Helping with Adventurer Party Management
Episode 657 Policy Focus
「世が世なら負債に苦しむ農民の味方をする法律家にでもなっていたのだろうな」
そう思えば、この部屋が法廷でないのは勿体ない。
ただ、考えようによっては、パペリーノのような理想主義的な側面を持つ若手官僚が教会内で出世することで、より多くの農民が将来的には救われるのかもしれない。
「借金の問題が片付いたら、あの人達に一生懸命稼いでもらうだけってことね!」
出稼ぎ農民たちの借金問題にある程度の見通しがついたためか、彼らの処遇と今後の領地開発をどのように進めるかについて、活発な意見が交わされるはじめた。
そんな時は、余計な口を挟まずに一歩控えて見ているのもいい。
よく聞けば、なかなかバランスの取れた議論をしている。
「だがよ、この狭い領地でどうやって稼ぐんだ。農地を耕すにしても、金が入るのはずっと先になるぜ」
「そこは教会の支援がありますから」
「でも、無料(タダ)じゃないんでしょ?それで借金が増えちゃったらいっしょじゃない」
「それはそうですが・・・領地開発の計画を前倒しするというのはどうでしょう?製粉所の建設はまだ始まっていませんが、地ならしぐらいならできるんじゃないでしょうか?」
「なるほど、悪くねえ思いつきですな」
「あたしは、それはちょっと気になるなあ。あの人達には農業をやらせてあげたいし、村の人達とも仲良くして欲しいの。あんまり違う仕事をさせてると、違う村から来た人、って感じが今より強くならないかしら」
「たしかに、昨日まで農民をしていた人々に現金払いで土木工事をさせると、元の村人から反感が出るかもしれませんね。なぜ自分たちに現金仕事が回ってこないのかと」
「たしかに、この村の連中は金を持ってるようには見えねえからなあ」
公共工事を興して、そこで出稼ぎ農民達を働かせるというアイディアには見るべき点がある。
「もう一工夫が欲しいな。製粉所の工事は、そう簡単に動かせない」
どうしてもというなら道路や製粉所の工事をさせてもいいが、俺達はいつ街に呼び戻されるかもわからないし、途中まで道を掘り返して放置されるなどということになったら予算の無駄になってしまう。
なにしろ、作業計画についても多くの専門家の指示を仰いだ巨大な工事なのだ。
そう簡単に動かすわけにはいかない。
計画に携わっていた2人はそれを理解したのか、全員が腕を組んで頭を捻りはじめた。
「どんな工夫がしたいの?」
一頻り悩んで諦めたのか、サラが聞いてくる。
「できれば、1つの手を打つと隣のカードが倒れるように、バタバタと影響が広がるような方法がいい」
この領地では、何をするにも資源が足りない。
もしここが大領地で大勢の優秀な家臣を揃えているのならば、一つ一つの問題をじっくりと解決していけばいいが、少人数で短期間で成果を出そうと思うのならば、焦点をハッキリとさせる政策が必要になる。
いわゆる波及効果、というやつだ。
「例えば、そうだな・・・まずは豆だな」
「豆?」とサラが問い返した。
そう。村の開発を、豆から始めよう。
◇ ◇ ◇ ◇
執務室の黒板を前に、豆から始める領地復興計画の説明を始める。
「具体的な政策としては、領地の農家の庭で植えるための豆を領主の屋敷で配布しようと思う。これで、かなりの問題が解決するはずだ」
「ええと、もう少し説明していただけると助かるのですが」
パペリーノから質問があがる。
「そうだな。この政策は複数の効果を狙っている。
一つ、領主から農民に与えるという形で接点ができる。自分は奪う領主じゃない、与える領主なんだという広報宣伝の効果がある。
一つ、豆を家の庭に植えることができるようになった、というのは前の領主とは法律が変わったことを周知するのにちょうどいい。見た目でわかりやすい変化だ。
一つ、農民の食糧問題が改善すれば余裕もできるし、村に余所者が来ることに対する忌避感も薄れるだろう。やはり食事に余裕がないと、心にも余裕が生まれない。
一つ、各農家の豆の畑を拓くのに出稼ぎ農民に仕事として依頼しようと思う。報酬を払ってこちらで派遣する。出稼ぎ農民は現金収入を得るし、農民は自宅に畑と作物を得る。双方が得をすれば反目も少ないだろうし、仕事で顔を合わせれば話ぐらいするだろう。顔合わせの機会にもなる。村に現金を流通させる契機にもなれば、景気も上向く。
畑を作るのなら出稼ぎ農民にもできる仕事だし、我々が街に戻る前に仕事の目処もつくだろう。畑なら放置されることもないだろうさ」
説明しているうちに、単純な割に効果的な政策であるように思えてきた。
豆からはじめる。それもまた、この小さな領地のあり方としては面白いかもしれない。