Gun-ota ga Mahou Sekai ni Tensei Shitara, Gendai Heiki de Guntai Harem o Tsukucchaimashita!?
Episode 308: The Battle of Dan Gate Blood
戦場に一陣の風が吹く。
溜まっていた黒い煙は風によって吹き散らされる。
魔術によって風をおこし、戦場を正常化した人物――ギギさんが新型飛行船ノアから飛び降り、旦那様の側に着地する。
「旦那様、いくら味方陣営が危機だからといって、毒煙が漂っているなか突撃するなど無茶です」
「はっははっはぁ! すまぬ、若人が危機に瀕しておったからついつい体が動いてしまってな!」
「で、でも、危険を承知で人助けをするなんてさすがだと思います!」
ギギさんに続いて獣人種族虎族(とらぞく)、魔術師S級、獣王武神(じゅうおうぶしん)ことタイガ・フウーが飛び降り着地し、旦那様に声をかける。
タイガはどうも旦那様の前では、普段のツンツンした態度を取らない。
彼女は実質、ギギさんの義父ポジションである旦那様に対して、態度を決めかねているようだ。
下手に尖った態度を取って、旦那様に嫌われたらギギさんにも距離を取られかねない。かと言って、積極的に自身を売り込み外堀から埋めてギギさんの第二夫人的ポジションに収まるべきか。その場合、『敬愛するエル先生を裏切ることになるのでは?』と自問自答しているようだ。
これが微妙な乙女心というものだろう。
だがとりあえず、旦那様、ギギさん、タイガならこの場を任せても大丈夫だろう。
オレは新型飛行船ノアから身を乗り出し、声をかける。
「オレ達は人種族連合の皆を助けに行きますので、そちらはお任せします!」
「ははははっはあ! 任せておけ、リュート! さぁ魔王軍の将よ! 互いに筋肉を震わせようぞ!」
旦那様はウイリアムの治療&警護をギギさんとタイガに任せると、自分は大剣を構える魔王軍側の指揮官らしき人物と向き合う。
オレはその様子を見送りつつ、宣言通り人種族連合の救助へと向かった。
対魔王戦が始まる少し前。オレはカレンの兄、ケンタウロス族魔術師Bプラス級アームス・ビショップと再会した。そして商売を終えて魔人大陸に戻る彼に、旦那様へと言付けを頼んでいた。
相手は魔王レグロッタリエ。戦力は多いにこしたことはない。ただ魔人大陸と妖人大陸は正反対の場所にある。
通常の飛行船では、魔人大陸へつくのに約1ヶ月ぐらいかかる。往復なら単純計算で約2ヶ月かかることになる。
もしかしたらその間に、人種族連合が出立し、状況によってはオレ達PEACEMAKER(ピース・メーカー)も魔王と戦っているかもしれなかった。
なので旦那様はあくまで保険程度に考えていた。
しかし、旦那様は人種族連合が魔王討伐へ向かった数日後にザグソニーア帝国の冒険者斡旋組合(ギルド)へ到着していたのだ。
さらに妖人大陸にあるアルジオ領ホードにある孤児院によってギギさん&タイガを連れてきていた。
冒険者斡旋組合(ギルド)経由で旦那様達の到着を聞かされた時は冗談だと思った。
アームスの言付けがスムーズに行ったとしても、旦那様の到着がどう考えても早すぎる。
「ははははは! リュート、クリス! 出迎えご苦労!」
しかし、冒険者斡旋組合(ギルド)へ行くと見知った筋肉の塊がこれまた聞き慣れた笑い声で話しかけてきた。
ダン・ゲート・ブラッド伯爵以外の何者でもない。
大声で笑っているせいか、冒険者斡旋組合(ギルド)の人達の視線が集まる。
さらに冒険者斡旋組合(ギルド)端に置かれている長椅子には、口から舌を出し、生きる屍状態のギギさんがいた。苦しそうに何度も呼吸を繰り返している。
そんなギギさんの側に膝を床に突き甲斐甲斐しく世話をするタイガの姿も確認した。
旦那様に話を聞くと――アームスから言付けを聞くと、その日の内に屋敷を出発。
通常の飛行船では間に合わないと気づいた旦那様は、飛行船や船、馬車などの乗り物を使用せず自力で魔人大陸から妖人大陸へと到着したらしい。
そして戦力が必要だろうと、途中でホードによってギギさん&タイガを回収しこれまた走ってザグソニーア帝国に先程辿り着いたとか。
ギギさんは昼夜関係なく走らされたため、虫の息状態らしい。
繰り返すが魔人大陸から妖人大陸は正反対の場所にあり、間には中央海――前世、地球で言うところの太平洋がある。
飛行船や船を使わずどうやって旦那様は、中央海を渡ったのだ?
オレはつい尋ねてしまう。
すると旦那様はいい笑顔で答えくれた。
「もちろん泳いでだ! 普段使わない筋肉を鍛えることができてよかったぞ! たまには泳ぐのも悪くないな! はははっはっははは!」
「お、泳いでって……! だって、あの、中央海をですか? どれぐらい距離があると……」
「筋肉に不可能は無いからな!」
明るい満面の笑顔で断言される。
旦那様にそう言われると『そういうものか』と納得してしまうから怖い。
さらに驚くことに――
「あ、あのすみません。も、もしかして貴方様は魔術師A級のダン・ゲート・ブラッド様でしょうか?」
旦那様には当然劣るが、かなりのガチムチの獣人男性が憧れの先輩に声をかけるように、勇気を振り絞って声をかけてくる。
その声に旦那様は快活に答える。
「その通り! 我輩はダン・ゲート・ブラッド伯爵! 誉れ高き闇の支配者、ヴァンパイア族である!」
「まさかこんなところでご本人にあえるなんて! 溢れ出てくる魔物に他の冒険者達が怖じ気づき、避難民を見捨てて逃げ出した中、一人皆を守るため魔物達と戦い見事誰も死者や怪我人を出さず守り抜いた伝説! その時、自分はまだ子供で避難民の一人だった母に連れられて逃げるだけでした。でも、ダン・ゲート・ブラッド様に憧れて冒険者になったんです! あ、あの握手しても頂いてもいいですか!」
「ははっっははは! そうか、そうか! 構わぬぞ!」
「お、俺も! ダン様が洪水で町が水没の危機に陥っている時、助けてくださった者ッス! あの時は本当にありがとうございました! 当時は俺もまだ子供でダン様が、決壊し溢れ迫ってくる濁流を筋肉で押しとどめる姿を見て冒険者になったんッス! あの姿に憧れて今でも筋肉を鍛えてるッス!」
「ははははは! そうか、そうか! ウム、なかなかいい筋肉ではないか!」
「ダン様の金属みたいな筋肉に比べたら俺のなんておもちゃッスよ」
え? なに? 『筋肉で濁流を押しとどめる』って? 意味が分からなすぎる。
それに避難民を守るため溢れ出てくる魔物と一人で戦った? 初めて聞いたぞ。
クリスに視線を向けると彼女も初耳だったらしく、首を横に振っていた。
しかも彼らだけでは終わらない。
彼らを切っ掛けに『俺も、俺も』と遠巻きにオレ達のやりとりをうかがっていた男達が旦那様の周りに群がり始める。
しかも全員男性で兎に角、頭から爪先まで鍛え抜いた筋肉に覆われた野郎達だった。
彼らは口々に旦那様に讃え、目を輝かせて迫っていた。
アイドルに群がるファンレベルではない。
信者の前に神自身が降臨したレベルの熱狂だ。
彼らは、『魔王誕生』の一報を耳にし、次世代の五種族勇者になろうと帝国に集まってきた獣人、魔人種族の冒険者達だ。
彼らは人種族ではないため、腕に覚えがあっても人種族連合の魔王討伐に参加できなかった者達だ。
中にはオレ達のように『仲間を捨てて人種族連合に合流などできない』と参加しなかったらしい人種族の姿もある。
あまりに集まりすぎたために、冒険者斡旋組合(ギルド)内に混乱が起きる。
そのため急遽、旦那様との話し合いを打ち切りオレとクリスで列整理を開始した。
オレが列整理を担当し、クリスがミニ黒板に『ここが最後尾です』という文字を書き人を誘導する。
列は冒険者斡旋組合(ギルド)室内だけでは収まらず、外まで伸びる。さらにその列を目撃し、『あのダン・ゲート・ブラッドが帝国に!?』と噂を聞きつけた人々――全員ガチムチの男性達が集まり列が一向に切れることはなかった。
基本的に旦那様と握手&軽く挨拶で1人10秒ほどかかる。それを過ぎると、オレが強制的に男性をはけさせ、次へと回す。
途中、ギギさんの世話をしていたタイガも、列整理に参加してもらう。
……ちなみに魔術師S級の獣王武神(じゅうおうぶしん)であるタイガに、男達は誰も見向きしなかった。
全員、キラキラと瞳を輝かせて旦那様一人に注視している。
正直、ちょっと……アレな光景で引いてしまったのは内緒だ。
こうして2時間以上かけて、突発的に始まった『ダン・ゲート・ブラッド握手会』はつつがなく終えることができた。
これ以上、騒ぎが起きないうちにオレ達はグロッキー状態のギギさんに肩を貸し、帝国城へと戻った。
翌日。
帝国城内で与えられている客室に集まり、旦那様達に状況を説明した。
そして魔王討伐への協力を取り付ける。
ちょうどリース&ココノが、改造を施した新型飛行船ノアに乗って戻って来た。
しかも、人手が必要だろうと、ココリ街の治安維持がギリギリおこなえる人数を残して新・純血乙女騎士団メンバーを連れて来てくれた。
魔力の補給をおこない休息のため一泊。
翌日、朝、オレ達は魔王討伐に向かった人種族連合の様子をうかがい、場合によって救助のために介入する準備を整えて帝国を出発した。
悪い予感はあたり、戦場では黒い煙が充満し、一般兵士達から次々に倒れていた。
オレはすぐにあの煙がBC兵器の類だと気が付く。
元々、魔王レグロッタリエは人時代、薬学に精通した人物だったらしい。
恐らくあの黒い煙も、薬&魔術による混合で作られた類の毒煙だろう。
オレが胸中でずっとしていた悪い予感。それは彼が薬学に精通し、前世地球にBC兵器があることを一般常識と知っていて実行する可能性があったためだ。
しかし確かにこの世界にBC兵器に関する条約は無いが、本気で実行するとは思わなかった。
BC兵器の被害がどれだけ酷いものか、前世地球の歴史授業で習ったはずではないか!
だがいくら憤ってもしかたない。
オレ達は、これ以上人種族連合に被害が出ないよう行動を開始。
旦那様、ギギさん、タイガは現在、突撃し魔王軍側の指揮官らしき人物――遠目に色々肉体が変化しているが恐らくエイケントの相手とウイリアムの救助を頼んだ。
さらにもしも魔王が出てきたら、3人に足止めをお願いしてある。
話を聞くと、旦那様は毒煙を風魔術で吹き飛ばしていないにも関わらずノアから飛び降り、ウイリアムの助けに向かってしまったようだ。
ギギさんが慌てて空気を清浄化し、タイガ共々旦那様の後に続いたのだ。
オレ達はその様子を見送り、今度は自分達の役割を果たしに向かう。
戦場は混乱し、倒れている毒煙をたっぷりと浴びて動けない一般兵士も多い。
そのため一度戦場を横切り、スノー、リース、シア、メイヤ、ルナ、カレンに土魔術で壁を作ってもらった。
壁を作り、倒れている兵士と魔王軍兵士を分断したのだ。
もちろん全員を完璧に分断するのは難しい。
あくまでこれ以上、魔王軍兵士達の追撃をさせないように、倒れている一般兵士達がいない場所から強引に壁を作り分断したのだ。
まるで急造の『万里の長城』である。
隔離し切れなかった魔王軍兵士達は、カレンの仕切りで新・純血乙女騎士団メンバーに任せる。
新型飛行船ノアを止めて、地上から飛び降りることができるギリギリの距離まで降下。
手にAK47(GB15装着済み)を持った新・純血乙女騎士団メンバーが降りて行く。
戦闘服に身を包み、手にAK47を持ったカレンが告げる。
「どうやら黒い玉はゴーレムやガーゴイルなどの胸の中心にある。そいつらは基本的に手足のみを破壊するよう気を付けろ。他は叩きつぶしてよし! 基本的には二人一組で行動すること! 以上! では行動開始!」
カレンのかけ声に従い新・純血乙女騎士団メンバーが動き出す。
またスノー、シアも遊撃として参戦。
基本的には新・純血乙女騎士団メンバー達が危険に陥らないようにするためと、万が一黒玉を破壊した場合、スノー&シアが風を起こして吹き飛ばす役目を担う。
とりあえず地上の応急処置的対処はこれで問題ないだろう。
魔王軍側の追撃が収まれば、人種族連合側に余裕ができ、味方の救助に向かう頭数ぐらいは揃えて動き出すはずだ。
問題は壁の反対側。
分断した魔王軍兵士達がスノー達の作り出した壁を破壊し、追撃を再開しようとしている。
一部では破壊され、進入を許していた。
所詮は急造の壁だ。城塞のような強固さはない。
だがこれも想定内である。
「それじゃそろそろ新型飛行船ノア・セカンド(名称はまだ未定)と、ルナの改造してくれたガンシップのお披露目といこうか。ルナ、ココノに話しておいた通りのコースを進むよう伝えてくれ」
「了解だよ、リューとん!」
本来、ガンシップはこういう使い方をする機体ではないのだが……そんなことを言っている場合ではない。
ルナは指示を受けると嬉しそうな声をあげ、ココノに指示を出しに行った。
残りのオレ、リース、クリスは準備に取り掛かる。
さて、それじゃ早速性能テストも兼ねて、反撃を開始しようか!