Hisshou Dungeon Unei Houhou

緊急会議と答え

side：セラリア

今日はとてもいいことが起きたの。だから私は、今日の出来事を詳細に記そうと思う。

その日私はいつもの通り、ではないわね。

ウィードの建国祭ということで、朝早くから、貴族の相手や、クソ親父たちの相手をしていた。

長いようで、ユキと出会って一年もたたないうちの出来事。

たったそれだけで、私はとても小さな国の女王となってしまった。

でも、最愛の夫もいるし、彼を守る他の妻もいる。

彼の秘密を知り、それでも一緒にいてくれる妻達。

どこかの愚かな権力争いもない。

とても幸せで充実感のある日々。

剣を国の為に振るっていた時よりも確実に、何かを成しているという確信。

私を認め、私を助け、私が無理やり婚姻を迫って、それでも受け止めてくる優しい彼。

私達をだますことはあっても、不義を働くような人ではない。

だからこそ、その時の事はよく覚えている。

嫉妬ってあんな感じなのね。

本日１０時３２分

妻回線にてエリスの緊急警報発令。

その時私は、ガルツ王達の案内で、鍛冶区の案内をナールジアと勤めていた。

流石に、王達を他の貴族とまとめてはアレなので、ナールジアと話して、日にちをずらして案内することになっていたのだ。

「はい、どうしたのエリス？」

『き、緊急事態です！！　これは妻回線です！！　至急旅館に集まられたし！！』

このコールで、私を含む妻達は現場を放棄。

私はナールジアに押し付けて、飛び出した。

同刻

妻達は、旅館の専用会議室へ集合。

指輪の機能を使って、一室に集まる。

ここは宴会場でなく、空いてる一室。

夫には内緒でもないのだが、妻達だけで話す場所も必要だろうという優しい気遣いで設けてある場所だ。

普通は、ここで仕事の愚痴やお茶をしたりする。

宴会場でもいいのだが、ここは夫との蜜月やどうやったのかを話して、お互い研鑽する場所でもある。

しかし今はお互い沈黙して座っている。

１０時４０分

エリスによる説明が開始。

リリーシュ様と夫の密会が報告される。

「なるほど」

「もう、この不正経費云々などどうでもいいですね」

「この画像が問題だよ！！」

「…楽しそうね」

全員に送信されたリリーシュ様と夫の姿。

お互いに笑顔である。

「でも、ユキさんに限って……」

「そうですね。私も直接見て動揺しましたが、あの人がそんな事をするわけがないですね」

「エリスそこは違うわ」

シェーラの不安をエリスが拭おうとする発言をミリーが止める。

「どういうこと？」

「ユキさんは確かに誠実よ。でも相手が誠実とは限らないわ」

「リリーシュ様がユキさんを無理やりと？」

「いいえ、別の人よ。リリーシュ様がお相手なら隠す必要も、この笑顔も説明できないわ」

ふむふむ、ミリーの言いたいことはわかる。

「つまり、夫はリリーシュ様に相談するために来ていると言いたいわけねミリー？」

「そうよセラリア。それならまずは笑顔で話す必要もあるし、いきなり深刻な話をするような人じゃないわユキさんは」

「確かに。でもミリー、お兄さんがなんで私達に内緒にしてるんでしょうか？」

「それは、きっと変な女性に捕まってるのよ。そして言い寄られてる。私達にばらされたくなければ金を払えとか！！　そういう、素行調査のクエストではよくあった話よ」

ミリーの経験談から信憑性があり、夫のあの性格から想像しやすい。

そういう事情なら夫は絶対に私達を頼ろうとはしないだろう。

私達を不安にさせるような事は極力避けるのだ。

祭りの初日に飛んでいったが、よく見ればわざとだというのは分かったのだ。

「ミリーのいう通りだとして、そのクソ女を側室加えるのは断固拒否するわ」

「「「絶対反対です」」」

全員が声をそろえる。

当然ね。

夫を食い物にするような女は相手に相応しくないわ。

「しかしのう、これからどうするのじゃ？　現状も、これからもじゃが」

「デリーユの言う通りですね。お兄さん的には知られたくないでしょうし、また同じことが起こる可能性もないとはいえません」

「旦那様のことですから二度目は殆どないと思いますが、心配ですね」

ルルアが大きな胸を歪ませて腕を組む。

相変わらず、滅茶苦茶でかいわね。

私だって挟んであげられるし、枕にだってしてあげられるんだからね！！

と、いけないいけない。

今はどうするかを考えないと。

「僕は今回の事はしらない事にして、不正経費の事を聞いてユキさんに早目の決着をしてもらったほうがいいと思う」

「私もリエルに賛成です。で今後は、私達の一人が必ずユキさんの傍にいるようにすればいいと思います。一人お仕事を一日空ける、お休みしても問題ないですよね？」

リエルとトーリの解決案に皆がなるほどとうなずく。

「…それならできる。ユキには変な女は近づけさせない。もういっそ、ずっとベットの中にいる」

カヤ、それはいいわね。

「そうですね。それが一番ですね。万が一ユキさんが私達に助けを求めたり、相手の女性が大それたことをすれば、私達が出る形でいいと思います」

「エリスの言う通りそれが一番ね。カヤの案も採用。万が一ユキが押し倒されて、子種を取られて主張されたら厄介すぎるわ。いっそ、夫専門の護衛をつけるべきね。いえ、夫の守り専用の妻がいるわね。私達はそれなりに忙しいし、必ずしも夫と一緒にいれるわけではないわ」

「あー、なるほど。今考えれば、このウィード、ダンジョンの主を一人でひょこひょこ歩かせてるのが問題ですよね」

ラッツの言う通り今までが問題だったのだ。

幾ら強くても、その強さが通じるとは限らないのだ。

夫の優しさに付け込む愚か者もいるのだ。

最悪、王都で聞いた話だが、触られただけで妊娠したと叫ぶ馬鹿もいたほどだ。

夫の持つ権力に気が付いたバカ女が何をしでかすかわからない。

「側室を増やすのか。妾がずっと守ればよくないか？」

「それはだめよ。祭りの初日で魔王と言われて、そのまま夫の傍に侍れば、変に勘ぐられるわ。あと、デリーユの妊娠はずらさないといけないし、最低もう一人は専門がいるのよ」

「うげ、いやじゃ。もう妊娠してるかもしれんのに、できてなくても、これから行為禁止とか拷問すぎるわ」

「私達が代表の任を終えればそのまま隠居生活ができるのですが、それでも最低２年先ですからねー。来年で私達は副代表。再来年で選挙方式に。それでも私達が立候補しないとはかぎりませんからね」

「ラッツの言う通り、２年は夫に変な危険が付きまとうし、私達も変な女性の陰に注意しないといけない。これはいるかもしれないお腹の子供にもよくないし、これから生まれてくる子供の教育にもよくない」

そういう事で、夫の護衛専門の妻が必要となったのだ。

通常の護衛はいらない。

大事なのは夫のプライベートに介入できる権限を持つ妻なのだ。

勿論、その妻にも夫の愛は分けて子を作っても構わないが、それは私達が落ち着いてからだ。

「では、その妻をどう決めるかね」

「ですね。最低条件はお兄さんを愛していることですね。心の底から」

「それは本当に最低条件だね。僕はちゃんと腕っぷしもないと許さないよ！！」

「旦那様の護衛ですから、私並か以上の回復術の使い手でなくてはいけません」

「えーと、ちゃんとユキさんを守るって意思の強いひとじゃないとだめだとおもうな」

「トーリの言うとおりね。ユキさんに押し切られて護衛を離れたんじゃ意味がないし」

「ミリーのいう事も当然です。そして、最低限の知識もいると思います」

などなど、妻の条件を決めていく内に時間が過ぎていった。

１１時５３分

夫が昼食の為帰宅。

そして、不審な物をもってきたので、不正経費の詰問をする。

「その箱の中身を見せなさい」

「うぇ！？」

大事そうにアイテムボックスにも入れないで持ってくるなんて怪しすぎる。

一体なんなの？

「あー、そのこれはまだ……」

「それがお兄さんが経費を誤魔化して手に入れたものですか？」

「いや、あっているような間違っているような……」

「えーい、夫を抑えなさい！！」

「「「了解」」」

夫はもっと抵抗するかと思ったけど、あっさり四肢を抑えられて大人しくなった。

さて、箱の中身は。

「ドレス？」

「それも沢山ありますね。誰かに頼まれたんですか？」

そう無数のドレスだ。

私も社交で何着も持っている。

ルルアもシェーラも同じようで首を傾げている。

私達にとっては珍しいものではないのだ。

「３人は予想通りだな。これは皆のドレスだよ」

「みんなといいますと、私達の分ですかお兄さん？」

「おう、特別な一着一着ドワーフとナールジア妖精組のお手製だ」

「何とまた手の込んだことを？」

「それはウェディングドレスって言ってな、結婚式専用のドレスだ。しかも花嫁専用」

「「「！？」」」

私達を含む全員が止まる。

いや私でさえ止まったのだ。

普段ささやかな式しかしない一般の出のラッツ達の衝撃は余りあるだろう。

ドレスなんて貴族でしか着ないし、そんな所にお金を出す余裕はないのだ。

「その、今更すぎるんだが、丁度建国祭だし、よかったら俺と式上げないか？　結婚してくれ」

その様は四肢を抑えられて頭だけを下げる変な状態だったが、皆余りの嬉しさに泣き出してしまった。

少し落ち着いたあと、アスリン達も呼んでウェディングドレスの調整をすることになった。

「なるほど、式の為に経費を組んでたんですね」

「それなら、そうと言ってくれればよかったのにお兄さん」

エリスやラッツ、ミリー、トーリ、リエル、カヤはもうドレスを着て嬉しいのか、くるくる回っている。

「はいはい、ユキさんを責めちゃ可哀相ですよ、皆を喜ばせようと、こっそり今日まで準備してきたんですから。そして、カヤじっとしてください、調整ができません」

ナールジアがカヤの動きをとめ調整が必要か確認していく。

「ですね～。私の所にきてたのも、教会で式を挙げる為の打ち合わせだったんですから。はい、アスリンちゃん、フィーリアちゃん、あんまり走り回るとドレスが汚れちゃいますよ」

リリーシュ様はそういって、あまりの嬉しさに大興奮暴走している二人を止める。

「で、貴方式はいつなの？　建国祭に合わせてって言ったわよね？」

「ああ、６日目だ。１日開けているから個人的な準備があれば明日で整えてくれ」

と言う事で、明日１日、妻で代表メンバーは全員がお休みして準備にいそしんだ。

まあ、トラブルには駆けつけたけど。

邪魔をした奴らはあっという間に鎮圧された。

当然よね。