訓練は続く。

大部屋の教室。

机の前にはようやく全員分のAK47が揃った。

オレは彼女達の前に立ち、声を上げる。

「今日はAK47の分解、手入れを行う。まずは指示通り、順番に外していくように」

相手がラヤラでもAK47の分解作業ぐらいは出来るだろう……大丈夫だよな?

胸中で心配しながらも、机の上に置かれた自身のAK47を順番に分解していく。

「まず、引鉄(トリガー)前にある用心金(トリガー・ガード)の部分に突起がある。マガジンを外す際、この突起を押しながらマガジンを引っ張り外す」

マガジンを外して皆に見せた後、次の動作に移る。

「安全(セーフ)の位置にあるセレクター・レバーを、別の位置――つまりフルオートかセミオートの位置へと変更する。その時、薬室(チェンバー)の残弾を確認しておく。弾が残っていると大変危険なので注意すること」

少女達がオレの言葉と動きに合わせて手を動かす。

「コッキング・ハンドルを引いてハンマーをコックした後、銃身(バレル)に付いているクリーニング・ロッドを外す。クリーニング・ロッドは独立しているからマガジンを外す前に外してもいいが――分解手順は常に同じにしておいた方が間違いが少ないため、今後はこのタイミングで外すことにする。次にボルト・キャリアー後部にあるロックを押しながら、ボルト・キャリアー・カバーを引き上げるように後ろへと取り外すように」

クリーニングロッドは、銃を横から見ると銃身の下に平行して存在する細い棒のような部品だ。その名の通り、銃のクリーニングに使用する。

ここの作業に若干手間取る少女が数人居た。

彼女達が無事、ボルト・キャリアー・カバーを外せるまで待つ。

外したのを確認したら、次の段階へ進む。

「カバーを外したら、リコイル・スプリングと繋がっているガイド・リテイニング・ブロックの後ろを押しながら、レシーバーから外す。そして、ボルト・キャリアー・グループ――その名の通りボルトを動かす役目を持つ――をレシーバー後方へ引き、持ち上げて取り外す」

カバーを外し、リコイル・スプリングを外してようやく取り外すことが出来る『ボルト・キャリアー・グループ』は、弾丸に接するボルト(遊底)を含むまさに銃の中心に位置する部品だ。

取り外した部品、『ボルト・キャリアー・グループ』を机の上に置く。

「次に、ハンドガードに取りかかる。銃身(バレル)から発生する熱等から手を守るハンドガードは、上部と下部の2つの部品に分かれている。ガスシリンダーを、テイクダウン・ラッチを上に持ち上げて外すとハンドガードの上部が取り外せる。さらに、ハンドガードの下部を下へ引っ張りつつ前方へと抜き取る」

机の上に次々部品が並べられていく。

最後の部品を取り外す。

「最後にボルトをボルト・キャリアーから取り外せば分解はお終いだ」

机の上に本体を除いて8の部品に分解することが出来る。

このように作りが簡単なため、AKシリーズは頑丈なのだ。

いくら頑丈で、汚れに強いAKでも掃除は必要だ。

そのため彼女達には分解の仕方を覚えて貰う必要がある。

今度はもう一度組み立てて、ゆっくりでもいいから1人で分解出来るまでやらせた。

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訓練は続く。

ヘルメット、戦闘用プロテクター、ALICE(アリス)クリップ、予備弾倉、AK47を持たせ突進――突進(ラッシング)の訓練を行う。

移動テクニックで最も一般的に使用する技術だ。

伏せ(プローン)→突進(ラッシング)→膝を落とす(ドロッピング)を繰り返させる。

そして高姿勢匍匐前進(ハイ・クロール)や低姿勢匍匐前進(ロー・クロール)、匍匐前進(クローリング)など幾つものバリエーションを繰り返し教える。

さらに地形、地物を利用した射撃のやり方。

タコツボの堀りかたなども教え込む。

他にも様々な技能を指導していく。

少女達は一人前の兵士として成長していった。

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13週目最終日、晴天。

純潔乙女騎士団、本部、グラウンドに少女達が軍服姿で整列していた。

彼女達の前に立つオレ達も、きっちりとした軍服姿で並ぶ。

オレの目の前に並ぶ少女達は13週前、普通の少女達だったが、そんな面影はどこにもない。

地獄のような13週間の訓練をくぐり抜けた一人前の兵士達しかいない。

オレはそんな彼女達をゆっくり見回す。

「――本日をもって貴様等は『雌豚』を卒業する! 今日から貴様等は誇りあるPEACEMAKER(ピース・メーカー)下部軍団(レギオン)、新・純潔乙女騎士団の団員である!」

『サー・イエス・サー!』

「本日をもって貴様等は姉妹の絆で結ばれる! 貴様等の魂が天神様のおわす天国へ召すまで、どこに居ようと、何をしていようと貴様等は姉妹だ!」

『サー・イエス・サー!』

「これから貴様等は『新・純潔乙女騎士団』としてある時は戦い、傷つき、最悪の場合は命を落とすだろう。だが、心に刻んでおけ! 貴様等は何時か確実に死ぬ! 我々は死ぬために生きている! 我々は死ぬための存在だ! だがPEACEMAKER(ピース・メーカー)、新・純潔乙女騎士団は永遠である! つまり! 貴様等、姉妹達も永遠である! 嬉しいか! 団員共!」

『サー・イエス・サー!』

少女達の聞き慣れた返事が、グラウンドの端々まで響き渡る。

「よし! それではこれよりPEACEMAKER(ピース・メーカー)下部軍団(レギオン)、新・純潔乙女騎士団記章授与式をおこなう。名前を呼ばれた者から前へ出ろ! マーサー!」

「はい!」

ロップイヤーのような垂れ耳の兎少女が、きびきびとした動きでオレの前まで歩いてくる。

隣に立つスノーから、バッチを手渡される。

バッチのデザインは『PEACEMAKER(ピース・メーカー)』の軍団(レギオン)旗のリボルバーと『純潔乙女騎士団』の両刃剣が交差している。

今日のため特別にあつらえた品物だ。

スノー、クリス、リース、メイヤ、シアが持つお盆の上に置かれている。

今後は新・純潔乙女騎士団団員を示す証として、制服に付けるのに使用する。

オレはバッチを手にマーサーの胸元に付けてやる。

付け終えると、彼女は敬礼して元の位置へと戻った。

「次! エルナモ!」

「はい!」

こうして30人の記章を付け終える。

「それでは本日を持って貴様等をPEACEMAKER(ピース・メーカー)下部軍団(レギオン)、新・純潔乙女騎士団団員とする! 一同解散!」

同時に少女達は叫び声をあげ、指示したわけでもなく一斉に皆が帽子を手に取り空へと思いっきり投げ上げる。

帽子はまるで羽が生えているかのように、雲1つない青空へ舞い上がった。

少女達は晴れやかな表情で涙を浮かべ、抱き合い喜ぶ。

そんな彼女達をオレ達も晴れやかな気持ちで見守った。