His Royal Highness's cats are very hairy.

Episode 52: Akahara chicks

アデラインを誘拐したメロウズ達は、やはり以前に国境を警備していた騎士団に所属していた者達を中心とした組織だった。戦後、リヒャイルドの改革に異を唱え騎士団を退団し、盗賊のような生活をしながら、ルードサクシードをアルバカーキ王時代のような軍国主義に戻そうと機会を伺っていたようだ。

そして、アルバカーキ王をいまだに盲信していたルトヴィアスの侍官・アーブと知り合った。

彼らはまずはルトヴィアスを毒で暗殺し、皇国への反意を示して、国内の反皇国派をまとめ上げるつもりだったらしい。けれどその計画はうまくいかず、刺客を送り込もうにも、厳重な警備の前に叶わなかったという。

だが、弓技会では他国の射手や応援する観客が入り交じり、警備に必ず隙が生まれる。そこを彼らは狙ったのだ。ルトヴィアスが剣の扱いに慣れていないという情報も当然ながら彼らの耳に入っており、剣も扱えない王子一人、簡単に殺せると思ったのだろう。

だが、結局計画は失敗に終わった。剣すら扱えない腰抜けであるはずの王子が、襲われたことに動揺することもなく、実に冷静に弓で応戦したからだ。

そして、アデラインを人質にとる『予備』の計画が実行にうつされたのだ。

しかし、アーブやメロウズなど、組織の幹部達数人は自分達なりの大義を掲げていたものの、その他大多数は行くあてのない金目あての粗暴者だったようだ。ルトヴィアス率いる騎士団がアジトを襲撃すると、彼らはあっけなく投降し、捕縛されたという。

「あの…ではルトが皇国にいた時に毒を盛られた件も?」

アデラインが尋ねると、リヒャイルドは頷いた。

「ああ、それもアーブの仕業だったようだね。皇国の皇宮に出入りしている商人をつかって調理場の下男や、下級の女官を金で抱き込んだらしい。戦争で家族を亡くしルードサクシードに恨みを持つ者は沢山いただろうから、そうむずかしいことではなかったんだろうね。どこかの誰かさんが頑なに毒見係をつけなかったせいもあるだろうけれど」

リヒャイルドは、後ろに立っているルトヴィアスにちらりと目線をやる。けれどルトヴィアスはどこ吹く風といった様子で、リヒャイルドの言葉を無視した。

「契約書や領収書がアーブの部屋から見つかった。上手く隠してあった。以前疑った時に見つからなかったわけだ。とにかく、それらを証拠品にすれば、皇国の騎士団が商人も捕縛してくれるだろう。もともと黒い噂が絶えない商人だったから、皇国(あちら)さんも喜ぶだろうな」

そう言うルトヴィアスの頭上に、猫はいない。彼はリヒャイルドの前でも猫をかぶるのをやめたらしい。

やれやれ、というふうに小さく溜息をついて、リヒャイルドはアデラインに笑った。

「――とにかく、彼らには厳罰を科して、二度とこのようなことがおこらないようにするよ」

そう言って、リヒャイルドは話をまとめた。

アデラインが寝台から起き上がれるようになった日の午後。

リヒャイルドはルトヴィアスと共にアデラインを見舞ってくれ、そして事件の顛末をアデラインに語ってくれた。

「そうですか…」

自分がとてつもなく大きな事件の渦中にいたことが、アデラインはまだ信じられない。

ぼんやりと返事をしたアデラインに、リヒャイルドが突然頭を下げた。

「申し訳ない」

「陛下!? いったいどうされたのです? 」

世間では皇国に媚びへつらう臆病者の王だと言われてはいるが、まがりなりにも王だ。そんな簡単に頭を下げる人ではない。けれどアデラインは、彼に頭を下げられるのは二度目だ。そんな貴重な体験、ルードサクシード全土を探しても、アデラインくらいしか味わったことはないだろう。

「あ、頭をお上げください!あの、今回のことでしたら陛下の責任では…」

「婚礼が延期になった」

腕組みをしたルトヴィアスが、不貞腐れたように言い捨てた。

「え?」

「お前の顔。化粧じゃ隠せないだろ?」

「あ…」

アデラインは、まだ湿布がしてある頬を手で包んだ。腫れはひいたが、まだ痛々しい紫色は鮮やかで、どれだけ白粉を厚塗りしても誤魔化せないだろう。

花嫁が顔に青あざをつけていては、まさに国威にかかわる。

そもそも、アデラインは流行病で寝込んでいるはずなのだ。その青あざはどこでこしらえたのだとなれば、世間に伏せている誘拐事件が明るみに出てしまうかもしれない。そうなれば国の体面が保てなくなってしまう。

頭をあげたリヒャイルドは、しょんぼりした様子で、肩を落としている。

「…そういうことなんだ。重臣達がそう言い出して…確かに言い分はわかるから、無下にできなくてね。私も孫ができるのを楽しみにしていたのに…」

「延期なだけだ!孫だったらそのうち見せてやるから落ち込むな!鬱陶しい!」

今にも泣きそうな父親を、ルトヴィアスは容赦なく叱り飛ばす。いくら父親とはいえ、国王相手にあまりにも遠慮がなさすぎて、見ているこちらが心配になってくる。けれど、リヒャイルドはまったく気にしていないらしい。

「女の子が欲しいなあ。あ、でも女の子はお嫁にいってしまうから、寂しくなるね。ルトヴィアス」

「何の心配してんだ!あんたは!」

ルトヴィアスは若干本気で苛立っているが、リヒャイルドはどこか楽しんでいる様子だ。息子が自分の前でも猫を脱がないことを気にしていたリヒャイルドにすれば、遠慮がない親子のやりとりが嬉しくて仕方がないのかもしれない。

アデラインは微笑んでうなずいた。

「わかりました。仕方ありませんものね」

「ああ、でもね。宰相とも相談したが、警備の問題もあるしアデライン嬢の住居は今後王宮に移そうと思うのだけど、かまわないかな?」

「王宮に?」

王族出身でもないのに、結婚前から婚約者が王宮で暮らすなど、聞いたことがない。

戸惑うアデラインに、リヒャイルドは穏やかに微笑んだ。

「確かに前例は少ないけれど、ないことはないんだ。今回婚礼を延ばしたことで貴女に落ち度があるという噂もきっとたつだろう。けれど、王家は貴女を王太子妃に迎えるつもりだという意思を、しっかりと示しておきたい。その為にもアデライン嬢には王宮に来て貰いたいのだけれど、どうかな?」

「……」

ちらりと、アデラインはルトヴィアスを見た。ルトヴィアスは、その視線に気づき、けれど逸らしてしまった。やはり不貞腐れたように。

――…貴方ね。ルト。

アデラインは笑いを噛み殺す。

アデラインを王宮に移すと言い出したのは、ルトヴィアスに違いない。

おそらく、アデラインが王太子妃として相応しくないと、重臣の誰かしらが上奏したのだろう。世間では、娘が拐かされれば例え無事に戻ってきても、その後の縁談等に響いてしまうこともある。今回の事件は、今後決して公にはならないけれど、アデラインが一度誘拐されたのは事実。アデラインが身体を汚されたのだと―――ルードサクシードの血統を次代に繋ぐ責務を担うその資格を喪ったのではと、憶測されても仕方がない。

だが、きっとルトヴィアスは重臣達の意見に、断固として耳をかさなかっただろう。けれど聖サクシード直系の血統を重んじる重臣達も譲らなかった。婚礼の延期は、リヒャイルドか宰相あたりが出した、ルトヴィアスと重臣達双方の意見の折衷案なのではないだろうか。

そして折衷案を受け入れるかわりに、ルトヴィアスはアデラインを王宮に迎えることを決めたのだ。妃が誰であるかを、国内外に明示するために。

「…わかりました。そういうことでしたら、慎んで王宮に上がらせて頂きます。お気遣いありがとうございます」

今までよりルトヴィアスの近くにいられるのだから、素直に喜ぼう。そう思い、アデラインが了承の意を示すと、ルトヴィアスは安堵したように小さく息を吐いた。

アデラインが結婚を辞退するのではと、心配していたのかもしれない。本来なら、そうするべきだろう。けれど、アデラインはもうルトヴィアスを諦めるつもりはなかった。奇跡のように実った恋を、自分から手放すなど出来ようはずもない。

リヒャイルドは、嬉しそうに頷いた。

「よかった。では早速そのように話を進めよう。…ああ、ルト。念のために言っておくけれど」

椅子に座ったまま、リヒャイルドはルトヴィアスを振り返る。ちょいちょい、と父王に手招きされ、ルトヴィアスは首を傾げて、一歩近づいた。

「はい?」

「孫は早く見たいが、王家の外聞が悪くなる事態は避けたい。早めに式を挙げてあげるから、それまでは自重しなさいね」

「…っ!」

何も飲んでいないのに、ルトヴィアスは勢いよく吹き出した。

それから一拍遅れて、アデラインも何を言われたのか理解し赤面する。

アデラインに負けないほど赤くなった顔で、ルトヴィアスは噛みつきそうな勢いでリヒャイルドをがなりたてる。

「このエロ親父っ!!いい加減にしろ!!」 

「あっはっはっ!念のためだよ。念のため」

本当に嬉しそうに笑うリヒャイルドに、アデラインも笑ってしまう。

――…よかった…。

彼らのわだかまりは、綺麗に溶けて消えたようだ。

先日気付いてしまったルトヴィアスが抱えるだろう秘密を、アデラインも密かに抱え直す。

――…知らないふりをしよう。

それがいい。自分が何かする必要はないのだ。下手にまぜっかえしては、かえって何かがこじれてしまうかもしれない。

二人が笑っている。だから、このままでいいのだ。

窓から見あげた空はまだ夜の色を薄く纏ってはいたが、山際は明るくなっていた。

「なにもこんな日に鳥の巣を見に行くなんて…」

アデラインの髪を櫛ですきながら、ミレーはぶつぶつと文句をこぼす。婚礼が延期になったことで、彼女は昨日から機嫌が悪い。アデラインは鏡越しに、ミレーを宥めた。

「でもミレー。もう巣立ちの時期なの。今日見に行かなければ、明日にはもういないかもしれないわ」

婚礼は延期になったが、立太子式は予定通り今日行われる。アデラインは夜明け前に起き出すと、ミレーと同じ女官の制服を身に付けた。

昨日、リヒャイルドが部屋から出て行ってから、ルトヴィアスはアデラインに、何か必要なものはあるかと尋ねてきた。しばらく部屋から出れないアデラインを気遣ってくれたのだろう。その気遣いに感謝しつつも、特に何も思い付かないと口に出そうとしたアデラインは、あることを思い出した。

『何かあるなら言え』

『…でも』

『言え』

『…青つぐみの巣を見に行きたいの…』

とてつもない我が儘だと自覚はあった。

流行病のはずなのに、部屋から出て誰かに会ったら言い分けが難しい。しかも明日は立太子式だ。それ以降も忙しい日が何日か続く。そんな多忙な予定の中から、アデラインの為にルトヴィアスの貴重な時間を割かせるのは気が引ける。ルトヴィアスも、眉を寄せていた。やはり、難しいのだ。

『あ、あの…ごめんなさい。我が儘言って。やっぱり無理よね』

『…明日の朝。夜明け前に起きれるか?』

『え?』

『それから女官の制服を用意しろ。高位の女官服だ』

『……ルトが着るの?』

『そんなわけないだろ!お前が着るんだよ』

『わ、私?』

『用意をして待ってろ。迎えに来る』

何故女官の制服なのかと不思議に思ったが、いざ着てみると、ルトヴィアスが指定した理由がよく分かった。位の高い女官は、独身でも花帽に既婚者の証である垂布をつけるのだ。これなら下を向いていれば顔が隠れるし、ルトヴィアスと歩いていても、女官が一緒にいると思われるだけですむだろう。

「さぁ、出来ましたわ。お嬢様」

「ありがとう、ミレー」

ミレーは、アデラインの切られてしまった髪をうまく編み込んで、一見してわからないようにしてくれた。

「…よかった。これなら大丈夫そうね…」

一部分だけ短いアデラインの髪を見るたびに、ルトヴィアスは申し訳なさそうな顔をする。ルトヴィアスが悪いわけではないのだ。彼の沈んだ顔は、出来れば見たくない。

扉が廊下側から叩かれ、アデラインは立ち上がった。

「ルトだわ」

「少々お待ちくださいませ」

ミレーが確認してから扉をあけると、ルトヴィアスが顔を出す。

「行けるか?」

「ええ!」

差し出された手に、アデラインは手を重ねた。

「…アデライン」

ルトヴィアスの目は、困ったように揺れている。何かあったのだろうか。

「…どうか…したの?」

「…驚くなよ」

一体何に驚くというのか。

アデラインがその答えを知ったのは、ルトヴィアスの執務室の窓から、外を覗いた時だった。

「…どういうこと…?」

アデラインは、愕然として呟く。

最後にアデラインが見た青つぐみの雛は、羽もまだ生えておらず、赤黒い皮膚に皺がよって、正直可愛いとは言いがたい生き物だった。けれど、餌を求めて必死に鳴く様子に、庇護欲をかきたてられ、無事に育つことをアデラインは心から願った。

アデラインが見に来ることが出来なかった間に、きっと体は大きくなり、羽も生え揃え、立派になったことだろうと、アデラインは思っていた。羽ばたく練習もしているかもしれない。

そんなアデラインの予想通り、雛は巣から落ちそうな程に大きく育ち、艶やかな茶色の羽をばたつせていた。黒いくちばしの下には、特徴的な赤い羽毛が生えている。そんな雛に、せっせと餌を運ぶ親鳥の翼は青黒く、雛よりも体が小さいのだ。

「どうして?どうして色が違うの?」

明らかに、親子ではない

アデラインは混乱した。卵を温めている時から見守っていたのに、何があったというのだ。

「アカハラだ」

「…アカハラ?」

「あの雛。くちばしの下が赤いだろ?だからアカハラ」

アデラインは、ルトヴィアスを振り返る。鳥の種類を知りたいわけではない。

何故青つぐみの巣に、アカハラの雛が育っているのだ。アデラインの疑問に、ルトヴィアスはすぐ答えてくれた。

「アカハラの習性なんだ。違う鳥の巣に卵を生んで育てさせる」

毎日巣の様子を見ていたらしいルトヴィアスは、冷静に説明してくれる。

「多分、俺達が見つけた時にはもうアカハラの卵が紛れ込んでたんだろうな。アカハラは青つぐみより早く孵る。早く孵った雛は、餌を独り占めするために他の卵を…青つぐみの卵を巣の外に押し出すんだ」

「…だから、雛が一羽だけだったのね…」

卵は3つあったのに、雛が一羽しかいないからおかしいと思っていたのだ。アデラインはてっきり、うまく孵らなかったか、蛇にでも食べられてしまったのかと思っていた。たった一羽でも無事に巣立てばと思っていたのに、青つぐみの雛は既に死に絶えていたのだ。

「そんなのって…」

アデラインの背中を撫でて、ルトヴィアスは慰めてくれた。

「がっかりするだろうと…見せないでおこうかとも考えたんだが…」

だからルトヴィアスは、アデラインが青つぐみの巣が見たいと言ったときに難しい顔をしたのだ。アデラインは肩を落としながらも、首を振った。

「ううん。見せてくれて良かった」

実際にこの状態を見なければ、雛がどんな様子だったか、いつ巣立ったか、アデラインはきっとルトヴィアスに細かに尋ねただろう。そうなると、アデラインを悲しませまいとルトヴィアスは嘘を吐かざるをえなくなる。アデラインは、ルトヴィアスの肩に頭を預けた。

「…私に嘘をつかないでくれて、ありがとう」

ルトヴィアスは、安易で耳障りのよい言葉で、アデラインを誤魔化そうとしない。誤魔化せると考えない。

それは、アデラインをみくびらないということだ。人によっては、厳しいと感じることもあるだろう。けれどアデラインは、ルトヴィアスのそういうところが好きだった。

「憐れだよな」

「え?」

振り仰いだルトヴィアスの碧の瞳が、冷たく瞬いた。

「似ても似つかない雛を我が子と信じて、必死に餌を運んで、外敵から守って…」

「……ルト…」

アデラインは、言葉を失う。

ルトヴィアスの目にうつっているのは、既につぐみではないと気づいたからだ。

吐き捨てるように、けれど苦しげに、ルトヴィアスは呟いた。

「憐れだ…」

その目に映っているのは、きっと…。

――…私、私何を見ていたのかしら…。

遠慮なく言い合うルトヴィアスとリヒャイルドの姿に、彼らの間にあった溝はもう埋まったのだとばかり思っていた。

けれど、違ったのだ。

表から見えなくなっただけで、いや、見えなくなったからこそ、ルトヴィアスの心の奥底は、より深く凍てついてしまった。

知らないふりをしようと思っていた。それがルトヴィアスのためだとばかり思っていた。

「ルト、私…」

「アデライン?疲れたか?」

ルトヴィアスが、アデラインを優しく覗き込む。

アデラインごときの言葉で、ルトヴィアスを救えるとは思えなかった。

けれど、彼がアデラインを愛してくれているのなら、アデラインの言葉にも、何かしらの力が宿るかもしれない。アデラインが、ルトヴィアスの言葉に勇気をもらえるように。

彼が王太子になる前に、どうしても伝えたい。彼が何の迷いもなく、王太子の聖布を肩にかけられるように。

アデラインは自らを鼓舞した。ルトヴィアスに、正面から向き直る。

「ルト、あのね。私、リヒャイルド陛下からあなたが猫をかぶりはじめた理由をきいたの」

ルトヴィアスの喉仏が上下する。

「…そうか」

彼が、必死に何でもない風を装おうとしているのがわかった。

「私ね、あなたが猫をかぶっていたのは…自分の心を守るためなのかな、って何となく思っていたの。

でもリヒャイルド陛下のお話を聞いてから、ずっと考えてた。違う理由もあるんじゃないかって」

「…………」

ルトヴィアスが、アデラインから逃げるように目を伏せる。カツンと、その片足が後ずさる。そのルトヴィアスの両手を、アデラインはとった。お願い、逃げないでと乞いながら。

「…前王陛下…お祖父様のこと、ルトはどう思ってた?」

「…別に…」

ルトヴィアスの俯いた横顔には、緊張と言うよりも恐怖が張り付いていた。

「…違ったらごめんなさい。でも、本当は…あなたが猫をかぶっていた本当の理由は…」

耐えるように握りしめられたルトヴィアスの拳を、アデラインも力を込めて包んだ。

「お祖父様に似ていることを隠したかったからじゃない?」

ルトヴィアスの手が、異常な程に冷たく震えていた。

横顔が青ざめて痛々しい。

「…だから、以前オーリオにお祖父様に似ていると言われてあんなに怒ったのよね?」

ルトヴィアスが、口論の末にオーリオの首を絞めた時。

あの時、アデラインはオーリオが何と言ったのか聞こえなかったが、先日オーリオに確かめた。『アルバカーキ王にそっくりだ』と言ったのだと、オーリオは教えてくれた。

「ルト?」

「……」

ルトヴィアスは応えない。

きっと、隠したかったはずだ。アデラインなら隠したい。相手を愛しているからこそ、知られたくない。でも、でも、心のどこかで…。

――…受け入れて欲しいと、思う。

だから、知らないふりはやめる。

ルトヴィアスの、全部を受け止める。

「ルト…貴方の…貴方の本当のお父様は…」

目に力をこめて、アデラインは言った。

「リヒャイルド陛下ではなくて、アルバカーキ前王陛下ね?」