Gun-ota ga Mahou Sekai ni Tensei Shitara, Gendai Heiki de Guntai Harem o Tsukucchaimashita!?
Episode 462: Army OttaAfter Demon King's Bone
投下実験後、ナパーム弾(試作品)の細かい問題点を洗い出し微調整をおこなう。
作業自体はそれほど難しくなく、約1日で終了した。
これでほぼナパーム弾は完成で問題ないだろう。
ナパーム弾が完成した所でいよいよ本格的な掃討作戦へと移る。
ナパーム弾を投下するために『臭いを吹き飛ばす装置』に使用していたレシプロ機(擬き)エンジンを元に戻す。
最初は飛行船ノアにナパーム弾を詰めて落とす予定だったのだが、ココリ街と封印都市マドネスの間の資材運搬にどうしても必要だったため諦めた。
またレシプロ機(擬き)は量は詰めないが、小回りが利く。
市街地関係なくばらまくなら飛行船ノアの方が良い。だが、今回のような城壁内部だけに投下する場合、レシプロ機(擬き)の方が適している。
ちなみに後日『臭いを吹き飛ばす装置』のためだけに、ココリ街から運んできた魔術液体金属&魔石を使ってレシプロ機(擬き)&プロペラを作った。
ルナが居るため材料があれば一瞬で作れるが……今回の一件が終わった後、こんなピンポイントな物があっても他に使い道がない。
とはいえまさかケチる訳にもいかず、諦めて製造を依頼した。
話を戻す。
レシプロ機(擬き)2機あり、『1番』、『2番』と機体に番号を描いた。
レシプロ機(擬き)底部にナパーム弾がセットされ、スイッチを押せばナパーム弾が落ちる仕組みだ。
レシプロ機(擬き)1番、2番が交互に封印都市マドネスの飛行船発着場から飛び立ち、城壁内部上空を行き来して、ナパーム弾をガンガン落としていく。
今までは城壁上部、内部に冒険者や魔術師を送り込み、ごり押しでモンスターを倒し、数を減らしていた。
しかし現在は、上空から交互にナパーム弾を落とすだけ。
ゾンビ系モンスターが数万規模で群がってきても、上空のため敵の攻撃は届かないし、燃えた炎はなかなか消えず敵へと次々燃え移り被害を拡大し倒れていく。
今までに比べて圧倒的に人手を必要としない。
夜間は日が沈むため誤射の可能性が非常に高くなるので、ナパーム弾の投下は控えていた。
しかし、昼間だけとはいえ敵モンスターを効率よく倒すことができた。
お陰でローテーションを組み、1日休みを取らせることも可能となる。
1日でも休みを取れるのは体力的にも、精神的にも大きかった。
参加者のストレスも軽減され、最初にあった厭戦感はなりを潜め、『このまま行けば問題が解決するのではないか?』という楽観的空気感すら出てくる。
このような空気感が生まれたのもナパーム弾があるからだ。
普通の爆弾なら炸薬の爆発エネルギーを排出して終わりだが、ナパーム弾の場合、可燃物がある限り延々と燃え続ける。
普通の爆弾に比べて1発が圧倒的に大きい。
故に墓地穴からゾンビが溢れ出てある一定以上溜まったら、ナパーム弾を投下し燃やす尽くせばいいのだ。
普通の爆弾ではこうはいかなかっただろう。
ナパーム弾が完成し、定期的に投下を初めて数日――ようやく墓地穴からゾンビの吐き出す率が減る。
オレはジオ殿、『腐敗ノ王』に声をかけられ、城壁上部から墓地穴を長めに視察へと向かった。
「夜はともかく、昼間だとさすがに一目で数が減っているって分かるな」
数日前までは城壁内部を埋め付くす勢いで、墓地穴からゾンビ系モンスターが溢れ出てきた。
その勢いは凄まじく、ゾンビの津波が城壁にぶつかり今にも破壊するか、仲間を押しつぶしながら盛り上がり越えてしまいそうになるほどだった。
現在は10匹前後の人型や四足獣が壁にぶつかり、破壊するためか、昇るためか分からないが爪を立てひっかいている。
この程度なら100年経っても城壁を越えることは不可能だろう。
大抵のゾンビ系モンスターは墓地穴から出て、纏まって城壁に向かおうとしても上空からレシプロ機(擬き)が落とすナパーム弾によって纏めて燃やされる。
量が多ければたとえ燃やされても城壁にそれなりの数が到達できるのだが……。
魔王の魔力が弱まっているのか墓地穴から出てくる数自体が大幅に減っている。
つい数日前は墓地穴から巣を突いたミツバチの如く再現なく溢れ出ていた。
現在は息切れしたのか、短くない間隔を開けて思い出したかのようにモンスターを吐き出すだけだ。
吐き出されるゾンビ系モンスターも以前は魔王によって強化されていたのか頭を潰そうが、上半身を潰そうが、向かって来ていた。
しかし今は力が弱まり、普通のゾンビ系のように頭を潰せば動かなくなる。
お陰でより効率的に敵を倒すことが出来る。
完全に消化試合をこなすような空気になっている。
隣に並び城壁内部の様子を視察していた『腐敗ノ王』がオレの手を取り、面頬兜(フルフェイス)を既に脱いでいる美少女笑顔でお礼を告げてきた。
「ありがとうございます、勇者にして英雄殿。一時は城壁を破壊され、魔王の眷属を野に放ち、多くの命が失われ復活を許すのを覚悟していました。しかし貴方様のお陰で無事、魔王復活を阻止することが叶いそうです。本当にありがとうございます!」
「い、いえ、これもジ、『腐敗ノ王』殿や他皆の力があったからこそですよ」
オレにその手の趣味は無いが、満面の美少女顔でこれほど熱烈にお礼を告げられたら人によっては勘違いしそうである。
開いてはいけない扉が開いてしまう……みたいな。
「そんなご謙遜なさなくてもいいのに……。いえ、むしら驕らず、油断せぬ姿勢こそ一族の長であるぼくが学ぶべき点なのかもしれません。勉強になります!」
今度は笑顔ではなく、尊敬と興奮のせいか瞳を潤ませ、頬を赤らめてさらに距離を縮めてくる。
本人に悪気はないのだが、本当に質が悪い!
オレは第三者に見られて変な噂をたてられるより早く、『腐敗ノ王』から手を離してもらい一歩距離を取る。
『腐敗ノ王』が寂しげに離した手に見つめ、眉根を落とす。
……彼にその気は本当にないんだよな?
オレは思わずさらに一歩距離を取ってしまった。
微妙な空気を変えるため、話題を振る。
「とりあえずこのままモンスターが吐き出されなくなるまで、掃討を繰り返した後、『腐敗ノ王』殿達が墓地穴に潜り再封印をおこなうのですよね?」
「はい、この分なら後数日――10日もかからずモンスターは吐き出されなくなるのではないでしょうか。そうなったらこの『腐敗ノ王』で再び封印を強化すればお終いです」
魔王である『腐敗ノ王』を再封印するため、大剣である『腐敗ノ王』を使用するとは……。これも『身から出た錆』的な諺を当てはめていいのだろうか?
「封印が完了したら、祝賀会を開きますので奥様共々ご出席くださいませ。その席で是非、勇者にして英雄殿の武勇伝をお聞かせくださいね」
「い、いえ、本当、自分にたいした武勇伝とかありませんから……はははは……」
頬を赤らめ話をねだる『腐敗ノ王』。
……こいつ実は男じゃなくて、普通に女の子とかっていうオチじゃないよな?
ドン――と爆発音。
音に反応し視線を向けると、轟々とゼリー状の燃料が燃え、黒煙を吐き出す。
炎に巻き込まれたゾンビ系モンスター達が火炎の中で踊り、何もできず崩れ落ちていく。
これで粗方倒してしまった。
残るは数十体程度。
墓地穴から湧き出てくるまで、放置しても問題ないレベルだ。
(魔王関係の緊急クエストと聞いて、ランスレベルを覚悟していたがこの程度で済んで本当によかったな……)
世界中から魔力を奪われたあの事件に比べたら、今回はピクニックに出かけた程度だろう。
(臭い問題はあったけど、今回は楽な分類の緊急クエストだったな……)
胸中で評価を今回の一件の評価を下す――すぐに反論が湧き出てきた。
(……本当にそうか? いくら太古の魔王で、弱っているからといって魔王関係の問題がこんな簡単に解決するものなのか?)
オレ達PEACEMAKER(ピース・メーカー)は今生で『黒毒の魔王』、一応ランスも魔王分類でいいだろう。
二度も魔王との戦いを経験している。
その経験上、魔王問題が簡単に解決するのはありえないと直感が訴えてくる。
ガンッ!
「「!?」」
オレの直感が正解だと言わんばかりに地面が揺れる。
ナパーム弾の爆発とも、地震とも違う揺れだ。
まるで地面を無理矢理掘り返すような激しい振動である。
振動の原因はすぐに判明する。
魔王が眠る墓地穴の地面が、活火山が噴火したように吹き飛ぶ。
吹き飛ばされた岩石や破片が城壁にぶつかり一部を大きく崩してしまう。
それはそれで問題なのだが……それ以上の大問題が墓地穴から姿を現す。
その大問題とは……墓地穴から真っ白な白い巨大な手の骨が姿を現したのだ。
一目で理解する。
あれが太古、神話、この世界で語り継がれている物語の大悪党。
大陸中に死を撒き散らした魔王だと。
唐突な魔王復活に、オレや『腐敗ノ王』はすぐに反応することができなかった。