食事会は、教会近くの居酒屋を1軒まるごと借り切って行われた。

専門家達は平民中心ということで堅苦しくない雰囲気が良かろうという判断と、酒で緩んだ口から秘密の技術が漏れては困るという建前があったからだ。

だが、実際のところは・・・

「みなさん、すごい飲みっぷりですね・・・」

「まあ、慣れない機会でいろいろとストレスも溜まっていたんだろう」

「それにしても聖職者の格好であの食べっぷりに飲みっぷりは・・・」

クラウディオが絶句するのも無理はない。

居酒屋といっても、それなりの市民が出入りするレンガ造りの高い天井を持つビアホールのような建物である。長いテーブルが数列並べられて、こちらで注文しておいた肉料理と麦酒(エール)が樽で用意されている。

形式ということで、一応は挨拶を述べ「それでは今日は無礼講で」と言った途端にこれだ。

各人は左手に麦酒を並々と注がれた杯(カップ)を持ち、右手で肉料理を掴んでは口一杯に頬張り、麦酒(エール)で流し込む。

かと思えば、別のテーブルでは互いに杯をぶつけるようにして掲げ、飲み比べを始めている輩もいる。

「まあ、専門家とは言っても全員が肉体労働者みたいなものだしな」

電力会社やガス会社に勤めている知り合い達も、現場の人達の飲み会の凄さについて言っていたな。

「しかし聖職者の衣装で大騒ぎをするのは外聞として如何なものかと・・・」

真面目な聖職者であるクラウディオとしては気になるらしい。

「店ごと借り切っておいて良かったというところだな」

店員には少し多めに払っておけば、口止めはできるだろう。

「お前も飲んできていいんだぞ」

「はあ・・・」

新人官吏達も食事会に参加を許可しているので、全員が喧騒の続くホールのどこかにいるはずだ。

「これから一緒に仕事をするんだ。顔を売るつもりで一緒に飯を食ってこい」

聖職者も出世すると付き合いで貴族とワインを嗜んだりする必要があるはずだが、下っ端のうちは真面目に身を謹んでいるのか、酒を飲む機会は少ないようだ。

「サラは・・・いたいた」

喧騒の中でも、サラのいるところは何となくわかる。

テーブルの一画を占領し、肉料理を栗鼠のように懸命に口に詰め込んでいる。

人混みをかき分けてなんとかサラのところまで辿り着くと、サラは満面の笑みを浮かべてこちらを見た。

「どうだ、肉は美味いか?ああ、いや飲み込んでからでいいから」

他の専門家達と違って、右手に麦酒の杯を持っていない。

代わりに肉料理を突き刺すための二つに割れたフォークを握っている。

向かいの席に座ってしばらく待っていると、ようやく肉を飲み込んだサラが口を開いた。

「美味しい!こんなに美味しいお肉を食べたのって、副長さんの結婚式以来かも!」

「教会の紹介で、いろいろと便宜を図ってもらったからな」

今回の事業は、今や教会肝いりの事業となっている。

外聞に気を使うというデメリットもあるが、食事の調達については教会に様々な便宜を図ってもらえた。

通常なら平民の居酒屋に置いていない質の肉が回ってくるのも、そのためだ。

「まあ、そのくらいの役得はいいだろう。明日も頭を使ってもらわないといけないし」

「そういうこと言わないの!はい、麦酒!」

サラに軽く叱られて、大人しく麦酒の杯を受け取った。