Gun-ota ga Mahou Sekai ni Tensei Shitara, Gendai Heiki de Guntai Harem o Tsukucchaimashita!?

Army Otakomics Nine Volumes Launch Celebration SS Maya This Long Time and Her Request

「わたくしも昔は若かったですわね……」

メイヤが穏やかな表情で左腕に結婚腕輪を光らせ、優雅に香茶(かおりちゃ)を口にする。

獣人大陸、ココリ街。

オレ達、PEACEMAKER(ピース・メーカー)メンバー達は今日も1日問題なく仕事を終わらせた。

新・純潔乙女騎士団本部の客室をオレ達は私室代わりに使用している。

その客室リビングで夕食も終え、就寝時間になるまで嫁達とお茶会を開き、昔話に花を咲かせていたのだ。

「いや、オレの嫁になるため裏から手を回し、竜人大陸でプロパガンダや情報操作をおこったことを『昔は若かった』で済ませられるモノじゃないと思うんだが……」

「でもメイヤちゃんの気持ちも分からなく無くないんだよね」

『ですね。私もリュートお兄ちゃんと結ばれるのなら、それぐらいしちゃう気持ちも分かります』

スノーとクリスが、彼女の行動に理解を示す一方で、

「私はメイヤさんより後にリュートさんと知り合って結婚した立場なので何も言えませんね……」

「リース様の仰る通り、わたしも同じ立場なので何も言えません……」

リースとココノは、オレとメイヤが親しくなった後に嫁になったために負い目があるのか、彼女の行動に対して否定も肯定もしなかった。

そんな2人に対してメイヤが聖母のような笑顔で話しかける。

「リースさん、ココノさん、わたくしより先にリュート様と結ばれた事などもうお気になさらないでくださいまし。所詮は過去のお話。今はわたくしもリュート様と結ばれているのですから。終わりよければすべてよしですわ」

「メイヤさん……」

「メイヤ様……」

メイヤの言葉にリース&ココノは、感動した面持ちで彼女を見つめる。

彼女達の視線を浴びつつ、優雅な態度を崩さす給仕を務めるシアに対してメイヤが新しい香茶(かおりちゃ)を注がれる。

(……変われば変わるモノだな)

メイヤはオレと結ばれる以前、色々策略や奇行を繰り返してきた。

なのに今では『有能で瀟洒な女社長』的な出来る女性の雰囲気を醸しだしている。

実際、メイヤは非常に有能だ。

昔から兵器開発の助手を担ってもらっていたが、現在はそれに加えてオレのスケジュールを管理する秘書も実質担当している。

PEACEMAKER(ピース・メーカー)の外交部門を担当している、下半身が蛇で上半身が人のラミア族ミューア・ヘッドとよく話し合い、面会者を厳選したり、上流階級出身の知識で場をセッティングしたりしてくれる。

他にも書類仕事、予算分配、手紙の文章下書き、飛行船ノア・セカンドや他魔術道具の整備チェックなど――雑務を手助けしてくれていた。

だからと言って兵器開発の助手を疎かにしているわけでもない。

(こないだも、ルナがメイヤに魔石と魔術文字の相談に乗ってもらっていたしな……)

元々メイヤは魔石関係についてはスペシャリストだ。

彼女は『七色剣』と呼ばれる火、水、風などの魔石を入れ替えることで属性を切り替えられる魔剣を作り出している。

当時の常識では属性魔石を入れ替えることは出来ないというのが定説だったが、メイヤはその定説を覆し、魔石を入れ替え属性を切り替えられる魔剣を作り出したのだ。

それ故、メイヤは『魔石姫』と呼ばれ尊敬を集めていた。

(オレと結婚する以前は色々奇行が目立っていたが、元々非常に優秀な人物なんだよな……)

過去、メイヤの奇行を振り返るととても信じられないが……。

そんなメイヤが憂いの表情を浮かべ、カップをソーサーへと戻す。

「リュート様と結ばれたのは非常に喜ばしいことですが……後悔が無い訳ではありませんの」

「えっ? オレは何かメイヤを悲しませることをしたか?」

「まさか! リュート様に不満など一切ありませんわ。ただ結ばれるのが遅かったせいで竜人大陸にあった一軒家で皆様と一緒に新婚生活をしたことがなくて……。当時、リュート様はスノーさん、クリスさん、リースさん、ココノさんと一緒にあのお家で新婚生活を送っていましたが、わたくしは自宅の屋敷でそれを外から眺めていることしか出来ませんでしたから……」

メイヤはまるで姫君が悲報を耳にしてその慈愛精神から心を痛めているが如く、憂いの表情を浮かべる。

スノー、クリス、リース、ココノはメイヤの心情を理解できるのか同情的視線を向ける。

メイヤ以外、竜人大陸で借りていた一軒家で新婚夫婦として過ごした経験があるためだ。

メイヤだけが『嫁』として、あの一軒家で過ごした経験がない。

彼女を嫁にする前、一軒家を引き払い新・純潔乙女騎士団本部へと移り住んでしまったからだ。

メイヤの憂いの表情、スノー達の同情的視線についついオレ自身も流されてしまう。

「ごめんなメイヤ、気付いてやれなくて……。竜人大陸で借りた一軒家を引き払わず、別荘代わりに借り続けるか、買い取っておけばメイヤの願いを叶えられたんだが……」

前世、オレ自身に女性の影は一切なかった。

そのせいで女性の心が分からず、嫁を悲しませていたとは……。

「ご安心くださいませ、リュート様! あの一軒家はリュート様達が引き払った後、すぐにわたくしの名義で周辺含めて買い取っておりますから。もちろん、家が傷まぬよう管理維持も当然おこなっていますわ!」

オレが胸中で後悔の念を抱いていると、メイヤが力強い言葉で否定する。

思わず問い返してしまう。

「……メイヤ、どうしてそんなことをしたんだ?」

「どうしても何も、世界をお救いになった勇者で英雄のリュート神様が長期間お住まいになっていた一軒家は人類文明が滅びるまで守護すべき文化遺産ですわ! 妻として世界唯一の一番弟子として確保し、管理維持するのは当然の勤めではありませんか!」

うわ……なんだろう。

久しぶりにメイヤ節を聞かされた気分だ。

そう感じたのはオレだけではなくスノー達も同情的視線から一転、『ああ、彼女らしいな……』という複雑な感情を瞳に抱いていた。

唯一、表情を変えないのは給仕に徹するシアだけだ。

メイヤは皆の微妙な視線など物ともせず喜々とした表情で、立ち上がる。

「というわけでわたくしが既に手を回し、竜人大陸にある一軒家は確保済みですわ! 移動手段として飛行船ノア・セカンドの調整も万全! 魔石費用も自費で賄いますし、皆様の休みの合わせる調整と根回しはいつでも出立できるよう対策済みですわ! なので昔に戻り新婚生活を過ごしましょう! そうしましょうですわ!」

まるで濁流のごとくメイヤは台詞を勢いよく告げる。

この勢い、雰囲気……本当に昔、オレと結婚するため色々手を回したり、策謀を巡らせた彼女そのものである。

どうやら次はその範囲がオレだけではなく、スノー達にも伸びたらしい。

(オレだけじゃなくスノー達にまで広がって、1人当たりの被害が減ったことを喜ぶべきか、範囲が広がったことを嘆くべきか。むしろ『メイヤらしい』と笑うべきなのか?)

オレだけはなく、スノー、クリス、リース、ココノも『彼女らしいな』と微苦笑を漏らす。ある意味、達観した表情ともいえなくもない。

やはり表情が変わらないのはシアだけだ。

とりあえずメイヤの勢いに押されて、オレ達は休日の時間を合わせて昔懐かしい竜人大陸で新婚生活をしていた一軒家で週末を過ごす事になったのだった。