Helping with Adventurer Party Management

Episode 227: An Army Mage

「敵に回った大貴族や魔法の厄介なところは、真正面から攻撃してくるとは限らない、ってことだ」

ジルボアの説明は続く。

「数年前のことだ。兵団(うち)も、他の街の大貴族が雇った傭兵団と紛争でやり合うことが何回かあった。もっとも、紛争は相手を退かせることが目的だから、本気の殺し合いになることは少ないがね。それでも、売り出し中の若手や思慮の足りない跳ね返り連中は、どこにでもいる。中には、お貴族様の若殿様なんかが跳ね返り連中の中にいることもあってな」

そういった事情があり得ることは想像できる。この世界で貴族の権力は強い。大貴族に生まれた若者は、これまでの人生で思い通りにならなかったことなど、ほとんどなかったに違いない。取り巻き達も、その誤解を修正せず、戦場でも己の権威が通じると勘違いし、突出し、そして猛獣に出会ってしまったのだ。

「それで、どうしたんだ?」

話の行き先は想像できるが、一応、先を促す。

「なに、いつもと同じだ。弩隊で斉射を3回、その後で剣盾隊の隊列を押し立てつつ、隙間から斧槍隊で上等な鎧ごと小突いてやったのさ」

普段は凶暴な怪物相手に放たれる強力な弩、硬い皮膚と耐久力を持つ怪物を叩き伏せるための重い斧槍の一撃を食らった貴族の見かけだけの兵隊達は、案山子のように撃ち払われたことだろう。

「だが、少しばかりやり過ぎた。若殿様は、丈夫な鎧のお陰もあって骨折ぐらいで無事だったんだが、取り巻きの連中は数名、死なせてしまった。生きていれば身代金が取れたんだがな。何しろ、見かけよりも弱すぎたんで、団員(うち)の奴らが力加減を誤ったらしい」

「まずいことをしたな」

大貴族の取り巻きにいるのは、その下の有力貴族の子息達だ。将来、大貴族の若様が党首に立った時、側近となるべく子供の頃から一緒に養育され、然るべき教育を受けてきた者達だ。たかが紛争程度で死なせて良い人材ではない。

「確かに、不味かった。戦場での生死は騎士の習いとは言うものの、それは傭兵や下っ端騎士の話だ。その気概は、生き残りを第一とする貴族達には適用されないものだからな。捕虜になった若様は、ずっと喚き散らしてたよ。必ず仇は取る、ってな。後で知った話だが、死んだ側近の中には、割ない仲だった者がいたそうでな。随分と恨みを買ったものさ」

それを聞いて、俺は眉をひそめた。

「戦場に女を連れてきていたのか?」

だが、ジルボアは肩をすくめて答えた。

「いや、男だ」

ああ、そういう・・・。

俺は続きを聞きたくなかったので、話を切り替えた。

「それで、その、お友達を亡くした若様はどうしたんだ。暗殺者でも送って来たのか」

ジルボアが珍しく自分の口で語る過去には興味はあったが、その話が感傷によるものでなく、貴族達のやり口を説明するためのものであることはわかる。

話を続けるよう、俺は促した。

「暗殺者なら、これまでに何度も送られている。だが私は腕利きの団員達に常に守られているし、剣の腕で私に勝てるような連中を抱えている貴族は少ないよ」

確かに、ジルボアが腕の立つだけの個人であれば暗殺も有効だろう。だが、個人の腕に加えて、腕利きの戦士たちが数十人、常に控えているし、その全員がジルボアに忠誠を誓った顔見知りだ。ジルボアは、この世界で最も暗殺が難しい人間の一人と言えるだろう。

ならば、どうするか。

「そこで、お友達を亡くした若様は、父上に泣きついて腕利きの魔術師を派遣してもらったのさ」

ジルボアの話は、佳境を迎えようとしていた。