Helping with Adventurer Party Management

Episode 339: The New Morning

ケンジの朝は早い。

まだ外が暗い内に起きだして工房の鍵を開ける。

そうすると、早朝に出勤してきた職人の奥さんと子供が工房の中で、簡単な掃除、道具や材料の準備、在庫のチェックをしてくれる。

それが終わると、出勤してきた職人と家族の全員で食事だ。

近所の工房の台所や稼働し始めた工房の熱源も利用して、朝から温かいスープと麦粥を腹一杯食べる。

忙しくも活気のある一時だ。

そうして会社の工房が稼働を始めると、ケンジは事務所に引っ込んで今後のやるべき事と、今日の行動をリストにし始める。

自分だけの行動については手元にメモとして残し、工房の職人についても共有するものは板にタスクとして書いて職人に見えるところに置いておく。

そうすることで、今の会社が置かれた状況を職人達も理解できるからだ。

全員がそうでないにしろ、意欲のある者がでてきてくれればいい、そうケンジは考えている。

社会的に見れば、ケンジはこの街では立派に成功者の部類に入る。

根無し草の冒険者から身を起こし、2年もしない内に街一番のクランである剣牙の兵団と協力関係を取り付け、貴族の干渉を排除し、この街では80年ぶりに枢機卿へ靴を納品するという快挙も成し遂げた。

おかげで冒険者向けの靴だけでなく、枢機卿に納品された高級品の靴についても納品を求める声は止まず、生産現場では嬉しい悲鳴が続いている。

経営者としてのケンジの地域での評判も悪く無い。

若い職人にも高給を払い、職人の家族達にも仕事と食事を提供している。

革通りの工房にも部品を発注し、一帯は特需に沸いており、彼を悪く言うものはいない。

だというのに、当の本人は薄暗い会社の事務所でペンをはしらせつつ、一人、頭を抱えていた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「うーん・・・」

俺が行儀悪く羽ペンの柔らかい部分で鼻の頭を掻いていると、茶を淹れつつサラが声をかけてきた。

「どうしたの?」

サラが心配するのも当然で、ケンジはもう数分の間、ずっと唸っているのである。

心配してくれ、話をきいてくれ、と言っているのも同然である。

「たりない」

「え、お金たりないの?」

「いや、人手と時間。あと睡眠」

ここのところ、仕事が多く、忙しい。

あまりに多いので、仕事のリストを作って見なおしてみたのだ。

まず、主力事業として冒険者向けの靴製造事業がある。今のところ、一流冒険者向けの高額商品を製造している。

枢機卿の靴製造事業は、貴族や聖職者向けの超高額商品だ。今のところ少数製造に留めているので製造ラインの負担は、それほどでもない。

これに、冒険者ギルドの報告書作成代行が加わる。この仕事は他の誰にも任せることができないので、個人で抱え込むことになる。だが、冒険者の現状や改善すべき点についてデータを収集し、把握し、しかも上層部に報告できるチャンネルなので負担が大きくとも手放すことはできない。

そこに加えて、最近は印刷事業が加わりそうな気配である。

ただ、市民に読書層というのが育っていないであろうから、あくまで教会と共同事業として冒険者への依頼を効率化するための見積もり案内兼怪物のガイドブックに留めるつもりでいる。

製造面の経営管理については、マニュアル化を進めたことと、事業が簡単で目に見える範囲で行われているものだから難しいことはない。

毎日の数字と在庫をチェックし、現場の責任者と話し合い、自分の目で確かめる。

職人達と友好な関係を保つ。それだけでいい。

問題は、自分より偉い人間を相手にする営業面である。

特に事業を拡大するにあたり協力を仰いできた教会からの無茶振りには、たびたび胃が痛くなる想いをさせられた。

そしてまた、ケンジにとって逆らうことのできない相手からの呼出状が届いていた。

ニコロ司祭からの、呼び出しである。