AK47の7.62mm×ロシアンショートが、重傷を負ったランスへ発砲されるが――その弾丸をララが割って入り抵抗陣で弾き飛ばす。

「ランス様! ここは一度撤退を!」

「ぐッ、しかし、この僕がリュート君達程度に撤退なんて……」

「死んでは元も子もありません! ご決断を!」

「させるか!」

千載一遇のチャンス。

ここでランスを倒さなければ、以後彼を無力化するのは難しいだろう。

オレはAK47につけている『GB15』の40mmアッドオン・グレネードの狙いを付ける。

同時にクリスもバレットM82で狙いを付けていた。

ほぼ同時に発砲。

着弾し、地面に埋めていた手榴弾にも誘爆し予想以上の爆発を引き起こすが、手応えがない。

判断に迷っていたランスだったが、自身の不利を悟りプライドを捨て転移魔術で撤退したのだ。

その証拠にランスやララの姿は無く、服の切れ端一つ落ちていない。

オレはすぐに丘の上に居るクリス&シアへとモールス信号で合図を送る。

もしかしたらランス達は近場に転移したのかもしれない。

一番見晴らしのいい場所に居る彼女達なら何か見えるかもしれないと期待したのだ。

――だが、彼女達が見つけるより早く、禍々しく邪悪な魔力の流れに気づいてしまう。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

「クソ! クソ! クソ! まさか僕がここまで追い込まれるとは! リュート君達を少し甘く見過ぎていたようだ……ッ」

ランスは忌々しそうに毒を吐き出す。

彼らが移動した場所は、森の入り口側にある平野だ。

ゴツゴツとした岩が多数有り、その一つにランスは腰掛けていた。

そんな彼に心配そうな表情を浮かべて、ララが駆け寄る。

「ランス様、私の願いのせいで、申し訳ありません……」

「……いや、ララの判断は間違っていない。あの場は撤退するしかなかった」

「ありがとうございます。とりあえず治療するので背中を向けてください。特に背中の傷が酷いようなので」

「ああ、頼む」

「はい、お任せください」

ランスは痛みを堪えながら、ララの治療を受けるため彼女に身を任せる。

ララは治療するため、ランスの背中へ回ると――懐から毒々しい色のナイフを取り出し、体重をかけて刃を彼の背中に突き刺す。

「ッゥ!?」

ランスの口から刃によって押し出されたように呼気が漏れ出る。

彼は激痛を堪えながら、残った精一杯の力で背後のララを振り向きざま突き飛ばし距離をとった。

だが、体は立っていられないほど力が抜け、うつぶせに倒れてしまった。

「ら、ララ……どうし、て……君が僕を裏切るなんて……」

「ランス様が悪いのです。ずっと尽くしてきた私を裏切り、あんな女と結ばれようとするなんて……。どうして私だけを見てくださらなかったのですか!?」

彼女の手にはしっかりとランスを突き刺したナイフが握られていた。

突き飛ばされた拍子に体から力が抜けたのだ。

元々毒々しい色の刃が、ランスの血に濡れたせいでさらに醜悪な色になる。

「ギャハハハ! まさか長年尽くしてきた忠臣に裏切られるなんてざまないな!」

「き、貴様は……ッ! レグロッタリエ!?」

大きな岩の影から、喉から頬にかけて彫った入れ墨が特徴のレグロッタリエと、背中にロングソードを背負ったエイケントが姿を現す。

ランスはララを通して黒下部組織を統轄していたレグロッタリエの存在を知っていた。

そして彼が前世の自分と深い関わりがある人物だと。

「長かった。ようやく、オマエに復讐できるかと思うとわくわくが止まらないぜ。前世の俺様の人生を台無しにした報い、今こそ晴らさせてもらうぞ」

「ふ、ふざ、けるな……僕を自殺に追い込んだことを棚に上げて復讐なんて……」

「うるせい! 俺様が納得出来なきゃ! 意味ねぇんだよ!」

相馬亮一――レグロッタリエは腰から下げていた剣を抜き、ランスへと歩み寄った。

「クッゥ! どうして魔術が使えないんだ!」

ランスは転移魔術で兎に角一度、自国に戻ろうとしたが、上手くいかず声をあげる。

そんな様子をレグロッタリエがせせり笑う。

「無駄だ。無駄だ。ララのナイフがずっぷり刺さったんだろう。だったら魔術は後1時間は使えねぇよ。あれには俺様特性の魔術防止薬をたっぷりと塗り込んであるからな。ついでに痺れ薬も追加したから動きも鈍くなってるだろう?」

彼の指摘通り魔力が上手く働かず、魔術が起動しない。

体も痺れて思うように体を動かすことができず、這って逃げることもできなかった。

「ら。ララ、助けてくれ! ぼ、く達はあんなに愛しあったじゃないか! ぼくはララだけを愛しているんだユミリアのことは誤解だ。政略結婚で彼女に愛なんて一切ない!」

痺れ薬が効いているらしくランスは呂律が殆ど回っていない。

そんなランスにララは精一杯の愛しい笑顔を向けた。

「ご安心くださいランス様。ランス様の死後、私達は誰も近づけない場所で一生過ごすのです。だから寂しくありませんよ。ランス様の全ては私が面倒を見ますから」

「ら、ララぁあぁあぁぁあぁッ!」

ランスが痺れる喉で雄叫びを上げる。

「ぎゃはははは! マジ愛されてうらやましいわ! それじゃさっさとやらせてもらうぞ」

「分かっているでしょうけど、なるべく傷つけないようにね」

「分かってるって、こいつで心臓を一突きするだけだって」

レグロッタリエは痺れて体の動きが悪くなったランスを仰向けに寝かせると、躊躇無く心臓に剣を突き立てた。

「がはァっ!」

剣の圧力に負けて肺に残っていた最後の空気が漏れ出る。

同時にランスの四肢から力が抜け落ち、瞳から光が消えてしまう。

レグロッタリエは剣を抜くと、念のためか首筋に手を当て脈をはかる。

「ふはぁ! どうやらマジで死んだらしいな。んで、例のヤツはどこにあるんだ」

「それ以上、汚い手でランス様に触れるな! 彼は私のものだぞ!」

「了解、了解。怖いね、嫉妬する女っていうのは」

レグロッタリエは人を殺害した直後だというのに、罪悪感一つなくけらけらと笑いながら身を引く。

ララが愛おしそうにランスの瞼を閉じ、彼の唇へと自身のを重ねた。

満足そうに顔を話すと、ランスの腰から一つの『魔法核(まほうかく)』を取り出し、

レグロッタリエは喜色満面の笑みで魔法核を受け取った。

「後は好きにしなさい。魔王にでも、なんにでもなって好きに殺し合っていなさい。私達は2人だけで、誰も居ない場所で静かに暮らすから」

「ひゃははは! ご協力感謝しますってね。機会があったらまた会おうぜ!」

「絶対に嫌!」

ララは断言すると肉体強化術で身体を補助。

ランスを抱き上げ、その場から移動し姿を消す。

そんな彼女を見送り終えると、レグロッタリエは受け取った魔法核を躊躇なく口に含み飲み下す。

レグロッタリエを中心に黒い風が舞い上がる。

膨大な魔力が実体化し、収まりきらず周囲へと放出しているのだ。

「ぎゃははははあ! これが魔力を身につけた気分ってヤツか! 最高に気持ちいいぜぇぇえぇぇ!」

こうして新たな魔王が誕生する。