Gun-ota ga Mahou Sekai ni Tensei Shitara, Gendai Heiki de Guntai Harem o Tsukucchaimashita!?
Military Ota Volume 7 Launch Celebration Update SS Men's Association
久しぶりに魔人大陸へ戻った夜、女子は女子だけで『夜会』を開くことになった。
『夜会』とは魔人大陸にある習慣で夜にお茶をすることだ。
今夜は久しぶりに娘であるクリスが帰ってきたため、母親であるセラス奥様が張り切って開いた。
そんな女性だけの夜会に、夫とはいえオレが出席する訳にはいかない。
そのため男子は男子で集まり『夜会』を開くことを屋敷の主であるダン・ゲート・ブラッド伯爵が提案したのだ。
義父でもある旦那様の提案を断るわけにはいかない。
女子達とは別の大部屋に男子――旦那様、ギギさん、メリーさん、オレが久しぶりに集まって思い出話に花を咲かせていた。
給仕はブラッド家で執事長を勤める魔人種族、羊人族のメリーさんが担当してくれる。
男が夜に集まって話をするなら、この異世界でも酒精を飲むのが普通だ。
しかし飲み物は香茶、お茶請けは甘いお菓子のみ。
酒精は一滴も場にない。
にもかかわらず旦那様の笑い声のお陰で場の空気はとても明るかった。
そんな楽しい場の空気も、ある話題によって真逆――地獄に変わってしまう。
オレは意識を朦朧とさせながらも必死に耐え、『早く終わってくれ!』と胸中で叫び続けていた。
そんな地獄を産み出した話題とは――
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男子夜会の話題は思い出話から、『好きな筋肉はどこか?』という話題に変わる。
(なんだよ好きな筋肉って……)
だが胸中で思っても口には出さない。
まず初めに旦那様が先陣を切って答えた。
「はははっははは! 我輩は全部だ! 全部の筋肉が好きだぞ!」
旦那様は体が大きいのにオレ達と同じサイズのカップを使って香茶を飲んでいるため、一人だけままごとをしているようにも見える。
とりあえず旦那様の答えは予想できた。
次に答えたのはギギさんだった。
「自分はやはり足ですね。戦闘の時も速さで勝負するので、鍛える時も足を意識しますから。後は腹筋も好きです」
次に答えたのはメリーさんだった。
「わたくしもギギと同じで腹筋が好きですメェー」
「ふふ……」
この発言にギギさんが思わず失笑を漏らす。
ギギさんの失笑に、メリーさんが低い声音で問いかけた。
「ギギ、何か?」
「いや、すまない。まさかメリーも腹筋が好きとは知らなくてな」
「どういう意味ですかメェー? わたくしの腹筋がギギよりも見劣りするのに『好き』と口にするのが滑稽ですかメェー?」
「そうは言ってない」
空気が悪くなる。
元々、メリーさんとギギさんは特別仲が良い訳ではない。
片方はブラッド家執事長、もう一人は元警備長。
互いに部署のトップ同士で、性格も正反対でどちらもブラッド家に長く勤めていた古参である。
色々、ぶつかることがあったのだろう。
空気を変えようと、オレが『好きな筋肉』を答えるより早く、今度はメリーさんがギギさんを鼻で笑った。
「ギギ、長年屋敷に居なかったせいで貴方も随分ぬるくなりましたメェー」
「……なんだと」
メリーさんが執事服の首元を弛めながら立ち上がる。
「『筋肉は口ほどにものを言う』。ブラッド家の家訓を忘れてしまったのですかメェー」
自分もブラッド家で働いていましたが、そんな家訓初めて聞いたんですけど……。
一方、なぜかギギさんが悔しそうに歯噛みしている。
え? ギギさんは知ってたの?
メリーさんは『してやったり』と言った表情で、ギギさんを手招きする。
「立ちなさい、ギギ。久しぶりに相手をしてやりますメェー」
「……歳を考えた方がいいんじゃないか? こっちはまだ現役の冒険者なんだぞ」
ギギさんはキリッとした表情でふらりと立ち上がる。
二人の間がまるで陽炎のように揺らめく。
い、いったい何が始まるんだ!?
「旦那様、久しぶりによろしいですかメェー?」
「ふむ……」
いつも豪快な旦那様が、腕を組み顎を撫でながら考え込む。
その表情はとてつもなく真剣だ。
少しの間の後。
旦那様が重々しく口を開く。
「……筋肉とは争うものではない。筋肉に貴賤はなく、ただ筋肉がそこにあるだけなのだ」
旦那様は普段見せない真面目な表情で語る。
言っている意味はまったく訳が分からないが。
さらに旦那様は続ける。
「しかし競い合い、切磋琢磨し、認め合うのもまた筋肉! 二人の熱い筋肉はよく分かった! では久々にアレを始めるとするぞ! すぐに準備を開始するのだ!」
「「了解です!」」
ギギさん&メリーさんは、声を揃えて返事をするとすぐさま動き出す。
オレは意味が分からず、ただおろおろと二人の動きを見守ることしかできなかった。
てか、なんだかんだいってギギさん&メリーさんは仲が良いんじゃないか?
準備はすぐに終わる。
準備と言っても部屋の家具を端によせてスペースを作っただけだ。
さらに二人は上着を脱ぎ上半身裸になる。
ギギさんはともかく、メリーさんが意外にもがっちりとしていた。腹筋も割れ、胸筋もあり、腕も細いがしっかりと鍛えられていた。
また隣に立つ旦那様もいつのまにか上着を脱いでいた。
これ、オレも脱いだ方がいいのだろうか……。
「それでは早速、始めるぞ! ブラッド家伝統筋肉勝負を!」
旦那様の掛け声に合わせて、二人は動く。
地面に仰向けに寝ると、膝を立てた。
「リュートよ、ギギの足を押さえてくれまいか。我輩がメリーのを押さえるゆえ」
「は、はぁ」
意味が分からないが指示通り、ギギさんの足を押さえる。
「第一試合は5分間に何度腹筋が出来るか勝負! よーい……マッスル!」
旦那様の掛け声と共にギギさんとメリーさんが、勢いよく腹筋を開始する。
てか、なんだよ『よーい……マッスル!』って!
とりあえず――どうやらこれが『ブラッド家伝統筋肉勝負』らしい。
何か揉め事があった場合、この勝負で白黒つけるとか。
過去、ブラッド家でお世話になっていたがこんな勝負知らないんだが……。
オレは数年以上経って初めて、ブラッド家の闇を知る。
第一試合ということで、腹筋が終わると『腕立て』『背筋』『スクワット』など勝負がおこなわれる。
ギギさん&メリーさんだけではなく、なぜか旦那様に言われてオレまで勝負に巻き込まれた。
ギギさんとメリーさんが終わると、今度はオレと旦那様で腹筋などをおこなうのだ。
飛び散る汗、体から昇る湯気。室内の温度と湿度は男達の汗によって高まっていく。
別部屋ではスノー達女性が優雅に夜会をしているのに、男子側はなぜか過酷な筋肉勝負をしているのだ。
この落差。
まさに天国と地獄である。
「やるなメリー……まさかここまで自分についてくるとは……」
「ギギこそなかなかやりますメェー。ではそろそろわたくしも本気をだしましょうメェー」
「ふん、それはこっちの台詞だ」
ギギさんとメリーさんは二人で好敵手のような会話を繰り広げる。
「ははっはははははっは! リュート、やっぱり筋肉を震わせるのは最高だな!」
一方、オレは旦那様との筋肉勝負で魂が抜けかけていた。
今の所、旦那様が全ての勝負でオレ達を圧勝している。
「はははあはっはは! さあ次はどんな筋肉勝負をする!」
「次こそは負けんぞ、メリー!」
「ギギ! それはこちらの台詞ですメェー!」
旦那様の声にギギさん&メリーさんがまだまだ元気な声音で答える。
――オレもスノー達の女子会に参加しておけばよかった。
朝はまだまだ遠かった。