんですのね」
「ですが決して質の悪い物は一切扱ってません。それが当店の誇りです」
いやいやいや、高いだろ。高すぎるだろう。
恐らくだが、ここはオレ達みたいな一般庶民がくる場所ではなく、上流階級者向けの建物斡旋所なのだ。
メイヤの経済状況・金銭感覚を考慮に入れるのを忘れていた。
もっと安くて、3人で暮らせる程度の広さでいいのだ。
こんな庭にプールがあったり、噴水があったり、部屋にダンスパーティー会場に使えそうなほど広い大広間なんてまったく必要ない。
(メイヤには悪いが、ここは恥を忍んで店を出よう。そしてもっとオレ達に――身の丈に合った店に入ろう)
オレが店を出るため、目の前に立つ男性に断りを入れようとすると……メイヤが勝手に話を進め出す。
「これなんていいわね。わたくしの屋敷のすぐ近くだし、間取りもそこそこ広いですわね。気に入りましたわ。この月々金貨10枚の物件を銀貨1枚で貸し出しなさい」
「………………えっ?」
「聞こえなかったのかしら、この月々金貨10枚の物件を銀貨1枚で貸し出しなさいと言っているのですわ」
「い、いえいくらなんでもメイヤ様といえどそんなことは……」
突然の要求に先程まで目を輝かせていた男性も困惑気味に言葉を濁す。
当たり前だ。
いくらメイヤが竜人大陸で名の知れた、皆が竜人種族の憧れの的といえど金貨10枚(約100万円)の物件を銀貨1枚(1万円)で貸し出せなど無理に決まっている。
だが彼女は自分の意見が通らないことに不機嫌になった。
「貴方、もう一度わたくしの名前を仰ってくださらないかしら?」
「め、メイヤ様です……し、しかし! いくらメイヤ様でも出来ることと出来ないことがありまして」
男性が恐怖し、額から流れる汗を一心に拭う。
だが、メイヤはさらに態度を硬化させた。
「わたくしはメイヤ・ドラグーンですわよ。しかも住んでくださるのは、我が師にしてこの世界最強の天才魔術道具開発者リュート様ですわよ? リュート様がお住みになるだけで光栄なこと。その住まいは聖地となります。貴方は神に住んで頂く神殿から、家賃を取るのかしら? むしろ住んでいただける光栄から、お礼を支払うベきではなくて?」
それとも――と彼女は冷たい光を瞳に灯し告げた。
「貴方達、この大陸から住む場所を失いたいのかしら?」
この一言に建物斡旋所のスタッフ全員が、幽霊より顔色を悪くし震え上がる。
メイヤの言葉は脅しではない。
皇帝陛下に次いで有名で、次期国王にも覚え愛でたい彼女の逆鱗に触れれば、この竜人大陸で住む場所など本当になくなってしまうのだ。
窓口担当の男性が病人のような顔色で哀願する。
「ど、どうかそれだけは! 下の娘はまだ10歳! ここを追い出されたら、私達はどこへ行けば!?」
「知らないですわ、そんなこと。好きな場所に行けばいいじゃないですか。もしそれが嫌なら言うことがあるのじゃなくて。それともこれ以上、わたくしの顔に泥を塗るつもりかしら?」
「わ、分かりました。こちらの物件、月々金貨10枚のところを月々銀貨1万で……」
「は? 本気で仰っているのかしら?」
「うぅ、こちらの月々金貨10枚の物件を、月々金貨10枚払うので住んでください。お願い致します……」
「どうですか! リュート様! リュート様のためにわたくし、頑張っちゃいました! もちろん一番弟子として当然のことをしただけですわ! なのでお礼などいりません。で、ですがもしどうしてもお礼をしたいと仰るのであれば、わたくしの左腕にもこれぐらいの輪っか状の物が欲しいかな~と……ふえ?」
顔を赤くして、オレ達側に振り返ったメイヤが現実を知る。
喜んでくれると思っていた相手――オレにドン引きされていた。
スノー&クリスも引いていた。
クリスなどちょっと涙目だ。
「あ、あのリュート様、スノーさん、クリスさん……?」
「さすがに引くって……。交渉が得意って……あれは交渉じゃなくて脅しじゃないか」
「わ、わたくしはリュート様に喜んで欲しくて!」
「ごめんなさい、わたしもちょっと怖いです」
『怖すぎます』
スノー&クリスの言葉にノックアウトされるメイヤ。
オレは改めて男性と向き直る。
「すみません、さっきの話は無しで。ご迷惑をお掛けして本当にすみませんでした。うちの予算としては月々銀貨5枚ぐらいで、3人が暮らすのに十分な広さがある家であればとくに問題ありません。そんな物件、こちらにありませんよね?」
「い、いいんですか!? メイヤさまの師匠様がそんな質素な……!」
「いえ、本当にさっきのは忘れてください。お願いします。もし物件がなかったら他のところへ行くので。だからといって後々問題が起きるようなことはありませんから」
「あ、ありがとうございます! で、ではこちらの物件などどうでしょうか?」
男性がそそくさと出してきた用紙に眼を落とす。2階建てで、3LDKの間取り。ギリギリ高級住宅地の端にひっかかっている割りにはかなりこじんまりした一軒家だった。しかし家賃は金貨1枚(約10万円)。予算オーバーだ。
「ちょっと家賃が高いですね」
「実はこの物件に住んでいた方はご老人で、遺言として庭の木を切らないで欲しいとありまして。立地は良いのですが、木はなかなか立派で日当たりも悪くなるんでどの方も切りたがり敬遠されがちで。こちらとしてもいつまでも遊ばせているのも勿体ないので、もし住んでいただけるのでしたら半額の銀貨5枚に値引きさせて頂きますが。どうでしょうか?」
木を切らないだけで、金貨1枚が銀貨5枚になるなら安いもんだ。
しかも端とはいえ、高級住宅地。治安もいい。それにメイヤ屋敷からの距離も近い。ほぼ理想通りの建物だ。
念のため嫁達の顔色を伺うが、彼女達も納得して頷いてくる。
「ではここでお願いします」
「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」
「そんなお礼を言われることをした訳じゃありませんから。あと家具とかを買いたいので、今日なかを見せて貰っても大丈夫ですか?」
「問題ありません。君! 鍵を開ける準備を頼む。ですが掃除や補修漏れが無いかのチェック、細々とした確認や書類の関係上、今から7日後の入居になってしまいますが宜しいですか?」
「大丈夫です、問題ありません」
「では、物件をご確認頂いた後、正式に契約書を交わすということで。もしお気に召さなかった場合、遠慮なく仰ってください」
「分かりました」
「では、さっそくご案内しますね。今日は馬車でおこしですか?」
「ええ、彼女――メイヤので」
「でしたら、従者に行き先をお伝えしてきます。係の者がすでに出て、鍵をあけておりますので」
「ではまた契約をする時に戻って来ますね。それじゃ2人共行こうか。メイヤも……って、まだいじけてるのか?」
「どうせわたくしなんて……」
メイヤは部屋の隅で膝を抱え、体育座りで小さくなっていた。
「あーメイヤ、えっとやりかたはあれだったけど気持ちは嬉しかったよ。本当に。でも今後はあんな脅すような交渉は止めて欲しいかな。そんなことしなくてもオレはちゃんとメイヤのこと大切な弟子だと思ってるし」
「――リュート様!」
声をかけただけで彼女は瞳を太陽より眩しく輝かせて、あっさりと復活を遂げる。
うわぁ、ちょろ。
そして、4人で馬車に乗り込み物件を見学。
若いスタッフがすでに鍵をあけ待機していた。
中は想像以上に綺麗で、庭面積も広い。問題の木も背は高いが、邪魔と言うほどでもない。
問題が無いことを確認して、オレ達は建物斡旋所に戻って契約書を交わす。
前金・預かり金として3ヶ月分の家賃を求められたため、スノー&クリスに頼み財布から銀貨15枚を出して貰った。オレはその間に契約書にサインを済ませる。
こうして、オレとスノーとクリスが住む新居を手に入れた。