Gun-ota ga Mahou Sekai ni Tensei Shitara, Gendai Heiki de Guntai Harem o Tsukucchaimashita!?
Episode 337: The End of the Men
「や、止めて! 乱暴しないで!」
軍団(レギオン)、宝石と石炭(ジェム&コール)の竜人種族、魔術師B級、リズリナ・アイファンの悲鳴が夜空に響く。
顔をマスクで隠した3人組の男達に、彼女は弄ばれていた。
午後、相変わらず人気のない宝石と石炭(ジェム&コール)スペースに彼らがふらりと訪れた。
メイヤとの賭けがあったので、客だと思ったリズリナは、率先して展示物やゴーレムの案内などを買ってでた。
だが、それがそもそもの間違いだったのだ。
彼女は男達に取り押さえられ、他軍団メンバーもリズリナが人質になったせいで、手出しが出来ず拘束されてしまった。
宝石と石炭(ジェム&コール)は集団戦でドラゴン一体を退治した実績があるが、個々の戦闘能力はそこまで高くない。あくまで得意なのは集団戦である。
あくまで採掘がメインの軍団だからだ。
故にリズリナが人質になった時点で彼らでは奪還不可能。
大人しく拘束され、窓もない使用されていない部屋へ一カ所に押し込まれる。
男達はスペース入り口に『本日終了』の看板を出し、他の客が入ってこないようにする。
リズリナは引き続き、魔術防止首輪を嵌められ、さらに逃げられないように手足を拘束されて、男達の玩具になってしまっていた。
彼女の反応を楽しむように男達が笑う。
「へっへっへっ! 泣き叫んでも誰も助けにこないさ!」
「もっと汚してやるから、良い声で泣くんだな!」
「嫌がっているが、本当はオマエも気持ちよくなっているんだろう?」
マスク男1、マスク男2、マスク男3が嗜虐的な台詞を告げる。
リズリナはそんな男達に嫌がり、涙ながらに訴える。
「お願い、もうやめて……! それ以上されたら、あたし……っ」
普段プライドが高い彼女が懇願するも、男達は聞く耳を持たず鍛え抜かれた筋肉質の腕を再び触手のように伸ばし――宝石と石炭(ジェム&コール)の広場に置かれてあるゴーレム、『採掘ゴーレム3型』と『運搬クモクモ君』にペンキとナイフで傷をつけて遊んでいた。
前世、地球、日本の暴走族がコンクリートに描くようなアートを『採掘ゴーレム3型』が胴体に。
『俺様参上!』『一生涯真剣友達』のような言葉を『運搬クモクモ君』の足にナイフで傷を付けたりしていた。
そんな狼藉をする男達にリズリナは涙で抗議する。
「なんて酷いことを! 貴方達! それがどれほど素晴らしい物か分かっているの!? だいたい貴方達はこんなことをして何が目的なの!?」
「くっくっくっ……目的か。確かに人質となっている貴様には聞く権利があるな」
マスク男1が意味深な笑い声を漏らし、鷹揚な態度を取る。
さらにマスク男2、3が順番に答える。
「我々組織の目的はただ一つ……」
「『魔石姫』ことメイヤ・ドラグーン様の身柄を引き渡してもらうことだ」
「あのメイヤ・ドラグーンを?」
宝石と石炭(ジェム&コール)と同じように、警備能力と戦闘能力が低い軍団を二つの襲い人質を取った。
彼、彼女達の解放を条件にPEACEMAKER(ピース・メーカー)へメイヤの身柄引き渡しを要求している。
朝日が昇るまで返答がない場合、無条件で人質を見せしめにすると公言している。
『見せしめ』の部分でリズリナが息を呑む。
「も、もし彼らが応じなかったらあたしをこ、殺すということ……?」
「くっくっくっ……まさかまさか。我々がそんな生ぬるいことをするとでも思っているのかい?」
「もし刻限までにメイヤ様を引き渡さなかった場合、貴様には見せしめとして死よりも辛い目にあってもらう」
「し、死よりも辛いですって!?」
「そう死より辛い……顔に立派な髭を描いてやる」
「さらにお腹には顔を描いて、3日目、もっとも人が集まる日にその哀れな姿をさらしてやろう」
「べ、別に、その程度なら平気なんだけど……」
リズリナは想像していたのとは違う悪戯レベルの内容に肩すかしをくらう。
しかし、続く彼らの言葉に戦慄してしまった。
「くっくっくっ……貴様はこの刑の辛さをまるで分かっていないな」
「うら若き将来がある乙女が顔に髭を、お腹に顔を描かれ公衆の面前にさらされる。結果、結婚相手が自然と居なくなり、婚期が伸びるだろう」
「我々は知っているのだ。そうなった人物がどれほど恐ろしい状態になるのか。ただ死ぬより辛く、苦しく、過酷な目に遭うことを……」
そして男達は語り出す。
とある島、酒場に一時存在した女性のことを。
一時は冒険者斡旋組合(ギルド)の受付嬢という花形ポジションについていたのにも拘わらず、気付けば世界の果てのような場末の酒場で一人やけ酒を飲むことになった経緯を。
その女性が愚痴のように垂れ流し、毎晩強制的に聞かせられた全てをリズリナに話し伝える。
話をするたび男達の声音も過去の恐怖を思い出したのか、震え出す。
最初こそ『殺されるのではなく、顔とお腹に悪戯描くぐらいなら……』と楽観していたリズリナだったが、
「いやぁぁぁぁ! もうやめて! 顔とお腹に悪戯描きしないで! どうせならいっそ殺して!」
「くっくっくっ……ようやく我々がおこなおうとする鬼畜的所業を理解したようだな」
男達は恐怖に涙し、怯えるリズリナを前に満足そうに頷く。
「すまん、ちょっとお花を摘みに行ってくる。少々、持ち場を離れるが構わないだろうか」
「ああ、任せろ」
「二人でも問題ないさ」
マスク男1は他二人に断りを入れて鉱物展示を開いている建物内にあるトイレへと向かう。
建物内部に入り、テーブルに並べられた鉱物の間をすり抜け左折、まっすぐ進むとトイレがある。
マスク男1が用を済ませて、トイレを出る。
すっきりした気持ちで再び暗い建物内を移動し、仲間の所へ戻ろうとすると――
『にゃー』
「ん?」
先程左折した曲がり角の反対側の角影から、鳴き声が聞こえてくる。
暗い室内で目を凝らすと、角から猫らしき頭が見えている。
『にゃー』
「まさか猫ちゃん? どうやらいつの間にか間違って建物内部に入ってしまったのか。くっくっくっ……これはさっさと捕まえて虐待(温かいお風呂に入れて、毛並みをブラッシング、美味しい餌を与え)しなければならぬな」
マスク男1は不適な笑みを浮かべると、猫へと歩み寄る。
「はぁい、ねこたん。ここは危ないでしゅから、ぼくと一緒にお外へいきましょうね♪」
いい年したおっさんがまさに猫撫で声で、腰をかがめ猫へと近付いていく――刹那、猫の頭部が内側からはじけ飛ぶ。
「ぐがぁぁぁ!?」
猫の頭部が内側から破裂&突然の痛みにマスク男1は思わず悲鳴を上げてしまう。
混乱しているマスク男1に、再び激痛が襲いかかる。
彼はそこで意識を失ってしまった。
『ぐがぁぁぁ!?』
「「!?」」
マスク男1の悲鳴が、マスク男2、3のところまで聞こえる。
「ま、まさか遠・近距離戦闘の達人である奴がやられたというのか!? 猫さえ絡まなければ実力を十全に発揮する奴が!?」
「そ、そんなまさか!? とくに暗闇の狭い室内戦闘では島でも1、2を争う達人だぞ!? 猫さえ絡まなければ!」
だがマスク男2、3の驚愕を余所に以後、どれだけ待ってもマスク男1は戻ってこない。
建物内部はまるで死んだように静まり帰っている。
マスク男3が緊張感から唾を飲み込む。
「そ、そんなこれだけ待っても戻ってこないということは、本当に奴は……」
「くそ! 待っていろ友よ!」
「ば、馬鹿野郎! 持ち場を離れるな! それに室内にまだ敵が居るかもしれないないんぞ!」
「だからと言って友を見捨てられるはずがないだろぉぉッ! 友よ! 今行くぞ!」
マスク男3の静止を振り切り、マスク男2が走って建物内部へと向かってしまう。
熱い友情の台詞を叫びながら!
彼は迷わず建物内部へと入る。
外の月、星明かりに慣れた目はすぐに暗闇を見通すことができなかった。
だが、それでも足を止めずゆっくりと気配を探りながら、室内へと進入していった。
「!?」
足下に違和感。
大分暗闇に慣れた目で足下を見ると、どうやら倒れているマスク男1を踏んだ感触だった。
「だ、大丈夫か!?」
「ぐぅ……」
暗闇で分かり辛いがマスク男1は重傷だが、生きているらしい。
現在は気絶しているだけのようだ。
「待ってろ! 今助けるから――!?」
マスク男2は彼を助けるため、傷口に清潔な布を押し当て簡単に止血する。
この暗さではそれ以上の適切な処置ができないため、建物外に連れ出そうとしたが――この暗闇中、自分以外の存在にようやく気付いた。
「……これは人形か?」
マスク男2は暗闇で目を凝らす。
最初は人サイズだったので、マスク男1を襲った襲撃者かと思ったがよく見れば人ではない。
暗がりで分かり辛いが、質感から生物ではなく人形だと判断できる。
途端にマスク男2は緊張感を弛める。
なぜこんな場所に等身大の人形があるか分からないが、今はマスク男1の治療が優先。
彼は人形に背を向け友をお姫様抱っこして、来た道を戻ろうとする。
「うん?」
違和感を感じ振り返る。
背後で何か動く気配を感じた。
しかし、振り返るが動くものはいない。
「……気のせいか」
「ううぅ……ッ」
「!? 待っていろ! すぐに治療してやるからな!」
マスク男1のうめき声で再び広場へと移動を始める。
――ガタン。
「何奴!」
背後から物音、やはりマスク男1を倒した者が進入していたらしい。
マスク男2は振り返りお姫様抱っこしていた男を地面に置くと、腰を落として臨戦態勢を取る。
鋭い視線を飛ばし、腰からナイフを抜き放つ。
何が襲って来ても対応できるよう準備する。
「…………」
いい加減、暗闇にも目が慣れたお陰である程度の範囲を確認することができる。
視界に怪しい影はないのだが、なぜか違和感を覚えた。
周囲を警戒しつつ、頭の片隅で違和感の正体を考える。
「!?」
そして気付いてしまう。
先程まで曲がり角にあった等身大の人形の姿が消えていることに!
またよくよく考えてみれば、宝石と石炭(ジェム&コール)は鉱物関係の軍団。採掘用のゴーレムは扱っていても、人形など展示しているはずがないのだ!
(た、確か……等身大の人形なんて酔狂な物を作った軍団は一つしかなかったはず! その人形の名前は――)
ガチャンッ!
背後から聞こえてくる機械音。
マスク男2は知らない。
この音こそ弾倉(マガジン)にある一発が薬室(チェンバー)に移動したコッキング音であることを。
男はおそるおそる――まるでホラー映画に登場する人物のように恐怖に引きつった目でゆっくりと背後を振り返る。
彼の背後。
1mも無いくらいすぐ側に等身大の人形が立っていた。
手には黒々とした筒が握られ、先端が男の胸へ向けられていた。
目が暗闇に慣れたのと、近距離のため相手を詳細に観察することができる。
尖った嘴、両手の羽根になっていて、胴体はずんぐりむくりとしてる。足は胴体に比べて細く、目はくりくりとした可愛らしい黒目だが、現在はなんの感情も抱かない殺人鬼(シリアル・キラー)のような雰囲気のため愛らしさは微塵もない。今の姿をお子様が見たら、トラウマになること請け合いだ。
その人形の胸には『平和』を意味する単語の『P』が神々しく絵が描かれている。
男は真っ青な震える唇を動かし、目の前の等身大人形の名前を口にする。
「ぴ、ピースく――ッ!?」
バガンッ!
発砲音。
男は相手の名前を言い切る前に胸を撃たれ、後方へと吹き飛ぶ。
その一撃でマスク男2は意識を手放してしまう。
こうして再び建物内に動く人物は誰もいなくなった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
『バガンッ!』
「!?」
マスク男1、マスク男2が入った建物から発砲音が広場まで響く。
唯一、広場に残されたマスク男3は人質であるリズリナを左手に、右手にはナイフを握っていた。
リズリナは先程とはうってかわって、彼の腕の中でぐったりとしていた。
現在は不測の事態が起き、広場には自分しかいない。
十中八九、仲間達は彼女達を助けるための襲撃者に襲われたのだろう。
リズリナは人質という盾にするため、下手に暴れられないよう薬で眠ってもらったのだ。
ギギィー……
建物の扉が開く。
マスク男3はリズリナを盾に、彼女の首元にナイフを押し当てる。
「……っ!?」
建物から出てきたのは、人の形をしていなかった。
それ(、、)は建物から一歩、二歩と星明かりの下に姿を表す。
マスク男3はそれ(、、)を前に歯ぎしりする。
「やはり貴様達だったか……PEACEMAKER(ピース・メーカー)!」
『やぁ、ぼく、ピース君、よろしくね(甲高い声)!』
夜空の下、一羽の白鳩とマスク男が向かい合う。
ピース君がさらに一歩前へ進もうとしたが、
「おっと! それ以上動くなよ。下手な動きをしてみろ、こいつを殺すぞ。我々は本気だ。いくらメイヤ・ドラグーン様が開発した優れた魔術道具を持っていようと、喉に押し当てたナイフを動かす方が速いということを忘れるなよ」
マスク男3は主張するようにリズリナの喉に押し当てたナイフを見せびらかす。
彼の警告に従いピース君はそれ以上、進まなかった。
男は満足そうに口元を歪める。
「よし、次はその手に持っている武器を捨てろ」
『こんにちわ! ぼく、ピース君。好きなものは愛と平和だよ(甲高い声)!』
「誤魔化すな! さっさと捨てろ!」
マスク男3が怒鳴る。
ピース君は微かに逡巡してから、手にしていた戦闘用(コンバット)ショットガン、SAIGA12Kを放り捨てる。
地面に落ちると金属音が鳴り響いた。
「よし、次はそのふさげた恰好を脱げ」
『ぼく、ピース君。中に人なんていないよ(甲高い声)!』
「馬鹿にしているのか!? いいからさっさと脱げ!」
『ぼく、ピース君。中に人なんていないよ(甲高い声)!』
「この女を殺すぞ! それとも我々の本気を示すため耳か鼻、片目を抉ってやろうか!」
マスク男3が本気を示すため、リズリナの首の薄皮をナイフで裂く。一筋の血が鈍く光ナイフの刃を濡らした。
『…………』
暫しの沈黙。
さらにナイフを動かそうとするのを見て、ピース君の頭が『こくり』と動く。
マスク男3はそれが同意の動きだと判断し、押し当てていたナイフから力を抜いた。
パクリ――今度はなぜかピース君の嘴が開く。
マスク男3はそれが同意の流れから脱ぐために必要な動作だと勘違いする。その勘違いが今夜の勝敗を分ける結果になった。
ピース君の口から男の顔面目掛けて強烈な光が放たれる。
マスク男3は反射的に顔を押さえるため、リズリナから手を離してしまう。
これこそピース君の奥の手の一つ『ピース君ビーム』だ!
「目がぁぁ! 目がぁぁ!」
男は暗い夜に慣れた目に強烈な光を浴びせられ、目元を抑えて声を挙げる。
その隙に彼は足を払われ地面へと転がる。
胸を何者かに押さえつけられ、縫い止められたように動けなくなってしまった。
ようやく回復した視力でその人物を確認すると――相手はもちろんピース君だった。
ピース君は片足で男の胸を押さえつつ、ずんぐりとした胴体を曲げて顔をのぞき込んでいた。
両手の羽根をバサバサと動かし、可愛さアピールをしているが今は完全に平和の象徴ではなく、死を告げる闇の鳥状態である。
「ヒィッ!」
その姿を見たマスク男3が悲鳴を上げるのもしかたない。
ピース君はそんな彼を見下ろし、
『ぼく、ピース君! 好きな言葉はラブリー&ピースだよ(甲高い声)!』
閉じられた嘴を再びゆっくりと開く。
その先が男がくぐる死のトンネルだと言わんばかりの暗さである。
『ぼく、ピース君! 特技は……武力行使さ(甲高い声)!』
嘴の奥から『ジャイアント・ビーン』が勢いよく発砲され、男の顔面を撃ち抜く。
マスク男3は悲鳴すら上げる暇もなく、意識を手放す。
これこそピース君の必殺業! 『ピース君、豆鉄砲』である!
こうして2日目夜を騒がせた人質事件は、ピース君の活躍により無事解決したのだった。