Hazure Skill “Kage ga Usui” o Motsu Guild Shokuin ga, Jitsuha Densetsu no Ansatsusha
AtoZ6 starting with sampling quest
◆ロラン
深夜だった。
俺がレイテから与えられた部屋で休んでいると、よく知った気配がしたので、ベッドを抜け扉を開けた。
そこには、扉に手をかけようとしていたディーがいた。
「あらあら。こっそり忍び込んで、眠っているロラン様をいぃーっぱい可愛がってあげようと思ったのにぃ。残念」
「忍び込もうと考えているなら、正面の扉から入らないことを勧める」
「それでもすぐに察知するくせに」
まあな、と俺はひと言言って、ディーを中に入れた。
「首尾はどうだ?」
今日で、面と向かってやりとりするのは、三回目だった。
定時連絡は、俺が出した『シャドウ』にディーが手紙を持たせ、それを俺のところまで運ばせる。
内容は、俺とディーがあらかじめ決めた暗号で記されているため、俺たち二人以外が読んでもわからないようにしてある。
もし手紙を運ぶ途中『シャドウ』に何かあれば、俺が真っ先に気づく。そこから、誰が手紙を狙ったのかも調べることができた。
だが、今のところ危惧した事態は何も起こらないあたり、ディーは上手く懐に入り込んだようだ。
見聞きするだけなら『シャドウ』をベイルに貼りつかせればいいが、場所次第では魔法結界が張られる可能性はなくはない。
そうなると『シャドウ』では入り込めない部分が出てくるので、ディーに頼まざるを得なかった。
『責任者の男だけを逃がす。ウェルガー商会の裏を探るため泳がせる』
グレイウルフの密猟者たちを狩る前、俺はディーにそう指示をした。
『近づき信用を得てくれ』
『悪い男(ひと)。わたくしの気持ちを知りながら、違う男に近づかせるなんてぇ……』
『善人になったつもりはない』
『ううん。勘違いさせたのならごめんなさい。そういう残酷で無慈悲なところが好きよ、と言ったのよぅ』
こうして、グレイウルフ狩りの責任者であるベイルを逃がし、ディーは実に上手く近づいた。
さすが、吸血鬼。
異性に取り入るのは朝飯前といったところか。
以前の報告でわかったことは、ベイルの立場は末端に近いこと。
いくつかある密猟部隊のひとつを率いていたが、それが無くなった今、別部隊へ配属されるかもしれないということだった。
「ベイル君、商会の仕事に復帰してから順調みたい。また密猟の仕事なのかと思ったけれど、どうやら違うみたなの」
「次は何の仕事だ?」
「次は、どうやら誘拐みたい。はっきりとは言わないけれど、十中八九そうらしいわぁ。悪い男(ひと)が好きと言ったのが余程効いたのかしらぁ。ロラン様ただ一人を指してそう言ったのだけれど」
困っちゃうわぁ、とディーは微笑する。
「それで、狙っているのは、政敵になるであろう元貴族や富豪の子を狙うそうなのぅ。誘拐したあとは、そのまま政敵を操ってもよし、多額の身代金をもらってもよし……」
「資金集めと議員たちに対する牽制か。一石二鳥というわけだ」
「ええ。密猟も他の仕事もそうだけれど、方針としては、多額の資金を集めて議会が無視できない組織にするみたい。今後は脅された議員や、金で頬を叩かれた子飼いの議員が増えるはずよ」
「国の経済に深く密着されると、排除は困難になっていくな」
だが、まだ『癌』はそこまで侵攻していない。
「まだ暗殺という手段には訴えないつもりみたい。利用できるものは利用する――暗殺は、そのあとかも……?」
「口封じを目的とした殺しは、一般的な動機だな」
「あとそれと、ロラン様が言っていた人……『エイミー』『エミーリエ』『セリン』『ジャンス』『ギュゼル』……この名前を使っている人は、ベイル君の周囲にはいないみたいよ」
「そうか。わかった」
特徴は美形の女。年齢不詳、何と名乗っているのか不明、とにかく強い。……この程度の特徴では、捜しようもない、か。
唯一の特徴である『美形の女』ですら、時と場合によって変える。
タウロは、本来の姿を見かけたようだが、すでにこの国にいないなら僥倖だ。
「まだこれは調査段階だけれど、商会が集めた資金のすべては、議会を操るためだけのものではないみたい。どこか別の場所にも流れているようなのだけれど、まだ不明なの」
「資金が流れている……? それも調査を引き続き頼む。いずれにせよ、復興をはじめたこの国と一緒に『癌』が成長することだけは阻止したい」
この国にはメイリがいる。
「うふふ。ロラン様が肩入れするのは、ちっちゃい子供だけなのかしらぁ?」
リーナの一件も、確かに今回のように私情が混じった。
「違う。定義は曖昧だが、長い時間や、濃い時間を共に過ごした存在や……そうだな……俺の気持ちの『内側』にいる存在と言えばいいか」
ディーは微笑したまま、俺の鼻をつんつんと触った。
「ロラン様ったら、難しい言い方をするのねぇ。ただ『大事な存在』って言えばいいのよぅ」
「……なるほど。『普通』はそう言うのか。今後はそうしよう」
「わたくしに何かあっても、ロラン様は動いてくれるのかしらぁ……?」
「大丈夫だ。俺が何かするまでもなく、おまえなら自力でどうにかできる」
「もぉ。女心のわかってない男(ひと)ぉ。そこは、何が何でも助けるって言うところなのに」
怒ったフリをして、ディーは俺を半目で見てくる。
「自力でどうにかできると俺が思えるほど、おまえを信頼しているということだ」
じっと俺のことを見つめたディーの瞳が、熱を持つのがわかった。
ぎゅっと抱きついてくる彼女を抱きとめると、勢い余ってベッドに腰かける形になった。
「嬉しい……」
ささやくように言うと、ディーにキスをされる。
そのまま服を脱ぎ、体重をかけて俺をベッドに押し倒した。
「今日という今日は、わたくし、たくさん可愛がってもらわなくっちゃ……」
馬乗りになり、今度は俺の服に手をかけたが、待ったをかけるように俺はその手を掴んだ。
「目覚めたときおまえがいなければ、ベイルが不審に思う」
最後の一枚を脱いだディーが、髪の毛を振る。
ディーの髪の毛が起こした小さな風は、少し甘いにおいがした。
ほんのり冷たい体温は、彼女がアンデッドであることを思い出させた。
空いていた胸の穴は、痕は残っているが今では塞がっている。先日直したそうだ。
白い素肌に、余計なものが一切ない下腹と可愛らしいヘソ。
滑らかな曲線を描いたくびれ。柔らかい大きなふたつの胸と、それを包む黒いブラジャー。
薄暗くてもディーの姿はよく見えた。
「今回の調査が正式なクエストだったら、報酬がもらえるのよぅ、ロラン様ぁ?」
背中に片腕を回しブラジャーを外すと、つまんだそれを俺の顔に落とした。
俺は呆れてため息をひとつ吐いた。
「…………わかった。……夜明けまでだ」
「うふふ。愛してるわ、ロラン様♡」